第10話 『仲間』
昼過ぎには冒険者ギルドへ帰ってきていた俺達は、受付で依頼完了の精算を済ませ、ギルド近くの食堂で遅めの昼食を取っている。
「またご馳走になっちゃってすいません…」
「気にすんな気にすんな。今日俺達がどれだけ儲けたか知ってるだろ?」
「まぁ…それは知ってますけど、俺達もいつもより多めに報酬貰っちゃってますからね」
「それはいつもより荷物持ちの仕事が大変だったから報酬が上がっただけだ。見習いは大人しく先輩に甘えてりゃいいんだよ」
「……わかりました。これからも世話になります」
「おう!それでいい!」
ダントさんから視線をふと右へ向けると、黙々とご飯を食べているクリスが目に入った。
「クリスは今日この後どうするんだ?」
「ん?僕?僕は家に帰って剣を振るか、本を読むかするんじゃないかなぁ」
剣か本って…俺とほとんど変わんねぇな。
「……なんかクリスの時間の使い方ってリンクみたいだな」
「うるさいよファル…。そんな事より、もし良かったらクリスもこの後俺達と一緒にギルドの訓練所で稽古しないか?」
「稽古…? 一緒に?」
「おっ!いいじゃねぇかクリス! 俺はもう酒飲んじまったから稽古を見てやれないし、これは同年代の友達を作る良い機会だぞ!?」
ガツガツと飯を食いながら話を聞いていたダントさんが、持っていたスプーンをクリスへ向けながら言い放った。
「なんかその可哀想な子みたいな言い方やめてくださいよ!」
「だってその通りなんだから仕方ないだろ〜」
「ハァ…わかりましたよ。じゃあリンク、ファル、この後もご一緒させてもらう事にするよ」
「よし!じゃあ午後もよろしくな」
「こちらこそ」
飯を食べ終わった俺達見習い3人は、酒盛りを続けるダントさん達を置いて店を出た。
そして、その足でそのまま冒険者ギルド併設の訓練所へと向かった。
「2人はよくここで稽古してるのかい?」
「雨とかで仕事と狩りが出来無い時はだいたいここで稽古してる事が多いかな。 おっ、エマがいる」
「あっ!リンク!ファル! …ともう1人の美形イケメンは誰!?」
「……イケメン、ね。このイケメンは今日一緒に仕事をしたクリスだ。これから一緒に稽古するつもりなんだよ」
「なるほどなるほど。私エマ!よろしくね!」
「こちらこそよろしく。僕の事はクリスって呼んでくれ。それでエマはリンク達とどういう関係なんだい?」
「えっ?どういう関係…? んー、子供の頃に学塾で仲良くなったから…幼馴染みかな?」
「へー、学塾に幼馴染みかぁ…羨ましいな……」
「…羨ましい?」
「あっ、いや、なんでもないよ」
………すげぇ意味深だったな今の。
多分ダントさんが言ってた、同年代の友達がいないってのと関係してるんだろうな…
「そういやエマ、今日はここで『回復魔法』の練習してたのか?」
「違う違う、さっき来たところ!午前中は傭兵ギルドの訓練所で練習してたからね!」
「なるほど、そうだったのか。じゃあ俺達も今から模擬戦とかするから、もし怪我した時は頼むな」
「うん!任せといて!」
その後、俺達は休憩を挟みつつも2時間ほど模擬戦をこなした。
エマにアザや擦り傷だらけの体へ『回復魔法』をかけてもらった俺達は、一通り稽古を済ませて木剣や防具などの備品を片付け始めていた。
「リンク達はいつもこんな稽古をしているのかい…?」
「いや、いつもではないかな。 仕事終わりで時間が空いた時とかにもする事はあるけど、そういう時はだいたい流してやっちゃったりするし。こんなしっかり模擬戦をやったのは久しぶりって感じ」
「へー…そうなのか」
「もしかしてちょっとキツかったか…?」
「んー、まぁ僕にはちょっとキツかったかな…。こういう怪我して当たり前みたいな模擬戦は今までした事無かったからね」
「なんかそれは悪い事しちゃったな……。でも、クリスも結構強かったぞ!? 俺もファルもあまり攻撃当てられなかったし。 なぁ?」
「あぁ、普通に強く感じたな。 クリスは本当に『剣術』のスキルをまだ取れてないのか?」
「うん、それは間違いないよ。実は攻撃を防げたり出来たのは『盾術』のおかげなんだよ」
「……盾を使ってない時でも『盾術』が影響するって事か?」
「そうそう。ダントさん曰く、祝福を境に僕の防御力が跳ね上がったらしいからね。 何故『盾術』が剣にも影響しているのかは、僕にはよくわからないんだけど」
スキルの影響か…
もしかしたら『盾術』のおかげで敵の攻撃時に出る予備動作とかも察知しやすくなってんのかもな。
ほんと、スキルってのはよくわからん。
「でも、あの感じだと『剣術』もすぐ手に入るんじゃないかと思うけどなぁ」
「それは…どうなんだろうね。ダントさんもその内取れるだろって言ってくれたけど」
「……じゃあさ、クリスも俺達と一緒に狩りへ行ってみないか?」
「狩り?……僕が!? それは足手まといになるんじゃないかな!?」
「いやいや、あれだけ動けるなら全然大丈夫だと思うぞ? それに、魔物と実戦するとスキルレベルの成長が早くなるんだよ。だから、もしかしたらスキル取得も早くなるかもしれない」
「へー、そうなんだ…」
これはあともう一押しかな?
「もし1対1が厳しかったら、今日のダントさん達みたいな戦い方をすればいいんだよ。 俺が敵を引き付けて、死角からクリスが切る!みたいなね」
「なるほど…それなら出来そうかもね」
「とりあえず、試しに明日一緒に西の草原へ行く事から始めようか?」
「……うん、そうだね。よろしく頼むよ!」
そして翌日。
クリスを加えた俺達3人は順調に西の草原でホーンラビット狩りを行なっている。
「クリス!今だ!」
「あぁ!」
ザシュッ!
巣穴から誘き出したホーンラビット3匹の内、2匹は早々に俺とファルで片付けた。
そして、最後に残った1匹の注意を俺が引き付けて、クリスが死角から剣でホーンラビットの首を断ち切った。
「今のは良い感じだったな! クリスも少し慣れてきたんじゃないか?」
「………」
「ん? どうしたクリス?」
「いや…今の最後の一撃凄い手応えがあったんだよ…。もしかしてだけどさ、今『剣術』のスキル手に入ったんじゃないかな……?」
「…えっ!? マジか! 早く確認してみろよ!」
「う、うん…そうだね」
クリスは恐る恐るポケットから取り出したプレートを確認する。
すると、徐々に体が震えだしたと思ったら、急に涙目になって叫び始めた。
「しゃあぁぁぁああ!!『剣術』手に入ってるよ! ちゃんと書かれてる!! ほら!」
そう言ってクリスは俺とファルへ向けてプレートを突き出す。
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氏名 [クリスチャン・モルフィート] 年齢 [13歳]
所属国 [ブランデン王国] 職業 [ ]
スキル
[収納魔法Lv.3] [盾術Lv.3] [剣術Lv.1]
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「おー!本当だ!良かったなクリス!!」
「ねっ!? でもまさか1日で手に入るとは思ってなかったよ!! リンク、ファル! 本当にありがとう!」
「いやいや、今日手に入ったのはたまたまで、狩りに来なくても1週間もかからず手に入ってたんじゃないか? なぁ、ファル」
「………」
言葉を投げかけたのだが、ファルはクリスのプレートを見ながら固まってしまっている。
「ファル?」
「リンク…クリスの名前……」
「名前…? えーっと、クリスチャン・モルフィート……『モルフィート』!?」
「あっ…勢いで見せちゃった」
そう言うと、クリスは慌ててプレートをポケットにしまった。
「『モルフィート』っていうのは俺達が住んでる街の名前で…つまり、領主様のファミリーネームだよな……?」
「うん。まぁそうだね…」
「って事は…クリスは貴族、様?」
「父親がね!子供の僕に爵位は無いよ」
Oh…領主の息子なのが確定しちゃったぜ……
「なんで領主様の息子のクリス…さんが冒険者見習いなんかに?」
「ちょっと! さん付けなんてやめてくれよ!せっかく仲良くなったんだからさ…」
「……悪い。じゃあ、なんでクリスは冒険者見習いなんかやってるんだ?」
「…僕はね、三男なんだよ。だから将来の選択が兄達より自由なんだ。それで、どうせ自由なんだったらとことん自由に!!って感じで、冒険者になりたいと思ったんだ」
そういうことか…。
窮屈な世界から飛び出したいって気持ちは俺にもわかるな……状況は違うけど。
それに、冒険者へ憧れる気持ちもよくわかる。
「冒険者に憧れる気持ちは俺とファルにもよくわかるよ。なぁ?」
「あぁ、俺も強くなって冒険者として自由に生きてみたい。最近はダントさん達に出会ってその気持ちがより強くなった気がする」
「あー、わかる! ダントさん達みたいになりたいよな俺達も……なぁ、クリス」
「なんだい?」
「よかったらさ、俺達と一緒にパーティを組まないか?」
「……えっ!?」
「ギルドでの正式なパーティ登録はまだ出来ないけど、明日からも一緒に活動していこうぜって事だ」
「……それは僕でいいのかい?」
「いいんだよクリスで! 俺達は自由に生きる事を望む同志であり仲間だ。 同じ目標を持ってるんだったら一緒に活動すればいい。 もし嫌になったらやめちまえばいいんだよ。冒険者は自由なんだから」
「そうか…そうだね……よし!その話乗ったよ!!」
「そうこなくっちゃな!」
「それじゃあこれからよろしく頼むよ!リンク!ファル!」
「「おう!!」」
少年ながらも大志を抱く俺達は、強く、そして自由に生きていく事を今まで以上に己の心へ強く誓い、新たな冒険者人生のスタートを切ったのであった。
どんな困難や苦難があろうと、仲間となら乗り越えられると信じて…
ふぅ……色々驚かされる事はあったが、なんだかんだクリスと出会えたのは運が良かったな。
ファルとクリスの2人なら、俺と何処までも一緒に走ってくれる事だろう。
まぁ、そんなことよりとりあえずは…
パーティメンバー、ゲットだぜぇ……
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