第12話 いら立ち
部屋に招き入れると、
案の定、さっきと同じような苦し気な声が聞こえてきた。津島は、真顔のままで何も言わない。
「さっきから、あの調子です。先生と電話で話してからずっと、です。
先生。他人のオレが言うことじゃないですけど、先生は、親の責任を果たしてくれたんですか? 何であの子は、声も出さずに泣くんですか? 話す時も、人の顔色を窺うし、自分の意見を言ったらいけないと思ってるみたいです。
あの子は、普通に生きてきたんですか? 引き取ったのに、責任を取ってくれなかったんですか? それは、どういうことですか?」
大矢の言葉に津島は、「そうですね」と言った。その時、聖矢が出てきた音が聞こえた。大矢は津島に、「失礼」と声を掛けてから、洗面所に向かった。
「聖矢。大丈夫か?」
大丈夫ではないと知りながら、他に言うべき言葉が見つからない。そんな自分にいら立ち、大矢はつい舌打ちしてしまった。すると、聖矢はびくっとして、体を固めてしまった。大矢は、あわてて、
「ごめん。違うんだ。オレは、自分が嫌になっただけなんだ。おまえにいら立ってる訳じゃない。そんな顔しなくて大丈夫だから」
自分のうかつな行動に、腹が立った。大矢が手を伸ばしても、聖矢は手を出してくれない。大矢が一歩近づくと、一歩下がった。顔には、出会った時と同じような、恐怖の色が見て取れた。
「聖矢。ごめん。オレが悪かった」
言って、大矢は聖矢の腕を無理矢理に引いて、強く抱き締めた。彼は、「離して」と、小さな声で言ったが、離さなかった。その内に、聖矢の力が抜けて来て、頭を大矢の肩にもたせ掛けてきた。
「大矢さん。ごめんなさい」
泣きそうな声であやまってきた。大矢は首を振って、「おまえは何も悪くない」と囁くように言った。
「聖矢。とりあえず、寝室に行こう。おまえは、ちょっと体を休めた方がいいと思う」
聖矢の頭を軽く撫で体を離すと、大矢は聖矢の手を、しっかりと握った。
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