　背後でものすごい火魔法が水防御魔法に当たった。クレアの張った水防御魔法もすぐに破られてしまうだろう。

　クレアたちは森の中をひたすら逃げた。メロディはゼェゼェ言いながら走っている。クレアたちの背後から男たちのどうま声が聞こえる。ドラゴンハンターたちが追ってきているのだ。

　クレアたちは森の切れ目に差しかかった。森を抜けて、クレアはアッと叫んだ。森を抜けた先は深い谷になっていたのだ。向こうの平地までは五メートルもあるだろうか。クレアはメロディの手を引っ張りながら谷の横を走り続けた。

　そしてある場所で立ち止まると、ゼェゼェと激しく呼吸しているメロディに叫んで言った。

「メロディ！谷の向こう側からツタ魔法を伸ばして向こう側に行こう！」

　メロディは深い谷底を見てゴクリとツバを飲み込んだ。クレアたちのいる側と谷をはさんだ平地はちょうど三メートルくらいの距離なのだ。メロディがツタ魔法を発動させられるギリギリの範囲だ。メロディはキッと目を細めてからうなずいて、両手を前に向けた。

　メロディの両手が光る。向こうの平地からツタ植物がゆっくりと伸びてくる。メロディはクレアに手を伸ばし、一緒に渡ろうとした。だがクレアは首を振って言った。

「向こうの地盤がもろいかもしれないから一人づつがいいわ。まずはメロディから行って？」

　メロディはうなずいてから自身にツタ魔法をからめて、向こう側にゆっくりと渡っていった。クレアはいつでも水魔法を発動できるように構えた。もしメロディを支えているツタ植物が倒れるような事があれば、クレアの水魔法の水圧でメロディを向こう側に渡すつもりだった。

　メロディは無事に三メートルの谷底を渡りきる事ができた。クレアはフゥッと安どのため息をついた。クレアはウェントゥスに向きなおって言った。

「ウェン、貴方も向こう側に行って？」

　ウェントゥスは心配そうにクレアを見てから、パタパタと翼をはためかせてメロディの所まで飛んでいった。メロディは、次にクレアを運ぶためにツタ植物を伸ばしてくれていた。

　ゆっくりとクレアの身体にツタがからみつく。クレアの身体が持ち上がり、真っ暗な谷底の上を移動していく。谷間から風が吹き上がり、クレアは息を飲んだ。平地では不安そうなメロディが手を伸ばしてクレアを受け止めようとしている。

　後もう少しでメロディの手に、クレアの手が届きそうだった。その時、クレアの身体が落下し始めた。メロディの作ったツタ植物が生えていた場所がもろかったのだ。

　落ちる。クレアがそう思った途端、右手をメロディにギュッと握られた。メロディは腹ばいになりながら両手でクレアの右手を掴んでいた。クレアの横をツタ植物が落下していく。

　何とか落下は免れたが、メロディにはクレアを引っ張りあげるだけの力はない。クレアの重さに、メロディはズルズルと引きずられて行く。このままでは二人とも谷底に落っこちてしまう。ウェントゥスがクレアのえりくびに噛みついて持ち上げようとするが、小さなドラゴンのウェントゥスでは持ち上げられなかった。クレアはメロディに叫んだ。

「メロディ！手を離して！このままじゃ二人とも落ちちゃう！私なら平気！水魔法を谷底に作ってクッションにするから！」

「ダメ！この谷がどのくらい深いかわからないじゃん！」

　クレアがメロディの顔を見上げてると、メロディは泣き出しそうな顔をしながら笑って言った。

「クレアちゃん、約束してくれたよね？絶対手を離さないって」

　メロディの言葉にクレアはハッとした。