夜の考え事

 クレアとメロディは、クタクタに疲れたのと温かい食事でお腹がいっぱいになった事で眠くなった。


 二階にはマサラの父が寝起きしていたベッドがあった。掃除の時に少しだけ外の日にマットと毛布を当てておいたので温かかった。二階の部屋は淡いランプの光だけが輝いている。メロディは暗闇を怖がるのでランプはつけたままにしておく。メロディが嬉しそうに言った。


「クレアちゃんと一緒に寝るなんて、小さい時以来だね!」

「メロディ寝ぞう悪いからなぁ。壁側で寝て?」

「クレアちゃんヒドイ!」


 クレアはブツブツ文句を言うメロディをベッドに押し込んで、そのとなりに横になった。しばらくするとメロディはスースーと寝息をたてていた。どんな時でもすぐに寝られるのはメロディの特技だ。


 クレアは疲れていたが、中々眠りはおとずれなかった。クレアとメロディは田舎の村で畑仕事しかした事がなかった。そんなクレアたちが、都会の王都で商売ができるだろうか。


 クレアは不安で眠れなかった。クレアにはもう一つ不安な事があった。メロディの小さな頃からの口ぐせは、クレアちゃんと一緒、だった。


 クレアが魔法の訓練を始めたら、クレアちゃんと一緒と言ってメロディも魔法の訓練を始めた。クレアが勉強するというと、クレアちゃんと一緒と言ってメロディも勉強をするのだ。


 クレアにとってメロディは幼なじみであり親友でありかけがえのない存在だ。もしメロディが心から冒険者になりたいと思ってくれているなら、クレアも安心して共に同じ道を進もうと思える。だが、もしメロディがクレアと一緒にいたいがために冒険者を志したというなら、クレアと共に冒険者になる事はメロディのためにならないのではないか。


 クレアの将来の夢がシスターだったら、メロディもシスターになりたいと言うのではないか。もしクレアが鍛冶屋になりたいといえばメロディも鍛冶屋になりたいと言い出すのではないか。クレアはそう考え出すと眠れなくなってしまった。


「ぐぇ!」


 クレアがグルグルと考えをめぐらしていると、突然腹に重い痛みを感じた。自分の腹の上を見てみると、メロディの足が乗っていた。メロディは寝ぞうがとても悪いのだ。


 何とかメロディの足をどかし、メロディの首もとまで毛布をかけてやる。メロディは小さな子供の頃と同じ寝顔で幸せそうに眠っている。クレアは苦笑してしまった。


 グルグルと考えている事がバカバカしくなった。クレアはベッドの横にあるチェストの上のランプの火を消した。辺りはくらやみに包まれる。


 明日の事を思い悩んでも仕方ない。明日の事は明日考えよう。クレアはようやく眠りについた。

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