第8話 『クリス』
西の草原での狩りを始めて数日が経った。
今日の狩りを終えた俺達は、ギルドに備え付けられた解体所で戦果のホーンラビットを解体しているところだ。
うーん、やっぱ自分でやると難しいな…
2,3回教えてもらったぐらいじゃ全然上手く出来ねぇ……
でもギルドのスタッフに頼むと、1体の解体料で1500ブランも取られるんだよなぁ……
ホーンラビットの素材は丸々売っても3000ブランにしかならないってのに、儲けの半分持っていかれるのは痛すぎる!!
だからって自分でやっても素材の質が下がるから安くなるんだけど……
まぁ、しばらく練習したら『解体』のスキルが手に入るだろうし、それまでは儲けが減っても我慢するしかないな。
「リンク、こっちは終わったぞ」
「えっ?マジか!ファルは早ぇな……俺もそろそろ終わるからちょっとだけ待っててくれ」
「わかった」
これはファルの方が先に『解体』手に入れるな。前世の時から俺の手先が不器用なのは変わってねぇ……
解体を終えると、俺達は依頼受付の横にある買取カウンターへ行き、皮や肉、魔石などの素材を売り払った。
「……6000ブランにしかならなかったか!ホーンラビット3体分の素材だったのに…!」
「丸々1体分の利益が減ったって事か……今日の査定は厳しめだったな」
「午前の分を合わせても今日1日で1人5000ブランずつしか稼げてない…!早く解体が上手くならないとまずいな……」
「綺麗に素材が解体出来るようになるまではこんな感じって事だな」
「そういう事だな…。とりあえず、はいこれファルの分の3000ブラン」
「おう」
俺とファルがギルドの隅で財布事情について話していると、誰かが後ろから声をかけてきた。
「おっ!やっと見つけた……リンク、ファル!」
「…あれ?ダントさんじゃないですか。お疲れ様です」
「ギルド中探したぞ…」
……俺たちを探してた?
なんだ?なんかあったのか?
「あー、俺達さっきまで解体所にいたんですよ」
「くそっ、そこは見てなかった……ってそんなことより!明日狩りに行くんだが、お前ら見習いの仕事を受ける気ないか?」
ほう…なるほど。
そういう理由で俺達の事を探してたのか。
「明日ですか? 明日なら全然大丈夫ですけど、荷物持ちが2人も必要な程の仕事って事ですか?」
「いや、必要なのは3人なんだけどよ。1人はもう既に決まってて、あと2人だからお前らなら都合が良くてな」
「なるほど」
3人必要ってなかなかの仕事じゃないか…?
「もう1人の奴とは明日顔合わす事になると思うけど、良かったら仲良くしてやってくれ。その方が俺達も仕事しやすいしな」
「それは大丈夫ですよ。それより、荷物持ちが3人も必要な仕事って何を狩るつもりなんです?」
「あれっ?俺はまだ言ってなかったか?狙うのは『ビッグボア』だ。そんなに難しい仕事ってわけじゃないんだが、図体がデカいから回収する素材も多くなるんだよ」
……なるほど、ビッグボアか。
たしか、めちゃくちゃデカい猪の魔物だったよな…?そんな奴なら確かに素材が多くなりそうだ。
「そういうことならわかりました。とりあえず、明日はいつも通り朝ギルドに来たらいいですか?」
「あぁ、それで問題ない。ちなみに明日は森の中での狩りになるから、その背中の長い剣は使いづらいかもしれないぞ?」
「ダントさんの大剣の方がデカいでしょう…」
ダントさんの大剣は、大柄なダントさんの身長とほぼ同じぐらいの長さで、刃の厚みも幅も全然俺の両手剣よりある。
下手したら30kgぐらいあるんじゃねぇか…?
「おいおい、これでも一応冒険者歴15年ぐらいあるんだぞ!? 俺にはどんな環境でもコイツを振り回せる自信があるんだよ」
「あっ…確かにそうですね。なんかすいません」
本当何言ってんだ俺は…
ダントさん達は10年以上冒険者やってんだぞ……
「まぁ、わかりゃいいんだ!そんじゃあ明日は頼むな!」
「了解です。明日はまた世話になります」
「おう、また明日な!」
ダントさんはそう言うと、手を振りながら颯爽と帰っていった。
ダントさんが見えなくなった後、俺達もギルドを出て明日について話しながら家路についた。
翌朝。
日課のランニングと素振りを済ませた俺は、いつものように庭のベンチで休憩しながらプレートの確認をしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [13歳]
所属国 [ブランデン王国] 職業 [ ]
スキル
[雷魔法Lv.3] [短剣術Lv.2] [剣術Lv.5]
[能力把握Lv.2]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おっ!『剣術』のレベルが上がってる…!」
何年間も稽古を続けてきて、最近やっとレベル4に上がったばっかだったって言うのに、この数日間の狩りだけでレベル5に上がっちまいやがった……
やっぱ実戦だとレベルが上がりやすいんだな。
それにしても、やっぱり『雷魔法』はまだ上がってないか…
今のスキルレベルだと相手に触れた状態でしか発動出来ないし、魔法を使うと結構疲れるってのもあるからそんなに実戦で回数使えてないしな……こればっかりは仕方が無いか。
能力値はどうだ…?
体力値 32(↑1)
筋力値 26(↑2)
敏捷値 23
魔力値 18
知力値 75
器用値 22
体力値と筋力値が少し上がったくらいか。
この『魔力値』ってのが上がれば魔法を使っても疲れにくくなんのかな…? わからん!
まず、具体的にどうやって魔力値を上げればいいのかすらわかってないしな。
魔法を使えば使うほど上がるのか、それとも他に何か要因があるのか…
他にも『能力把握』を持ってる人がいれば、そこらへんもわかるんだろうけどなぁ……
いずれは理解出来るようにちゃんと情報も集めていかないと。
とりあえず、まずは今日の事だ。
今日はダントさんに言われた通り、両手剣じゃなくて普通の片手剣を装備して行った方がいいよな。
片手剣と短剣の2本差しで行くか…!
あと、もう1人来る見習いは俺と同じ13歳か1つ上の14歳のはずだから、もしかしたら学塾で見かけた事がある奴かもしれない。
知り合いならやりやすいんだが、誰だろうな…
その後、朝食や色々な準備を済ませた俺は家の前でファルと合流して、いつもより早めの時間にギルドへと着いた。
依頼受付での手続きを済ませた後、俺達は『剣刃』ともう1人の見習いが来るのをギルドの階段下で待っていた。
待つ事数分、入り口から『剣刃』の3人がギルドへ入ってくるのが目に入った。
「おっ、来た来た。ダントさーんこっちです!」
俺が声を掛けると、ダントさんはジェスチャーで「ちょっと待っててくれ」と伝えてきた。
少し待つと、ダントさん達は受付で手続きを済ませてこっちへ向かってきた。
「おう。結構早くから来てたんだな」
「早いわねぇ〜」
「みなさんおはようございます。今日もよろしくお願いします」
「お願いします」
俺とファルは軽く頭を下げて『剣刃』の3人に挨拶をした。
「あぁ、よろしくな」
「えーっと……ダントさんの後ろにいる子が、今日俺達と一緒に荷物持ちをする子ですか?」
俺はダントさんの大柄な体で隠されてしまっている少年について確認した。
「ん?あー、そうだ。こいつが昨日言ってたもう1人の見習いの『クリス』だ。ほれ、挨拶しとけ」
そう言うと、ダントさんは後ろに立っている少年の背中を押して前に出した。
「どうもクリスです。正確には『クリスチャン』って名前なんだけど、僕達は同じ歳らしいし気軽にクリスって呼んでくれると嬉しいかな」
……学塾では見かけた事が無いな。
なんか大きな盾を背負ってるみたいだけど、そういう戦闘スタイルなのか?
っていうか!めちゃくちゃ綺麗な顔してんな!!
どっかの王子様なんじゃねぇかってぐらい綺麗だぞ!?
「クリスね、わかった。俺の事はリンクって呼んでくれればいいよ。よろしくな」
「俺はファルだ。よろしく」
「よーし!自己紹介は済んだな。 そろそろ出発するから、細かいところは森までの道中で話し合ってくれ」
「「「了解」」」
俺達はギルドを出発して、街から森までの道を話しながら歩いていた。
「ほぇー、リンク達はもう魔物を狩ったりしてるんだね」
「あぁ、西の草原でだけどな。あそこはそんなに強い魔物が出てこないから」
「いやいや、それでも充分じゃないかな? 僕なんか1人じゃまともに戦う事も出来ないからね」
「……気になってたんだけど、クリスはそのデカい盾を構えて武器とか扱えるのか?」
「んー…実は8歳の頃から剣術を習ってるんだよ。 でも『剣術』のスキルが手に入ってなくて、まだ実戦で剣を扱えるレベルに達してないんだよね……この盾は祝福で『盾術』を与えられたから一応持ってるって感じ」
なるはど……
確かにそれだと『1人』で戦うのは厳しいだろうな。
でも、8歳から稽古しているならそろそろ『剣術』が手に入ってもおかしくないだろうに。
「へー、そうなのか…。ちょっとデリカシーの無い質問をするかもしれないけど、魔法スキルは戦闘で使えるようなやつじゃ無かったのか?」
「うん……戦いじゃ使えないね。『収納魔法』って知ってるかい?」
………えっ!? マジで!?
「知ってる知ってる!めちゃくちゃ便利な魔法じゃないか!!」
「そ、そんなに驚かれる!? 珍しい魔法スキルだから絶対知らないと思ってたよ……」
『収納魔法』か…
祝福前に魔法スキルの事を色々調べた時、戦闘系魔法でもないのに俺の『欲しい魔法リスト』に入っていた、数少ない内の1つだ。
ちょっと羨ましい……
「『収納魔法』?俺でも聞いた事あるな。あれは親父から聞いたんだっけか…?」
「あれ?ファルも知ってるのか。もしかして僕が思ってるよりそんなに珍しくもないのかな……?」
まぁ、そりゃファルの親父さんは商人だから知っててもおかしくないわな。
商人からしたら喉から手が出る程欲しい魔法スキルだろうし…
「名前を聞いた事があるってレベルだけどな。それで?『収納魔法』ってどんな魔法なんだ?」
「んー、どんな魔法かぁ……一言で言うなら異空間に物を収納しておける魔法かな?」
「……異空間?」
「そこら辺の説明は難しいなぁ…なんて言えばいいんだろ?」
……そりゃ難しいわ。
異空間の説明なんて精神年齢大人の俺でも出来ねぇ。
でも、一応出来るだけ分かりやすく説明してみるか…
「ファル、とりあえず空中にポケットがあるイメージをしてみろ」
「あぁ……出来た」
「そこにどんな荷物でも出し入れが出来るんだよ。しかも、そのポケットはどこまでも自分についてくる」
「……って事は、ずっと手ぶらでいいって事か?」
「そういう事! 荷物を背負いながら戦闘なんて嫌だろ? それを解決出来るのが『収納魔法』なんだ」
「おぉ!リンクは説明上手だね!そういう事だよファル!」
「なるほど……それは確かに便利そうだ。でも戦闘に使う事は出来ないんだよな?」
「うん……まぁそうなんだよね」
「あっ、なんかスマン…」
そう、『収納魔法』が戦闘で使えないタイプの魔法スキルである事は間違いないんだよな……
クリスのように攻撃用のスキルが無い人だと、魔物1匹倒す事すら難しくなってしまう。
クリスに関しては『盾術』があるから生き残る事は出来るかもしれないが、基本的に冒険者を目指すなら戦闘系のスキルは必須になる。
まぁそれも『1人』ならだけど…
「でも剣の稽古始めてもう5年だろ? 俺達も6歳で稽古を始めてからだいたい5年ぐらいで『剣術』のスキル手に入ったぞ。 だからクリスもそろそろ手に入るだろうし、別に大丈夫なんじゃないか?」
「んー、僕も大丈夫だとは思うんだけどね…。贅沢を言うなら、祝福で戦えるスキルを与えられていたら嬉しかったなって」
「……それに関しては、与えられた側の俺達はなんも言えねぇな」
「まぁ、冒険者として生きていくのが無理になっても、別の仕事でなんとなく生きていける気がするからいいんだけどね! 僕の周りみんな優しい人ばっかりだから何かあっても助けてくれそうだし。特に女の人は優しい人多いよねー?」
………それはお前がイケメンだからだ。
クリスの最後の台詞には少しイラッとした俺だったが、顔には出さずに会話を続けながら北の森までの道のりを進んだ。
そして、森の手前まで辿り着いた俺達6人は道の脇で少し休憩をした後、装備や荷物などの確認を済ませて森の中へと入っていった。
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