プライド
ニーナ姫がここに来たのは本当に和平を望んでの事だった。争いを始めたのも自分たちだとわかっている。それでも婚約もいう形でいざこざを終わらせたいらしい。
「都合の良い事を話しているのはわかっているのじゃ。それでももう……我が国にはそうするしかないのじゃ」
食糧の不足……北の国はこの問題に悩まされ続けて来た。それが近年になり、より顕著になって来たという情報は得ている。
だからこそ今までの対応をして来たのだが……
「……今まで通りではいかない。そういう事か」
「むしろ、お主たちがどうしてそこまで冷静なのかわからんのじゃ」
さっきまでの騒がしさ……そういうものが一切感じられなくなった彼女は、今にも消え去りそうな感じがする。
「……妾たちを殲滅出来るというのならどうしてすぐにそうせんのじゃ」
「…………」
「情けない話しなのはわかっておる。じゃが、そうしてくれた方が苦しまなかったかもしれぬ。民も……今以上に幸せになっていたかもしれぬ。軍も……今の盗賊まがいのような真似を……せずに……済んだかもしれないのじゃ……」
ポロポロと泣き出したニーナ姫にかける言葉が見つからない。こう言った時にはなんと声をかければ良いのだろうか……
「……お前、盗賊まがいの事をしていたのか。最低だな」
……そうだった、この場にはまだ居たんだった。空気の読めない男が……
「……ジーク」
「はっ!!」
母上の掛け声に即座に答えるジーク。返事よりも先にルーカスを絞めにかかっていたのは気のせいだろうか。
静寂だった空間が瞬く間に喧騒に変わる。ルーカスの悲鳴のみで……
まぁ、ニーナ姫の涙を止める事が出来て良かったと考える事にしよう。うん。そうしよう。
唐突に始まったルーカスとジークの取っ組み合い――実際はジークからの一方的な攻撃だが――に驚いた顔をする彼女。
まぁ、驚くだろうな普通……俺もルーカスのバカさ加減に驚いている。
「盗賊まがいと言うが、別の国にもやっているのか?」
「……こんな事を言うのはアレじゃが、この国だけじゃ」
俺とアイリスは見つめ合い、同時に首を傾げる。
「「それに何の問題が?」」
声が揃った。彼女がどうして苦しそうにしているのかがわからない。
「問題に決まっているじゃろ! お主たちの食糧を奪っているのじゃぞ!」
彼女と食い違う理由がわかった。俺たちと彼女で持っている情報が違うのだ。それも決定的に。
「……ニーナ姫は我が国の軍に不意打ちをして食糧などを奪っていると?」
「それしか考えられないじゃろう! 力の差は歴然じゃ。毎回こちらから争いを仕掛けては返り討ち。なのに何故食糧だけは奪って帰って来れるのじゃ! おかしいじゃろ!」
全体像を知っていれば何も違和感はなかったが……。こうして聞くとおかしい事だらけだな。
「いい策だと思っていたのですが、詰めが甘かったみたいです。申し訳ありません」
「アイリスの考えてくれた策は母上も賛同したものだし、お……私もいいと思っている。この件でアイリスが謝る必要はない」
問題は情報公開を実行部隊だけにした事だろう。そのせいで彼女にまで耳が入らなかった。正義感の強い彼女はこの事に疑問を持ち、彼女の父……王に問い詰めた事だろう。
「父上にも聞いたが何も答えてはくれなかったのじゃ」
それはそうだろう。愛娘である彼女に事実を伝えるのはプライドが許さなかったのだと想像するのは容易い。
なにせ、アイリスがこんな策を考えなければいけなかったのも、すべては彼のプライドのせいなのだから……。
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