第2話 『世界』
「父さん、リンクが稽古の見学がしたいって言ってるんだけど、いいかな?」
おっ!兄ちゃん……!
母さん譲りの深緑色の髪と優しい顔をした兄ニコールが、夕飯を食べながら約束通り俺の頼みを父さんに聞いてくれているようだ。
「ん? それは別に構わんが、リンクもどうせ来年で6歳になったら剣の稽古を始めるんだぞ? あと1年間待てないのか?」
「兄ちゃんが稽古してるのを見てると羨ましくなっちゃったんだよ! 本も家にあるのはほとんど読んじゃったし、暇になっちゃうからさ!」
俺は父さんの問いに対して、あらかじめ用意しておいた答えを返した。
「暇なら隣の『ファル』と遊べばいいだろう。 もしかして喧嘩でもしてるのか?」
心配そうにそう尋ねてくる父さんに、俺はどう返せばいいか迷う……
ちなみに『ファル』とは、隣人シモンド家の長男『ファル・シモンド』の事だ。 俺とは同じ歳で、いわゆる幼馴染みである。
時々互いの家で遊ぶ事はあるけど、流石に5歳の子と遊んで本気で楽しむ事は出来ないからなぁ……
そうだ。ファルも巻き込もう…
「じゃあファルも一緒に見学したら駄目かな!? ファルも強くなりたいって思ってるかもだし、騎士ごっことかもしたいんだよ!」
「うーん、確かに男の子ならそんなもんかもな……まぁいいだろう。それじゃあ明日からファルと一緒に稽古を見学する事を許可しよう」
「やった!」
「アンジェリーナ、悪いが明日リンクを連れて、今話した事をシモンドさんへ説明しに行ってもらってもいいか?」
「ええ、わかったわ」
「ありがとう父さん!母さん!」
よしよし。これで早いうちから武術を学ぶという目標を叶えられそうだな。
ファルには悪いが稽古仲間になってもらう事にしよう…
将来は親の仕事を継いで商人になるかもしれないが、人生何があるかわからないんだ。強くなるに越した事はないだろう。
……と、自分に都合が良いように考えておく。
父さんがいる時は稽古方法を教えてもらって、いない時は兄ちゃんとファルと俺の3人で教えてもらった通りの稽古する事にしよう。
そもそも、何故俺がこんなに強さを求めているのかというと、様々な本を読んで得たこの世界の知識の中に『魔物』と『冒険者』の存在があったからだ。
『魔物』とは体内に魔石という石を持っている獣の総称で、ほとんどが人や家畜を襲う害獣である。
魔石が無ければ、どれだけ大きくて凶暴であっても『動物』と分類される。
そして、そんな魔物と戦う事を主な生業としているのが『冒険者』という職業だ。
そう、俺はその『冒険者』になりたいと思っている!
10歳で『祝福』された時にどんな『スキル』を与えられようが、早いうちから戦い方の基礎は学んでおいた方がいい。 せっかく学べる環境にいるんだしな。
この世界の人間は10歳の誕生日を迎えると、必ず祝福というものを受ける。
祝福とは、ランダムで1〜3つスキルを自動的に与えられる現象の事で、誰でも最低1つはスキルを与えられる事になっている。
まぁ、前世の記憶がある俺からしたらとんでも謎現象だ。
そして、ここからが大事なのだが、祝福で与えられるスキルの内の1つが必ず『魔法スキル』というものになるらしい。
……魔法!? マジで!?
それは誰でも使えるようになんのかな!?
だとしたらめちゃくちゃワクワクするんだけど!!
俺が初めてこの事を知った時は3日間ハイテンションが続いた……
だが、魔法スキルと言っても千差万別で、世界中で様々な種類が確認されている。
例えば『火魔法』や『水魔法』などの自然を操る事で戦闘に活かせる魔法スキルだったり、『契約魔法』や『識別魔法』などの戦闘では全く使えない魔法スキルがランダムで与えられる事もある。
もちろん俺は戦闘で使えるタイプの魔法スキルを望んでいるわけだが、望んでいる魔法スキルが与えられなくても冒険者になる事を諦める事はない。
何故なら、祝福以外でもスキルを取得する方法が存在しているからだ。
そして、その方法は現在世界中で3種類確認されている。
1つ目は『経験や努力を積み重ねる事』
これは俺が早いうちから剣の稽古を始めようとする理由の1つで、もし祝福でスキルを1つだけしか与えられなかったとしても、稽古を続けると『剣術』というスキルを手に入れる事が出来る。
2つ目は『特殊な経験をする事』
過去の事例で、大怪我から復帰した人に『回復力』というスキルが発現した事が確認されている。ちなみに他にも色々事例はあるらしい。
3つ目は『ダンジョンを攻略する事』
これは腕に自信がある者の間では最もポピュラーな方法だ。
世界各地にあるダンジョンを攻略する事で、攻略報酬としてスキルを1つ与えられるらしい。
ただし、1つのダンジョンを何回攻略しても最初の1回しかスキルを与えられる事はない。
そう、この事から分かる通り……『ダンジョン』が存在しているのだ!!
おいおい、ダンジョンもあんのか!?
前世の子供時代は家に帰りたくなくて、よく図書館に入り浸ってファンタジー作品を読んだもんだ……
魔法もあるしダンジョンもある!
最高だなこの世界は…!!
もちろん、俺はダンジョンの存在を知った時も3日間ずっとハイテンションだった。
閑話休題。
この世界について様々な事を知った俺は、「世界各地のダンジョンを攻略して、英雄譚や冒険譚に出てくるような、偉大で自由な冒険者になる」という夢を持つようになった。
ただ、冒険者を本格的に始められるのは15歳になって成人してからだ。
だから俺は強くなるために成人までの計画を練る事になった。
とりあえず来年で6歳になるまでは、見取り稽古と柔軟運動を重点的にする事にしよう。
6歳になったら剣の稽古を本格的に始める事になるが、学塾(小学校のようなもの)にも通い始める事になる。
昼過ぎまでは学塾に行って、帰ってきてから夕方までは兄ちゃんやファルと一緒に稽古をする。
そういう日々が10歳まで続く事になるだろう。
10歳なったら祝福でスキルが手に入るから、そこからは剣の稽古だけじゃなくてスキルの訓練を始めていかないとな……
そして、13歳になったらまだ冒険者の本登録は出来ないが、仮登録して冒険者『見習い』ってやつにはなれるはず。
成人するまでは見習いをしながら冒険者の仕事を学んでいくって感じになるだろうな。
あー最高だ!
やれる事、やりたい事がたくさんある!!
前世では良い人に出会う事も出来たけど、全体的に暗い人生だったからやりたい事をして人生を謳歌するなんて考えた事も無かった……
でも、今世の人生ならそれが出来る!
前世の糞親父なんて忘れて『リンク・エンゲルス』として、『冒険者』として、この人生を味わい尽くしてやろう……!
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