第3話 『家族』
【アーク歴 3027年 10月21日】
自分の人生について決意してから5年の歳月が経った。
ブランデン王国の南東部に位置する街『モルフィート』で、身長140cmぐらいにまで成長した俺は、2人の少年少女と共に学塾からの帰り道を喋りながら歩いていた。
「リンクは明日で10歳になるけど、祝福でどんなスキルが欲しいの!?」
俺に尋ねてきているこの女の子は『エマ・ローリンズ』。
茶色にもオレンジ色にも見える髪を胸下まで伸ばしていて、笑うと八重歯が見えるのが特徴的な女の子だ。
エマは俺が学塾に通い始めてから仲良くなった子で、いわゆる同級生というやつである。
「んーどうだろう…。望んでも欲しいスキルが与えられる訳じゃないからなぁ……でも、やっぱり戦闘で使える魔法スキルが欲しいかな!」
「そうなるとやっぱ『火魔法』とか『風魔法』とかだよね!? それなら欲しいスキルが与えられるように今日の夜は神様にいっぱいお祈りしないと!」
「はははっ、そうだな」
俺とエマが話をしていると、一緒に並んで歩いている少年『ファル』が横からエマに声をかける。
「そういうエマもそろそろ誕生日だけど、何か欲しいスキルとかあるのか?」
ファルはウチの隣に住んでいる幼馴染みで、細目と長く伸ばした紺色の髪を後頭部で縛っているのが特徴的だ。
フルネームは『ファル・シモンド』である。
「んーエマはねぇ、戦うのとかは嫌だから掃除とか料理のスキルが欲しい!」
「あー、残念だけどそういう家事に使えるスキルは無かったんじゃないかな?」
俺がそう告げると、エマは残念そうな顔をしながら肩を落とした。
調べた情報によると、家事などの日常生活レベルのスキルが発現したことは世界中で確認された事が無いらしい。
どれだけ熟達したとしても『剣術』などのスキルみたいに発現することは無いという事だ。
だが、何故か『剣術』のスキルを会得した料理人の包丁捌きが良くなったという話もあったみたいだ。
色々調べてみてもスキルがどこまで影響を及ぼすのかは、俺にも正確に把握出来ていない。
3人で色々話をしながら歩いている内に、気づくと俺の家まで辿り着いていた。
「ただいまー!今日も2人が来てくれたよー」
俺は玄関のドアを開けると、リビングで膨らんだお腹をさすりながら鼻唄を口ずさんでるいる母さんへ声をかけた。
「あら、おかえりなさい。ファルもエマちゃんもいつも来てくれてありがとうね。とりあえず座ってお茶でも飲みましょ」
ファルとエマは、妊娠9ヶ月目を迎えた母さんの為に、ほぼ毎日家事などの手伝いをしに来てくれている。
まぁ、ファルは手伝い後の稽古がメインなのだが…
俺とファルの2人は井戸で水汲みなどの力仕事を手伝っているのだが、正直まだ少年の体にはちょっと厳しい。
エマは洗濯や夕飯の下ごしらえなどを手伝ってくれている。
精神年齢は親と子ほど離れているが、今世の俺にとっては本当に優しくて良い友人だと思う。
「母さんは座ってて。俺がお茶入れるから」
お茶を入れる為に立ち上がろうとした母さんを止めて、俺は台所へ向かった。
「ありがとうね。本当に我が息子ながらしっかりした子だわ」
「ねっ!本当は明日で20歳なんじゃないの!?」
エマの冗談は台所にいた俺にも聞こえてきた。
「ふふっ、リンクは間違いなく明日で10歳よ? だって赤ん坊の頃からちゃんと数えてきたんだもの」
母さんはエマの冗談にそう返すと、エマとファルへ向けて話を続ける。
「そういえば、リンクは明日教会へ行く事になるから学塾を休むのよ。 だからお願いなんだけど、明日2人は先生にその事を説明しておいてくれないかしら?」
「わかった! 先生に伝えとけばいいんだね!」
エマは大きく返事をして、ファルは頷いて返していた。
休憩もそこそこにして手伝いを済ませると、母さんとエマは家の中でお喋りを、俺とファルは庭で稽古前の準備運動をしていた。
「ファルは今日どっちにするんだ?俺と一緒に剣の稽古をするのか、スキルの訓練にするのか」
「今日は剣の稽古にするつもりだな。明日からはリンクもスキルの訓練を始めるだろ? そうなったら一緒に剣の稽古する事も少なくなるからな」
「だろうな。絶対スキルの訓練に集中して剣の稽古は減っちゃうと思うわ……」
ファルは3ヶ月前に10歳を迎えていて、既に祝福を受けている。
ファルが与えられたスキルは『弓術』と『音魔法』の2つ。
ファルは俺に誘われて剣の稽古を始めると、ウチの父さんのような騎士へ憧れを持つ様になっていった。
なので、騎士らしい近接戦闘系のスキルを望んでいたみたいだ。
だが、遠距離系の『弓術』とあまり戦闘向きとは言えない『音魔法』を祝福で与えられて、ファルは少し落ち込んでいた。
しかし、「騎士って感じじゃないけど、なんか冒険者向きのスキルな気がするな……」という俺の独り言を聞いて考え方が変わったらしい。
どうやら、俺と同じで冒険者になる事が目標になったようだ。
それからは前向きにスキルの訓練を始めて、剣の稽古も『剣術』獲得の為に続けている。
「よし、素振りから始めるか!」
準備運動を終わらせた俺達は、庭の壁に立て掛けてあった木剣を手に取り素振りを始めた。
30分ぐらいで素振りを終えて、その後も休憩を挟みながらも模擬戦などの稽古を日が傾くまで続けた。
稽古を終えて、すり傷とアザだらけの体を濡れた布で拭いた俺とファルは、玄関のドアを開けて家の中にいるエマへ声をかけた。
「エマ!そろそろ日が暮れそうだから家まで送るよ」
「えっ!もうそんな時間!? 早く帰らないと! アンジェリーナさんお喋り楽しかった!また来るね!」
慌てて椅子から立ち上がったエマは、母さんに声をかけてから俺達のいる玄関の方へと向かって歩いてくる。
「あらあら、私も楽しかったわ。リンク、ファル、しっかりエマちゃんを送り届けるのよ」
「大丈夫、わかってるよ」
「あっ、その前に2人共こっちにいらっしゃい」
母さんは玄関から外へ出ようとしていた俺達を呼び止めた。
俺とファルが言われた通り母さんの目の前まで行き並ぶと、母さんは俺達の頭に手を乗せて『ヒール』と呟いた。
すると、母さんの手から淡い光が広がり、俺達を包み込んですり傷やアザを癒していく。
「よし、綺麗になった! どう?もう痛む所は無い?」
「うん、もう大丈夫。ありがとう母さん 」
「自分も大丈夫です。本当にありがとうございます。毎回稽古の後に『回復魔法』をかけてもらって」
「旦那にも昔からよく使ってて慣れてるから気にしなくていいわ。 さっ、日が暮れない内にエマちゃんを送ってらっしゃい」
「はーい。いってきます」
そして、俺達は日暮れ前までにエマを家へ無事に送り届けた。
夕飯時。
乱雑な赤茶髪が特徴的な父さんと、深緑色の髪で優しそうな顔が特徴的な母さん、そしてまだ年齢的に体力が無いのか、疲れて眠そうな目をしている俺の親子3人で、いつものように話をしていた。
「今日騎士団の詰所に騎士学校の先生が用事で来ててな、ニコールの話を聞いたんだよ」
「あら、あの子は元気にしてるって?」
「元気も元気!ちょっとした有名人になってるそうだぞ」
「…ん?兄ちゃんが有名人?」
なんだ? なんか事件でもあったのか?
「あぁ。毎年入学式から2ヶ月後に新入生の実力を測る為の模擬戦大会をやるのが恒例なんだが、どうやら今年はニコールが他の子を圧倒して優勝したらしい。流石俺の息子だよな!」
「おー!それはすげぇ!」
「私の息子でもありますけどね!まぁ元気にしてるなら良かったわ…」
兄ちゃんのニコールは今年の春12歳になってすぐ、ブランデン王国中央部にある王都の騎士学校へ入学した。
なので、寮住まいをする為に家を出ているのだ。
「ニコールに才能があるのは間違いないが、他を圧倒出来たっていうのはスキルのおかげもあるだろうな」
「確かに…。兄ちゃんは才能があるうえに騎士向きのスキルだからね。そりゃ強いよ」
兄ちゃんが祝福で与えられたスキルはこの3つ。
『風魔法』『槍術』『身体強化』
スキルを与えられてから騎士学校入学までの2年間で、既にスキルを使った戦い方をある程度モノにしているようだった。
「ニコールなら将来騎士団幹部になってもおかしくないな……もしかしたら騎士団長にだってなれるかもしれん!」
父さんはこう言ってるが、父さん自身も相当強いようで、騎士団幹部への誘いを何度か受けているらしい。
だが、「余計な事で忙しくなると技を磨く時間が奪われる」という理由で全て断っていた。
ストイック過ぎるだろ父さん……
「リンク、お前も明日の祝福次第では俺達を超える程強くなれるかもしれないぞ?」
「んー…もちろん強くなるつもりではいるよ。 でも、2人より強くなれるかはあんまり自信が無いなぁ……」
父さんは騎士団幹部になれる程の実力者だし、兄ちゃんはほぼ天才という部類に入るような人だ…
2人より強くなれるとは正直自信を持って言えないんだよな……
「確かに運動能力の才能に関してはお前よりニコールの方が上かもしれん。だがリンク、お前の強みは他の子達より賢い事だ。その分工夫した戦い方が出来る。だから与えられるスキルによっては、工夫の仕方で俺なんかよりも強くなれる可能性を秘めてるんだぞ? お前はお前の強みを磨いていけばいい」
「…そうかな? そう言って貰えるとなんか希望が湧いてきたよ。じゃあ父さん達を超えられるように俺も頑張ろうかな!」
「おう頑張れ頑張れ。大事な人を守れるぐらいに強くなれればそれでいいんだがな!」
父さんはそう言うとニコっと笑った。
他の子達より賢く見えるのは俺の頭が大人だからなんだろうけどな……前世の知識もあるし。
でも、俺の事をちゃんと見てくれているってのがまず嬉しい…
本当に今世は良い家族に恵まれた。
「リンクがお父さんやニコールと一緒にこの子の事を守ってくれると、お母さんも嬉しいわ」
母さんは膨らんだお腹をさすりながら微笑んでいる。
「弟でも妹でも守れるように強くならなきゃいけないね。それにしても俺は10個も歳の離れたお兄ちゃんになるのか…」
「お前が家を出るってなったらもう1人出来るかもしらんぞ」
「ちょっとアナタ!何言ってるの…!」
父さんが下卑た笑いを浮かべながらそう言うと、母さんは恥ずかしそうに顔を赤くして怒った。
ふむ、なるほどな…
確か兄ちゃんが騎士学校へ行くって言い出したのが、丁度1年前ぐらいだったか…
まぁ、2人もまだ30歳ぐらいだ。まだまだ現役って事だな。
「リンクも明日は朝から教会へ行くんだから、ご飯食べ終わったらさっさと歯磨きして早めに寝ちゃいなさい!」
母さんが顔を赤くしたまま八つ当たりしてきたので、俺は「わかった!」と返事をして急いで席を立った。
俺は寝る準備を済ませると、兄ちゃんが家を出て俺専用になった子供部屋でベッドへ横になった。
たしか日付が変わるのと同時に祝福を受けるんだったよな。
眠すぎてそれまで起きていられる気が全くしない……
楽しみすぎて絶対寝られないだろうなぁとか思ってたけど、案外すんなり眠れそうで良かった。
明日は朝から父さんと教会へ『プレート』を貰いに行く予定だし、それも楽しみなん……zzZ…zzZ
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