第23話 『食卓会議』
実家を離れて新生活の拠点となる家へ着くと、既にファルとエマが家の前で立っていた。
「おーおはよう2人共。なんで中に入ってないんだ?」
「それが・・・俺より先にエマが来てたんだが、中に入ろうとしたら止められて・・・」
「だって最初ぐらいみんなで一緒に入りたいじゃん!!」
「えっ・・・なんで?内見来た時にもうみんなで入ってるだろ?」
「それとこれとは違うの!だいたい、私は楽しみ過ぎて朝早くに目が覚めて来たのに、待ってても全然みんな来ないから凄い寂しかったんだよ!?」
「そんな早い時間からここにいたのか・・・」
「陽が昇ってすぐ家を出たからね!!」
「早過ぎるわっ!エマと違って俺達は家を出る時に家族に見送ってもらうんだから、そんな早く出てこれる訳ないだろ!」
「・・・あっ!本当だ!その事考えてなかった!!」
「わかってなかったのか・・・」
「なんかごめん・・・」
「まぁ別に構わないんだけどな・・・とりあえずこのままクリスを待とうか。エマがそんなに待ってたって言うなら一緒に入る事にするよ」
「うん!」
それから10分後にクリスも来たので、適当に挨拶を済ませて4人で家へ入った。
持ってきた荷物を2階にある各々の部屋へ運び終えると、1階のリビングに集まってこれからについて話し合う事にした。
「さぁ、これから俺達の新しい生活が始まるわけだけど、気持ち的にどうだ?」
「・・・なんだかやる気は出てくるな」
「僕もワクワクが止まらないよ!」
「みんな良い顔してる!私も頑張らないと!」
「よーし。その気持ちが前に進む原動力になるはずだ。この初心はいつまでも忘れないでおこう」
「「「おぉー!」」」
これで新生活へ気持ちいいスタートが切れたかな?
声出しを終えるとエマは立ち上がって、リビングすぐ横にあるキッチンで昼食の準備を始めた。
食卓に残った俺達はそのまま話を続ける。
「それじゃ、とりあえず今日も仕事は昼からだけど、ゴブリン討伐だけじゃ稼ぎも少ないしどうしていこうか?」
「んー、僕達は群れで行動する魔物じゃなくて、単独で行動する魔物の方が相手しやすいんだよね?」
「そうだな。本来なら群れのゴブリンより、単体でいることが多いオークと戦う方が俺達には向いてると思う。けど、オーク討伐の依頼はDランクにならない受けられないからなぁ・・・」
「Eランクで受けられる依頼だと、ゴブリン以外に何があるんだ?」
「この街で受けられるゴブリン以外のEランクだと、東の山の『コボルト』と『トリプルテイル』、あとは南の川にいる『ビッグトード』と『サハギン』だな」
「たしか『コボルト』はゴブリンみたいに少数の群れで行動する魔物だよね?」
「あぁ、そうだ。ゴブリンよりも知能は低いが素早いのが特徴で、だいたい3匹〜5匹で行動してるらしい。1匹ずつは全然大した事ないみたいだ」
「って事はあまり僕達向きじゃないんだね」
「そうなるな」
まぁ苦戦する訳でも無いだろうけど、時間が余計に掛かるのは面倒だ。
「『トリプルテイル』ってなんだ?」
「『トリプルテイル』は3本の尻尾を持つキツネだな。はっきり言って肉体能力は普通のキツネと変わらない。でもコイツは魔法を使って来るらしい」
「それは・・・なかなか面倒臭そうだな」
「いや、意外とそうでもないんだよ。魔法って言っても、ちょっと火傷するぐらいの火の玉しか出さないらしいからな」
「なら大丈夫か。でもキツネってすばしっこいよな?」
「そうなんだよ・・・ 追いかけるだけで時間を使いそうなんだよな・・・ ってか東の山は両方とも速い、面倒臭い。なのでナシだ」
「じゃあ南の川か?」
「あぁ、俺は南の川が1番良いと思ってる。『ビッグトード』は1mぐらいあるただのデカいカエルだし、『サハギン』は大きさが俺達ぐらいある二足歩行の魚だ。 一見厄介そうだけどコイツらは群れない」
「デカいカエルも、二足歩行の魚もなんか気持ち悪いんだけど!!」
キッチンで話を聞いていたエマが急に叫んだ。
「確かにエマの言う通り見た目のパンチは凄そうだね・・・ でも僕達が戦い易いのは南の川なんだね?」
「だと思う」
「なら僕は問題無いよ。ファルは?」
「俺もそれでいい」
「じゃあこれからは南の川で依頼をこなしていこうか」
とりあえず1つ目の話は済んだな・・・
「よーし!じゃあこれからガンガン依頼をこなしていこうよ!」
「ちょっと待った!」
「えっ!?なに?」
「言うのが遅れたけど、依頼を受けるペースは週3日にしようと思ってる」
さぁ、ここからが2つ目の話だ。
「ん?稼ぎがどうとか言ってなかったか?」
「言った。確かに依頼をこなさないと依頼の報酬も入らないし、ギルドへの貢献度も少なくなってランクアップが遅れるかもしれない・・・だが俺には秘策がある」
「「ひ、秘策・・・?」」
「そう。稼ぎも増えるし、強くもなれるとっておきの秘策だ」
「・・・なんか怖くなってきたんだけど」
ここで俺はとびっきりのキメ顔を発動する。
「オークを狩るぞ」
「・・・・・ちょ、ちょっと待って!」
クリスが慌てているが俺は止まらない。止まらないのだ。
「それにゴブリンを素手で狩るぞ」
「こらこらこら!話を聞いてくれ!」
おーおー良い慌てっぷりだ。気持ち良くなってきた。
「要するに北の森で特訓するぞ」
「・・・・・わかった、もういい。リーダーに着いていくよ・・・」
おほー、墜ちよった墜ちよった。
「リンク、クリスが可哀想だからちゃんと説明してあげて!」
・・・いかんいかん。何故か変なスイッチが入ってたみたいだ。
クリスは落ち込んでるし、ファルは呆れてるし、エマにはキッチンから怒られてしまった。
ちゃんと説明しないとリーダーへの信頼が下がるな・・・
「ごめんごめん、ちゃんと説明するって」
「・・・じゃあどうぞ」
「って言っても、さっき言った通りなんだけどな!」
「・・・・・」
「週3で依頼をこなして、週3で北の森で特訓、そして週末は1日休み。このサイクルで生活していこうと思ってる。何か質問は?」
「いやいや、肝心の特訓の部分を説明して欲しいんだけど・・・」
「説明も何も、さっき言った通りだって。北の森で主にオーク狙いの探索、そして途中で出会うゴブリンは全部素手で戦う。 ゴブリンは常設依頼の報酬と魔石代だけしか入ってこないけど、オークは肉が結構良い値段で売れるから、依頼報酬が無くてもなかなか稼げる!」
これが俺の秘策。訓練と金稼ぎを同時に行える最適解だ!
「・・・そのままだった・・・・・そのままだった!!」
「・・・クリス、そろそろリンクに常識を求めるのは諦めた方がいいと思うぞ?」
「・・・そうだね」
おぉ・・・今のは傷ついたぁ。
ファルの本心が垣間見えて傷ついたぁ。
まぁ、でも仕方ないか・・・
この特訓が一般的に見たら非常識なのは俺だってわかってる。
魔物と素手で戦うのも非常識だし、冒険者なりたてのペーペーがオークを狩るのだって非常識だ。
でも、両方とも俺の感覚では出来る気がしてるんだよなぁ・・・
そりゃ多少のリスクはあるけど、許容出来ないレベルのリスクって訳じゃないと思うし。
「大丈夫だって!俺達のレベルならそれぐらいこなさないと成長遅れちまうぞ? 励ましになるかわからないけど、ほらコレ見てみ?」
そう言うと、俺はファルとクリスに自分のプレートを見せる。
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氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [15歳]
所属国 [ブランデン王国] 職業 [冒険者]
スキル
[雷魔法Lv.10] [短剣術Lv.10] [剣術Lv.18]
[体術Lv.2] [能力把握Lv.8] [解体Lv.7]
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「・・・あっ!『雷魔法』のレベルが10に上がってる!」
「なるほど・・・これがあったからオークを狩る事にしたんだな」
「そういう事!これで『雷魔法』を本格的に戦闘で使っていけるはずだ。魔力もスキルレベル10になって増えたしな」
体力値 48
筋力値 46
敏捷値 41(↑1)
魔力値 38(↑10)
知力値 89
器用値 30
「なんかオークでも狩れるような気がしてきたよ・・・」
「だろ?まぁ無理そうなら逃げればいい」
「そうだね・・・ よし!やるよ特訓!絶対強くなる!」
「おーいいぞ!その意気だ!」
「それで!?いつから始める!?」
「今日からだ!」
「・・・・・えっ?」
「今日の午後から早速北の森へ行って特訓するぞ!」
「・・・・・」
その後、あれやこれやと色々あったが、なんとかクリスを納得させる事に成功した。
そして、俺達はエマが用意した昼食を食べ終えると、準備を済ませて北の森へと出発した。
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