第43話 草津奇々騒乱編(最終) 決死ノ章

追悼式が終わってから二時間後。


温泉街の広場に設けられた献花台には、今回の事件で殉職した四十七名の警界官を称え、多くの花束が添えられていた。


普段なら既に賑わいを見せている温泉街は、湯畑から流れる落ちる温泉の音しか聞こえず、全体的に静寂となっていた。


更に、周囲の警戒レベルが完全に解かれていない事もあり、未だに温泉街は、物々しい空気の中にあった。



そん状況下の中で、とある三人の男たちが、湯畑を見つめながら会話をしていた。


界人「すまない二人とも、俺が不甲斐ないばかりに、せっかくの旅行を台無しにしてしまった。」


桃馬「そ、そんな、頭を上げてよ叔父さん!?」


直人「‥親父、もしかしてだけど、最初からこうなるって分かっていたのか?」


界人「……最初から分かっていた訳じゃないさ。実際、警察機構全体の警戒リストに載ってるまとが、このタイミングで不審な動きを見せたって話を聞いたのは、昨日の早朝だったからな。」


直人「だ、だから、急に来れなくなったんだな。」


界人「あぁ、そう言う事だ。特に唯一の誤算だったのが、まさか的もここに来るとは思わなかった。しかも、捜査をして行くに連れて段々話は大きくなるし、最悪のシナリオを予想した時には、事件が起こる二時間前だった。本来なら事が大きくなる前に解決したかったが、俺の力が及ばなかった‥、すまない。」


事の次第を話した界人は、再び二人に謝った。


直人「‥そうだったのか、俺も察していれば力になれたのに。」


界人「…いいんだ直人、お前が気にする事はない。それよりは、二人と学園の友達が無事で本当によかった。」


直人からの心配を払い除けた界人は、二人の肩をポンポンと優しく叩きながら、改めて無事を喜んだ。


直人「…親父、それでも少しくらいは頼ってくれよ。」


桃馬「そ、そうですよ。事件当日俺は、何も出来ずに妖楼郭に隔離させられていましたからね。できる事なら力になりたかったです。」


界人「はは、ありがとう。だけど、せっかくの楽しい旅行に大怪我をしたとなれば、それこそ台無しと言うものだ。二人の気持ちは有難く受け取っておくから、この話はここまでにしよう。」


三人の会話が、魔のループに入りかけている頃。


その様子を建物の影から覗く三人の美女がいた。


エルン「あ、あの方が直人の父上‥、ごくり。」


桜華「人が多くてよく見えなかったですけど、やっぱり、何処と無く直人さんと似ていますね。」


リール「あはは、そうでしょう~♪それより、何で私たちは隠れてるの?二人が行かないのなら私だけでも行って来るよ〜♪」


流石、天然娘のリールである。


緊張のせいで声を掛けたくても掛けられない二人とは違い、普段から直人の父である界人と面識のあるリールは、真っ先に声を掛けに行こうとする。


エルン「ま、待てリール!?」


緊張感の無いリールの行動に思わず驚いたエルンは、慌ててリールの肩を掴むなり連れ戻した。


リール「もう~、どうして止めるのさ〜?」


エルン「り、リールは、な、直人のお父上に会う事に緊張はしないのか!?」


リール「ふぇ、緊張?うーん、"界人さん"とは何度も会ってるし、特には感じないけど?」


エルン「な、何っ!?な、何度も会っている……だと。」


リールの話を聞いたエルンは愕然がくぜんとした。


特にエルンの場合は、従兄弟の彼女と言う名目で挨拶をしたがっている桜華とは違い、好きな人の父親に挨拶をしようとしているため、二人の緊張感は似て異なるものであった。


リール「あ、そうか。エルンは"界人さん"に会うのは初めてだったね〜♪」


エルン「あ、あぁ……。」


正直、直人の父親に対して、リールが名前で呼んでいる時点で、かなりの距離間を感じさせていた。


リール「ふふ〜ん、でも大丈夫だよ♪界人さんは直人と似て優しいから、直ぐに慣れると思うよ〜♪」


エルン「だ、だからって、一人で先行しようとするな!?」


安全を保証したリールは、再び三人の元へ駆け出そうとするも、再びエルンと桜華に連れ戻された。


リール「もぉ〜、二人とも〜、まだ不安なの?」


エルン「あ、当たり前だ!?そ、それに、リ、リールが先に行っては‥わ、私たちが行くタイミングがないではないか。」


桜華「そ、そうそう!リールちゃんが言うように、例え桃馬の叔父さんが優しい人であっても、追悼式の演説を聞いたら……その〜、緊張して動けないよ。」


緊張している二人は、先行しようとしているリールの肩と袖を掴み、先行させないようにしていた。


リール「う、うーん、桜華ちゃんの気持ちは何となく分かるとして、エルンの場合は、普通に直人の友達だって言えば良いと思うけど〜。」


エルン「っ、と、友達!?っ、む、無茶を言うな!そ、そもそも、わ、私は、み、淫らで、は、はしたない、さ、ささっ、サキュバスなんだぞ!?」


リール「べ、別にサキュバスだからって界人さんが、エルンの事を毛嫌いしたり、差別したりとかはしないと思うけど……。そもそも、エルンは可愛いから問題ないと思うけど、それでもエルンが、サキュバスって事を隠したいのなら私も協力するよ♪」


エルン「‥うぅ、一応聞くが大丈夫なんだよな?」


いくら安心する様な事を言っても、所詮は天然属性が強いリールである。うっかり、ボロを出す可能性は十分にあった。


そのためエルンは、疑いの眼差をリールに向けながら顔を近づけた。


しかしリールは、揺らぐ事なく笑顔で頷いた。


するとここで、エルンの過剰な反応に疑問を持った桜華は、もはや爆弾に近い質問をエルンに投げ掛けた。


桜華「あ、あの〜、エルンさん?もしかして何ですけど〜、直人さんの事がお好きなのですか?」


リール「ふぇ?」


エルン「なっ///」


率直な質問投げ掛けられたエルンは、一瞬にして顔は真っ赤に染め、クール系の堅物キャラみたいに、ぎこちなく"あたふた"し始めた。


何とも分かり易い反応である。


すると、今まで共に学園を過ごしていたリールは、見た事がないエルンの動揺ぶりを見るなり驚愕する。


リール「‥ふぇ!?そ、そうなのんんっ!?」


ようやくエルンの本心を理解したリールは、同時に今まで直人の前で見せていた"謎のモジモジ"が、実は直人への求愛行為であったのだと理解した。


衝撃的な事実に思わず声が出てしまうリールに、エルンは透かさずリールの口を塞いだ。


エルン「はぁはぁ、ば、ばか!聞こえるだろ!?」


リール「んはっ、ほ、本当にエルンは直人の事が好きなの?」


エルン「‥あ、あぁ、そうだ。だけど私はサキュバスだ……。人間である直人と釣り合える様な立場では無い。それに直人は、私なんかよりリールと仲が良かったから……その、二人の仲を壊したくなくて、ずっと片想いをしていたんだ。」


儚い美少女の恋愛事情に、愛しさと切なさを感じた桜華は、今度はリールに対して爆弾質問を投げ掛けた。


桜華「り、リールちゃん?えっと、直人さんとは、一体どんな関係なの?」


リール「ぷはっ、な、直人との関係?うーん、仲は良いと思うけど、恋人じゃないよ?」


桜華「え、え〜っと、でも、いつも恋人みたいに見えるけど?」


リール「ふぇ?そ、そんな風に見えているの?」


リールが直人に対して恋心を抱いていない事はよく分かった。更に、普段学園の同級生に見せつけている恋人レベルの触れ合うも無意識によるスキンシップであると分かった。


すると桜華は、こんなにも素直で鈍感で、更には天然と言う可愛らしい一面を持つリールに対して、堪らず抱きついてしまった。


桜華「もう~、恋人に見えるんだよ~♪」


リール「ふへぇ〜♪桜華ちゃんくすぐったいよ〜♪」


桜華「リールちゃんが可愛いからいけないんだよ〜♪あ、そうだ、エルンさんも安心して良いよ♪直人さんとリールちゃんは恋人じゃないって♪」


エルン「えっ、そ、そうなのか?」


リール「うん、そうだよ♪だって直人の好きな人は、"リグリード"様なんだからね~♪」


喜びの空間の中で、リールの口から超弩級の事実が語られると、和ましく陽気であったはずの空間が崩壊する。


リールの口から出た衝撃的な事実に、エルンは声を震わせながらリールに質問する。


エルン「‥り、リグリード様って‥ま、まさかあの、魔界剣士の中でも、国士無双として名を馳せている魔界剣士リグリード様の事か……?」


リール「そうだよ〜♪やっぱり、魔界剣士を目指す魔族ならリグリード様を知ってて当然だよね♪」


エルン「そ、そんな‥、ま、まさか……な、直人が、あ、あの……リグリード様を‥。」


あまりにも衝撃的過ぎる事実に、思わずエルンはその場に崩れ落ちた。


エルンに取って、魔界剣士リグリードとは、高貴で美しく何者であろうとも正々堂々と剣を振るい、多くの強者たちを打ち倒して来た憧れの魔界剣士であった。


それに比べて自分は、淫らなサキュバスな上に剣技もまだまだ未熟な身。そんな状態で憧れのリグリード様と自分を恋の天秤に乗せたらどうなるか。


結果は容易に想像が出来た。


そのためエルンは、失恋の炎に巻かれながら燃え尽きそうになっていった。


するとそこへ、三人の声を聞きつけた直人たちが、三人の美女たちの元へ顔を出した。


直人「そんな所で何してるんだ?三人とも?」


エルン「うぅ、ほっといてくれ直人。私はお前の事が好きなのに…、でもお前は、リグリード様の事を好いて‥えっ‥ふぇ?」


一瞬直人に気づかず会話をしていたエルンであったが、ふと我に返って顔を上げで見ると、そこには、直人、桃馬、界人の三人が立っていた。


桜華「あ、あ、えっと、あ、あはは~。」


突然現れた三人の登場に、気まずく感じた桜華は、苦笑いをしながら中立を保とうとした。


一方のリールは、直人の父親である界人を見るなり嬉しそうに駆け寄った。


リール「あっ、界人さん♪お久しぶりですね〜♪イエーイ♪」


界人「へーい♪相変わらずリールちゃんは元気がいいな♪。」


想像以上にフレンドリーな二人の光景に、桜華は率直に驚いた。


桃馬「‥あ、あはは、えっと、お邪魔だったかな?」


女子たちの会話に入り込んでしまったと感じた桃馬は、申し訳なさそうにその場から去ろとする。


しかし、桃馬たちが来た事で、エルンと直人の距離を縮める好機と感じた桜華は、親友のリールを二人の仲介に立たせて、桃馬と界人を遠ざけようと考えた。


桜華「と、とと、桃馬♪叔父様♪ちょっと、こちらへ~。(小声)と、桃馬手伝って‥。」


桃馬「えっ、あ、う、うん。」


界人「ん?おぉ、あなたが桜華様か?話は聞いてるよ、甥がお世話に‥あっちょっ‥。」


桜華「ご、ごめんなさい♪えっと、自己紹介ならあちらの方で改めて〜♪」


桃馬「叔父さん、ちょっとこちらへ〜。」


桃馬と桜華は、界人の両手を掴むなり早々に直人たちから遠ざけた。


その後、気まずい空間に残された三人は、しばらく沈黙していた。


直人とエルンは、恥ずかしそうに顔を逸らしては、体を"モジモジ"とさせていた。


これに見兼ねたリールは、ため息をつきながら本題に切り出す。


リール「はぁ、二人とも?そう"モジモジ"しても話は進まないよ?」


直人「お、おぉ‥で、でも‥。」


エルン「〜っ///わ、私は、恥ずかしくて死にそうだ〜///」


唐突な告白に追いつけず、エルンと目を合わせようとしない直人はおいといて、直人への想いを本人に聞かれてしまったエルンは、顔を真っ赤に染めては、目に涙を浮かべながら恥ずかしそうにしていた。


そもそもサキュバスとは、相手の心を魅了して精気を搾り取る種族であるが、エルンの様に相手を魅了する所か、ここまで恥ずかしがるサキュバスは非常に珍しい事であった。


しかしエルンの場合は、サキュバスの中でも非常に珍しい特異体質の持ち主である。


真面目で武骨な性格。


そして何より、サキュバスとしてのアイデンティティでもある、房中ぼうちゅう術や誘惑術などの淫行に全く興味が無く、サキュバスなのにくっ殺騎士の様な特性を持っていた。


エルン「〜っ///(うぅ、ど、どうしよう……、な、何が話さないと行けないのに言葉が出てこない……。)」


直人「……。(まさか、エルンが俺の事を……。もしあの時、思い切ってエルンに告白してたら、付き合ってたのか……。)」


一時は、片想いをしていたリグリードへの恋を諦めて、エルンと付き合いたいと思う時期もあった。


しかし直人は、そんな真面目で可愛いエルンに告白する所か、二人きりになる事すら出来なかった。


そのため直人は、次第にエルンへの恋心を拗(こじ)らせて行き、平凡な自分では到底エルンと釣り合えないと決めつけた挙句、決して穢してはならい絶対不可侵領域として線を引いてしまったのである。


その結果、今まで大切な友人として接して来た訳である。



直人「え、えっと、エルン?」


エルン「っ、な、何だ……?」


直人「……そ、その、モジモジしてる時に、胸を寄せるのはちょっと……。」


エルン「ふぇ……っ///」


ようやく話したと思えば、今の状態を拗らせる様な会話に、再び見兼ねたリールが直人の腕をつねった。


直人「いたっ!?」


リール「も〜、直人は何してるんだよ?」


直人「え、な、何って言われても、何か話さないといけないと思ったから……。」


リール「それなら、拗らせる話はダメでしょ?この際、単刀直入に聞くけど、直人はエルンの事をどう思っているの?」


直人「ど、どうって、確かにエルンは好きだけど、俺は一人の人間としてリグ姉を一筋にしてるし…。」


エルン「うぅ、一人の人間としてか……。確かにそうだな‥。一夫多妻が普通になっている魔族文化とは違い、パートナーを重んじる人間文化では仕方がないか……。」


直人「ごめんよエルン。‥ん、どうしたリー…んんっ。」


何者かに背後から肩を叩かれた直人は、一瞬リールかと思い振り向くと、目の前に柔らかいクッションが顔を覆った。


稲荷「あぁん♪直人ったら~♪」


聞き覚えのある声に直人は背筋を凍らせた。


エルン「っ!?あ、あなたは確か…、直人のお姉さんの……。」


稲荷「コンコン♪そうよ♪稲荷お姉ちゃんよ~♪」


直人「んんっ〜!?」


愛する直人を自らの豊満な胸に押し込めた稲荷は、まるで直人は私の物だと言わんばかりに強く抱きしめ、エルンとリールに挨拶を交わした。


リール「‥えっと、稲荷さん?私たちに何かご用ですか?」


稲荷「クスッ、別に大した事じゃないのよ♪ただ、私の可愛い"未来の妹たち"に会いたくなっちゃってね〜♪」


エルン&リール「い、妹?」


稲荷「そうよ♪あと、直人?確かリグちゃんが好きって言ってたわね?」


直人「…………こく。」


豊満な胸に押し込まれた上、声が出せない直人は、そのまま柔らかい天国の中で頷いた。


すると、稲荷は笑みを浮かべた。


稲荷「実はその事でね〜♪ついさっきまで考え込んでいたんだど〜、ようやく私なりの結論が出たのよね〜♪」


直人「…んんっ?(け、結論?)」


稲荷「クスッ♪お姉ちゃん、直人とリグちゃんの婚姻を認めるわ♪でもその代わりに、この二人もお嫁に迎えなさい♪」


直人「っ!?」


エルン「なっ///」


リール「へぇー、えぇっ!?」


突然告げられる稲荷の提案に三人は驚愕した。


直人「んはっ、な、何を言ってるんだ稲荷姉!?俺はハーレムなんか築きたくないよ!?」


稲荷「相変わらず直人は真面目ね~?でも、今は人間を辞めてあやかしになった訳だし、この際人間の仕来たりなんか無視よ無視~♪」


直人「こ、心は人間だよ!?」


稲荷「むぅ、とにかくお姉ちゃんは、リグちゃんを嫁にするなら、この可愛い"妹たち"も嫁にしないと許しませんよ。」


直人「破ったら?」


稲荷「吸い殺します♪」


笑顔を見せる稲荷の即答はマジである。


今までハーレムを嫌い、決して誘惑に負けること無く、真っ当な人生を送って来たはずの直人に取っては、今まで積み重ねて来た意志を曲げざる負えない状態であった。


直人「うぅ……。(やばい、これはマジだ‥。てか、母さんと親父の許可なしで決めていいのかよ。このままだと、例えリグ姉にフラれたとしても、二人の嫁入りは確定してしまう。しかも稲荷姉は、二人の事を完全に気に入っているし……うぅ、どうしよう。エルンは多分良いって言うかもしれないけど、リールはどう思ってるのかな。)


稲荷が出した提案は、夫となる直人に負担がのしかかる話ではあるが、それでも誰かが傷つく事も無く平和的に解決出来る提案でもあった。


しかし直人としては、受け入れる側であるエルンとリールの気持ちを気にかけていた。


直人「‥えっと、エルン、リール?」


エルン「は、はい!」


リール「はひっ!」


直人「そ、その、も、もし二人が良ければ何だけど……、お、俺と付き合ってくれないか?」


エルン「〜〜っ///は、はい!もちろんです!」


リール「〜〜っ!うん!」


稲荷に背中を押されたとは言え、勇気を出して告げた告白は、エルンとリールの心を刺激させ大いに喜ばせた。


嬉しい感情を抑えきれない二人は、直人に飛び付くなり幸せそうに微笑んでいた。



稲荷「ふふっ、今の気分はどうかしら?」


直人「‥複雑だけど、幸せな気分だよ。」


稲荷「コンコン♪それでいいわ♪あと、私も混ぜろ~♪」


直人「んぐっ!?」


こうして両津直人は、二人の美女を正式に彼女兼嫁として迎え入れ、今まで学園内の同級生の間でモヤモヤとさせていた原因を知らぬ間に解決したのであった。



一方その頃、一時的に界人を直人たちから遠ざけた桃馬と桜華は、とある店で腰を下ろしていた。


界人「うーん、リールちゃんもそうだが、あの金髪の子もなかなか良いな。出来れば二人まとめて娘にしたいな。」


桃馬「叔父さん……、もしかしてだけど、その調子で妖怪の養子を増やしたのですか?」


界人「まあ、理由はそれぞれあるけど、大半は行き場を失った妖怪や孤児を拾っては、養子にしていたかな。」


桜華「‥妖怪と孤児ですか。やはり、妖怪でも路頭ろとうに迷うのですね。」


界人「残念な話だが孤児は万物共通だよ。そして決してなくなる事はない問題だ。それに、当時俺が拾った子供たちも、もし見つけてやれなかったら、今頃この世にはいなかったかもしれないからな。」


桃馬「‥そうか。だから父さんは、必死で孤児院を増やそうとしてたのですね。」


界人「そうだよ。子供の頃はよく分からないと思うが、今なら少しは理解できるだろ?」


桃馬「はい、父さんがして来た事は無駄ではないと思います。現に孤児院から出られた方々の活躍は、両世界との間で広く知られてますからね。」


界人「うむ、そこまで分かれば上等だ。ん、おっと、私もそろそろ仕事に戻らないとな。桜華様、これからも、桃馬の事をよろしくお願いします。」


桜華「っ、い、いえいえ、こちらこそ!色々勉強になりました。」


桃馬「‥あ、叔父さん?最後に直人と会わなくていいのですか?」


界人「ははっ、大丈夫だよ。ほら、見てみろよ。あんなに仲良くしている姿を見れば、俺はそれで満足だ。」


桃馬「……あんな所で堂々と。」


桜華「あはは、どこかで見た事がある光景ですね。」


こうして桃馬たちの旅行劇は、大事件込みのどたばた騒動に捲き込まれ、このまま寂しく幕引きかと思われた。


しかし、ここで良い知らせが届く。


桃馬が佐渡家の跡取りである事を知った妖楼郭は、両津界人の粋な計らいもあり、桃馬たち一行らは、ゴールデンウィーク期間中に限り、無償で妖楼郭に泊まれる事になった。




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