第3話 沈黙

 大矢おおやは、聖矢せいやに微笑み掛けると、「こっちだよ」と声を掛けて、その方向を指差した。聖矢は頷き、大矢の斜め後ろに立った。大矢が歩き出すと、それに従って歩き出した。それを確認して、大矢は安堵の息をついた。


「ここを抜けて、ほら、あのマンション。あそこに住んでるんだ」


 聞いてくれているかどうかわからなかったが、大矢は説明した。


「最上階だから、一応眺めはいいよ。それに、わりと静かだ」


 マンションのエレベーターに乗った。俯いたままなので、聖矢の表情を見ることは出来ない。

 エレベーターが最上階に着くと、聖矢を促し廊下の奥まで歩いて行った。大矢は聖矢の方を向き、


「ここがオレの部屋だ」


 大矢は、鍵を開け、ドアを開いた。先に入って、聖矢を中へいざなった。


「さ、入っておいで。今、冷房入れるから」


 彼を中に入れると、鍵をかけた。すぐに中に入って、冷房を入れたが、一日中締め切っていたから、なかなか適温にならない。


「少し休むか? それとも、シャワー使うか? 着替えは持ってきてるよな。家出なんだから」


 決めつけて言ってしまった。彼は、大矢を見てきたが、特に何も言わなかった。


(何も言わなさ過ぎじゃねえかな、この子)


 おとなしいのはいいが、逆に心配になるレベルの静かさだ、と大矢は思った。


「ま、とりあえずさ、シャワーどうだ? さっぱりしておいで」


 言って、バスルームに案内した。使い方の説明をしてから、その場を去った。リビングに戻った大矢は、昔友人だった、少年そっくりの女性に思いを馳せていた。


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