第7話 『西の草原』

 

 初めて魔物を討伐した日の翌朝。


 俺は日課の早朝ランニングと素振りを済ませると、庭のベンチで休憩しながらプレートの確認をしていた。


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氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [13歳]


所属国 [ブランデン王国] 職業 [   ]


スキル

[雷魔法Lv.3] [短剣術Lv.2] [剣術Lv.4]

[能力把握Lv.2]

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 おぉ!昨日より『雷魔法』のレベルが1上がってる!

 やっぱり実戦の方が経験値貯まりやすいって事なのか…?

 だとすると、そろそろ模擬戦や素振りだけじゃなくて実戦もこなしていかないとダメなのかもな。


 ゴブリンぐらいの相手なら大丈夫だって事は昨日戦ってみてわかったし、街の西にある草原なら比較的弱い魔物しかいないから俺達に丁度良いかもしれない。


 それにしても、ゴブリンに対して『雷魔法』を試せたのは良かった。

 家にいたネズミとか、庭にいる虫とかには試しで使った事があったけど、魔物に通用するかどうかは正直わかってなかったからな…

 ゴブリンに通用したなら、西の草原にいる魔物にだって充分通用するばずだ。


 あっ、ついでに『能力把握』しとくか…


体力値 31 (↑10)

筋力値 24 (↑6)

敏捷値 22 (↑6)

魔力値 18 (↑8)

知力値 75 (↑3)

器用値 22 (↑6)


 能力値の伸びはそんなに悪くない気がするんだけど、比較対象がいないんだよなぁ……

 知力値だけはあまり伸びてないけど、これは元から高いから仕方ないか。


 よし、確認終了!

 とりあえず、今日からは仕事が無い日にファルを誘って西の草原へ通ってみるか!




 朝食後、俺はファルと合流してギルドで仕事の有無を確認していた。


「流石に2日連続で仕事は無かったな」


「それはしょうがない。そんな事よりファル」


「ん?なんだ?」


「今日から西の草原へ通ってみないか?」


「……それはもしかして魔物を狩りに行くって事か?」


「そういう事。そろそろ稽古や訓練だけではスキルレベルが成長し辛い思うんだよ」


「確かに…。今朝プレートを確認した時『弓術』のレベルが上がってたけど、これは昨日のゴブリン戦の影響だろうしな」


 ファルはそう言いながら自分のプレートを俺へ見せてきた。


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氏名 [ファル・シモンド] 年齢 [13歳]


所属国 [ブランデン王国] 職業 [   ]


スキル

[音魔法Lv.3] [弓術Lv.4] [剣術Lv.2]

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 ファルの成長度合いも俺とそんなに変わんねぇな…

 まぁでも、これなら大丈夫だ。


「西の草原なら強くてもゴブリンレベルの魔物しかいないし、今の俺達にはちょうど良いと思う」


「なるほど、俺もそれで良いと思う。今日はこれからすぐ行くのか?」


「いや、その前に色々必要なものを買っておこう。そろそろも使い始めたいしな」


「おぉ、ついにを買うのか。そりゃ楽しみだ」




 話しながらギルドを出た後、俺達は色々な店を巡ってポーションや地図などを買い回った。

 そして最後に、剣の絵だけが描かれている無骨な看板を掲げた武器屋へ俺達は訪れていた。


「テッタさん、ご無沙汰してまーす」


 俺は店の奥で商品の剣を磨いている店主のテッタさんに声をかけた。


「ん? なんだ、バロンの倅か。今日も冷やかしに来たのか?」


「いやいや、今日は遂に買うつもりで来たよ。まだ重くて使いこなせないだろうけどね」


「おっ!買いに来たのか!? また冷やかしに来たのかと思ったぜ!ちょっと待ってな。奥から取ってくるからよ」


 俺は去年ぐらいから父さんと共にこのテッタさんの店へ何度か来ていた。

 しかし、目当ての物を手に持って重さを確かめるだけで、何も買わずに帰るという事を何回か繰り返していたのだ。


「ほら、持ってきたぞ。お目当ての『両手剣』だ」


 テッタさんは店の奥から、身の丈程では無いがそれでも大きくて重い『両手剣』を担ぎながら出てきた。


「これは品質的には大した物じゃねぇが、破壊力に関しては普通の片手剣とは段違いだ。 まだお前の体じゃ振り回されるかもしらんが、体は使ってるうちにデカくなるだろうから心配すんな」


 そう言いながら、テッタさんは担いでいた両手剣を俺に手渡してくる。


「おっ…と、やっぱりまだちょっと重いか……とりあえずこれ、代金の8万ブランね」


「まいど。バロンにもたまには剣のメンテナンスをしに来いって伝えといてくれ」


「了解、伝えとくよ。それじゃあまた!」


「おう。気をつけろよ」


 両手剣を背中に背負いテッタさんの店を出ると、俺は当初の予定通りファルを連れて西の草原へと向かった。




 街から地図を見ながら30分ほど歩いた俺達は、お目当ての草原の真ん中にいた。


「ファル、あの岩の下らへんに穴があるだろ? あの穴の中で出来るだけデカい音を『音魔法』で鳴らしてみてくれるか?」


「ん?それは出来るが…あれは何かの巣穴か?」


「あぁ。あれは『ホーンラビット』の巣穴だよ。 音を鳴らすと何匹か飛び出てくると思うから、それを獲物にするんだ。あっ、ツノは危険だから正面に立たないようにな」


「あぁ、了解」


「じゃあ頼む」


「いくぞ」


 ………ッボン!!


 爆発音の様な音が穴の中で響いた数秒後、穴から体長1m程で角の生えたウサギが3匹続いて飛び出してきた。


 ……なんか思ってたよりデカいな!

 ちょっとだけビックリしたけど、とりあえず平静を保たないと…


「じゃあファル、援護を頼んだ」


 俺はファルに声をかけると、ホーンラビットの元へ駆け出した。

 まだパニックになってよそ見をしている奴の側まで気付かれずに駆け寄り、軽く触れて“触電スタンガン”を発動した。


 バチッ!


「キュッ!!」


 電撃を受けて痺れたホーンラビットは体を締め付けるように硬直させた。

 俺はそれを確認する事も無く、次の獲物へと駆け出す。


 ヒュッ!


 駆け出した瞬間、俺の後ろで矢の風切り音が聞こえてきた。

 その後、ドサッと何かが倒れる音が聞こえたので、どうやら痺れさせた奴はファルが問題無く仕留められたようだ。


「よいしょっ!」


 俺の存在に気付いてこっちへ振り向いた1匹の側面に、俺はステップで回り込んで両手剣を振り下ろす。

 刃は首の半分を見事に切断して致命傷を与えられたみたいだ。


 残った1匹へ目を向けると、俺を威嚇するように睨みつけながら突進しようとしている。

 とりあえず、俺は注意を引き付けながらファルがいる方とは逆の方へサイドステップで移動する。

 すると、ホーンラビットの視線が狙いを定めるようにしてこちらへ釣られる。


 ヒュッ!


「キュゥ…」


 視界の外から放たれたファルの矢は、ホーンラビットの頭へ見事に突き刺さった。


「よし、上手くいったな!」


「……なんか思ってたより結構楽だったな」


「まぁ今回はほとんど不意打ちみたいなもんだったしな。 しかも相手は最弱クラスのホーンラビットだ。これぐらいは出来ないと駄目だろ」


「そんなもんなのか…? 積極的に魔物を狩ったのが今回で初めてだから俺にはよくわからん」


「こんなもんだよ。油断はダメだけどそんなに気負う必要もないって。 そんな事よりさっさと後処理をしようか! ホーンラビットは肉も皮も売れるから、血抜きをしたら死体はそのまま背負って持って帰ろう」


「了解」




 俺達は後処理を終えたホーンラビットを担いで街へ戻ると、死体をギルドのスタッフに解体して貰って素材などを売り払った。


 そしてゆっくり昼食を食べた後、午後からも草原へ戻って狩りを続けるのだった。

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