第17話 『領主邸②』
『
さっき読んだとこまではなんとか理解出来るようになっている。
要するに『魔濁界変』によって、生物達の体内に元々あった『魔力』が何故か結晶化して『魔石』に変わった。
その『魔石』の存在のせいで、肉体にも変化を起こして『魔物』に変えられてしまった訳だ・・・
ん・・・? ちょっと待てよ・・・
考えるだけでも恐ろしい事だけど、もし今なんらかの方法で俺の『魔力』を『魔石』に変えられたら、俺も『魔物』になるって事か・・・?
おいおい、それは洒落にならんぞ・・・
俺がマイナス思考になって顔を青くしていると、ノックの音も無く書庫の扉が開いてクリスが入ってきた。
「リンク調べ物は順調かい?」
「おぉクリス・・・知りたかった事はだいたいわかったよ」
「そうかい。あれ? でもその割にはなんか浮かない顔してるね」
「まぁ・・・ちょっとな。知れば知るほど謎が増えていくって感じでガックリしてたんだよ。 それより何しに来たんだ?」
「あっ!そうだった。そろそろ昼食の時間だから知らせに来たんだよ。 30分後ぐらいには昼食の用意ができると思うから、それぐらいの時間になったら玄関のとこまで戻って来てよ」
「あぁ、わかった」
クリスは「それじゃ」と言い残して書庫を出ていった。
俺は昼食前までにキリの良いところまで読もうと、再び本に目を向けて読み始めた。
クリスが出ていってから10分ぐらいが経った頃、またノックが鳴らずに扉が開いた。
あれ?もう30分たったか?
クリスがまた来たのかと思って顔を上げると、扉からハリウッド俳優ばりのとんでもないナイスミドルが入ってきた。
えっ・・・? 誰!?
すると、そのめちゃくちゃ美形の中年男性は、俺の事を不思議そうな顔で見つめながら話しかけてくる。
「ん? 君は誰だ? ここで何をしている?」
「・・・えっ!? わ、私はリンク・エンゲルスと申します! えーっと、クリスに頼んでここで本を読まさせてもらってるんですが・・・」
「ほぉ・・・君がリンク君か」
すると廊下からバタバタと足音が聞こえ、慌てた顔をしたカイネルさんが飛び込む様に書庫に入ってくる。
「だ、旦那様! その方はクリス坊っちゃまのご友人のリンク様です! 本日クリス坊っちゃまのご友人が当家に本を読みに来られると、先日報告させていただいていた筈ですが・・・」
・・・だ、旦那様!? って事はクリスの父親か!
つまりこの街の領主の『セルゲイナス・モルフィート伯爵』・・・ダメだ。吐きそうになってきた・・・
「そういえば先日報告を受けていたな・・・そうか、今日だったか。おっと、これは邪魔して済まなかった。はははっ、またクリスに文句を言われる事になりそうだ」
「いえいえ!邪魔なんてそんな!お邪魔させていただいてるのは私の方なので!」
「そうか? 私は邪魔じゃないのか・・・なら昼食の後、私もここに来てかまわないかな? 私も調べたい事があるのでね」
「どうぞどうぞ!」
断れる訳ねーだろ!勘弁してくれ!
「それは良かった。なら私はまた後で来る事にするかな」
そう言うと領主は振り返って、カイネルさんの肩をポンっと叩いてから書庫を出ていった。
はぁ・・・逃げ出したい・・・・・
それにしてもなんつーイケメン度合いだよ。そりゃクリスみたいな息子が生まれるわな。
「リンク様、失礼しました。クリス坊っちゃまからはリンク様と旦那様が顔を合わせないよう頼まれていたのですが・・・」
「それは仕方ないですよ・・・領主様が自分の屋敷の何処にいようが、何も問題ありませんから。むしろ、私のせいで行動が制限される方が問題ですよ・・・」
変に嫌われたらたまったもんじゃないからな・・・
予想外の事態で全く集中出来なくなった俺は、キリが良いとこまで読む事を諦めて、カイネルさんに連れられて早めに昼食へ向かう事にした。
カイネルさんの案内で庭の東屋まで来ると、既にクリスとファルがテーブルについていて料理も用意され始めていた。
「思ったより早く来たねリンク」
「まぁな・・・」
「クリス坊っちゃま申し訳ありません。旦那様が書庫に顔を出されまして、リンク様との接触を止められませんでした・・・」
「えっ!?リンクと会っちゃったの!?」
「申し訳ありません・・・」
「クリス、仕方ないよ・・・ そもそもここは領主様の屋敷だしな」
「まぁそれはそうなんだけど・・・」
そもそも書庫を使わせてもらってるのに、挨拶もしてなかった俺がおかしいんだ。
「クリス坊っちゃま、旦那様は昼食後書庫で調べ物をされるそうです・・・」
「くっ!! わざとだ! 父上は絶対わざとやってる!! あの人はいつもいつも・・・!!」
ん・・・? わざと?
クリスが嫌がるのをわかってて、わざと俺と顔を合わせたって事か? そうは見えなかったけどなぁ・・・いや、でも待てよ?
そういえば俺が自己紹介した時「ほぉ・・・君がリンク君か」って言ってたよな・・・?
自分の屋敷の書庫に入って知らない人間がいた事へのリアクションより、俺が誰かって事へのリアクションの方が大きかった気がする・・・・・
もし、本当にクリスの言う通りわざと書庫に顔を出したっていうなら、あの人は相当食えない人だぞ・・・
その後、普段から色々溜まっていたのか、昼食はクリスの愚痴を聞かされながら食べる事になった。
昼食後。
当初の予定とは違って、クリスとファルも書庫で調べ物をする事になった。
クリスがどうしても俺と領主が2人きりになるのを嫌がったからだ。それが決まった時、ファルは口には出さなかったが物凄い嫌そうな顔をしていた・・・
俺は道連れが増えて少し嬉しい。
書庫で調べ物を始めた俺達3人は、俺が魔法について、ファルがスキルについて、クリスが魔物についての本を読んでいた。
「・・・そういえばクリスに聞きたい事があるんだけど、クリスは『魔濁界変』の事について知ってたか?」
「えらく急だね。『魔濁界変』は一応知ってるよ? それがどうしたんだい?」
「やっぱそうなのか・・・実は俺知らなかったんだよ。少なくとも学塾では習ってない。ファルも知らないよな?」
「まだくかいへん・・・? 全く聞いた事がない単語だけどなんだそれは?」
「えーっとな・・・」
俺はファルに『魔濁界変』について掻い摘んで説明してあげた。
「全然知らない話だった・・・そんな大きな話をなんで俺達は習ってないんだ・・・・・?」
「これは俺の憶測だけど、多分教会の影響だと思う・・・」
「教会ってアーク教のか?」
「そうそう。アーク教側は『魔濁界変』という災害を神の試練って事にしてるみたいだが、こんな理不尽な災害を神が起こしたって説明したら、疑問を持つ人が多少は出てくるんだと思う」
「なるほど・・・それで、そもそも学塾では教えないようにしてるって事か・・・」
「って事は、僕の場合は学塾じゃなくて家庭教師だったから、その影響力が及ばなかったって事なのかな?」
「んー、それもあるが、貴族家の者として知っておかないと恥をかくってのもあるんじゃないか?」
「なるほどね。それで?僕にその事を聞いたって事は、リンクは『魔濁界変』が気になっているのかい?」
「あぁ・・・凄い気になる。 当時の人達には悪いが、少しワクワクさせられてる自分もいる・・・ 冒険者としては魔物とダンジョンについて色々知りたいところだし、スキルについてもまだ解明されてない謎がいっぱいあるしな」
「魔物にダンジョンにスキルか・・・確かに全て『魔濁界変』によるものだね。そう考えると冒険者と『魔濁界変』は切っても切れない関係って事か。魔物やダンジョンが生まれなければ、冒険者って職業が存在しなかった訳だしね」
「そういう事。冒険者を続ける限り、調べていく事になりそうだ。その時は2人とも手伝ってくれるとありがたい」
「わかったよ」
「俺に出来る事ならな」
俺達『雷鳴』に、パーティとしての新しい目的が見つかった。
話し終えると再び静かに本を読み始める。
静かに本を読み始めてから1時間ぐらいが経った頃、書庫の扉が開かれてこの屋敷の主が現れた。
「ん? 昼からはクリスも調べ物か? それにまた1人知らない子がいるな」
俺は横で固まってしまってるファルの太ももを強めに叩いた。
「っ!?あっ フ、ファル・シモンドです!えっと・・・クリスの仲間です・・・(でいいのか?)」
「(あぁ、大丈夫だ)」
自己紹介の最後、不安になったのかファルが小声で俺に確認してきた。なので俺も小声で返しておいた。
「ファル君か。息子が世話になってるね」
「い、いえ!世話になってるのは自分の方なので・・・」
「そうなのか?じゃあこれからも助け合って仲良くしてあげてくれ」
「は、はい!」
・・・ファルの奴一瞬で心を掴まれやがった!
何故か男でもあの顔に微笑まれたらグッとくるんだよな。
なんかのスキルじゃねぇだろうな・・・?
「それよりも父上、何か調べ物があるそうですね?」
おぉ・・・クリスの奴すげぇ険しい顔してる。
「あぁ、そうだな」
「一体何をお調べに?」
「うむ・・・そうだなぁ。クリスの友達とやらがどんな子達なのか調べようと思ってな」
・・・ファッ!? 俺と顔合わせた時はしらばっくれてたのに! ここであっさり認めるのか!
クリスに疑われてるのがわかって切り替えやがりましたよこの人・・・・・
「くっ!? ほ、ほぉ・・・認められますか」
「認める? 認めるも何も、私は最初から本を読んで調べ物するなんて、一言も言ってないだろう?」
「・・・・・」
クリスめっちゃ睨んでるよ・・・
てかやっぱ貴族怖ぇ! こんな人と絶対腹の探り合いなんてしたくねぇ・・・!
「クリスが家で全然友達の話をしてくれないからな。私が気になるのも仕方がないだろう?」
・・・あれ?クリスは俺達の事話してないのか?
でも領主様はさっき、俺の名前を知ってる感じだったよな?
「あの・・・すみません。領主様は私の名前を知ってるような反応だった気がするんですが、クリスから聞いてた訳ではないんですか?」
「あー・・・まぁそうだね。君達の事はダントから聞いてたんだよ実は」
「・・・ダントさん!?」
予想外の名前が出てきて俺達は驚くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます