第4話 輝夜

 大学の入学式を終えた後、オリエンテーションが行われた。講堂に集まり、様々な説明を受けることになっていた。学科ごとに場所は決まっていたが、席までは決まっていなかったので、大矢おおやは空いている席に適当に座った。


 隣に座っていたのは、美人というよりは、可愛い感じの女性だった。


「席に着いたら、学生証を机に置いてください」


 係りの先生が、学生に声を掛ける。言われて大矢も指示に従った。隣の彼女も、同じように学生証を置いたので、そっと盗み見る。


 星野輝夜。


 大矢は、この名前は、一体何と読むのだろう、と考えた。が、さっぱり思いつかなかった。

 彼女は、自分の学生証を見ているらしい大矢の存在に気が付いた。


「これ、個人情報です。そんなに見ないでよ」

「あ。悪い。その……名前、何て読むのかなって思って」


 彼女はふっと笑って、


「知りたい? 私はね、『ほしのかぐや』って言うの。あなたは?」

大矢おおや湘太郎しょうたろう。同じ国文学科だな。よろしく」

「あら、本当だ。よろしくね、湘太郎」


 何故、いきなり名前の呼び捨てなのかはわからなかったが、その日から輝夜は大矢のことをそう呼んだ。


 大矢は、彼女と行動をともにすることも多く、誰とでも気兼ねなく接する彼女に好感を持っていた。それだけではなく、ちょっとした仕草に可愛さを感じるようになり、そんな彼女の様子を見るたびに胸が高鳴った。が、彼女の方では、大矢を特別に思ってくれている様子は、全くなかった。


 輝夜は、大矢のことより、講師としてこの学校に来ている、津島つしま先生が大好きだった。先生の講義は集中して聞いていたし、その時の輝夜は、目を輝かせていた。しかし、それは恋愛感情ではなく、本当にその講義に対して真剣だっただけのように、大矢には見えていた。あるいは、そうであってほしい、という気持ちが、大矢にそういう風に見せていたのかもしれない。


 輝夜は講義が終わると必ず、すぐに先生の許へ行き、何か質問をしていた。大矢は、彼女が質問し終わるのを、少し離れた所で待っている、というのが、いつものパターンだった。


(少しはオレにも、何か質問したらいいのに)


 そんなことすら考えてしまうほど、彼女はいつも熱心だった。

 

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