これから
恨めしそうに俺を見ているルーカスを見下ろし、これからの事を考える。解決策が思いつかないのだ。主にこれからより突っかかってくるであろうルーカスの対処法が。
「そうですね、北はどうでしょうか?」
「「はっ?」」
ルーカスと声が被る。アイリスの言う『北』という言葉に思い当たるものが一つもない。ジークは何かわかったのか苦笑いをしているが、俺にはサッパリだ。
「私と結婚すれば国務は私に任せていただけるんでしたよね。それなら北に行ってきてください」
「はっ? なんで俺がそんな所に……」
「戦力になるんでしょう? なら北で国交問題を武力解決してきてください」
北の国とは現状睨み合ったままの状態だ。そこに王子がノコノコと現れたら狙われるのは間違いない。ルーカスもそのことは理解しているのか、それとも北に行くのが嫌なだけか、ルーカスは拒絶した。
「ふざけるな! どうして俺がそんな所に行かなければならない!」
「北はお嫌でしたか。それなら南はどうでしょう。最近は海賊が出没しているようですし、大歓迎ですよ?」
叫ぶルーカスを無視してアイリスは淡々と北が駄目ならと今度は南に行かせようとしている。それも当たり前のように危険地帯に行かせようとしているのだから、周りが少し青ざめていた。
「な……な……なんなんだお前! お前のような奴が王妃に向いていると思っているのか!」
さすが、散々アイリスを王妃にして自分は自由に暮らそうとしていた奴だ。言うことが違う。
それに向いているか向いていないかで言うなら、むしろアイリスは適任だろう。国務は感情論ではできない。国の、民にとっての最善を考える。それができなければならないからだ。
「アイリスほど適任は居ないだろう」
ボソリと思わず呟けば、「本気で言っているのか?」と言いたげな視線と、少し恥ずかしそうな微笑みが向けられた。
「お前! 本気か!?」
「本気? それはアイリスを王「ジーク、それを黙らせておきなさい」……母上」
ルーカスの物言いにイラッとした所で母上の命令を受けたジークが強制的に黙らせる。
「さて、あれの処遇はお父様の意見も一応聞きますが、私が決めます。いいですね、アイン?」
後ろでルーカスの「痛い」という叫び声や悲鳴が聞こえてくる中、何もなかったように告げる母上。さらには父上の意見を聞くだけと言い切ったことに、どう言えばいいのか困る。
けれど、俺にどうこうすることもできないので素直に頷く事にした。チラリとアイリスを見ると、アイリスも頷いていたので問題ないだろう。
「アイリスちゃんも迷惑をかけてごめんなさいね」
この場はこれで丸く収まった。そう思っていたのだが、まだ終わりではなかった。
「それでね、あーちゃん」
冷や汗がダラダラと流れ出てくる。無意識に背筋がピンとなり、次につげれられる言葉を大人しく待つことしか出来ない。
母上が俺のことを『あーちゃん』と呼ぶときは2択である。一つ目は女装した俺を可愛がるとき。そしてもう一つは……
「『俺』なんて悪い言葉、どこで覚えてきたのかしら」
可愛がる方面で俺を叱りつける時だ。だが、母上の前では気をつけていたはずだ。
普段使っているのもバレてはいるが、目を瞑ってもらっていた。ならどうして今ここで……
思い悩んでいると、視界にマリーが映り込む。指を自分に挿しながらなにか訴えかけているようだった。
『わ た し と の か い わ で す』
『私との会話です』マリーとの会話のやり取りは、確かアイリスがなぜか俺の訓練の服装を知っていて、それでマリーを問い詰めようとして……
――アイリスに言ったのはお前だろう!
――ふふっ、殿下はどうしても私を悪者にしたいみたいですね。ですがっ! この件については私は何もしていませんよ
――嘘だっ! お前以外に誰が俺のことを
確かに俺は母上の前で言った。言っていた。ふと顔を上げ、マリーを見る。あいつは見事なドヤ顔とピースサインを俺に見せつけた。
「思い出したようね」
「ですが、母上!」
「言い訳は聞きません。普段は私の前では頑張っているようなので見逃していましたが、今日は見逃すことはできません。1週間です」
「…………」
母上の言う1週間とは俺の女装期間のことだ。国務中であろうと母上が決めた期間は必ずドレスを着ないといけない。
拒否することは出来ないので、沈黙で最低限の抵抗を試みるが――
「なるほど、2週間がいいの「1週間! 私が! ドレスを着たいです!」……よろしい。なら1週間は私が用意した服を着るように」
「……はい」
俺の抵抗など関係ない。遠慮なく期間を伸ばそうとしてくる母上には敵うことなどできはしない。俺には大人しく言う事を聞くことしか出来なかった。
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