第13話 小さな叫び

 ベッドに横にならせると、大矢おおや聖矢せいやの髪を梳いた。冷房のせいだけでなく、彼の手は冷たかった。手を握ると、一瞬その手を払おうとするような動きをした。が、大矢の顔を見て、その動きをやめた。


「聖矢。さっきは悪かったな。オレは、自分に対していらいらしてただけなんだ。おまえをいたわる言葉の一つも思いつけなくて、嫌になった。つい、舌打ちなんかした。でも、おまえに対して怒ってるんじゃない。信じてくれ」


 聖矢は、大矢をじっと見ていた。硬かった表情が、少しずつ和らいでくる。


「聖矢。具合が良くないのに悪いけど、先生と話さなきゃならないんだ。おまえは、ここで横になっていればいい。オレが先生と話すから。だけど、おまえが、この先どうしたいのかは聞かせてくれ。

 家に帰るか? それとも、ここにいるか?」


 ここにいると言って欲しい、との気持ちで問いかける。家に帰っても、この子は幸せになれないと、大矢は強くそう思っていた。が、そんなのは、自分の身勝手な考えだ、と、すぐに打ち消した。

 聖矢は、大矢から目をそらすと、


「……です」


 かろうじて終わりの方だけ聞こえたが、何を言ったかわからなかった。大矢は、聖矢の頭を撫でると、


「ごめん。聞こえなかったんだ。もう一度、言ってもらえるか?」


 大矢の言葉に、聖矢は勢いよく体を起こして、大矢に抱きついてきた。そして、涙声で、


「家には帰りません。二度と帰りません。学校もやめたい。行きたくない。大矢さんと一緒に、ここにいたいです」


 一気に言うと、しゃくり上げながら泣き始めた。魂からの叫びだったのだろうか。おそらく彼にとって、ほとんど初めての自己主張だったのではないか。彼の小さな叫びが、大矢の心を締め付けた。と、同時に、再び津島家に対して、許せないという感情が起こった。


「わかった。先生に言うから。おまえはここで休んでいればいいから」


 大矢が体を離すと、聖矢は自分で横になり、タオルケットを頭まで被った。その上からそっと体を撫でてやると、体が小刻みに震えていた。落ち着くまでそばにいてあげたい。そう思いながら、大矢は、津島の待っているリビングへ向かった。

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