母なる地球の大きな空

@amihs

第1話

序章

 幼い頃といえばひたすらに遊び回って、疲れて寝ることを繰り返して、周りを見ることなどしていなかった。小さい子供など皆そのように自分しか見えていないものであると思うが。しかし、人は変わるもので、自分で物事を考え出すようになると、ふと上を向いていることが多くなっていた。そんな私はその時々の想いと共に、空の変わりゆく姿、長い歴史を思わせる偉大な姿に魅せられた。時に静かに、時に荒々しく変貌するその様子は私の心を激しく揺さぶった。同じように空に魅せられた人はいるだろうか。もしいなくても、文字にしてその記憶を体の外に残しておきたいと思う。


 小学生の時だった、当時所属していたマーチングバンドの練習に参加していた土曜日の朝。休日の朝というのは静かなもので、人の気配が感じられない中での練習に少し嫌気も差していた。グラウンドでの練習で、自分以外の人が指導されている間も楽器を置くことができない。私が担当していたのは低音楽器で大きく、重い。それのせいで小学校を卒業してからは、音楽から逃げている気がする。重みを感じたままじっとしているのも辛い。首を回してポキポキ鳴らす。片足に体重を乗せてもう一方の足を休める。そして、上を、向く。最後に辿り着いたのはそこだった。何の巡り合わせかその日は雲ひとつない快晴で、自分の真上には濃い濃い青色の空が広がっている。否、濃いというよりも深い海のような色だった。今にも吸い込まれてしまうような。その時、突き抜けるようなトランペットの音が響く。その音は空に染み渡っていき、しかしやはり、深い海の底(のような空)に吸い込まれていく。その空はどこまで続くのだろうか。あるいは、どこまでも続いているのか。そうして私は、その空に宇宙を見た。全ての源にして、我々が知る最大の未知、そんなロマンを地上から見上げていた。私の心はトランペットの音とともに吸い込まれ、見上げたまま動けなくなった。私が見た最初の美しい神秘。そんな空を思って聴く歌がある。


誰かを憎んでたことも

何かに怯えたことも

全部霞んじゃうくらいの

静かな夜に浮かんでいたい

(スピッツ「流れ星」より)


あの日地上から見た宇宙が、とても静かで、トランペットの音も、すべてを、包み込むような空だったのは、あの時私が立っていたのが、静かな休日の朝だったからかもしれない。あの日は、空に向かって楽器を吹いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母なる地球の大きな空 @amihs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ