約束
クレアとメロディが小さい頃、森で迷子になった。辺りはだんだん暗くなり、怖がりのメロディは泣き出してしまった。
クレアはあまり心配はしていなかった。もし日暮れまでに帰り道がわからなければ、むやみに歩きまわるのは危険だ。今夜はここで夜明かしをした方が良さそうだ。
もし獣に襲われそうになっても、クレアは水攻撃魔法で撃退する自信があった。もし空腹になっても、メロディの植物魔法で果物を作ってもらえばいいのだ。
クレアがメロディに心配ないといくら言っても、彼女の泣き声はひどくなるばかりだった。クレアはため息をついてから、メロディの涙に濡れた手をつないだ。
メロディは驚いた顔をしたが、涙をポロポロ流しながら微笑んだ。クレアはホッと息を吐いて言った。
「やっと泣き止んだ。ずっと手つないでいてあげるから、もう泣かないの」
「本当?」
「?」
「本当にずっと手をつないでいてくれる?おばあちゃんになっても?!」
そこでクレアは吹き出してしまった。クレアはメロディに、迷子の間中手をつないでいると言ったのだが、メロディはクレアがずっと側にいてくれると理解したようだ。クレアは苦笑しながらうなずくと、メロディは花が咲いたような笑顔になった。
結局クレアとメロディは真っ暗な森で野宿をする事はなかった。クレアとメロディの父親がクレアたちを探しに来てくれたのだ。
クレアはゆっくりと意識を過去の思い出から戻した。クレアの見上げる先には、メロディが必死に笑顔を作りながらクレアの右手を握りしめていた。
思い出した。クレアはメロディと約束したのだ。ずっと一緒にいると。だがその約束がゆらぎはじめていた。クレアは死ぬつもりなんてなかった。最後の最後まで生き残る道を探す。だがもしメロディの言うように、この谷底がとても深くて落下速度がつけば、いくらクレアが水魔法を発動させても無事ではすまないだろう。
メロディはクレアを安心させるため、笑顔で言った。
「クレアちゃん、ゆっくり左手をあげて?あたしの手をしっかり掴んで?」
クレアは心の中で叫んだ。メロディ、ごめんなさい。もしかしたら約束を破ってしまうかもしれない。クレアはかんまんな動きで左手をあげた。メロディがニコリと微笑む。この左手はメロディの手を掴むためのものではない。メロディが必死に掴んでいるクレアの手を振りほどくためのものだ。
クレアの目に涙が浮かんだ。クレアは自分が傷つくより、メロディに助かってほしいのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます