第11話 『話し合い①』
翌朝。
俺達3人は狩りに出る事も無く、本来の用途とは違うがギルドの訓練所でパーティのこれからについて話し合っていた。
「とりあえず今日は狩りに行かないで、これからパーティとして活動していくに当たって決めておく事とか、知っておいた方がいい事とかを話し合おうと思う!」
「……それ必要なのか? パーティの方針はリンクが決めてくれればいいと思うんだが」
「僕もファルの同じかなぁ」
おいおい!全部俺任せでは困る…!
「出来れば2人の意見も聞かせて欲しいんだよ。俺にも知らない事とか出来ない事とかいっぱいあるんだからさ」
「そういう事なら…わかった。とりあえず何を決めていくんだ?」
ファルは仕方ないなという感じだったが、一応納得してくれたようだ。
「まずはパーティ内のルールだな。自由に生きるって言っても、ある程度自分達を律する為のルールは必要だと思う」
「ルールねぇ…報酬の分配方法とかかい?」
「そういうのだな。でも、分配方法については『剣刃』みたいにどんな仕事でも均等に分配するって方法で俺は良いと思ってる」
「俺もそれでいい」
「僕もそれで問題無いかな」
分配方法に関しては身近に見本がいるから理解が早いな。
「となると、次は逆の支出に関してだ」
「支出…?何を決めるんだ?」
「狩りや依頼で使うポーションとかの必需品を、個人で払うのか、それともパーティ全体で払うのか、これを決めようって事だな」
「なるほど…」
……ファルはいまいち理解出来てないみたいだ。
「ファルが使っている矢だってそうだぞ? 俺は今みたいにファル1人で金を払うんじゃなくて、みんなで出し合った方が良いんじゃないかと思ってる」
「…どういう事だ? 使うのは俺なのにリンクとクリスも矢の代金を払うって事か?」
「あぁ。でもこれはファルの矢だけの話じゃない」
「どういう事だ?」
「 例えば、クリスには『盾術』を活かしてパーティの盾役をやってもらいたいと思ってるんだけど、盾役というポジション的にポーションの消費量は俺達よりも増えると思う。 でも、その分のポーション代をクリスだけに払わせるのは違う気がするだろ?」
「確かに…。俺達の代わりに攻撃を受けてくれてるのに、クリスがポーション代を支払うのはなんか嫌だな……」
「だろ? だからそれをどうするか決めていこう。嫌な話だけど、金の問題は人間関係で1番モメる原因になるからな」
「わかった。じゃあ何から決める?」
「とりあえず、まず俺がしたいのはパーティ用の口座を作る事だ」
「……なんか一気に話が飛んだね」
確かに。
でもそこから話さないと説明しづらいんだよな…
「まずやる事が『銀行屋』で口座を作る事なのか?」
「その通り。何故口座を作るのかと言うと、パーティ用の活動資金を別で貯めておくためだ。今の俺達の稼ぎだと…各々が毎週5,000ブランずつ口座に入れていけばいいぐらいか? それで、その資金からパーティの必要経費を払っていくって方法を取りたい」
『銀行屋』
銀行屋は国営の機関で、大きな街にはだいたい支店がある。
口座があれば、国内ならどの街の支店からでも預け入れと引き出しが出来るようになる。
だいたいどの国の銀行屋もギルドと提携しているので、ギルドへ申請をすれば他国の銀行屋とも口座を繋げる事が可能となる。
「…いまいちよくわからんが、それでいいんじゃないか?」
よくわかってないのにそれでいいだと!?
「僕も良いと思う。でも問題は何がパーティの経費で、何が違うのかって事でしょ?」
「そう!それをこれから決めたいんだ。まず、みんなで使うポーションとか地図、あとファルの矢の代金はパーティの経費って事でいいよな?」
「俺はそれでもありがたいんだが、矢の代金は本当に経費扱いでいいのか…?」
「俺は全然構わない。矢もポーションと同じで消耗品だしな。 ファルの弓矢はパーティでは貴重な遠距離攻撃で、必要時に矢が足りないとパーティ全体が困る。 だから俺は経費扱いでいいと思ってるんだよ」
「僕も異論なしだね」
「……2人がいいなら別にいいか。じゃあそれで頼む」
渋々って感じだけど納得はしてくれたな。
「よし、じゃあ次は武器や防具などの装備品問題だ。装備品自体の代金もそうだけど、メンテナンス代もどうするかだな」
「さっきの話で言うなら、クリスの盾や防具だってパーティの経費でいいんじゃないのか?」
「いやいや!ファル、それはあまりにも僕が得しすぎるよ!とりあえずリンクの考えも聞きたいかな!」
……こらこら、助けを求めるような目で俺を見るんじゃない。
「俺の考えね。結論から言うと、装備品自体の代金もメンテナンス代も経費じゃなくて個人出費でいいと思ってる。ただし、クリスの盾に関しては別だけど」
「僕の盾は別…? 理由を聞いてもいいかい?」
「理由は『必要な装備』と『使いたい装備』が、必ずしも一致する訳じゃないと思ってるからだ」
「…というと?」
「例えば、普通の『丈夫な防具』と、少し割高な『丈夫で格好良い防具』があるとする。 パーティとしては丈夫なら別に格好良くある必要なんて無いけど、出来れば『丈夫で格好良い防具』の方が使いたいだろ?」
「まぁ…そうだね。僕も使う装備は出来るだけ自分好みのデザインがいいかな」
「だろ? なら個人出費の方が自由に自分の好きな物を買えて良くないか?」
「だな。個人出費なら何を装備してようが仲間に気を使う必要なんて無い」
「そういう事。俺はパーティメンバーには出来るだけ好きな装備をしてて欲しいと思ってる。それと、メンテナンス代に関しては単純に個人の技量の問題だからってのが主な理由だな。 自分で武器や防具を痛める戦い方をしといて、メンテナンス代はみんなにも払ってもらうってのはちょっと違うしな」
「それも同感だね。装備の扱いが上手な人に損をさせるのは僕も違うと思う」
「でもクリスの盾は別だ。だって盾は傷付いてなんぼだろ? だから盾のメンテナンス代に関してはパーティ待ちでいい」
「全く同意見」
俺の意見にファルが食い気味で賛同してきた。
「うん…僕も納得しちゃったから、メンテナンス代は頂く事にするよ」
「よし。でも問題は盾自体の代金だな。俺個人としてはそれもパーティ経費でいいと思ってるんだけど、クリス自身はどう思う?」
「んー、そうだなぁ…僕は好きな盾を気兼ねなく使いたいから、やっぱり盾自体の代金は僕が自分で払う事にするよ」
「わかった。クリスがそれでいいならそれを尊重する。ファルもいいか?」
「あぁ。俺もそれで構わない」
「よーし、じゃあまとめようか。装備品の代金とメンテナンス代は各々の個人出費、けど盾のメンテナンス代だけは例外でパーティ経費。これで決定だな」
「「異議なし」」
ふぅ…これで1つ目は解決したな。
それにしても、クリスは貴族家育ちだからなのか、歳の割に金銭の事をちゃんと考えられてる感じだな。
それに比べて、ファルは商人の家で育ったというのに、金に対して結構無頓着だからなぁ……
まぁ、俺が冒険者の道へと引き摺り込んだせいなのかもしれないけど…
「金の問題はこれで終わりか?」
「いや、まだもう少しだけ決めておきたい事がある。将来的な話だ」
「…将来?」
「そう。例えば、依頼の時に払う宿代とか、野営する時に使うテント代とかな。まぁこれに関してはパーティ経費で異論無いだろ?」
「無いな」
「じゃあこっからが大事な話なんだが、俺は成人して正式な冒険者になったら家を出ようと思ってる。 それで、もしよかったら2人も家を出て一緒に家を借りて住む事にしないか?」
「ほう…」
「別々で部屋を借りるより安く済むはずだし、パーティとしても活動しやすくなると思うんだよ。 どうだ? 2人に家を出るつもりがあるならだけど」
「うん…それいい!楽しそうだよ!僕は賛成!」
「俺も元々家を出るつもりだったからそれで構わない」
「じゃあ家を借りた時の家賃や食費もパーティ経費として資金から出すことにしよう。 これで俺が決めておきたい金のルールは終わりかな」
「ハァ…やっと終わったんだね…疲れたよ」
クリス…俺も激しく同感だ。
「金のルールは終わりって事は、他にも必要なルールがあるのか…?」
「あぁ、あるね」
「えっ…?まだ何かあるのかい!? 僕には全然思いつかないんだけど……」
「次に決めるルールは『女』についてだ」
「「…お、おんな?」」
「そうだ。 だいたい男同士でモメる時の原因は、金か女かプライドなんだよ…。プライドに関してはこのメンバーなら心配してないし、金に関してはさっき解決した。だから、次は女についてだ」
「いやいや、ちょっと待ってよ…! 女って言われても、何をルールにする必要があるのか全然わからない!」
「まぁ…女というより恋愛に関してなんだけどな。 多分、冒険者になるとモテると思うんだよ。多分」
「……多分って2回も言ってるけど?」
くっ、余計な事に気付きやがる…
「仕方ないだろ! 冒険者になってみなきゃわからないんだから!」
「「………」」
「それでだ! モテるのはいいにしても、恋愛に溺れてパーティへ迷惑をかけるような真似だけはいただけないよな?」
「まぁ…それは確かにね」
「だから、ある程度の節度と自覚を持っていなくちゃいけないと俺は思ってるんだ……特にクリスは」
「…えっ? なんで僕!?」
「なんでって……テメェが1番モテるからに決まってんだろ。ふざけてんのか」
「リンク…口調が変わりすぎて怖いよ……」
「それで?決めるルールってのはなんなんだ?」
「ファル…君は冷静過ぎる……」
「別にそんな堅苦しいルールじゃなくていいんだよ。『恋愛は程々に、溺れる前に相談すること』こんな感じでいいんじゃないか?」
「……なんかよくわからんが、俺はそれでいい」
「僕もそれでいいよ…。破ったらリンクが怖そうだけど」
「よし、これでルールに関しては終了だ。これからパーティメンバーが増える事もあるだろうから、その都度話し合っていく事になるだろうけどな」
パーティのルールを決め終えた俺達は、休憩として逆に模擬戦などの激しい稽古を1時間程こなした。
そして、また訓練所の地面に座り込んで話し合いを再開するのだった。
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