第18話 『領主邸③』

 


「ダントさんから私達の事を聞いてたんですか!?」


「まぁね。実はクリスと君達が知り合う前から、君達の事は聞かされていたよ」


 えっ?そんな前から・・・?

 俺の不思議そうな顔を見て、領主が話を続ける。


「最初はクリスと仲良くさせたい子達がいるって話をされたんだったかな? その時はクリスに同年代の友達がいなくてね、まぁそれは生まれのせいでもあるんだけど。 ダントは師匠として心配だったんだろうね」


「なるほど・・・」


「ダントは本当に君達の事を楽しそうに話してたよ。あまりにも褒めるから、私がダントに依頼を出して出会いのきっかけを作ったって訳だ」


 なるほど・・・だからダントさん達に領主からの指名依頼が来てたのか。


「ビッグボアの依頼はそういう事だったんですね」


「父上、僕はそれが理由だとは聞いてませんでしたよ・・・」


「まぁいいじゃないか。あの依頼からクリスは明るくなった。自信も出てきたし、強くもなれたんだろう?」


「そうですね・・・その事では父上に感謝した方がいいようです」


 クリスにとってもあの依頼は大きかっただろうな・・・


「まぁ私のおかげというより、ダントのおかげだがね。アイツは本当にクリスの事を弟のように可愛がってくれたみたいだから」


「・・・私やファルにもそうでした。クリスも含め、私達3人の事を本当によく面倒見てくれましたよ」


「そうだろうな・・・ダントが街を出る前、私に言いにきたんだよ。クリスだけじゃなくてリンクとファルの2人にも、何かあったら後ろ盾になってやってくれって」


 ダントさん・・・そんな事まで・・・・・


「だから父上は実際にリンク達を見てみようと?」


「そうだな。会ってみないと本当に信頼できるかどうかはわからない。 後ろ盾になるかどうかだけじゃなくて、クリスが家を出た後に誰と一緒に行動するのか、親として知っておきたかったからな」


「・・・私達はお眼鏡にかなえたのでしょうか?」


「どうだろうねぇ・・・ 一回会っただけじゃわからんだろう」


「まぁ確かにそうですね・・・」


 そりゃそうだ・・・・ 一回会ったぐらいで信頼なんて出来る訳がない。


「だから、頻繁に屋敷へ顔を出してくれるとありがたい。 ダント達が街を出ていってから寂しいってのもあるしな。 私はこう見えて冒険者が好きなのだよ」


「・・・領主様がですか?」


「あぁ。子供の頃は憧れたりしたもんだ。私は長男だったから許されなかったがな」


 意外だなぁ・・・ 見た目からは生粋の貴族って感じしか伝わってこなかった。

 やっぱ人は見た目だけで判断するもんじゃないな。


「そうだったのですか!?父上からそんな話聞いた事ありませんでした・・・」


「言える訳ないだろう・・・ 夢想家と思われては貴族としての信頼に関わる。 私に出来るのは世界各地の本を読んで、物思いにふけるぐらいのものだ」


「だからこんなにたくさんの本があったんですね。 政治に関係の無い本まであったので疑問に思っておりましたが」


「ほとんど趣味みたいなものだよ。だがこの書庫には君達の助けとなる知識がまだまだ溢れているはずだ。だからまた読みにくるといい。その時はちゃんと私にも顔を出して、話し相手になってくれると嬉しいね」


「・・・わかりました。まだまだ読みたい本もありますので、また読みに来させていただこうと思います」


「あぁ、それでいい」


 なんかすげぇ気張ってたけど、思ってたよりも話しやすいし優しい人だ。

 こんな人だからダントさんも気を許してたんだろう・・・


 この後も領主との話は続いた。

 時々書庫に顔を出したカイネルさんは、俺達と領主が打ち解けていたので嬉しそうにしていた。

 あまり上手くいってなかった領主とクリスの親子関係に、改善の傾向が見られたのも嬉しかった原因かもしれない。




 そして夕方になり、クリスとカイネルさんとサラさんに見送られて、俺とファルは領主邸をあとにした。

 俺達は話しながら家路を歩く。


「領主様は思ってたより優しい人だったな・・・ ファルはどんな印象だった?」


「印象か・・・ クリスに対して持ってる印象とほとんど変わらなかったな。賢いけど純粋で真面目って感じだ」


「ハハハ!なるほど!クリスは嫌がるだろうけど、確かにあの親子は似てるところがあるな!」


 領主邸へ向かってた時には、こんな爽やかな気分で帰宅するなんて、想像もしてなかった・・・




 俺達は翌日からも狩りや訓練の日々を送ったが、2週間に1度は領主邸へ本を読みに行き、領主と話をしたりする事もあった。


 そして、そんな日々が9ヶ月続いた。




【アーク歴 3032年 10月17日】


 俺が成人を迎える誕生日まで、後1週間に迫っていた。


 今日は狩りや訓練をせず、成人後の準備や色々な用事に追われている。


「よし、家は契約できたな。若さを侮られてぼったくられる事も無かったし、ほんと領主様々だよ!」


「いやいや!あの不動産屋を紹介してくれたのはカイネルだからね!? まぁ父上の存在が大きく影響したのは間違いないだろうけど・・・」


「まぁ、なんにしても領主様とカイネルさんには感謝だね!」


 さっきまで俺達『雷鳴』とエマの4人は、成人後の『雷鳴』3人の住処を借りるため不動産屋に行っていた。

 領主邸で家をどうやって借りるか話をしていた時に、近くで話を聞いていたカイネルさんが良い不動産屋を紹介してくれたのだ。


 借りた家は、モルフィートの街の中でも少し賑やかな区画にあって、少し古いがしっかりした二階建ての一軒家。しかも冒険者ギルドにも近い。


 1階には物置部屋、リビングキッチン、トイレなどがあって、2階には六畳程の個人部屋が4つある。そして広くはないが庭もある。

 これで家賃は月12万ブラン、割ると1人4万ブランなのでありがたい話である。


「家具は椅子、机、ベッドは付いてたけど他に必要な物も買わないとな。キッチン用品に関してはエマに任せる」


「そうだね・・・見た感じ綺麗なキッチンって訳じゃ無かったから、掃除用品も買わないとダメだと思う!」


「わかった。家全体の大掃除もしないといけないから掃除用品はまとめて買おう」


 エマは俺達と一緒に住む訳では無いのだが、俺達はほとんど家事が出来ないので、バイト代を払って家事代行として雇う事になった。

 2階の余った1部屋をエマの仕事部屋として貸す事にして、エマは空いた時間にそこでポーション作りなどの、職人ギルド関係の仕事を出来るようにした。


「ファルとクリスは家を出る準備とか出来てるか?家族とちゃんと話し合ったりとか」


「俺は大丈夫だ。随分前から家族達には話してたからな。父親は長男の俺に仕事を継いでもらいたかったみたいだが、最後にはちゃんと納得してくれた」


 ・・・・・ファルの親父さん申し訳ない!!

  小さい頃からよくお世話になったりしてたけど、ファルを冒険者の道に引き摺り込んだのは確実に俺だわ!!


「僕も大丈夫。カイネルがたまに顔を出しにくるって聞かなかったけど、なんとか抑え込んだよ・・・」


「へ、へぇ・・・カイネルさんは相変わらずだな・・・」


 ファルとクリスは既に成人しているので、俺より先に冒険者登録は済ませている。だが依頼を受ける事はせず、俺と共に今まで通り狩りを続けていた。

 俺が成人してから、本格的にパーティとして依頼を受けていく予定だ。


「それじゃあ明日は必要な物の買い物をして、明後日からは家の大掃除だな! これからの1週間は大変だぞ〜。ほとんど狩りには行けないと思っといてくれ。まぁ体が鈍らない様に訓練所で模擬戦とかはするつもりだけどな!」


「狩りは当分休みか」 


「模擬戦はちゃんとやるんだね・・・了解だよ」


「買い物楽しみ!」


 3人見事にバラバラの返事だったが、これから始まる新生活への前向きな気持ちは多分一緒だと思う。


 そしてこの1週間は俺が予定した通り、買い物と大掃除と模擬戦などに時間を使って過ごす事となった。

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