1週間

 後日、ルーカスが北に行くことが決まったと伝えられた。流石に最北端ではないが、それでも厳しい環境だと聞いている。

 今回1番被害を受けたのは何と言っても俺を呼びに来た彼だろう。ルーカスを連行、監視する人物を探していた際に早々に彼の名前が挙げられたらしい。よく押し付けられる体質のようだ。


 そんな話を聞いている俺は部屋から出れないでいる。出ないのではない。出れないのだ。

 なぜなら、母上の罰として1週間だけそれはもう着せ替え人形以上に多くの服を着せられ、化粧もされた。

 抵抗などできるはずがない。母上とアイリス、俺の後ろにはマリーがいるのだ。逃げることも引き篭もる事もできず、早く過ぎろと願いながら過ごしていた。

 

 だがここで、一つだけ障害が生じてしまった。1週間だけ現れた神秘の御令嬢として、紳士淑女の間で噂になったのだ。さらには憶測を呼び、王城にいたことから王の隠し子、もしくは俺の愛人なのではと囁かれるようになった、らしい。


 らしいというのは、先程も言ったが俺が基本的に部屋から出なくなったからだ。こういった話はいつもマリーが持ち帰ってくる。

 たまには出ろと小言を言われるが、観察力がいい奴なら俺と気づくかもしれない。そうならないためにも、俺は容易く出歩くわけには行かないのだ。王の隠し子? 本当の子供なのだから問題ないだろう。父上にはそのまま俺の身代わりになっていてもらいたいものだ。


「殿下、そろそろ部屋から出ませんか?」

「出ない! まだ噂が消えていないだろう!」

「そうですか、それなら王妃様に呼んできてほしいと頼まれたのですが、殿下がそう言うなら仕方ありません。その様に伝えさせていただきますね」

「待て、なんでお前はいつもいつも重要な事を後出しで出すんだ」


 母上が呼んでいるのに行かないとなれば、後でどんな事をされるか……考えるだけで悪寒が……うん、考えるのをやめよう。そんな事をしている前に早く行かなくては。


「母上は服装の事について何か言っていたか?」

「服装ですか…………あっ! 言ってました。いつもの服装でいいそうです」

「いつもの……だな、わかった」


 そうして母上が待つ部屋に入ってすぐに俺は絶望した。なぜなら開口一番、母上はこう言ったのだ。「あら、今日は可愛い服装で来たのね。似合っているわ、あーちゃん」と。

 母上は俺がこれで来る事を予期していなかったのだ。つまり……


「マリー! どういう事だ!」

「私は王妃様から今日は女装でなくていいと言われたので、殿下にいつもの服装でいいとお伝えしたのです。そしたらドレスを着だすものですから、途中で止めたら悪いかな〜と思いまして」

「絶対に嘘だ! 俺を見て楽しんでいただけだろう!」

「はい。それとまた言いましたね殿下」

「また? なにを言って………………あっ」


 ゆっくりと母上を見る。母上はニッコリ笑って


「また1週間、楽しみね」


 絶望の淵へと突き落とされた。

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