不憫
「どういう事じゃ……言っておった事と全然違うではないか!」
突如、ニーナ姫が叫ぶ。相手は俺ではなく、ルーカスだった。
ルーカスを睨んでいた事から、事前に2人でやりとりをしているものだとは思っていたが、ルーカスの事だ。自分に都合の良いように話していたのだろう。例えば、俺が婚約者と別れたがっている……とか。
そもそもの話しだが――
「何故ニーナ姫はルーカスと共に? 連れの者はどうしたんだ」
「…………国に帰ったのじゃ」
「……なぜ?」
「……此奴に騙されたからじゃ!」
ニーナ姫の話によると、彼女も最初は使節団の一員としてこの国に来る手筈だったらしい。だが、その途中でルーカスと遭遇してしまった。
最初は王子だと名乗られても信じなかったが、付き人の態度から本当の事だと信じた。ルーカスから話された内容はどれも現実味が無いものだったが、もし本当だとしたら? もしかすると本当なのかもしれない。そうだとするなら自分にもチャンスが訪れるかもしれない。
そう縋る気持ちで了承し、単身でルーカスに着いて来た。
「――なるほど……だが、軽率すぎないか?」
「……多くの者を連れて行くと誤解されるかもしれないと言われたのじゃ。それに、『俺に着いて来れば、護衛もしてやれるし、確実に王に合わせてやる』と言われたら着いて行くしかないじゃろう。妾達が大勢で行くよりも、王子の口聞きがある方が有利になると思ったのじゃ」
確かに言っている事は間違いではない。間違いではないのだが、話していたのがルーカスとなるとどうも不安しか残らない。
「どうせ、『俺がこの国の未来の王なのだ。ここで会ったのも何かの縁。少しくらいなら融通してやる』とかなんとか言っていたんだろう」
「いや、『俺が未来の王だ!』としか言われなかったぞ? ただ、『婚約者がいない兄上がいる。お前の望みも叶うだろう』とは言われたのじゃ。それを信じたばかりに……」
「…………」
ニーナ姫が不憫に思えて仕方がない。俺だってルーカスが言いそうなバカみたいな事を言ったんだ。けど、なんだアレは。嘘しか言っていないじゃないか。もう少し賢くなっていると思っていたんだが……
「アイン様はルーカス…様を過大評価しすぎです。あの自己中心的な方が『融通』なんて言葉を他人に使うわけないじゃないですか」
あいからわず、ルーカスに対してアイリスの評価は低い。いや、俺が高すぎるのか?
「それと、3回目……ですね。アイン様」
「いや、アレはルーカスの真似をしただけで、お……私の発言では……」
「? 何か違いますか?」
「……いいえ、何も違わないです」
まずい、このままでは罰のカウントが増え続けてしまう。なんでもいいから2人には早く帰ってもらいたい。
……もしかして、ルーカスはマリーからお金を受け取っているのではないだろうか。いや、今はそんなことよりもこの状況だ。
根本的なものを解決しないと、終わりそうにない。となると、崩すならニーナ姫の方だろう。
「さて、戦いを持ちかけておいて、わざわざこんな回りくどいやり方で和平を結ぼうとした理由はなんだろうか?」
結局はこれだ。これがわからない限り、この話し合いが終わる事はない。
「妾が来た理由。それは……」
ここに来て、ようやく話しが進み始めた。
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