露見
マリーの手帳――いやもう悪魔の書と呼んでもいいだろう――を前にし、昨日の事を振り返る。これの内容にいちいち驚いていては駄目だ。少しでも期待するのも、だ。
これはアイツの弱みと裏での悪行の数々を把握する物とだけ考えろ。
そう自分に言い聞かせてから手帳を開けるも、出てくる言葉は『可愛い』などがほとんどだった。もう収穫はないのかと少しガッカリしていたが、昨日の内容が濃すぎたのだ。
ページが中盤に差し掛かる頃、これまでとまた違った始まり方をした文章になった。
『先程、大物に呼び出された。殿下をビジネスにして稼いだ事がバレたのだろうか……』
大物……父上か母上か? マリーを呼び出すのは、なんとなく母上の気がする。
『なんとかして誤魔化せないか考えているうちに指定された部屋へと着いてしまった。ここから先は私が生きていたら書こうと思う』
『結論、私の首は繋がったままです。ですが、ビジネスの事はやはりバレていました。私もそこまで隠していませんでしたし、当然ですね』
このページはこれだけで終わってしまう。もう少し詳しい内容を知りたい。そうすればマリーを動揺させる事が出来るかもしれないのだ。
高揚感に包まれる。ようやく知りたい事が知れるかもしれない。その事実が今日の意気込みを頭から消し去った。
『大物の用件はビジネスの話でした』
その一言だけでわかる。もう駄目なのだと。
「は、ははうえ〜」
自分でも思ってしまうほどに情けない声が出る。仕方ないだろう。唯一悪魔を止められる人材が悪魔に加担したのだ。それは嘆きたくもなるだろう。
『成功報酬で報酬は私の給料1ヶ月分。正直とても破格な内容だった。なにせ私は殿下の専属という事もあり、給料の良い王城勤めの侍女よりもさらに良い待遇になっている。一度でその額とは、さすが大物……財布も別格という事ですか』
大物という言い方をやめろよ。 それで隠しているつもりか? それなら殿下の専属もやめておけよ。特定できるだろうが。
ルーカスに専属はいないから関係者が見ればすぐに俺だとわかる。そして専属はマリー1人だ。そんなマリーを首にできる人物? そんなもの2人しかいないだろう。
何がしたいのか分からず、思わずため息をつく。
「人の日記を見てなにをため息吐いているんですか?」
「なにって、お前の書いたコレに呆れただけ……だろ……」
「へぇ〜、私のものとわかっていたのに、返さずに読んでいたんですか? そんなに私の私生活が気になったんですかぁ?」
くそっ、ここぞとばかりに煽って来る……こいつの場合、それはいつもか? そんなことより言い返さなければ一方的に何か言われ続けるだけだ。
「……なにが私の私生活だ。そんなものここに書いていないだろう」
「そんな事をありませんよ。ほら、今殿下の読んでいるとページのちょっと前に書いているんです」
「ふんっ、馬鹿め。そんな手に引っかかるものか。書いていないのは把握済みだ!」
「へぇ〜、把握済み……ですか。殿下はそこまでじっくり読み込んだ、そういう事ですね」
「……! い、いや……」
「へぇ〜、ふぅーん、なるほどなるほど。殿下は落とし主が私とわかった上で読み込んでいたと。そう言えば、昨日の態度もどこかおかしかったですね。もしかして昨日から読んでいたんですか?」
なにも言わなければこうはならなかった……そんな後悔をするが、もうどうにもできはしない。
水を得た魚のように煽り続けるマリーに、俺はなにも言い返せないまま、ただ時が過ぎるのを待つ。
――今日も明日もこんな毎日が続くのであれば俺がクビにしてやろうか。
母上がマリーを重宝している間は到底無理な話しだとわかっている。その上で俺ができるのは心の中だけで愚痴るだけだった。
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