ファイヤードラゴン
クレアの合図に、メロディは両手をファイヤードラゴンに向けて突き出した。メロディの両手が光る。ファイヤードラゴンの足元から勢い良く植物ツタ魔法が伸び出す。
植物ツタ魔法は、いくえにも絡みあってファイヤードラゴンの脚に巻きついた。クレアは最大限の水魔法を発動した。巨大な水のかたまりが出現し、ファイヤードラゴンをすっぽりと包み込んだ。クレアはメロディの手を掴むと、全速力で走り出した。
きっとクレアたちの魔法は少しの足止めにしかならないだろう。ファイヤードラゴンが動けないうちに、少しでも遠くに逃げなければ。
クレアの背後からドーンという爆音がした。クレアがまさかと思って振り向くと、そこには自身に火魔法をまとって、クレアの最大の水魔法も、メロディの植物ツタ魔法も焼き払ったファイヤードラゴンがいた。
だめだ。このままでは焼き殺されてしまう。クレアは残りの魔力を振り絞り、水防御魔法を張った。そして後ろのメロディに叫んだ。
「メロディ!走って!」
「嫌だ!クレアちゃんと一緒じゃなきゃ!」
メロディの泣き叫ぶ声に、クレアはイラッとした。こうなってしまっては二人が助かる道はない。せめてメロディだけでも助かって欲しいのに、何でわかってくれないのだ。
ファイヤードラゴンが大きく息を吸うのがわかった。おそらくクレアの張った水防御魔法はすぐに破られるだろう。クレアはきつく目をつむった。
ピィー!
その時鋭い鳴き声が辺りに響き渡った。声の主は、小さなドラゴンだ。小ドラゴンはトテトテと歩いてファイヤードラゴンの前に歩み出ると、しきりにピィーピィー鳴き出した。まるで会話をしているようだ。
すると、巨大なファイヤードラゴンに変化が起きた。巨体がみるみるちぢまり、美しい赤髪の女性になったのだ。クレアはポカンと口を開けてしまった。
美しい赤髪の女性は、綺麗な声でいった。
「すまない、ウェントゥスを助けてくれた者たちを焼き殺してしまう所だった」
クレアは全身の力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。メロディが近寄ってクレアの背中を支えてくれた。どうやら子ドラゴンが守護者に、クレアたちはドラゴンハンターではないと言ってくれたのだろう。
ウェントゥスと呼ばれた子ドラゴンは、嬉しそうに赤髪の女性の元に飛んでいき、抱きついた。赤髪の女性は自愛に満ちた表情で、ウェントゥスを抱きしめた。
クレアはメロディの体温を感じながら、自分たちは助かったのだと実感した。
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