第30話 春の大戦乱御前会議

桜の花弁はなびらが散り始める四月中旬の頃。


ここ春桜学園にある"御前会議和室の間"にて、とある学園行事にまつわる重用な会議が開かれていた。


"春の大戦乱祭"


それは春桜学園の行事の中でも、大型イベント一つとして数えられている、いくさをモチーフにした模擬戦である。


しかし、戦争行為を一切禁じられ、ただでさえ自己防衛に対して意識の低いこの日本国において、この様な模擬戦をもちいられるのは、そもそも避難の的である。


しかし、この異世界交流文化の時代。


日本国内から多くの人々が異世界へ赴く中、多少の自己防衛スキルが求められた。


一時は厳しい避難の声が上がる事もあったが、それでも異世界を愛する者たちを止める事は出来なかった。


そのため、春桜学園の様に自己防衛の一環として、授業や学校行事として取り入れている学校は、日本全国に数多く存在している。


※ちなみに法律上、自己防衛に関する授業とイベントへの参加は、中学二年生からであると定められている。


そもそも、この異世界交流文化時代を受け入れた時点で、こうなる事は、誰もが予想していた事であった。


自分の身を守れない者が、少々危険な異世界に遊び半分でおもむけば、間違いなく詰まらない死に方をするだろう。


そのため春桜学園では、そんな詰まらない死に方をさせないために、異世界へおもむいても普通に過ごせる程の力を養わせるため、"春の大戦乱祭"の様な力試しイベントが設けられている。


ちなみに、力試しの狙いは以下の通りである。


一つ、各生徒が持つ個性と能力を思う存分に発揮させる事。


二つ、生徒たちのストレスを発散させる事。


三つ、揉め事を解決させる一つの手段。


この様に生徒間で起きた問題解決策の一つとしても認められており、中には小規模の決闘などの行為も認められている。


ちなみに、"春の大戦乱祭"は、五月中旬から下旬辺りに開催され、三年生と二年生による白熱した戦いが繰り広げられる模擬戦である。




そしてここ、"御前会議和室の間"では、戦国時代や江戸時代の雰囲気のを出させるため、原則、議論以外の私語は禁止の上、堂々とした立ち振る舞いをしなくてはならなかった。


更にそんな重苦しい空間の中で、春の大戦乱祭の軍編成、ルール、報奨などについての議題が話し合われるのである。



校長「こほん、えー、各学年クラスの代表諸君。此度は忙しい中でのお集まりに感謝する。さて、早速本題に入るが、皆も知っての通り、来月には"春の大戦乱祭"が始まる訳だが、今回の軍編成とルールなどについて話し合いたいと思う。して、去年度の"秋の大戦乱祭"では、色々あって東西戦になった訳だが、今回は如何するかな?」


校長先生の問いに、代表者は直ぐには答えず、まわりの動きを伺いながら、タイミングを見計らっていた。


するとそんな中で、一人の三年生が声を発した。


オレンジ色の短髪で、無駄にキラキラと目につく男子、聖籠忍せいろうしのぶであった。


忍「ふっふっ、校長先生?去年の東西戦は、当時の三年生の争いがきっかけで起きた戦いです。現に東西戦で出た負傷者は数多く、かなり酷い結果を招きました。それを踏まえて風紀委員長として申し上げますが、はっきり言って東西戦はかなり危険です。ここは通例に従い、同学年同士の対決が妥当かと思います。」


校長「ほう、流石は三年一組の筆頭にして風紀委員長を勤めている忍くんだ。確かに、前回の秋の大戦乱祭では、多くの負傷者を出してしまう程の悲惨なものであったな。」


聖籠忍の意見により、前回引き起こした痛々しい東西戦を軍編成のルールから外そうとする中で、一人の男子生徒が声を上げた。


?「恐れながら申し上げます。」


校長「ほう、三年六組の新西あらにし荒儀あらのりくんか?」


新西「はい、既に我ら三年六組は、前持って軍の編成をしておりました。東西戦をルールからお外しになる前にご覧下さい。」


声を上げてから、直ぐに校長先生の前に座り込んだ新西は、懐から二つ織りにしたふみを差し出した。


これに校長は、新西からの文を受け取ると早々に内容を拝見した。


校長「‥‥ふむ、ほう、三年六組を主軸とする同盟軍"仕真会ししんかい"か。三年二組、三年五組、二年六組を参加に東西戦を望むか。」


新西「はい、秋での東西戦では、当時の三年生らの失態によって苦汁を舐めさせられました。その払拭のため東西戦を深く望みます。」


忍「っ、新西……。あれだけの負傷者を出した東西戦をなぜ望むのだ!?」


校長「忍くん、静かにするのだ。」


忍「し、しかし、これでは秋と同様に貴族層と庶民層の大戦になってしまいます!」


忍の反論に、仕真会以外の代表生徒たちは、"やはり、そう来たか"と、心の中で嫌な予感を感じていた。


仕真会に属するクラスは、去年の秋の大戦乱祭で、当時指揮をしていた三年生の駄采によって、圧倒的な兵力差にも関わらず惨敗。


その後、屈辱的な代償を支払わされたクラスであった。


ここで小話。


春桜学園の学年クラスは、一組から六組までのクラスが設けられています。


一組から五組までは、一般クラスとして設けられ、六組は特別クラスとして設けられています。


更に特別クラスの六組では、在籍する生徒のほとんどが、金持ち層や異世界の貴族層が多く、中には特待生も在席している事から三組分の生徒が在籍しています。


そのため、新西の軍編成の要望が通れば、圧倒的な兵力差の観点から自然と東西戦が決定してしまうのです。


校長「うむ、確かにこれでは、秋の大戦乱祭の復讐戦の様に思えるが、それを理由に東西戦を否定する事はできない。」


忍「っ!」


校長「そもそも生徒間の問題事は、この大戦乱祭や決闘などによって解決する事が出来る。例え前回の復讐戦であっても、認めざる負えない事だ。」


新西「はっ、ありがとうございます。それでは、此度も東西戦で……。」


校長「だがその前に良いか?新西くんらが、ここまで用意周到な要望を提案すると言う事は、勝利の報酬も考えているのであろう?」


新西「っ、ふっ…、流石は、"上杉"校長先生ですね。」


やはり裏があった新西の思惑に、周囲の代表者である生徒たちがザワつく中、二年三組の代表として参座していた両津直人は、自らの模造刀に手を掛けては、燕奏太の背後から斬り掛かろうとしていた。


奏太「‥焦るな直人。もう少し様子を見ろ。」


直人「くっ、黙って見てられるかよ。どうせ向こうの要望は、俺たち見たいな庶民層を服従させて、学園内で威張り散らせる環境を作ろうとするだろ。そんなの、例え相手が三年生でも許してたまるかよ。」


奏太「ヤケになるな。これでは、みんなで立てた計画が滅茶苦茶になるだろが。」


直人「っ、くっ、相変わらず新西家のボンボンは、兄弟揃って気に入らねぇ。」


晴斗「まあ、直人の気持ちは分かるよ。出来る事なら、ここで大化の改新の様に新西先輩を襲撃したいけど、どう見ても罠の匂いがするんだよね〜。」


晴斗の言う通り、上杉校長にふみを渡すだけなら、直ぐに元の位置に戻るはずである。


しかし、戻らないと言う事は、敢えて自らを餌にして義憤に感じた代表者を誘い出し、わざと襲われ様としている可能性があった。


もしこれが罠であれば、加害者だけが裁かれ、誘いを仕掛けた新西は、ただの被害者として今後強気に出て来るだろう。


そうなれば、お得意の金と権力を振りかざしては、脅迫行為を常習化させる一因となってしまう。


考え方では、三年六組の要望を全て通そうとしているだけにも見えるが、用意に越したことはない。


直人自信も理解している事だが、秋の大戦乱祭で当時の三年六組が要望した、半年間の庶民隷属権しょみんれいぞくけんの一件が脳裏にあったため、気持ちの制御が難しくなっていたのだ。



するとそこへ、たまたま直人の隣に座っていたリフィルが、直人の憤りを察して仲裁に入った。


リフィル「な、直人落ち着いて…、怒る気持ちは分かるけど、ここで変な気を起こしたらリールちゃんと"エルンちゃん"が泣く事になるよ?」


直人「っ、ごめん……、だけど、あの光景が……、リールとエルンを複数人で囲んで……、袋叩きにしては穢そうとした奴らを……思い出すだけで……。」


リフィルの仲裁が、直人に取って思い出したくない記憶を呼び起こさせてしまい、徐々に怒りを込めた低い声に変わると、うつむきながら肩を震わせた。


この直人の仕草に、晴斗と奏太は危険を感じ、急いで直人をなだめようとした。


晴斗「っ、な、直人落ち着け!?ここでキレたら取り返しがつかないって!?」


奏太「そ、そうだぞ。それにその一件は、直人と晴斗たちで成敗して、一時学園から追放させたんだろ?下手に考え込むなって……。」


直人「……あと五分遅れていたら、二人は数の暴力に屈して何をされていたか……。」


晴斗「た、確かにそうだったかもしれないけど、ここで直人が暴れてしまったら、二年三組の面目が完全に潰れどころか発言権がなくなってしまう。そうなっては、リールたちを守れなくなるよ。」


直人「っ、だけど……。」


リフィル「今は刀から手を離しなさい。どうせ向こうは、私たちが反対意見を言っても、強引に要望を通そうとして来るわ。」


晴斗「リフィルの言う通りだよ。今ここで新西先輩を襲ったら、それこそ向こうの思う壺だね。ここは、計画通り我慢した方が良いよ。」


奏太「そうそう、相手の言い分を全部聞く前に動くのは勇み足だからな。」


直人「……わかった。」


不義不忠を許さない直人の名は、学園内でも有名であった。目の前で不義なる行為を見れば容赦なく成敗し、一度怒らせれば手に負えなくなる鬼仏おにぼとけの称号を持っていた。


ちなみに、その称号を得たきっかけは、リールとエルンを取り囲んでいた生徒たちを一人も逃がさず、完膚なきまでに叩きのめした事が要因であった。


そんなザワつく声が徐々に大きくなる中で、上杉校長と新西荒儀あらにしあらのりとの審議は続いていた。


校長「なるほど、では新西くんは、前回に続いて例年の学食費用免除などの報奨は求めないと?」


新西「はい、去年の先輩も申していましたが、その報奨では我々に取って"似つかわぬ物"です。それ故、我々の方でご提案がございます。引き続きこれを‥。」


新西は、二枚目の文を校長に手渡した。


校長「‥ほう、これはこれは‥新西くん、これは本心かな?」


新西「我らクラスにいる全生徒たちの意見です。」


校長「ふむぅ、すまない時奈くん、これを読み上げてくれないか。」


時奈「えっ、は、はい、いいですけど、どれどれ……っ!?」


上杉校長から二枚目の文を手渡された時奈は、思わず驚愕してしまう内容に目を疑った。


そのため時奈は、確認のためか、上杉校長の方に視線を向けた。


すると上杉校長は、無言で頷くなりザワついた空間を鎮めようとする。



校長「こほん、皆、少し静かにしてもらえるかな?先程、三年六組の新西くんから報奨案が出されたため、今から時奈くんが報奨案を読み上げる。」


時奈「……こほん、わ、我ら貴族、富裕層組は、真の平等を求め‥‥、我が軍に破れた敗軍は半年間の傀儡かいらいとする。」


傀儡、すなわち遠回しに奴隷にするという意味である。誰もが予想していた展開ではあるが、当然、各代表者たちは反発する。


忍「っ!何を言っているんだ!それでは、秋の大戦乱に出された内容と変わらないではないか!」


新西「何を言ってるだと?それはこちらの台詞だ!貴様ら"庶民に取ってはありがたい話"だろうが!そもそも、俺たちの様に選ばれた者に、庶民と同じ報奨なんて不相応なんだよ!」


忍「っ!そんな事……、そもそもそんな奴隷染みた報奨なんて校則違反だ。認める訳には行かない!」


新西「だからこそ、ここで合法にしようとしてるんじゃないか?そうだ上杉校長?この際、上下関係をハッキリさせる校則を作りましょうよ?」


忍「な、なりません校長!新西の要望を通せば、秋の大戦の悲劇が蘇ります!」


新西「何なら、この学園への運営費の援助……。我が新西グループが全面的にお支えしてあげましょう。」


校長「‥‥‥。」


新西の横暴とも言える提案に、上杉校長は腕を組みながら目を閉じていた。


金に物を言わせての賄賂行為に、直人の怒りは頂点に達した。


直人「おのれぇ……、もはや我慢ならない……。」


奏太「もはや、これまでだな。」


晴斗「立つなら今だね。」


直人「あぁ、ん?あれ、刀は?」


リフィル「没収だよ♪」


直人「っ、い、いつの間に。」


晴斗「今の直人に刀なんか持ったせたら、絶対に新西先輩を斬ろうとするだろ?」


直人「っ、た、確かに……。」


直人が新西荒儀を睨んでいる隙に、直人の刀をこっそり回収した晴斗は、そのままリフィルに渡していたのであった。


奏太「…まだ新西先輩を斬ろうとしてたのか?全く、今は話し合いで終わらせろっての。」


直人「うぐっ、気をつけるよ……。」


晴斗「それじゃあ、行きましょうかね。本当の論議を……。」


三年生を中心に議論の声が上がる中、二年三組の代表者三人は、一斉にその場から立ち上がった。


すると、二年一組でも、直人と同様に我慢していた桃馬も続いて立ち上がった。


桃馬「……っ、待ってたぜ。おーい、ギール!京骨!」


ギール「おうよ!」


京骨「はぁ、やっぱりこうなったか。」


こうして、二学年から六人もの生徒たちが立ち上がり、上杉校長の前に座り込んだ。


新西「何だ二年生、まさか歯向かう気か?」


直人「新西先輩、少し静かにして貰えますか?」


新西「ちっ、まあいいだろう。傀儡にした時が楽しみだな。」


"御前会議和室の間"の空気は、既に殺伐とした空気と化しており、一部では斬り合いに発展しそうな感じであった。


三年生に歯向かう六人の登場に、目を閉じていた上杉校長は目を開いた。


校長「ふむっ、やはり君たちか。」


桃馬「はい、失礼ながら上杉校長先生に、軍編成についてお願い申し上げる。‥ただいまより、我ら二年一、二、三、四組は、三年一組と同盟を結ばせてもらいます。」


忍「っ、と、桃馬くん!?し、しかしそれでは、新西が望む東西戦に……。」


桃馬「構いません。これは予想していた事ですからね。」


ギール「どのみち、手を組まない限り負けが確定しているのなら、同盟を結んだ方が良いからな。」


京骨「東西戦を勝つためには、ある程度の人数も必要ですからね。とは言え、俺のルシアを傀儡にするなど、誰であろうと許しません……。新西先輩には悪いですが、叩きのめしてやりますよ。」


直人「再び伸びた鼻をへし折って、今度こそ二度と威張れない様にしてやりますよ。」


晴斗「風紀どころか、社会性を乱しかねない校則改正は、愚かな極みなりってね。俺の知恵で良ければ力になりますよ。」


奏太「二年三組、四天王の力を見せてやりますよ。」


勇敢な六人の姿に、 忍は深く感激した。


忍「あ、ありがとうみんな、本当に心強いよ。桃馬くん、ビールくん、東骨とうこつくん、直人ちょくとくん、春巻はるまきくん、かなでくん。」


被害者男子(五人)「おーい!間違えてるぞ!」


良い雰囲気をぶち壊すかの様に、こんな時でも忍は、興味のない人の名前を次々と間違えた。


校長「うむ、申し出の同盟を認めよう。さて、まだ同盟を結んでいないクラスはどうするかな?」


時奈「三年三組も三年一組に賛同します。」


二年生の勇姿に続いて、三年三組に在席している生徒会長の新潟あらがた時奈ときなも、三年一組への参戦を希望した。


新西「生徒会長?あなたにその様な決定権はないはずですよ?あくまで生徒会は主催者枠。ルールは決めれても、クラス方針への関与はできないと思いますが?」


時奈「クスッ……ふっふっ。」


新西「んっ、何がおかしい?」


時奈「あなたは、二月の生徒総会に出てなかったのかしら?」


新西「なに?」


?「……っ、新西……新西!」


話が噛み合わない中、そこへローブを着たメガネ男子が、慌てて新西に駆け寄って来た。


新西「なんだ、メルク?」


メルク「なんだじゃないよ。二ヶ月前の生徒総会を忘れたのか!?」


新西「一体何の事だ?」


メルク「まさか、聞いてなかったのか!?大戦乱祭の改正案で、校長の許可を得られれば、生徒会も参戦できる案が承認されただろ!?」


新西「っ、だ、だからどうした?そんなの、上杉校長が許可しなければ意味はないさ。」


メルク「この空気で良くそんな事が言えるな!?絶対許可するに決まってるだろ!?」


メルクの言う通り、上杉校長は躊躇ちゅうちょする事なくこれを許可しようとした。


校長「‥ふっ、人生は壁があるからこそ面白いものだ。生徒会長、新潟時奈くんの参加を許可する。また、これは私からの意見だが、報奨について"新西くんの意見"と通例にしている報奨と比べて、大きな差がある様に見える。これはまた、平等とは言えないと私は思う。」


新西「上杉校長、それはどう言う意味でしょうか?」


校長「新西くんは、"平等求めて"この案を唱えた訳だ。」


新西「えぇ、確かに言いましたが……。」


校長「それなら、新西くんが要望した案と同等な案を他にも用意しないといけないと思わないか?」


新西「まさか、庶民には学食費用免除だけで、釣り合っていると思いますが?」


校長「いいや、釣り合わないさ。確か新西くんは、"これは庶民に取ってありがたい話"であると言っていたが、私から言わせてもらえば、相手に屈辱を与えてさげすむ行為。もはや人権侵害であると思うぞ?


新西「っ、な、人件侵害とは、酷い捉え方ですね?俺はただ、身分の格差をハッキリ付けて、本来あるべき品を重んじたいだけですよ?」


校長「なら、その品のやり方を詳しく言ってみよ。」


新西「はい、そもそも俺たち選ばれた者たちは、庶民とは違い生まれ持った勝ち組のレールを歩いているのです。勝ち組たる強者は弱者を束ねて更なる高みを目指して邁進まいしんする。対して弱者は、強者に黙って従い命ある限り主人に尽くす。強き者は栄え、弱き者は身丈にあった日々を送る。これが俺たちが掲げる理想です。」


何とも、生まれ持った勝ち組の世界しか知らない愚かな理想に、上杉校長を始め、これに賛同しない代表者たちは呆れ果てた。


校長「何とも愚かな理想であるな。この際ハッキリ言わせてもらうが、新西くんが言う平等とは、到底平等と言える様な物ではない。」


新西「なっ、なんですと……。」


校長「そもそも、人権を侵害して差別化を図ろうとする時点で、私は到底容認はできない。当然、学園側としても同じである。のう、新西くん……、平等の意味を履き違えてないか?」


新西「っ!?」


突然上杉校長から放たれた強烈な覇気に、思わず新西は身をすくめた。


校長「もし、新西くんが平等を重んじるのなら、仕真会に組していない生徒たちも同じ土俵に立つべきであると私は思うがどうじゃ?目には目を、歯には歯を、人権には人権を……。新西くんたちにその覚悟はあるか?」


メルク「そ、そうであれば少し考えさせて……。」


新西「ふっ、いいでしょう。それで納得してもらえるのであれば。」


メルク「お、おい!?勝手に言うな!?」


三年二組代表「っ、そうだ新西!?話が違うぞ!」


三年五組代表「血迷ったか!新西!」


新西「ビビってんじゃねぇよ!数では俺たちの方が圧倒的に有利なんだ!俺たちは、去年の無能な先輩たちとは違う。負けるなんてあり得ないんだよ!」


急な方針転換に、先程まで嘲笑あざわらっていた"仕真会"の代表者たちが慌て始めた。


校長「さて、後は三年四組と二年五組かな?」


三年四組代表「意見が分かれていますので、来週までお待ち下さい。」


三条映果「‥‥‥。」


校長「うむ、二組五組はどうかな?」


最後の決断を求められた二年五組。


周囲の代表者から注目を受ける中で、二年五組の代表者である亀田映果は、他二人の代表者と共にパソコンをカタカタと鳴らしながら記事を書いていた。


校長「……こほん、亀田映果さん?」


映果「‥ふぇ?は、はい!」


リフィル「映果ちゃん?六組み付くのか、桃馬たちに付くのか聞かれてるよ?」


映果「あ、ごめんなさい♪じゃあ、桃馬と同じ組でお願いします♪」


どうやら二年五組は、会議に参加せず記者魂を燃やしていた様であった。


校長「さて、これである程度の集計が取れたな。秋に続いて春も東西戦となったが、この一戦で庶民層と貴族層との争いを終結させるゆえ、各代表者の諸君は肝に銘じられよ。」


全代表者「はっ!」


校長「よし、あとは総大将決めだが、仕真会の代表は新西くんとして、そっちの代表は忍くんか、時奈くんのどちらかだな。」


時奈「私は三年一組に賛同した身です。代表は忍に任せたいと思います。忍もそれでよいな?」


忍「ふっ、あぁ、一世一代の舞台に華を飾ってやろうではないか!」


結局、春の大戦乱祭は、去年の秋に引き続き東西戦と決まった。


開戦まで一ヶ月、本案件の情報は開戦まで代表者以外に漏らす事は厳禁とされ、各生徒たちは開戦まで仲良く過ごすのであった。

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