第12話 『話し合い②』

 

 俺達は休憩(模擬戦)を終えると、再び話し合いを始めた。


「クリスは一段と強くなったな。一昨日の模擬戦より戦いにくかったぞ」


「おーやっぱファルもそう思ったか。俺も結構苦戦させられたなぁ」


「……やっぱりそうだよね。僕自身が1番実感してるよ。なんか前よりも木剣が軽く感じるし、剣をどう振ればいいか感覚的にわかるようになった気がするんだ」


「あー、それか。たしか俺達も『剣術』が手に入った時は同じ感覚を覚えて困惑したよ」


 模擬戦を続けていく内に慣れて気にならなくなったけどな。


「2人もそうなんだね。8歳から剣を振り続けてきたから違和感が凄いよ…」


「素振りや模擬戦で少しずつ慣らしていくしかないな」


「そうだね。でも、さっきリンクが言ってたけど僕はパーティの盾役になった方が良いんだよね?」


「んー、そうだなぁ…その事についても話そうか。 一応俺なりに戦闘時の役割について考えてみたんだけど、2日前に見た『剣刃』のビッグボア戦で例えるから聞いてくれ。 クリスには敵を引き付けて翻弄するシンさんの役をやってもらいたい」


「シンさんみたいな回避力があるわけじゃないけど、僕は盾と防御力で敵を引きつければいいんだね?」


「そうだな。そうしてくれるとパーティ的に助かる。それで、ファルは遠距離攻撃が主体のエリザさん役を頼む」


「…となると俺はいつも通りだな」


「あぁ。そして敵に致命傷を与えるダントさんの役が俺だ。 ダントさんほどの威力は出せないけど、現状この中なら俺の両手剣が1番攻撃力あるからな。 こんな感じで大丈夫そうか?」


「うん、問題無いよ。でも僕が敵を引き付ける盾役をするなら、今は剣よりも盾の稽古に優先した方がいいのかな?」


「そうだな。その方がパーティ戦で安定すると思う。でも、極端に剣の稽古を減らすのはやめておこう。ある程度剣も使えた方が絶対に良いからな。これはファルも同じだ。 ファルには敵に近づかれた時の保険が必要だからな」


「…確かに。近づかれた時の保険がある方が弓を使う時に冷静でいられる」


「役割については理解出来たよ。けど今のは魔法抜きでの話だよね? 2人は僕と違って戦闘でも使える魔法スキルを持ってるけど、それはどうするんだい?」


「うーん…俺の『雷魔法』は現状、接触して電撃で体を痺れさせるぐらいしか使いようが無いからなぁ…。 ファルの『音魔法』は罠とか敵の撹乱に使えるよな多分。シンさんの『幻影魔法』に近い使い方になるんじゃないか?」


「……俺の『音魔法』はエリザさんの『風魔法』みたいに攻撃的な使い方をするより、シンさんみたいな魔法の使い方の方が向いてるのか」


「俺はそう思うかな」


 ファルとしては、エリザさんみたいに攻撃力を底上げする使い方をしたいんだろうけどな…


「ちょっといいかな…? ファルの『音魔法』について気になった事があるんだけど、『音魔法』は『音を消す事』とかも出来るのかい?」


「……ん?音を消す?」


 おぉ…確かにそうだ。

 もしかしたら音を消せるんじゃないのか?

 全く思いつかなかったな・・・


「音を消す、か…。音をどう使うかは考えた事があったけど、音を消すっていうのは全然考えた事無かったな……」


「もし本当に音が消せるなら凄ぇ便利だぞ? 足音を消したり、弓矢の音を消したり出来るなら、死角から完全な不意打ちを決められるようになるって事だからな…とりあえず出来るか試してみろよファル!」


「あ、あぁ…」




 そして、ファルは試行錯誤に苦しむ事もなく、ものの数分で無音移動と矢の音を消す事に成功した。


「やれば出来るもんだな……」


「これはだいぶ戦略の幅が広がるぞ…! お手柄だなクリス」


「いやいや、僕はそんなたいした事してないって! 前に『収納魔法』について色々調べた事があったから、魔法スキルの応用方法についてある程度知識があっただけだよ」


「いやー、その知識はとんでもない力だぞ? 『収納魔法』と『盾術』もだけど、クリスはもっと自分の能力に誇りを持っていいと思う」


「そう…なのかな? なんか照れるね…」


 ……なんだコイツ。

 綺麗な顔で頬染めてやがって…

 そこら辺にいるお姉さんならイチコロだぞこの野郎。


「クリスが魔法に詳しいなら、ついでに1つ聞きたい事があるんだけどいいか?」


「どうぞ。知ってる事なら答えるよ」


「前から気になってた事なんだけど、魔法を使うと疲れるのって何か改善方法とかあったりしないのか? 出来れば狩りでも使っていきたいんだけど疲れるからあまり使えないんだよ」


「あー、それね。多分それはまだ魔法スキルのレベルが低いからじゃないかな? 魔法スキルのレベルが上がると、魔法に使う『魔力』の効率が良くなるから疲れにくくなると思うよ」


「ん…?ちょっと待ってくれ。『魔力』?」


「えーっと、そうだね…『魔力』っていうのは生物が元々体内に持ってるエネルギーの1つで、魔法スキルはその魔力を消費して発動してるって言われてるんだよ。この国ではまだ一般的に知られてないから、聞いた事が無いのも無理ないけどね」


 いや…聞いた事が無いっていうか、『魔力』って俺の『能力把握』に出てくる魔力値と同じ事だよな…? 多分だけど。

 まぁ、そりゃ魔力の値って言うぐらいだし。


 それにしてもなるほどな…。

 魔法スキルのレベルが上がると、少ない魔力でも効率的に魔法が使えるようになるって事か。

 そうすりゃ疲れにくくもなるし、出来る魔法の範囲も広がってくるって事だな。


「ありがとう、なんとなくは理解出来た。人に見せられないから説明は難しいが、俺の『能力把握』ってスキルで魔力に関して色々わかりそうだ」


「…-『能力把握』? なにそれ? 全く聞いた事が無いスキルだけど」


「『能力把握』は発動すると頭の中に俺の能力情報が数値になって表れるんだ。 例えば筋力値とか知力値とかな。 それで、その中に魔力値ってのもあって、多分クリスの言う『魔力』っていうのを数値化したものだって理解出来たんだよ」


「ちょ、ちょっと待ってよ! リンクには自分の体内にある魔力が数値でわかるって事!?」


「まぁ、そういう事だな。我ながらとんでもないスキルだとは思ってるよ」


「本当だよ…なんて便利なスキルなんだ…」


「それにしてもクリスは本当に詳しいんだな。 俺も魔法スキルについては結構調べたつもりだったけど、魔力に関して書かれている本なんて見た事無かったぞ?」


「それは僕の家に他国の本とかもあるからだよ。 リンクは『ラムジン魔法国』って知ってる?」


「たしか…ブランデン王国と同じハイトー大陸にある北端の国だっけ?」


「そうそう! その『ラムジン魔法国』は遥か昔に偉大な魔法使いが建国した国でね、名前の通り国を挙げて魔法スキルの研究が盛んらしいんだ」


「ほぇ〜」


「それで、3年ぐらい前に生物の体内から未知のエネルギー、つまり『魔力』の存在が発見されて研究発表がなされたんだよ。 もしかしたら、その研究をしてた人もリンクと同じ『能力把握』を持ってたのかもしれないね」


「確かに…それはありそうだな」


 『ラムジン魔法国』はいつか行ってみないとだな…


「その研究者の本が僕の家に流れてきたのが、確か1年前ぐらいだったかな? だからまだこの国では一部の貴族や商人にしか、魔力の存在は広まってないんだよね」


「ほーん、そりゃ俺が読めるようなレベルの本に書かれてないわけだな」


「一般へ広まるまではまだ何年か時間がかかるかもしれないね」


「いやー、それにしてもスキルレベルを上げる必要があるのか…。魔法スキルのレベルを上げるためには、狩りで魔法を積極的に使っていかなくちゃいけないって事だよな? でも、使うと疲れて狩りの時間が減ってしまう……上手くいかないもんだな」


「レベルを上げるのはなかなか大変だろうね。 でもたしか、レベルが上がると魔力効率が良くなるってだけじゃなくて、10レベル毎に体内の魔力量が増えるとも書かれてたと思うよ?」


「マジか! なるほどな…そういうシステムだったのか……ちなみにその本って借りられたりするか?」


「んー、貸すのはちょっと無理かな。 僕の本じゃなくて父上の本だから流石に外へ持ち出す事は出来ないよ…ごめん」


「まぁそうだよな。全然気にしないでくれ。今の情報だけで充分ありがたいから」


「でも、貸す事は出来ないけど、リンクが直接家へ読みに来るっていうなら可能かもしれないよ?」


「そ、そうだなぁ…」


 くぅぅ! 貴族の家にか…!

 知らない情報もたくさんあるんだよな…?

 あーどうしよ!めちゃくちゃ迷う!!


「どうする?」


「……どうしても知りたい事が出来たら読みに行く事にするよ!その時はよろしく頼む!」


「そうかい?そんなに気にしなくてもいいのに」


 気にするだろ…!

 こちとら純然たる庶民だぞ!!




 そして、午前の時間を丸々使った話し合いを終えた俺達は、近くの食堂で昼食を取ることにした。


 昼食後は気分転換で西の草原へ行き、話し合いで決めた役割を意識しながらパーティ戦闘の練習をしながら狩りを行なった。


 日暮れ前。

 狩りを終えて街へ戻っている道中、クリスがいきなり立ち止まって大声をあげた。


「あっ!!!」


「うわぁっ!なんだよ急に…!?」


「あっ…驚かせてごめん!でも、1番大事な事を決め忘れてたと思って!」


「1番大事な事…? なんか話し忘れてたか?」


「僕達のだよ!!」


「あーー、パーティ名か! 確かに忘れてたな。 でも別に今パーティ名なんて決めても使う所が無いぞ?」


 そもそも、成人して正式な冒険者登録をしないとパーティ登録も出来ないし。


「確かにそうだけど!気持ちの問題だよ!」


「んー、まぁ確かにパーティ名があると士気も上がる…のか?」


「上がるね!!」


「パーティ名なんて考えた事も無かったから、どんな名前にしたらいいのか全くわからないな…。なんかパーティ名のルールとかってあったりするのか?」


「ルールってほどでは無いけど、暗黙の了解みたいなものはあるかな。 例えば短くて覚えやすい名前の方がいいとかね」


「ほう…」


「あと、パーティリーダーの特徴から名前をつけたりする事が多いかな。『剣刃』なんてモロにダントさんの大剣から付けた名前なんじゃないかな」


「確かに短くて覚えやすいってのは大事だよなぁ……。 あとはリーダーの特徴か…ちなみにだけど、2人は俺をリーダーにする気満々だよな?」


「そうだね。リンクしかいないよ」


「俺もリーダーはリンクで良いと思う。向いてる奴がやった方がいいしな」


「……俺ってリーダーに向いてるか…?まぁ、とりあえず俺がやってみるけど」


 精神年齢ではダントツ大人だし仕方ないか…


「それで、俺の特徴ってなると『雷魔法』か?」


「そうだね。あと両手剣も」


「確かにそうだけど、剣ってなったら『剣刃』と被るだろ…。やっぱ雷関係の名前にした方がいいな」


「じゃあ……シンプルに『カミナリ』とかはどう?」


「却下。なんか頭を強く叩かれそう」


「えっ?どういう意味?」


「いや、気にしなくていい…。ファルはどんな名前がいいと思う?」


「そうだな…『雷鳴らいめい』とかどうだ? 雷を想像してパッと思いついたのがコレぐらいだった」


「『雷鳴』か……なんか格好良い響きだな!悪くないんじゃないか?」


「僕も良いと思うよ!『音魔法』を使うファルらしい名前の付け方だね!」


「確かに、言われてみればそうだな…。完全に無意識だった」


「よし!パーティ名は『雷鳴らいめい』で決定だ!」


 この瞬間、俺達は『雷鳴』という名前を背負ってこれから冒険者活動をしていく事が決定した。




 そして、将来『雷鳴』という名は文字通り世界中へ響き渡る事となる。

 だが、それはまだ先の物語……


 とか、そういう物語のスタートみたいなのを妄想するのも悪くないなぁ…

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