冒険者試験
そんなはずはない、これは何かの間違いだ。クレアは我が目を疑い、何度も自分の受験番号を探した。だが十回目の確認を終えてあきらめた。クレアは冒険者試験に落ちたのだ。
クレアのとなりにいる幼なじみのメロディは、ビクビクしながらクレアに言った。
「クレアちゃん。あたしたち冒険者試験落ちちゃったね?」
クレアはメロディの声には答えず、怒りでブルブルと身体を震わせていた。
クレアとメロディはタンドール国のずっとはしっこにあるフレス村の出身だ。クレアは幼い頃から冒険者にあこがれていた。以前の冒険者制度では十五歳になれば誰でも冒険者登録ができていた。だがあまりにも新人冒険者のケガや死亡事例が多いため、冒険者たる資格がある者を選別するために数年前から試験が行われる事になったのだ。
冒険者試験は、冒険者たる知識を見るための筆記試験。戦闘になった場合対処できるかどうかの実技試験があった。
実技試験は現役の冒険者が相手になって試合を行った。クレアはフレス村で唯一の水魔法の使い手だ。水を発生させ、攻撃にも防御にも使う事ができる。
クレアの実技試験の相手はベテランの剣士の男だった。クレアは水攻撃魔法をたくみに操り、剣士の男に勝利した。
幼なじみのメロディは土魔法の一つ、植物魔法が使える。巨大な植物のツタを出現させ、相手の武闘家をグルグル巻きにして、戦闘不能にさせたのだ。
クレアとメロディは冒険者になれると信じて疑わなかった。だが結果は冒険者になれなかった。
メロディはおずおずとクレアに言った。
「ね、ねぇクレアちゃん。これからどうしよう?フレス村に帰る?」
「そんな事できない!」
メロディの問いに、クレアは思わず大きな声で返してしまった。メロディはビクリと身体を震わせる。クレアは驚かせてしまって申し訳ないと思い、声をやわらげて言った。
「一回試験に落ちたくらいじゃ諦められない。ね、メロディ。来年また冒険者試験受けよう?」
「うん、いいけど。それまでどうするの?あたしたちお金あまり持ってないよ?」
「王都で働くのよ!王都で仕事を見つけて、住み込みで」
メロディは首をかしげた。クレアの提案が予想外だったのだろう。クレアはメロディをうながし歩き出して言った。
「住む所も決めなきゃいけないから、住み込みで。食堂のウェイトレスとかどうかしら?」
「えぇ?クレアちゃんは頭がいいから注文を覚えられるけど、あたしはすぐに注文なんか覚えられないよ」
「今からそんな心配しなくていいの!やっていたら慣れるわよ」
「うーん。でもせっかくだったら、あたしの力とクレアちゃんの力が役立てる仕事にしない?」
「例えば?」
「えっとぉ。くだもの屋さん!」
「確かにメロディの植物魔法を使えばできるだろうけど、植物を育てる沢山の場所が必要よ?」
クレアとメロディは、行く当てもなく歩きながら話し続けた。合格発表を見た冒険者協会を後にし、活気のある市場通りを歩く。人混みが多くメロディと離れ離れになりそうだった。クレアは仕方なくメロディの手を握った。メロディは驚いた顔をしたが、えへへと嬉しそうに笑った。
クレアとメロディは幼なじみだ。両親同士も仲が良く、クレアとメロディは姉妹のように育った。メロディはおっとりしてどんくさい子だった。クレアはいつもメロディの世話をしていた。
クレアはメロディの手を引っ張って、市場のメイン通りから外れ小道に入った。小道に入ると市場のけんそうが嘘のように静かになった。
クレアとメロディはああでもないこうでもないと話し合っていると、突然メロディが声をあげた。
「クレアちゃん見て!とっても可愛いお家」
クレアがメロディの指差す方向を見ると、小さなお店があった。だがもう閉店しているらしく、貸店舗の張り紙がしてあった。
その店は二階建てで、一階がお店で二階が住居のようだ。メロディが顔を輝かせて言った。
「ねぇ、クレアちゃん。お花屋さんやろうよ!」
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