第4話 『祝福』
キィィィーーーーーーン
「んー……?耳鳴りか…?」
なんだよ…まぁいいや、寝よぉ……zzZ
頭の中に響いた耳鳴りのせいで目覚めてしまったが、俺は5秒も経たずに再び眠りについた。
ちょうど日付が変わり10歳になって『祝福』を受けた事に気付かないまま……
早朝5時に目を覚ました俺は、毎朝行なっている日課のランニングをしながら夜中の事について思い返していた。
たしか夜中に耳鳴りで目が覚めたよな…?
もしかしてだけど、あの時って祝福されてたのか…? そうなると既にスキルがあるって事になるはずだけど……
朝起きてからちょっとした違和感はあるんだが、その違和感の原因がどんなスキルによるものなのか全くわからない…
早くプレートを手に入れないとな。
俺は考えている内にランニングを終えて、起きてきた父さんと共に庭で剣の素振りをした。
朝御飯も済ませて、本を読んだり家事の手伝いなどをしながら時間を潰す。
そして、なんだかんだあって……
俺は父さんと2人で教会の前まで来ていた。
うわぁ…なんか緊張してきたな……
早く与えられたスキルを知りたいとは思ってるけど、もし期待外れのスキルだったらと思うと怖くなってきた……
「リンク、そろそろ中へ入るぞ」
俺は父さん声に反応すると、固い表情を貼り付けたまま父さんの後ろについて教会へと入った。
神父と父さんが挨拶を交わしながら会話をしている間も、俺は上の空状態で教会の内装をボーッと眺めていた。
「……ンク…リンク!」
「うわっ!なに!?」
「おいおい、なに驚いてんだ…?もしかして緊張してんのか?」
「……うん…まぁちょっとね」
名前を呼ばれて過剰に驚いた俺の反応を見て、父さんは意地の悪いニヤけ顔を向けてくる。
「はははっ!ちょっとどころじゃ無いだろ! 別にそんな大それた事をする訳じゃないんだ、さっさと済ませて家に帰るぞ。それ じゃあ神父さん、お願いします」
「わかりました。 じゃあリンク君、こっちに来てこの『プレート』に手を乗せてくれるかな?」
「……わかりました」
俺は神父の横に立っている3m程もある大きな神の像の前で跪く。 そして、神父に言われた通り像の台座の上に置いてある名刺サイズの板へと手を乗せた。
これが主神『アークホール』の像か…?
物語通りの荒々しい表情をした神だな……
『アーク教』
根本的には多神教の宗教なのだが、統括神『アークホール』を主神として崇めている。
俺が読んだ本の中には、その主神『アークホール』を題材にした物語もあった。
【遥か昔、神々は自由に世界中を暴れ回り災害を引き起こしていた。
その神々の所業に怒った統括神『アークホール』は、その神々の元へと訪れては怒鳴り散らかして回った。
暴れ回っていた神々は、あまりの怒り様に恐れをなして『アークホール』を主神としてその下にまとまる事となった。
その結果、世界は落ち着きを取り戻したのである。】
大まかに言うとこういう物語だ。
俺がその物語を思い出しながら目の前にある『アークホール』の像を眺めていると、後ろから神父が声を掛けてきた。
「もう終わりましたよリンク君」
「………えっ? もう終わり!?」
わずか10秒…
しかも、像を眺めながらプレートに手を置いていただけだったので、俺は予想外の簡単さと早さに驚いた。
「ええ、もう終わっていますよ。 もう既にリンク君の情報がプレートに書き込まれているはずです」
本当か……?
俺はプレートを確認しようと、上に乗せていた手を退ける。
すると、確かに白紙じゃなくなっているプレートが目に入った。
本当に終わってやがる…
なんか神父さんが祝詞みたいなのを読み上げたりして、もっと神々しい感じになるのかと思ってたのに……
「おいリンク…そんなにスキルが酷かったのか……?」
眉間にシワを寄せて不満そうにしている俺の顔を見て勘違いをした父さんが声をかけてきた。
「えっ? あ、あー違う違う!! 思ってたよりあっさり終わったからビックリしちゃっただけ……ってそんな事より、スキルを確認してない!!」
「なんだ、そういう事か……ヒヤヒヤしたぞこの野郎。まだならさっさと確認しちまおう」
俺と父さんは書かれている内容を確認しようと、一緒にプレートを覗き込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
氏名 [リンク・エンゲルス] 年齢 [10歳]
所属国 [ブランデン王国] 職業 [ ]
スキル
[雷魔法Lv.1] [短剣術Lv.1] [能力把握Lv.1]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おぉぉおおお!?『雷魔法』!! しかもスキル3つ!!」
「ほう…ニコールに続いて、リンクもスキル3つ与えられたか…。それにしても『雷魔法』か。あまり周りでは聞いたことねぇな」
へー、父さんの周りにいないって事は『雷魔法』って結構珍しい魔法スキルなのか…?
色々調べた時に名前は見た事あるが、希少性については全く気にしてなかったからなぁ…
「神父さん、『雷魔法』って珍しいんでしょうか?」
「どうでしょうねぇ…。『雷魔法』の魔法スキルを持っている者はそこまで多くは無いでしょうけど、それほど珍しい魔法スキルって訳でもないと思いますよ?」
「なるほど、まぁそうですよね」
もし俺が調べた時に希少なスキルだって書かれていたら、多分覚えてただろうしな。
名前しか覚えていなかったって事はそういう事だ。
「現に私も何度か『雷魔法』を与えられた子を見た事がありますからね。 まぁ所持者が世界中に何人いるのか正確にはわかりませんが」
「そんなに珍しくないなら目立ち過ぎる心配はしなくても大丈夫そうだな…」
「…ん?父さんは何を心配してるの?」
「いや、まぁ…あれだ。珍しいスキルを持った人間を欲しがる貴族や好事家もいるんだよ……そんな奴らに目をつけられたりしたら厄介だからな…」
「あぁ…それは確かに面倒だね……」
「そういう事だ…。 プレートは身分証にもなるが、無闇に人へ見せるような物でもないからな。気をつけておけよ?」
「わかった、気をつけるよ」
「………リンク君はえらくしっかりしてるなぁ…」
最後は神父に少し変な目で見られる事になったが、俺と父さんは挨拶もそこそこに教会を出て家へ帰ることにした。
俺は教会から帰ってくると、庭のベンチで日向ぼっこをしながらプレートに書かれている情報を整理していた。
「名前と年齢、所属国…この辺は別にどうでもいいな…」
プレートに書かれている所属国は、出身国という意味では無く、公的にどの国へ所属しているかを表す項目で、いわゆる国籍ってやつだ。
ちなみにプレートは、歳を取ったり、結婚して名前が変わったり、新しくスキルを手に入れたり、情報が更新されるたび勝手に書き変わるらしい。
教会的には「神がちゃんと人類を見守ってくれている証拠だ」という事みたいだが、本当のとこはどうなんだろうな……
「職業の所はまだ空欄だな…」
職業欄は成人してギルドに登録したり、何処かに仕えたりすると書き込まれるはず。
俺の場合は冒険者ギルドへ所属する予定だから、その時に『冒険者』って書かれる事になる。
この世界には『冒険者ギルド』『傭兵ギルド』『商業ギルド』『農業ギルド』『職人ギルド』などの様々なギルドが多数存在しているのだが、ギルドの掛け持ちをする事は法律として許されていない。
所属するギルドによってプレートへ表示される職業が変わる。
例外としては、父さんのように騎士団へ所属していると『騎士』と表示されるし、貴族だと『男爵』や『子爵』などの爵位が表示されたりする。
それにしても、よりにもよって『雷魔法』か…
前世で雷に当たって死んだ事は関係ないよな……?
……まぁいいか。
それより、『雷魔法』は電気を操る魔法と考えても大丈夫なのか…?
そうだとすると汎用性は高い気がするんだけど。スキルレベルが上がればやれる事も変わってきたりするのかな?
うーん…。
とりあえず、現段階でどんな事が出来るのかぐらいは把握しておかないといけないな……
魔法スキルの種類は世界中で何十種類も確認されているが、所持者が少なくて希少性の高い魔法スキルだからといって、特別強力というわけでもないらしい。
現に、物語のモデルになった英雄や勇者も『火魔法』や『光魔法』などのメジャーな魔法スキル所持者だったりする。
あとは『短剣術』と『能力把握』か。
『短剣術』はどうするか…
成人するまでには『剣術』スキルが手に入るだろうから、無理に短剣を使う必要は無いんだけど…
まぁ、状況に応じて使い分ければいいだけか。
『能力把握』は与えられた3つのスキルの中で、唯一名前から能力の予想が出来ないスキルだな…
多分、今朝から感じてる違和感はこのスキルのせいだと思うけど…
スキル名を知ってから意識してみると、頭の中に様々な数字が浮かんでくる。
なるほどな…こういうスキルか。
体力値 21
筋力値 18
敏捷値 16
魔力値 10
知力値 72
器用値 16
知力だけ異様に高い…
多分前世の記憶と知識があるからだろうな。
……いや、ちょっと待てよ。まさか他が異様に低いって事じゃないよな…?
そうじゃない事を願う……!!
しかし、自分の情報を把握できるってのはありがたいな。
足りないところがわかりやすいし、何を活かしていけばいいかもわかる。 使いこなせれば便利そうだ。
スキルレベルが上がったら情報量が増えるのかな?それを把握するのも今後の課題か…
「リンクー!お昼ご飯出来たから食べなさーい!」
「はーい!」
プレートの情報を整理していると母さんに呼ばれたので、とりあえず俺は昼食を済ませるために家の中へと戻った。
昼食後、俺は仕事へ向かう父さんを見送って、午後はスキルの実験をしようと意気込んで庭へ出てきた。
しかし、短剣も無いし『雷魔法』を練習するための標的も無かったので、その日も結局は動き回りながら剣の稽古をする事しか出来なかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます