第24話 『特訓』

 

「うわっ!コイツっ・・・!!あぁ!」


 俺達が北の森に入って探索を始めると、30分ぐらいで3匹のゴブリンを見つける事が出来た。

 俺とファルは早々に素手で1匹ずつゴブリンを仕留め終えて、今は2人でクリスが最後の1匹を仕留め終えるのを観戦しながら待っている。


「クリス、そろそろ相手へばってきてるぞー」


「わかって・・・る!! っしゃぁ!」


 フラフラになっているゴブリンの顎に、クリスの右ストレートが見事に決まる。

 すると、ゴブリンは失神して力無く地面に倒れた。


「クリス、休憩してていいぞ。あとは俺がやっとくから」


「ハァ・・・ ハァ・・・ 任せる・・・」


 俺は失神して倒れているゴブリンの元まで行き、短剣で首を掻っ切って確実に息の根を止める。


 これは俺達で決めたルール。

 失神させるまでは素手で戦い、失神させた後は相手を弄ぶ事は絶対せずに、首を切って確実に息の根を止める。


 人間にとって害のある魔物であれど、自分達が強くなる為の特訓相手として命を利用しているのだ。

 ・・・なんて綺麗事を言っているが、結局は罪悪感を少しでも軽くする為の自分勝手なルールである。


 仕留めたゴブリン達の耳と魔石を回収し終えると、クリスの『収納魔法』に回収した物を入れた。


「クリス、そろそろ動けそうか?」


「ふぅ・・・ もう大丈夫。いけるよ」


「よし。それじゃあ引き続きオークを探そうか」


 俺達は再びオークを探す為、森の中を歩き始めた。




 それから2時間程探索を続けて、途中で2回ほどゴブリンと遭遇したが、問題無く素手で仕留める事が出来た。


 そして、そろそろ帰ろうかと思い始めたその時、ファルの耳がゴブリンとは違う大きな足音を捉えた。


「止まってくれ・・・ この足音は多分オークだ」


「・・・方向は?」


「あっちから聞こえる」


 ファルは左斜め前方を指差す。


「よし、このまま音を殺して近づくぞ。 とりあえず1発目はいつも通りファルの不意打ちで頼む。その後は援護射撃を続けてくれ」


「了解」


「クリスはオークを引き付けてくれ。一撃一撃がプレスブルの突進並みだと思うから気をつけてな」


「了解」


「俺はとりあえず『雷魔法』を試しながら戦ってみる。両手剣か短剣か、どっちを使うかは周りの環境にもよるから、2人も臨機応変に合わせてくれ」


「「了解」」


「よし。それじゃあ行こう」


 作戦を話し終え、ファルが示す方向へ足音を殺しながら歩き始める。


 50m程進むと、木々の隙間からオークの大きな体が目に入った。

 既に走って5秒程の距離まで近づいてしまっていたようだ。


 俺は2人に見えるようにハンドサインで指示を出す。

 指示を確認したクリスは、時計で言うとオークを中心に現在地の6時の位置から、9時の位置へと静かに移動を始めた。

 俺はクリスと挟み込むように3時の位置へと移動する。


 そして、6時の位置に残って弓を引き絞っているファルは、俺達が位置についた事を確認すると無音の矢をオークへ向けて撃ち放つ。


「ブゴォォォオオ!!」


 ファルの矢がオークの右目に命中するのと同時に、クリスは木陰から飛び出してオークの隙だらけの脇腹に剣を突き刺す。


「ブゴォッ!?」


「こっちこっち!」


 クリスの剣は深くまで刺さる事は無かったが、確実に内臓を傷付ける事に成功したようだ。

 相当痛かったのか、おかげでオークの注意はクリスに釘付けになっている。


「フッゴォォオ」


 オークはクリスを攻撃しようと、持っている棍棒を振り上げた。


 さっそくだがいきなり試そうか!!


「ライトニング!」


 俺は右手を銃の様にして、人差し指をオークに向けて魔法を発動する。

 その瞬間、人差し指の指先からオークの頭に向かって雷の様に稲妻が走った。


 バチッ!


「ゴッッ・・・」


 オークは感電して、棍棒を振り上げたまま硬直してしまった。


 よし!


 俺は腰の左右に差している2本の短剣を引き抜いて駆け出す。


 オークが硬直している事に気付いたクリスは、全身の筋肉を使って全力のシールドバッシュをかます。


「フンッッ!!」 ドゴッ!


 シールドバッシュを喰らってタタラを踏んでいるオークの背後に駆けつけた俺は、踏ん張っている右足の膝裏を短剣で切り裂く。


「フゴォォォ!?」


 ドスンッ!


 足で体を支える事が出来なくなったオークは後ろに倒れて尻餅をついた。

 俺はオークが倒れてくるのを大きく飛び退いて躱す。


 オークが慌てて立ち上がろうとした瞬間、残されたオークの左目に音も無く矢が飛んできて突き刺さった。


「ゴォ!ゴォォ!」


 視界を失った恐怖と痛みで暴れ始めたオークの頭に、俺は背後から手を置いた。


「スタンガン」


 バチッ!


「ゴッ・・・」


「チャンス!」


 俺の『雷魔法』でオークが再び硬直すると、クリスが正面から駆け寄ってきてオークの心臓に剣を突き刺した。


 俺が頭に乗せている手を退けると、オークはドサッと仰向けに倒れた。

 改めてちゃんと死んでいるかの確認を済ませると、俺は大きく息を吐き出して体の力を抜いた。


「ふぅーー・・・ ちゃんと倒せたな・・・」


「やれば出来るもんだね・・・」


 俺とクリスがオークの死体を眺めていると、ファルが木陰から出てこちらへ歩いてきた。


「ファルもお疲れさん」


「あぁ、2人もお疲れ。思ってたより苦戦しなかったな」


「僕もビックリだよ・・・ 結局盾もあまり使わなかったし」


 今回はいつも通りの不意打ちが完全に成功したからな・・・

 真正面から出会ってたらもっと苦戦してたかもしれない。


「それにしても、リンクは2回も魔法使ってたけど大丈夫か?」


「・・・実はちょっとダルい。まだ出来るだけ魔法は使わないようにしとかないとな・・・」


 魔力量が上がっても、一段上の魔法使ったらそりゃ疲れるよな・・・


「リンクは休憩しててよ。僕とファルで解体始めとくから」


「すまん・・・ 頼んだ。回復したら俺も参加するから」


「はーい」


 俺は近くにあった木に背中を預けて、地面に座り込んだ。

 そして、ファルとクリスが解体を始めたのを眺めながら考え事をし始めた。


 これを週3でやってれば成長出来るよな・・・?

 当面の目標は、安定してオークと連戦出来る様になる事。それが出来る様になったら実力的にはほぼDランクだ。


 んー、Dランクの人達が大体どれぐらいのスキルレベルなのか、比較出来れば良いんだけど・・・・・


 俺はポケットからプレートを取り出して、今の状況を確認する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [15歳]


所属国 [ブランデン王国] 職業 [冒険者]


スキル

[雷魔法Lv.10] [短剣術Lv.11] [剣術Lv.19]

[体術Lv.3] [能力把握Lv.8] [解体Lv.7]

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 おっ、『短剣術』と『体術』のレベルが今日だけで1レベル上がってる!

 これはゴブリンとの素手戦闘と、オーク戦の経験値が美味かったって事か? それとも既に特訓前の時点でレベルが上がる寸前だったのか・・・?

 どっちにしても、強くなれてるのが目に見えてわかるのはありがたいな。


 ・・・・・あれ? おかしい。

 なんか『剣術』も1レベル上がってないか? でも今日は短剣しか使ってないよな・・・?


 もしかしてだけど、短剣を使っていても『剣術』に経験値って入るのか・・・?

 今まで俺はこんな大事な事に気付けてなかったんだな・・・・・


 いや、今後悔するのはやめておこう。

 改めて、この事からわかるのは『スキル同士の関係性』だな。


 今まで聞いた話を思い出すと、『盾術』は剣を使ってる時の防御力にも影響を及ぼすし、『体術』は武器を持ってる時の動作のキレにも影響を及ぼす。

 要するに、スキルは能力名とは別の行動にも影響を与えてる場合があるって事だ。


 でも今回の事はそれとは別で、スキル同士で経験値も共有してる場合があるって事。


 そして、その仮定がもし正しいなら、さらに強くなれる方法が1つ思いつく・・・

 しかもこの方法なら俺だけじゃなくて、ファルとクリスも強くしてやれる!


 よーし、特訓に加えてやる事が増えたけど、2人は当然俺に着いてきてくれるよな・・・?


 俺は良い案が思いついてすっかり疲れが消えたので、立ち上がって解体作業に参加しようと2人の元へ向かった。


「あっリンク、もう調子は戻ったの、かい・・・?」


「ん? どうしたクリス?」


 何故だかクリスが俺の顔を見て固まっている。


「リンク・・・ なんでそんなに爽やかな笑顔をしてるのかな・・・?」


「あー、それは良い事が思いついて気分が最高だからじゃないか?」


「・・・良い事?」


「そう良い事。だから一緒に強くなろうなクリス」


「えっ・・・?」


「強くなろうなクリス」


「・・・・・」


「それじゃあ、新しく思いついた強くなる方法を丁寧に教えるから聞いてくれ」


「い、いやぁぁぁぁああ!!!」




 その後、俺は取り乱してしまったクリスをなんとか落ち着かせると、解体作業をしながら懇切丁寧に強くなる方法を説明した。


 相変わらずファルもクリスも俺の事を呆れたような顔で見てきたが、そんなの無視するに限るので、俺はリーダーらしい態度で特訓メニューの増量を決定した。

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