第45話 妖楼温泉街編(2) 熱湯恋試練ノ章
妖怪の温泉街、通称"草ノ山温泉"。
ここは
辺りを見渡せば
一方で、妖怪の温泉街にいる妖怪の大半は人の姿をしており、"もふもふ"を期待していたシャルからして見れば落胆ものであった。
特に今日は、鬼族の団体客が来ているのだろうか。
筋肉モリモリの鬼たちが、そこら中に蔓延っていた。
そのため、妖怪の温泉街に"もふもふ"を求めた一人の魔王様は、一早く白備の様な獣人型の妖怪をもふり倒したいがために、妖怪の温泉街について早々、土地感のない温泉街へと飛び出した。
その結果、目的の妖怪は見つけられず、目に入るのは一際目立つ筋肉モリモリの鬼族ばかり……、次第に魔王様の鋼のメンタルにもダメージが入る。
シャル「ぬわぁ〜っ!余の想像と違うのだ〜!」
"もふもふ"とした楽園を期待していたた魔王シャルに取って、もふもふの"も"の字も感じられない光景に、思わず悲痛な声を上げた。
ギール「っ!?こ、こら、うるさいぞシャル!?勝手に一人で走ったと思えば何が違うんだよ!?」
シャル「うぅ、"もふもふ"が……"もふもふ"がいないのだ〜!」
ギール「も、もふもふ?」
シャル「そうなのだ!ここは、白備の様な"もふもふ"が沢山いる所ではなかったのか!?」
ギール「はぁ?そんなのいつ誰が話したんだよ?」
シャル「‥うぅ、それは……、誰も言ってないのだ。」
ギール「……はぁ、やっぱり思い込みか。はぁ、仕方ない……、ほらよ、俺ので良ければ好きにもふれよ。」
シャル「いや、ギールのは今はいいのだ。」
ギール「なっ!?」
恥を忍んで大切な尻尾を差し出したギールであったが、予想外にもあっさり断られてしまった。
しかしギールは、恥じらいを捨てて大切な尻尾を差し出した以上、ここで簡単に引き下がれなかった。
ギール「も、もふもふだぞ?」
シャル「‥今は狐の尻尾が良いのだ。」
狐妖怪をもふれなかった事が相当ショックだったのか、徐々に覇気のない声が漏れ始める。
急激なシャルの落ち込み様に、普段なら喜ぶはずであろうギールでも、流石にからかう事はできなかった。
そのためギールは、差し出した尻尾を引っ込めると、小柄なシャルの両脇を掴むなり、自らの肩に乗せた。
シャル「な、何をするのだ!?」
ギール「何って狐をもふりたいんだろ?」
シャル「そ、そうだけど‥。」
ギール「こうすれば、少しは探しやすいだろ?だから…、その……何だ元気だせよ。」
シャル「‥っ、ぎ、ギール……、う、うむ、ありがとう"お兄ちゃん"……。」
ギール「っ……そ、そうか。しっかり掴まっていろよ。」
シャル「うん、分かったのだ。」
いつもなら絶対に、シャルから"お兄ちゃん"と呼ばれる事を忌み嫌うギールであるが、この時だけは不思議と嫌だと思わなかった。
むしろ、ギールの心の奥底に閉じ込めた暗い感情を
自然とギールとシャルの距離が縮まり、小さい事では怒らなくなったギール。むしろ、その小さい事が不思議と愛おしく思い始めていた。
一方その頃。
直人に連れられた桃馬たちは、目的地のお店に到着していた。古風な建物がずらりと並ぶ中、妖楼郭より大きくはないが、それでも周囲の建物と比べて一際大きいなお店であった。
晴斗「‥やっぱり、
数回ほど来た事がある晴斗は、歩く方向からして直人がどこへ行こうとしていたのか、何となく察していた。
桃馬「な、直人?ここが面白い所なのか?」
直人「そうだ。ここは化け狸が運営している遊び場だよ。」
小頼「えっと、お店からして察するに…、迷路かお化け屋敷ですか?」
直人「あはは、まあ、そう見えるのも仕方がないよな。でもまあ、別に変な所じゃないから安心してくれ。」
小頼「うーん、せめてどんな所なのか教えてよ?」
直人「それは、入ってからのお楽しみだよ。」
化堂里屋の詳細を敢えて語らない直人の紹介に、晴斗を除く桃馬たちが、楽しみと好奇心を掻き立たせる中、直人を先頭にお店の中に入った。
するとそこへ、お店の奥から"ショタ"とまではいかないが、少し背の低い茶髪の美少年が足速に出迎えて来た。
?「若ー!よくお越しくださいました!」
直人「おっと、よう
織奉「ふぁっ…んん〜、は、はい♪わ、若もお元気そうでなによりです♪」
この子もまた、直人の弟的な子なのだろうか。
お出迎えにしては、かなり親しげな感じで直人に抱きついて来た
そして織奉の姿をよく見てみると、狸っぽい丸い耳と"もふもふ"とした
小頼&桜華「か、可愛い!」
リフィル「っ、むう、直人ばっかり…羨ましい。」
エルン「あ、あんな大胆に……、す、すごい子だな。」
リール「うーん、その子も直人の弟なのか?」
女性陣の感想と意見に統一性は一切無く、何とも個性豊かであった。
それに対して男たちは、この"美少年の狸"を見た瞬間、"可愛い"、"もふりたい"と心を一致させていた。
すると、軽いコミニュケーションを取った直人は、早速織奉の紹介に入った。
直人「さて、紹介するよ。この子は織奉。この化堂里屋の主だよ。」
桜華「ふぇ、主?」
小頼「な、なな、何ですと!?」
織奉「は、はい。えっと、この化堂里屋を営んでおります。化け狸の織奉と申します。あと、いつも若様がお世話になっております♪」
直人の紹介に続いて、爽やかな挨拶を交わす織奉の姿に、思わず桃馬たちは驚愕した。
しかし、その驚愕が強過ぎたためか、一部では"もふり"たい衝動を抑えるための理性が壊れた男女たちが、一斉に織奉へと飛び掛かった。
織奉「ふぇっ!?あ、あの、お、お客様なにを‥んんっ!?」
リフィル「はぁはぁ、狸の美少年、はぁはぁ、かわひぃ~♪」
小頼「うんうん!それに織奉くんの肌はきれいだね~♪あと、もう既に触ってるけど耳を触らせてね~♪」
ジェルド「こ、これが狸の尻尾か。何と言う弾力だ。」
憲明「‥あぁ、もはやこれは、"もこもこ"の抱き枕だな。」
ディノ「ごめんなさい!ごめんなさい!でも、あったかいれふぅ~♪」
ご覧の通り。一匹の美少年に、数人の男女が群がる光景は、端から見たらただの強姦である。
桜華「うぅ、出遅れました‥。」
桃馬「くっ、羨ましい‥。」
直人「お前たちは、どんだけ餓えてるんだよ。」
化狸「だ、旦那様!?どうなさいましたか!?」
流石の騒ぎにお店の奥から追加のショタ狸たちが三匹ほど駆けつけてしまう。
これに慌てた直人は、直ぐにショタ狸たちの元へと駆け寄った。
直人「き、君たちストーップ!?」
化狸「ふぇ!?」
化狸「お、お客様ごめんなさい。織奉様に酷い事をなさるのでしたら僕たちに……。」
化狸「そ、そうです!どうか、僕たちを煮るなり焼くなり好きにしていいですから、どうか、織奉様を返してください!」
直人「し、心配するな。織奉は少し……いや、かなり俺の連れに"もふ"られているだけだ。直ぐに助けてやるからな。」
化狸「で、でも……。」
直人の素顔をよく知らない化狸たちは、名前も知らない直人からの言葉に困惑していた。
直人「……両津家嫡男、両津直人って言えばわかるか?」
化狸「ふぇ?両津…直人?……うーん、ん?ふぇっ!?」
化狸「えっ?も、もしかしてあなた様は、両津家の若様ですか!?」
化狸「はわわ!?し、知らないとは言え、ご、ご無礼をお許しください!?」
直人の正体を知った化狸たちは、可愛らしく三人抱き合いながら震えていた。
話を進めるためとは言え、可愛らしい三匹を驚かせてしまった事に罪悪感を感じる直人は、申し訳なさそうに話しかける。
直人「驚かせてしまって申し訳ない‥。織奉の事なら心配入らないよ。必ず俺が助けてやるから。」
化狸「ほ、本当ですか?」
直人「あぁ、約束するよ。それに今回は、俺に非があるからな。」
化狸「ふぇ、どうしてですか?」
直人「うん、実の所……。今織奉がもふられているのは、俺の連れが
化狸「で、でも、それだけの理由で、あそこまで織奉様をもふりますでしょうか?」
直人「うーん、まあ、幼い姿で接客したのが"あだ"になったと言えばいいかな。まあ、取り敢えず俺の連れは、幼い子と若くてかっこいい"けも耳"青年に目がないんだ。だから、今の織奉の様に大切な尻尾をもふられたくなければ、あまり俺たちに関わらない事だよ。」
化狸「はぅ!?」
化狸「ひぅっ!?」
化狸「あぅっ、わ、分かりました。」
直人「あと、俺たちが利用する所では、必ず年老いた狸になる様に。」
三匹「は、はい!」
警告にしては、若干脅しに近いお願いに、三匹の化狸たちは、両手を大切な尻尾に当てながらその場を去って行った。
化狸の尻尾は、どの獣系種族よりも敏感で、ちょっとでも他人に触られてしまうと、直ぐに気絶してしまう様な超敏感な種族である。
そのため、今の内に対策を講じなければ、無数の純化狸たちが、小頼たちの手によって"狸寝入り"をしてしまう事になるだろう。
その後直人は、直ぐに織奉の救出に乗り出すも、激しく蹂躙された織奉は、快楽麻痺に陥っていた。
織奉「ふぁ、はへぇ‥♪」
晴斗「お、おい、織奉しっかりしろ?」
エルン「お、おいおい、この子ヘロヘロではないか!?本当に大丈夫なのか?」
晴斗「だ、大丈夫。これは化狸特有の症状だから。」
直人「全く、知らなかったとは言え、織奉をもふり過ぎだよ。」
小頼「はぅ、ごめんなさい。」
リフィル「反省してます。」
ここまで化狸の尻尾が、デリケートな部位であったとは知らなかったとは言え、少し怒った直人は、織奉をもふった戦犯者たちをその場に正座させていた。
ジェルド「‥うぅ、痺れる‥きゃふっ!?。」
足が痺れる中で、突如尻尾に伝わる快感。
ジェルドは思わず声を上げながら後ろを振り向くと、そこには、ジェルド自慢の尻尾を両手で握っているリールの姿があった。
リール「ほぉ~、なるほど、なるほど。」
ジェルド「な、何をしてるんだ!?」
リール「あ、ご、ごめんね♪つい触りたくなっちゃって♪」
ジェルド「‥‥はぁ、さ、触りたいなら、せめて握るなよ。」
リール「はーい♪」
ジェルドの了承とも思える言葉を得たリールは、この機に前々から気になっていたジェルドの尻尾を堪能し始めた。
一方で、案外素直に触らせてくれたジェルドは、本来なら触らせたくない所であるが、リールに尻尾を触られている間は、不思議と足の痺れを忘れられるため、強くは拒まなかった。
直人「晴斗、織奉は直ぐに正気に戻りそうか?」
晴斗「‥ふぅ、やっぱり耐性ないみたいだ。完全に蕩けてるよ……、何か、昔の稲荷姉さんと同じだな。」
直人「‥よう覚えてたな?」
晴斗「忘れる訳ないさ……。うぅ、罪悪感が……。」
直人「……うう、そ、それ以上言うな。」
直人と晴斗は、少し黒歴史を抱えていた。
それは、まだ二人が幼い頃。
当時、好奇心旺盛な二人は、稲荷のふわふわとした九本の尻尾に興味を持ってしまい、なんと抱きついて"もふもふ"したいと言う願望を抱いてしまった。
そして幼い二人は、素直に「触らせて下さい」とお願いすれば良いものの、恥ずかしさのあまりお願いする事ができず、お昼寝中の稲荷を襲ってしまったのでした。
不意を突かれた事と、二人同時にモフられた事が重なり、驚いて強い快感を味合わされた稲荷は、不覚にも織奉と同様にピクピクと体を震わせながら、舌を出して蕩け顔に晒させてしまったのでした。
直人「…それで"あれ"は試したのか?」
晴斗「あれ?あれってなんだ?」
直人「あ、そうか。あの時起こしたの俺だったな。よし、試しにやって見るか……ふっ。」
取り敢えず直人は、過去にしでかした黒歴史を元に、織奉の敏感な右耳に息を吹き掛けた。
織奉「ひゃひっ!?」
敏感な耳に息を吹きかけられた織奉は、一瞬で飛び起きた。
ちなみに、織奉の弱点は尻尾と右耳である。
織奉「あ、あれ?私は何を‥?」
直人「織奉すまない、迷惑かけちまって。」
織奉「ふぇ、わ、若!?あっ、い、いえ、その……わ、私こそ…‥若の前でお見苦しい姿をお見せして申し訳ないです///」
友人とは言え、恥ずかしい姿を直人に見られた織奉は、顔を真っ赤にさせながら
直人「‥そう畏まるなよ織奉?友達だろ?」
織奉「し、しかし、これも商いする者の礼儀、どうか、ご勘弁を。」
直人「‥それもそうだな。」
晴斗「それにしても織奉?相変わらず触られる耐性がないな?」
織奉「っ!は、晴斗!?き、来てたのか!?」
晴斗「おいおい、今気づいたのかよ‥。まあ、目も合ってなかったから仕方ないか‥。(なんで俺にはタメ口なんだろう。)」
直人「ははっ、さてと織奉?病み上がりの所で悪いけど、早速案内を頼めるか?」
織奉「は、はい!それなら、団体様用のお部屋をご用意させて頂きます!」
お店に入ってから五分近く経っていると言うのに、未だに直人たちは玄関付近で立ち往生していた。
更に、その間に起きたイベントが、化堂里屋の主である"けも耳"美少年を押し倒すと言う迷惑行為‥。
まだ、顔見知りだから許されたものの、普通では警察に"パク"られてもおかしくない案件である。
親しき仲にも礼儀あり。
やはり、少しは必要な教訓である。
そして、ようやくお店の玄関から移動した直人たちは、団体客用の"天変地異ノ間"に案内された。
織奉「こほん、本日ご用意させて頂いたお部屋は、こちらの
正直、部屋の名前を聞くだけで物騒だが、入り口は何の変哲もない
織奉「どうしましょう?説明は必要でしょうか?」
直人「そうだな、一応頼むよ。」
織奉「分かりました。」
利用方法について。
こちら天変地異ノ間は、団体のお客様向けのお部屋となっています。お部屋の中には、数多くの対戦施設と娯楽施設を備えています。各施設をご利用する際は、規則を守ってご利用ください。
ゴミについては、指定のゴミ箱へお願いします。
以下の点で、違反する行為がありましたら、即ご退室となりますのでご注意ください。
織奉「以上になります。それでは皆様。ごゆるりとお楽しみください。」
織奉が襖に手を掛けてスっと開くと、その先には古風なお店の大きさに反して広大なテーマパークが広がっていた。
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