ずるい
己が美しさを語り続けるお姫様、ニーナを眺めるが、彼女に対して何か特別な感情が生まれる訳もなく……確かに綺麗と言われれば綺麗だな。そんな感想しか出てこない。
「――どうじゃ? 妾の美しさが伝わったか?」
「……いや、別に」
「なぜじゃ!?」
俺は無言でただアイリスに手を差し出す。アイリスは俺の意図に気付いたのか、その手をとり……
何故か自分の頬に当て始めた。
「もう、アイン様ってば、こんな大勢の前で……大胆なんですから」
誰がどう見ても大胆なのは俺ではなくアイリスの方だと言うだろう。いや、言ってくれないと困る。
それにしても、最近のアイリスは心なしかマリーに似て……いや、悪影響を受けている気がする。
「「な、なっ……!」」
――ほんと、仲が良いなー
もう収拾がつかないと悟った俺は、現実逃避をするように、ただ呆然と2人の反応を見て思う。
「「良くない(のじゃ)!!」」
どうやらまたやってしまったらしい。本日3回目だ。気をつけないと、この場には母上がいる。見逃すような優しさはない。気を引き締めなければ。
「そんなことよりもアイリス! どう言うつもりだ! お前には俺というものが――」
「わ、妾の方が其方よりも、う、美しいじゃろ? なっ、なっ? だからその手を――」
はぁ……。俺はただアイリスに横に立ってもらい、将来は彼女と共に歩む事を決めているから諦めてほしいと言うつもりだったのに……なんでこんな阿鼻叫喚みたいな空間になったのだろうか……。
……わかっている。すべての元凶はマリーだ。それ以外にない。
遠くの方で「なんで!?」と聞こえた気がするが、まぁ、気のせいだろう。
目を瞑ると、なぜかマリーが目の前に現れた。「酷いです殿下! 名誉毀損ですよ!」……自業自得だ。諦めるんだな。「はっは〜ん、さては殿下、アイリスお嬢様の可愛さにやられて、誤魔化すために私を呼んだんですね。なんだかんだ言って、私の事も大好きなんですから。ああ! 消さないでくださ――」
脳内のマリーが消え去った。俺は一体何をしているんだ……。
目を開け、現実に目を向ける。未だに騒がしい2人と、一向に俺の手を離そうとしないアイリス。さて、どうするべきか……別にいいか、このままで。
「ルーカス、アイリスの横に立つのは俺だ。これからもずっと……だから、もう諦めろ。そしてニーナ姫、貴女もだ。俺はアイリスと別れるつもりはない」
時間が掛かったが、俺は元々言うつもりだった言葉を2人に告げた。
2人は静かになった。1人は俺を睨むように、もう1人は意外な事にルーカスを睨んでいた。
それよりも目に見えてわかるぐらいアイリスの機嫌が良くなった事に少しホッとする。
未だに手を離してくれないが……
「ふふっ、アイン様〜」
「機嫌が治ったみたいでよかった」
「そんなに機嫌が悪そうでしたか?」
「少し……な」
「それはご心配をおかけしました。ですが、もう大丈夫です。だって――」
「ん?」
「だって、2回……ですから」
アイリスが耳元で囁く。
2回……そう言われて先の発言を思い出す。
――アイリスの横に立つのは俺だ
――俺はアイリスと別れるつもりはない
……確かに言ったが、今回は違うのではないか?
そんな俺の考えを読み取れない彼女ではない。アイリスはすかさず俺の退路を防ぎに来た。
「アイン様は私に嘘をつくのですか?」
「…………」
「つくのですか?」
「……つかないです」
「ならよかったです♪」
やはりアイリスはずるくて可愛い。改めてそう思った。
……罰の件をアイリスが忘れていますように。そんな風に願う事しか出来ない事を悔やみながらも、切実に願いながら、それでもやはり可愛い。そう思った。
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