第22話 『自立』
オークが完全に死んだと判断した俺は、瞬時にファルとクリスがいる方へ駆け出す。
そして、2人の横を通過すると同時に指示を出した。
「逃げるぞ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!」
「いいから行くぞクリス」
ファルはクリスを無理矢理立たせると、俺の後を追って走り始めた。
「わ、わかったよ!」
そしてクリスも走り出してその場を去った。
オークと戦っていたパーティのメンバーは、仕留めた安堵感から一瞬気が抜けていた。
ふと助けてくれた存在を思い出して周りを見回したが、クリスが走り去っていく後ろ姿を一瞬視界の端に捉える事しか出来なかった。
「一体誰が助けてくれたのかしら・・・」
しかし、魔女の様な格好をした『氷魔法』使いの女だけは、最後に逃げ出したクリスの姿をしっかりと捉えられていた。
俺達はあのまま全力で走り続け、森の外まで出てきていた。
「ハァ・・・ ハァ・・・」
「リンク・・・ だ、大丈夫かい・・・?」
「あぁ・・・ フゥーーー・・・よし、もう大丈夫だ」
「ハァ・・・ そ、それにしても、森の外まで走り続けるとは思わなかったよ・・・」
森の外まで逃げてきた俺達は、道の端で座り込んでしまっていた。
「結構強めに『雷魔法』使っちまったから、休憩するにしても森の中じゃ危ないと思ってな・・・」
「なるほどね・・・ ハァ・・・」
クリスはバテ過ぎだろ・・・ ファルは全然平気みたいだ。
クリスに体力作りのメニューでも考えてみるか・・・?
「リンク、なんであの場から逃げる事にしたんだ?」
「あ、それは僕も気になる」
「えっ?だって面倒な事になりそうじゃん」
「面倒な事・・・?」
何故かファルとクリスが不思議そうな顔をしている。
「だって戦闘の邪魔をしたとか、獲物を横取りしようとしたとか、面倒な事言われるかもしれないだろ?」
「いやぁ・・・ 流石にあの状況でそれは言ってこないと思うんだけど・・・ 普通は助けられたと思うんじゃないかな?」
「そうかもしれないけど、アイツらが実際どんな奴らなのかはわからないだろ? それにわざわざ礼を言われるのも面倒だ。だからあれで良かったと思うんだけどな」
「まぁ・・・そういう事ならわかったよ」
「俺も理由を聞いて納得出来た。それで、この後はまた森に入るのか? 日暮れまではまだ時間が残ってるぞ?」
「・・・いや、今日のところは帰る事にしよう。 明日は家を出る事になるわけだし、家族との時間もあった方がいいだろ」
魔法を使って結構疲れちゃったしな・・・
「そうか、わかった」
「じゃあもうちょっと休憩したら街に帰ろうか」
「「了解」」
そして俺達は少しだけ休憩した後、街は向かって歩き出した。
街に辿り着いた俺達は、ギルドに常設依頼達成の報告へ向かった。
ギルドの受付に着くといつもの受付嬢に声をかける。
「すいません。常設依頼の達成報告したいんですけど」
「あらあらリンク達じゃない。達成報告って・・・あなたもしかして成人したの!?」
「はい。今日の朝ギルドに来て既に冒険者登録もパーティ登録も済ませました。これからは『雷鳴』っていうパーティで活動していきます」
「あらそう!おめでとう!これからの活躍楽しみにしてるわ!」
「ありがとうございます。それであのぉ・・・達成報告したいんですけど・・・」
「あっそうだったわ!それでどの常設依頼かしら?」
「ゴブリンですね」
荷物からゴブリンの右耳を4つ取り出して受付嬢に見せる。
「はい。確かに確認させてもらったわ。それじゃあえーっと・・・はい、コレが報酬の1万ブランね」
「ありがとうございます」
1人3000ブランちょいか・・・全然儲けにはならなかったな。
冒険者登録しても、今までみたいに売れる素材が取れる魔物を狩らないと生活出来ないぞ・・・
「あら、渋い顔してるわねぇ。最初の方は生活が苦しくても仕方ないわよ。 まずは冒険者生活に慣れる事から始めていきなさいな」
「・・・そうですね。それじゃあありがとうございました」
「はーい。これからもよろしくねー」
受付嬢に礼を済ませた俺達は、少し話をするため訓練所へ向かった。
訓練所に入ると、エマが声をかけてくる。
「あっ今日は早かったのね!おかえりなさい!」
「おーエマ。明日家を出るから今日は早めに帰ってくる事にしたんだよ」
「それは良いね!でもなんで訓練所に来てるの?」
「明日の予定について少し話をしようと思ってな」
「あのさぁ・・・ 話をする為に訓練所に来る人なんてリンク達ぐらいだよ・・・?」
・・・・・確かに。
これからは気をつけよう。周りから変な奴だと思われる。
「まぁそれはいいじゃないか。それで明日の予定だけど、朝はギルドじゃなくて俺達の新しい家に集合するって事でいいよな?」
「それでいい」
「僕も構わないよ」
「・・・それって私も行っていい?」
「エマも?別にいいんじゃないか? それなら明日も仕事は昼からになるだろうから、ついでに昼飯作ってくれるとありがたいんだけど」
「全然作る!新しいおうちでの初めての食事って事だよね!? 気合い入れて作る!」
「い、いや・・・ 別にそんなに気張らなくてもいいんだけど・・・」
その後、エマのテンションが暴走し始めたので、想定より解散までに時間を食ってしまった。
俺は解散してから真っ直ぐ家まで帰ってきていた。
家へ入る前の時点で、既に美味しそうな料理の匂いが香ってくる。
「ただいま!」
「あら!早かったわね!まだ料理は作ってるところよ。手を洗ってゆっくりしてなさい」
「はーい」
洗面所で手を洗ってからリビングに戻ってくると、リリーが俺の膝に抱きついてきた。
「にいちゃおかえり!」
「おっ、ただいまリリー。今日は何してたんだ?」
「きょうはね!えほんよんでたの!まじょのおはなし!」
うっ!魔女・・・あのパーティに俺達の事バレてなきゃいいんだが・・・
「そうかー偉いなぁリリーは。いっぱい本読んで賢くなるんだぞー?」
「うん!」
俺は料理が出来て父さんが帰ってくるまで、リリーの遊び相手をしてあげる事にした。
そして、この家で子供としての最後の夕飯の時間を、みんなと楽しく会話をしながら過ごす事が出来た。
リリーが眠りについた夜更け。
俺は父さん、母さんと一緒に、今世では初めてとなる晩酌をする事になった。
「遂にリンクとも酒を飲めるようになったんだな・・・」
「そうね・・・ 成長は嬉しいけど、大人になられるのは少し寂しいわ・・・」
「ちょ、ちょっと! そんなに暗くならないでよ!」
「あっ、すまんすまん。ちょっと感傷にひたっちまったな」
「頼むよ・・・母さんも元気出して!」
「えぇ・・・わかってる。それにしてもリンク、あなたお酒飲んでも全然平気なのね」
「あ、あぁ・・・確かに平気みたいだね。前に冒険者の先輩に飲まされた事があったからかな・・・?」
危ねぇ・・・酒を飲むのが前世以来だからちょっと浮かれてた。どう振る舞えばいいのか全然考えてなかったな・・・
「まぁそういう事もあるだろうな。でも酒の失敗にはくれぐれも気をつけるんだぞ?」
「大丈夫、言われなくてもわかってるよ」
「本当に!本当に気をつけろよ!?」
「そ、そんなに心配される・・・?」
凄い形相だな・・・ それに母さんがジトっとした目で父さんを睨んでる・・・
これはとんでもない事やらかしやがったな・・・
この後も両親と色々な話をしながら晩酌を楽しんだ。
2人の馴れ初めなんかを聞かされたり、俺が生まれた時の事を聞かされたりもした。
前世を含めても初めてとなる親との晩酌に、俺はとてつもない幸福感を感じていた。
そして翌朝。
俺は家の前で家族達に見送られている。
母さんは目に涙を溜め、父さんは誇らしげに胸を張り、リリーは状況を理解出来ていないのか、不思議そうな顔で俺を見つめている。
「それじゃあそろそろ行くよ」
「色々気をつけて生活するんだぞ」
「いつでも帰ってくるのよ?同じ街にいるんだから」
「わかってるよ。困ったら相談しに帰ってくるから」
父さんは俺の肩をポンっと叩きながら、母さんは優しい笑顔を俺へ向けながら言葉をかけてくれた。
「にいちゃおしごといくの?」
「リリー・・・ お兄ちゃんはこの家から出て行くんだよ。大人になったからね」
「えっ・・・? やだ・・・ いなくなるのやだっ!」
「ごめんな。でもたまには帰ってくるぞ? 何か困った事があったらお兄ちゃんがいつでも助けてやるからな」
「ぜったい・・・?」
「あぁ。絶対だ」
「じゃあわかった・・・ けがしちゃダメだよ?」
「あぁ!」
泣いているリリーの頭を撫でながら笑顔で答える。
「それじゃあもう行くよ!」
「あぁ。家族の事は任せろ」
「いってらっしゃいリンク」
「にいちゃがんばって!」
「おう!」
そして、俺は家族に手を振りながら家を離れていく。
これからは自力で生きていく生活が始まる。
1人の大人として、人間として、冒険者として。
家族に恥じない生き方をしようと胸に誓いながら・・・
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