第31話 ゴールデンウィーク会議

春の大戦乱祭の御前会議から二週間が経過した。


河川敷に咲いていた桜の花弁はなびらは、既に散り始め、青々とした葉っぱが顔を出し始めたこの頃。


春桜学園の生徒たちは、春の大戦乱祭開幕の前に訪れる、五月の大型連休の事で大いに盛り上がっていた。


異世界へおもむいて異世界ライフを満喫するか、それとも好きな人と一緒にデートをするなど、意見は多種多様であった。


中でも衝撃的なのが、サキュバス層を中心に唱えられている、男子生徒狩りを始め、彼氏への調教、色んな意味を込められた耐久戦など、かなり物騒な計画を企てている生徒が多く居た事であった。


そのため、サキュバスを彼女にしている男子生徒はもちろんの事、彼女が居ない男子生徒たちは、ある意味エサであった。


そんな声を耳にする中で、桃馬を含む四人の男子生徒たちは、二学年棟の屋上にて、大型連休の予定を確認しながら昼休みを過ごしていた。



桃馬「今年のゴールデンウィークは、異世界に籠って順風満帆な異世界ライフを送りたいと思う。」


憲明「おぉ、それはいいな!実は俺もルクステリアの街でのんびり過ごしたいと思ってたんだよ。」


ジェルド「わふっ!?ふ、二人は、ず、ずっとルクステリアの街で過ごす気なのか!?」


桃馬と憲明が、ルクステリアの街で過ごそうと意気込む中、ジェルドは残念そうな表情をしながら、耳と尻尾を"へにゅっ"とさせた。


更にジェルドの手元には、旅行関係のパンフレットを持っており、どうやら現実世界で旅行に出かけたいと思っていた様であった。


桃馬「ま、まあな、今年の休みは五日間もあるんだ。この機を逃したら、今後プライベートで異世界ライフを送れる日が無くなってしまうかもしれないからな。」


ジェルド「わぅ、な、無くなるのは、流石に大袈裟な気がするけど……。」


桃馬「うぅ……、そ、そんな顔で俺を見るなよ!?夏休みにでも埋め合わせしてやるからさ。」


ジェルド「っ、ほ、本当か!?」


ジェルドのつぶらな瞳に呆気なく負けた桃馬は、ここで安易に結んではならない約束をしてしまった。


これにジェルドは、"へにゅっ"とさせた耳と尻尾を直立させると、明るい笑顔を見せながら元気を取り戻した。


ジェルドの様子を察するに、現実世界での旅行を相当楽しみにしていた様だ。


これに対して先を越されたと思ったギールは、負けじとゴールデンウィークを異世界で過ごそうとする桃馬に対して一つの提案を持ちかけた。


ギール「ふっふっ、桃馬と憲明が休みの間ずっと異世界で過ごすなら、ある意味調度いいな。」


桃馬「ん?どう言う意味だギール?」


ギール「ふふ〜ん♪もしよかったら、俺の生まれた里にでも来てみないか?」


ジェルド「なっ!?」


桃馬「えっ?ギールの生まれた里に…ごくり、いいのか?」


憲明「おお〜!それは良い話じゃないか♪」


ギールの意見に興味を持ち始める桃馬と憲明は、ジェルドの旅行話よりギールの案に食い気味になった。


これにジェルドは、現実世界での旅行を夏休みにお預けされたとは言え、自分の提案よりもあっさり応じられてしまったギールの提案に対して、いつもの対抗心が芽生えてしまった。


ジェルド「わふぅ……、ギールの意見は乗るんだな。」


桃馬「っ、そ、そんな風に言うなよジェルド?"国内旅行"は、夏休みにするって言っただろ?」


ジェルド「で、でも……わふぅ、せっかく調べたのに……。」


今にも捨てられそうな表情をするジェルドは、"シュン"と気を落としながら調べた苦労をボソッと呟いた。


ジェルドの嫉妬は、時によって反則である。


桃馬「っ、な、なら、手に持っているパンフレットを見せてみろよ。」


ジェルド「っ、う、うん。」


桃馬の要求に、ジェルドは断る事なく、スっとパンフレットを差し出した。


桃馬「えーっと、どれどれ……、ん、関東地区の旅行パンフレットか。」


桃馬自信、どうせ録でもないプランを練っていると予想はしていたが、実際中身を見てみると、メモ用紙にびっしりと細かく書かれた旅の詳細と、マーカーでポイントを抑えられたパンフレットのページがあった。


桃馬「こ、これ…、まさか一人でまとめたのか!?」


ジェルド「う、うん、実は俺、一度でいいからみんなと色んな所に行ってみたくてさ……、その……温泉とか、テーマパークとか。」


ジェルドは、可愛らしく"体をもじもじ"させては、らしくない弱々しい声で本音を明かした。


現実世界への好奇心に圧倒された桃馬は、思わず言葉を失い、パンフレットの中身を"ちらり"と見て来た憲明とギールも、その本気の姿勢に思わず言葉を失った。


桃馬としては、異世界に籠るなどと言っておきながら、ジェルドの熱意に負けそうであった。


桃馬「こ、こほん。ま、まあ、金銭面を見れば、ジェルドの案を取った方がいいかもな~。」


憲明「えぇ!?きゅ、急にどうした桃馬!?」


桃馬の急な方向展開に驚いた憲明は、桃馬の肩に腕を伸ばすなり、ヒソヒソ話をした。


桃馬「すまん、憲明。ジェルドが可愛くて仕方ないんだ。異世界に行くのは、また今度にするよ‥。」


憲明「はぁ、桃馬は本当にジェルドが好きだよな?もうこの際だから心身を委ねたらどうだ?」


桃馬「そ、そんな危険な事をする訳ないだろ!?そ、それより憲明は、ギールと一緒に行くのかよ?」


憲明「うーん、それも良いけど、桃馬と一緒に居られないストレスから寝込みを襲われたくないしな〜、ここはジェルド案に乗り換え様かな。」


桃馬「この際、駄犬に狙われる恐怖を経験したらどうだ?」


憲明「ふっ、それは嫌だね。」


ギール「おいこら、二人で何ヒソヒソしながら話してるんだよ?」


二人の怪しいヒソヒソ話を気にしたギールは、足早に桃馬の背後を取った。


桃馬「あっ、すまないギール。えっと、ギールには悪いんだけど、やっぱり今回はジェルドの提案を優先してもいいかな?」


ギール「っ、そ、そうか。まあ仕方ないよな。あそこまでびっしり計画を練られてたら、俺だって気が引けてしまうからな。」


ジェルドのパンフレットを見たギールでも、流石に強気に誘えなかった。


ジェルド「わぅ……、三人とも良いのか?」


桃馬「あっ、あぁ〜、大丈夫だよ♪異世界ライフは、夏休みでも出来るからね。」


ギール「まあ、桃馬を里に連れて行くなんて、土日でも出来るからな。」


憲明「それより、旅行の行き先の候補はあるのか?まさか、パンフレットに書いてある全部じゃないよな?」


ジェルド「こ、候補はあるんだ。テーマパーク重視なら、東京にある"ヒネズミーアイランドG"の日帰りか、観光とテーマパーク両立した一泊二日の旅か、それとも温泉旅行重視なら群馬の草津とかかな?」


憲明「へ〜、結構絞り込んだな。」


桃馬「うーん、金銭目を考えるなら群馬の草津かな?」


憲明「草津か〜、悪くないけど、あの山道は酔うからな〜。」


ギール「く、草津って、あのテレビとかでよく見る温泉地の事か?」


桃馬「そうそう、日本では結構有名な温泉街だよ。」


憲明「俺も昔行った事あるけど、あのグネグネとした山道が辛いんだよな〜。」


ギール「〜っ、俺もそこに行ってみたい!」


目を輝かせながら尻尾を振り出すギールは、どうやらテレビの影響で一度は行って見たかった様であった。


桃馬「そ、それにしても意外だな?ギールが温泉街に興味があるなんてな。」


ギール「興味があるも何も、俺の生まれた里の周辺は温泉地だからな〜♪ちなみにジェルドの生まれた里も同じ源泉を引っ張っているぞ?」


桃馬「そ、それは凄いな?っ、そうか、だからギールとジェルドの毛は上質なのか。」


ギール「わふぅ♪正解だ♪」


ジェルド「でも、源泉は同じでも里によっては、薬草を入れたりしてるから、里によって効能が異なるけどな。」


何とも羨ましい二人の背景に、桃馬と憲明は少し羨んでいた。


桃馬「うーん。(二人の里の温泉地か。凄く気になるけど、まさか混浴じゃないよな。)」


憲明「ごくり。(二人の里に行けば、沢山の獣耳ショタたちが、全裸の姿で無邪気に走り回ったり、泳いだりしてるのかな。)」


二人が異世界の温泉から連想される背景を描いている中、ジェルドは話しを進めた。


ジェルド「三人が草津で良いなら、小頼たちも誘って見るか?」


桃馬「あ、そうだった。桜華の意見も聞かないとな。」


憲明「俺もリフィルに言わないとな。もし、ダメなら話がまた変わるからな。」


ギール「……。(シャルとディノは、絶対行きたがるだろうな。)」


連休の方針が決まった桃馬たちは、急いで二年一組の教室へと向かった。



その頃、二年一組の教室では。



シャル&ディノ「ごーるでんうぃーく??」


異世界から来たばかりの二人は、聞いた事のない言葉にキョトンとしていた。


小頼「そうそう、春の大型連休の事だよ♪」


リフィル「今年は五日間だからね〜♪どこに行ってみようかな〜♪」


桜華「ご、ゴールデンウィーク…、〜〜っ///。わ、私!ゴールデンウィークと言う特別な日に、どこかにお出かけるすのが夢でした!」


リフィル「ふぇ!?桜華ちゃん、ゴールデンウィークでも桜から出られなかったの!?」


桜華「い、いえ、出れなかったと言うよりも行けなかったと言えば良いでしょうか。」


小頼「それって、河川敷の桜の関係?」


桜華「うん、リフィルちゃんには分かると思うけど、私の様な木の精霊が、御神木から離れると御神木を中心に枯れ始めてしまいます。」


リフィル「えぇ、確かにそうだけど、それでも、力のある精霊なら数日空けても直ぐには枯れないけどね?」


桜華「そうです。本来ならお母様が居てくれれば心配は無いのですが…、そのお母様は、私が幼い時に亡くなりました。」


小頼&リフィル「っ!?」


何気のない話かと思った矢先、突然重い話に変わると、小頼とリフィルは驚愕のあまり言葉を失った。


するとそこへ、話を途切らせてはならぬと思ったシャルが、怯むことなく桜華に尋ねた。


シャル「ふむぅ、桜華は母上が亡くなられてから、さぞ苦労したのだな?」


桜華「苦労と言えばそうかもしれませんね。実際、引退間近のおばあちゃんの力になりたいために、一緒に精霊としての力を磨きましたからね。」


シャル「うむうむ、桜華は偉いのだ。お祖母様のために力を磨こうとするとは、並の者ではしないのだ。」


桜華「シャルちゃん……。」


シャル「桜華の努力は本物なのだ。そうでなければ、今ここにいる桜華はいないのだからな♪」



過去の嫌な記憶に触れてしまい、少し顔色が悪くなった桜華に寄り添ったシャルは、桜華の生い立ちを称賛しながら頭を撫でた。


これには桜華も堪らず、涙腺を刺激しては瞳に涙を溜め込んだ。


桜華「うぅ〜、ふぇ〜ん!」


シャル「よしよし、桜華は偉いのだ〜♪」


一人の幼女に慰められ、思わず泣いてしまった桜華の姿に、小頼とリフィルは、如何に桜華を褒めてくれる人が少なかったのかを理解した。


友達も居なければ、自由に遊ぶ事もできない。


唯一、桜華が話せるおばあちゃんであっても、引退間近に迫った最後の家族である。


そのため桜華は、大好きなおばあちゃんのために、精霊としての力を磨き、どんなに辛い時でも弱音を吐かず、嘘と見栄と言う粗悪なセメントで、空いた心を塞ぎながら我慢して来ていたのだと……。



小頼「お、桜華ちゃんごめんよ!?嫌な記憶を思い出させてしまったね。」


リフィル「あわわ!?な、泣かないで桜華ちゃん!?」


ディノ「はわわ!?ど、どど、どうしましょう!?」


桜華の泣いている姿に、周囲の同級生たちも何事かと思って詰め寄り始めた。


女子生徒「ど、どうしたの桜華ちゃん!?」


女子生徒「も、もしかして、桃馬に酷い事でもされたの!?」


シャル「うぅん、違うのだ。今の桜華は心に溜まった負の感情を放出しているのだ。」


女子生徒「負の感情?」


シャル「まあ、詮索はしない方が良いのだ。」


リフィル「そ、そうそう、精霊である桜華ちゃんにも苦労があるんだよ〜♪」


女子生徒「そ、そう?じゃあ、下手に囲んだら良くないね。」


女子生徒「みんな〜、桜華ちゃんは大丈夫だから、少しそっとしておこうね?」


説得力があるシャルの言葉に、周囲に群がった同級生たちは、元の位置へと戻った。



それから数分後。


ようやく、桜華の気持ちが落ち着くと、ゴールデンウィークの話を再開させた。


小頼「それでは話を再開させて、今からゴールデンウィーク中の旅行会議を始めま〜す♪」


リフィル「いえ~い♪」


桜華「おっ、おぉ~。」


小頼とリフィルの勢いに釣られた桜華は、無意識に拍手をした。


シャル「ふむ、引き籠もりか。確かにギールは休みの日になると、散歩以外は部屋に籠りっぱなしなのだ。この際に、連れ出して遊びたいのもなのだ。」


ディノ「で、でもシャル様?旅行となればお金が関わりますよ?」


小頼「むふふ、それなら大丈夫よ。」


ディノ「えっ?」


小頼「私たちには、ギルドで稼いだお金があるからね〜♪日本円に換金すれば簡単に資金が得られるわ!」


リフィル「そうそう〜♪でも、一度に換金する金額は決まってるけどね〜♪」


ディノ「そ、それは便利なシステムですね。」


シャル「おお〜♪それなら心配は無いではないか♪」


桜華「そ、そう言えば、ここ最近の部活でかなりの報酬を頂いてましたね。」


小頼「むふふ、この四月で稼げたお金は、軽く見積って五万円くらいじゃないかな?」


桜華「ふぇ!?ご、五万円もですか!?」


リフィル「とは言っても、過酷なクエストを何回か取り組んだ上の五万円だけどね〜。」


小頼「そうそう、この世界の待遇ならまさにブラック企業だけど、異世界で五万円となれば、そこそこ普通の暮らしが出来る金額なんだよね〜。」


桜華「な、何だかそれだと、この世界の皆さんが、続々と向こうの世界に移住してしまいそうですね。」


小頼「まあ、そうする人も中にはいるだろうね。だけど、夢と希望が広がる異世界であっても、不便と感じる点は多いよ?そもそも、電波がないから基本的にネットと電話は使えないし、移動手段だって車はもちろん、電車の様な鉄道もないからね。」


リフィル「そうそう、それに一部の家電は、魔力で使える様になっているけど、未だに使えないのも多いからね?」


桜華「な、何だか、一方にメリットとデメリットがかたよらない様になっている感じがしますね。」


小頼「そうなんだよね〜。今の現状を例えるならお互いの世界間で、これが使えたら移住したいんだけどな〜みたいな、微妙に一歩が踏み出せない感じだね。」


桜華「な、なるほど。」


何とも分かりやすい説明に、桜華はすんなり納得した。


小頼「こほん、また話が逸れたけど、おそらく今頃ジェルドたちは、異世界に引き籠ろうとするか、家でゲーム三昧するかで、計画を練っているでしょうね。」


リフィル「うんうん、私もそう思います!」


桜華「で、でも、異世界に引き籠るのって、引き籠りって言えるのかな?」


小頼「ノンノン、桜華ちゃん♪本会議の目的はね。みんなで楽しむ事に本質があるんだよ~♪」


桜華「……?、と言うと?」


小頼「私たちの様に、健気で可愛い少女だけで旅行に行ったら、間違いなく知らない浮浪者のおじさんに声を掛けられた挙句、路地裏に連れ込まれて襲われちゃうかもしれないでしょ?」


ディノ「えっ?それなら私が…んんっ!?」


リフィル「はーい、何でもないよ〜♪」


女の子に見えて実は男の娘であるディノくんが、強姦対策のボディーガードとして名乗り出ようとしたが、余計な発言を察知したリフィルにより、口を塞がれてしまった。


シャル「な、何をしてるのだ?」


リフィル「うぅん、気にしないでシャルちゃん♪」


小頼「そうだよ〜♪それに旅行をするなら人数が多い方が楽しいよ♪」


シャル「ん〜、確かにそうかもしれなのだ。」


小頼「でしょでしょ〜♪だから今回の旅行は、男子たちも誘ってみんなで楽しむんだよ〜♪」


ディノ「ぷはっ、し、しかし、それならどちらへ向かわれるのですか?」


シャル「っ、うむうむ、余も気になるのだ!」


小頼「よくぞ聞いてくれました!私からの提案としては、手頃な県外旅行として群馬県にある草津温泉に行こうと思います!」


桜華「っ、草津ですか~♪昔一度だけ、おばあちゃんと行きましたが、確かにあそこは良いところですね♪」


リフィル「草津って、よくテレビとかで取り上げられてる温泉地だよね!?」


シャル「‥くさつ?おんせん?」


ディノ「変わった地名ですね?」


聞き覚えのない地名に、シャルとディノは小首を傾げた。


小頼「あ、そうか、魔界では温泉が無いんだったね。」


リフィル「うーん、例えるなら地獄のマグマ地帯かな~♪」


桜華「ふぇ!?あ、ちょっ‥。」


早速リフィルは、嘘の情報を語り始める。


見え透いた嘘ではあるが、この世界の事を知らないシャルとディノは、疑う事なく素直に信じ込んだ。


シャル「な、なんと!?この世界にもそんな所があるのか!?」


ディノ「なるほど、私たち魔族の環境に見合った所なのですね。ですが、どこか名前負けしてる気がしますけど、これも日本風の言い方なのでしょうね。」


完全に信じてしまっている二人の姿に、温泉と言う素晴らしい日本文化が、かなり間違った意味で伝わってしまった事に桜華は焦っていた。


正しく教えてあげようにも、おふざけモードに入っている小頼とリフィルが近くに居ては、すぐに妨害されるなど目に見えていた。


ツッコミ役の桃馬がいない今、今の状況を正せるのは桜華だけであった。


がしかし……。


小頼「桜華ちゃんどうしたの?」


桜華「ふぇ!?あ、えっと、その……な、何でもないよ♪」


タイミングを見計らい過ぎた桜華は、不意に小頼から声を掛けられしまった事で、思わず一歩退いてしまった。


桜華(うぅ〜、何やってるのよ私は〜!?これじゃあ、シャルちゃんとディノくんに、本当の事を教えられないじゃないの〜!)


思わず一歩退いてしまった以上、今更本当の事を伝えにくい桜華は、心の中で自分の失態を反省した。



するとそこへ、そんな桜華のピンチを察してか、屋上組の桃馬たちが戻って来た。


桃馬「おっ、ちょうどいい所に揃っているな?」


桜華「あっ、桃馬‥。」


小頼「いや~♪桃馬たちもちょうどいい所に〜♪今ゴールデンウィークの話をしててね。みんなで旅行に行くのはどうかな〜って話をしてたんだよ♪」


桃馬「おぉ、それなら俺たちも考えていたよ。んで、そっちの意見は?」


小頼「ふっふぅ〜、聞いて驚け!私たちは群馬県の草津を提案するぞ!」


まさかの意見の一致であった。


桃馬たち四人は、体に盗聴機でも付けられているのではないかと思い、体のあちこちを触り始める。


小頼「何してるの?」


桃馬「えっ、あ、いや、こほん、実は俺たちも草津がいいかなって。」


桜華「桃馬たちも草津に決めてたのですか!?」


小頼「おやおや、これは奇遇ですね〜♪」


憲明「……まさかの意見一致とは、盗聴機でも付けられているか思ったよ。」


小頼「いやだな~♪そんなの付けないよ~♪」


リフィル「そうそう♪盗聴機を付けるほど、私たちは変態じゃないよ〜♪」


憲明「……二人とも笑顔で言うと一層怪しいぞ?」


笑顔で身の潔白を訴える小頼とリフィルだが、日頃の行いが祟り、より一層怪しさを出していた。


シャル「桃馬よ、リフィルが言ってたのだが草津とは、地獄のマグマ地帯なのか?」


桃馬「えっ?じ、地獄のま、マグマ?なんだそれは?」


ギール「ぷっ、あははっ!そんな所ある訳ないだろ?そもそも草津は温泉地だぞ?」


シャル「むっ、なんじゃギール?何がおかしいのだ?」


ディノ「ふぇ、違うのですか?」


桜華「〜っ。(はわわ!?ど、どうしよう〜。シャルちゃんが恥をかいちゃうよ〜!?)」


シャルの間違った発言に、思わず笑い出すギールに、桜華は嫌な予感を感じていた。


ギール「その様子だと小頼か、リフィルに騙されたな?」


リフィル「むぅ、失礼だな〜?魔界には温泉が無いでしょ?だから、私が例えで教えてあげたんだよ?」


ギール「それにしても誇張し過ぎだろ?普通なら広いお風呂だろ?」


リフィル「あっ。」


ギール「おいおい、マジかよ……。」


小頼「うーん、た、確かに。」


リフィル「あ、あはは〜。」


魔界のイメージが強過ぎるあまり、簡単な言い回しに気づけなかった二人は、お互いの顔を見るなり苦笑いをした。


シャル「広いお風呂?そこにマグマが流し込まれているのか?」


ギール「そんな訳ないだろ?普通に熱いお湯が張ってるんだよ。まあ、イメージするなら〜、そうだな。うん、家の風呂場を広くした物と思えば良いさ。」


ディノ「と言う事は、沢山の人がその温泉に入るのですか?」


ギール「そうそう、ディノは賢いな。」


ディノ「んん〜っ、みんなの前で頭を撫でられるのは恥ずかしいよ。」


シャル「ふがぁ〜!また、ディノを贔屓ひいきにしたのだ!かぶっ!」


相も変わらずディノに甘いギールに、妹として嫉妬したシャルは、今回も迷わず尻尾に噛み付いた。


ギール「いてて!?ばか、やめろ!」


ジェルド「愛されてるなギール?それより、噛まれた時の反応が段々弱くなってるけど、もしかして噛まれるのに慣れたか?」


ギール「うるせぇ!?見てないで剥がすの手伝えよ!?」


ジェルド「はぁ、仕方ないな。ほらシャル?大人しくギールから離れろ。」


シャル「っ!?なっ、ジェルド!?うわっ!?な、何するのだ離せえ〜!?」


まさかのジェルドに両脇を抱えられて驚いたシャルは、思わず噛み付いた尻尾から口を離してしまい、そのままギールから引き剥がされてしまった。


本来ジェルドに取って、ギールを助けるのは本意では無いが、旅行の一件で自分の意見を酌んでくれた事もあり、黙って助けない訳には行かなかったのであった。



その後、ゴールデンウィークと旅行のプランが定まり、前半の二日間を草津旅行、後半の三日の内、二日間を異世界の観光、最終日の一日は各々の自由となった。


ジャーナリストXの存在に気づかずに……。

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