第18話 カオスです。

忘れ去り

混沌渦巻く

支配者の

名をば古人こじん

信じぬ民草たみくさ


意気揚々と部室のゲートから異世界入りした異種交流会の一行は、新入部員のギルド申請のため、活動拠点である"ルクステリア"の街へと向かった。


ルクステリアの街は、昔から駆け出し冒険者の街として知られており、当時から種族関係なく迎えていた事から、またの名を"はじまりの街"とも言われていた。


その由来もあってか、ルクステリアの街にある"現実世界と異世界を繋ぐゲート"が、内外合わせて百五十箇所ほど確認されている。


中には異種交流会の様に、ゲートを作り上げてしまう天才は居たが、基本的には賢者並みの魔力と繊細なセンスがない限り、簡易的なゲートを開く事は出来ても、永久的に残すのは難しいだろう。



永久的に残っているゲートの種類は様々だが、異種交流会の様に、木造小屋の中に組み込んだゲート。


シンプルに石を積み上げて内側を四角形に囲んだゲート。


ほぼ扉と変わらず、"開けたら異世界です"。見たいな、如何にも"青いタヌキ"が股から出して来そうな"モノ"など、本当に様々である。




ルクステリアの街に住む人や活動している人たちは、昔から多種族共存と言う事もあり、個性豊かな人々が活動していた。


例えば、


全身無防備な上、"杉の枝"一本で縛りプレイをしている"パンイチ"変態イケメン。


駆け出しを卒業して冒険に出たのは良いが、"この街"より楽しくないと言う理由で戻ってきた自称勇者。


魚釣りを極めて過ぎた結果、気配を消したまま瞬時に相手を斬り殺す"無心斬り"を会得した爺さん。


魔族と駆け落ちした元貴族。


元魔王軍幹部と"エルンスト国"の元騎士団長。


そして亜種族に蹂躙され、復讐に燃える者たちなどである。


※エルンスト国とは、ルクステリアを統括している大国である。すなわち、ルクステリアの街は、エルンスト国の領地の一部である。



そんな個性豊かな人々が住む街の中に、異種交流会の一行が目指すギルドがある。しかもそのギルドは、数あるギルドの中でも、最も愉快であり、最も危険なギルドとして名を馳(は)せていた。


そのギルドの名は、"カオス"。



少々物騒なギルド名ではあるが、この街の雰囲気を見れば、何故か不思議と納得してしまう様なギルド名である。



そんな個性が強いギルドに、今から異種交流会に所属する四人の新入部員たちが、ギルド申請をするのであった。


しかし、一つ不安な事があり、それはシャルの申請時に脅威的なステータスが出てしまうのではないかと言う一時の不安であった。


魔力を失い、魔王としての力すら使えないシャルであっても、中身は魔王だ。どんなステータスが出てしまうのか、気が気ではなかった。



そんな不安が募る中で桃馬たちが見守っていると、事情も知らずに申請準備を終えた、"カオスギルド"の受付嬢である"シシリー"が、新入部員の四人に対して、申請についての説明を始めた。



エルフ族に負けず劣らずのサラサラとした金髪を持ち合わせており、背中まで伸びた髪が左右に揺れると爽やかな香りが鼻腔をくすぐらせた。


更に、細身のスレンダー体型のためか、両肩と首回りを露出させ、体のラインを強調させる様な制服を着ていた。


スレンダー体型のため胸の谷間は見えないが、それでも制服越しから"プクッ"と膨らんだ綺麗な胸は、ちょうど掌サイズに収まる程の大きさのため、逆にエロさを引き立たせていた。



ここで小話。

これは噂なのですが、実はシシリーには既に好きな男性が居る様なのですが、その相手の正体がギルド内でも謎になっおり、七不思議レベルで考察が練られています。


一部では勘違いとか囁かれますが、時折もの凄く幸せそうな表情をする日がある事から、絶対に居るとされています。


有力な情報として三年前にシシリーは、とある盗賊に捕まった事があり、その時に"たまたま"通りかかった若い男に助けられた事があるそうで、ギルド内ではその相手が"意中の恋仲"の相手ではないかと思われている。



話は戻し……。


ギルド申請について簡単な説明を終えると、早速シシリーは、名簿表を手にして進行を進めた。


シシリー「一通りの説明は以上ですね。それでは、えーっと、最初は桜華さんですね。すみませんが、この水晶に手をかざして見てください♪」


桜華「は、はい。」


最初は、比較的に安全と思われる桜華からであった。


シシリーから名前を呼ばれた桜華は、そのまま"個人のステータス値"を測定する特殊な水晶に手をかざした。



すると、思いもよらぬ結果が出てしまった。



水晶から出されたステータス値は、一般の初心者ステータスを余裕で超え、ギルドランク序列、SSS~Gランクの中で、桜華は既に特Aランクのステータスを持っていた。


※振り分け

SSS、SS、S、特A、A、B、C、D、E、F、G、となる、十一ランク分けられている。


一般でも高くてDランク、初期ステータスの高い魔族でも、過去最高はBランクスタートである。


そのためシシリーは、初めて見る結果に思わず声を出して驚いてしまう。


シシリー「は、はわわ、と、特A!?」


シシリーの特Aと言う言葉に、異種交流会を始め、周囲のギルドメンバーを驚かせた。特に古参でもある元魔王軍幹部は、飲んでいた酒を勢い良く吹いた程であった。



しかし、よくよく考えて見れば心当たりがあった。


一つは、桜華が聖霊であること。


二つは、昨日の部活で暴走していたディノに対して、本気で対峙した結果、桜華のステータスが跳ね上がった可能性。


どちらを取っても、納得が行く可能性であった。



この凄い結果に、よく分かっていない桜華は、後ろを振り向くなりアドバイスを求めた。


桜華「えっと、いきなり高い数値なのは良いのですけど……。こ、これからどうすれば良いのでしょうか。」


吉田「う、うーん……、特Aなら何でもなれるな。」


シシリー「と、とりあえず、賢者、パラディン、ソードマスターなど、上級職になれますね。」


桜華「上級職……、うーん、桃馬は何が良いと思う?」


桃馬「えっ?あ、そ、そうだな、桜華に合う職か。」


桜華「ちなみに桃馬はどんな職なの?」


桃馬「俺?お、俺は、初期の冒険者だよ。」


桜華「あ、じゃあ私も冒険者で♪」


桃馬「ぶっ!?な、何言ってるんだ!?」


恩恵付きの上級職を蹴ろうとする桜華に、桃馬に続いて周囲も動揺しながら驚愕した。


ランクから見て変更は出来るとしても、上級職じゃなく、初期の冒険者を選ぶとは到底信じられなかった。


シシリー「え、えーっと、一応桜華さんのランクなら後日変更もできますが、本当に冒険者で良いのですか?不便な点は多いですよ?」


桜華「それなら、余計冒険者の方がいいですよ。いきなり上級職では面白味にかけますからね。それに、チート行為はあまり好きではありませんので♪」


上級職と言う誘惑を跳ね除け、意外にも説得力のある桜華の言葉に、ギルド中が拍手喝采となった。


初心を忘れかけた者、感心する者、多くの思いが賛同した。


そのため、ギルド内では、「よく言った嬢ちゃん!」、「それこそ冒険者だ!」などの称賛の声が響き渡った。


桜華「あ、あの、えっと、えへへ〜。」


桃馬「…桜華。(お、落ち着け俺、ここで抱きついたら、理性がおかしくなるぞ。)」


最初から近道はせず、敢えて正規の道を進もうとする桜華の姿に、桃馬の心は射抜かれてしまい、今すぐにでも抱きつきたい思いを抑えていた。


周囲の歓声が鳴り止まぬ中、次に水晶に触れたのは、不安の種であった元魔王のシャルであった。


シャル「ふっ、桜華でそれくらいのステータス値が出るなら、余はその上を行くのだ!」


自信満々に計測するシャルの姿に、異種交流会は不安になりながらも見守った。


元魔王とは言え、もしかしたら桜華を越えるステータスが出てしまう可能性だってある。


そうなれば、シャルが大昔の魔王である事を証明すると共に、カオスギルドはパニックになるだろう。


そのため、終始"そわそわ"しているギールを始め、異種交流会に大きな緊張が走っていた。


シャル「おぉ!キタキター!」


シシリー「えっと、っ、こ、これは!?」


桜華に続いて、再びシシリーの反応が大きく出た。


これには吉田先生も、"あ、まずい"と顔に出ていた。


その時、ギールが前に出てシシリーに言い寄った。


ギール「シシリーさん、えっと、これはその、きっと、何かの間違えだよ。」


シシリー「え、えぇ、そ、そうね。こんなステータスを見るのは初めてだから……。」


シャル「おぉ!と言うことは余のステータスは天にも届いている訳だな。」


手応えのあるシシリーの反応に、シャルは上機嫌であった。


シシリー「ご、ご覧になられますか?」


シャル「もちろんなのだ!余の素晴らしい栄光(ステータス)を見せてもらおうではないか!なんなら、全員に見せてもよいのだ!」


シシリー「えっ、ぜ、全員にですか?ほ、本当によろしいですか?」


シャル「うむ!見せるのだ!」


シシリーの表情は、不自然に引きつっていた。


どうやら、相当引くくらいやばいステータスの様だ。


シシリーは、シャルに言われるがまま、ステータスを公表しようと準備を進めた。


当然、その場の全員がシャルのステータスに注目する。


ピンポーン。


インターホンのような音と共に、モニターからシャルのステータスが掲示される。そして、誰もが驚愕し言葉を失った。


シャル・イヴェルア

ランクG

攻撃10

防御10

素早さ500

知能500

魔術0 皆無

魔防0 皆無

運50


ギール「はっ?」


かばおうとしたギールも思わず声が漏れた。


更に、先程まで盛り上がっていたギルド内であったが、類を見ないステータス値に、一瞬で沈黙の渦に呑み込まれた。


シャル「……なぁ、シシリーとやら?これはすごいのか?」


恐らく分かってはいるとは思うが、シャルは表情を曇らせながら、シシリーに問いかけた。


これにシシリーは、目を逸らして申し訳なさそうに答えた。


シシリー「え、えっと、その〜、か、かなり特殊なステータスとなっていますね。」


シャル「うんうん、それで総合的には……?」


シシリー「っ、ぎ、ギルド史上……最弱です。」


この一言で、シャルは一瞬固まった。


最弱……?この余が最弱??


余は魔王だぞ?


魔術は使えなくても、これは流石に酷過ぎる気がするぞ?


どうして戦いに役に立たない、素早さと知能だけ高いのだ?



この様にシャルの頭の中は大混乱していた。


思っていた結果と真逆な結果に言葉が出なかった。


周囲も笑う所か、同情の余り哀れみの眼差しを向けていた。


ディノ「しゃ、シャル様……。」


シャル「よ、よいディノ……。よ、余は……、少し悪い夢を見てる様だ。そ、それに見よ、知能と素早さを、凄く高いではないか……、そ、そうなのだ。最弱なのは気のせいだ。」


シシリー「えっ、えっと、申し上げにくいのですが、シャルさんが特化してるのは、確かに戦闘では役に立ちません。強いて言えば、回避能力に特化してるくらいで……。」


シャル「……と言う事は、逃げるだけの博識と言う事なのか?」


シャル「うぅ、えっと、酷く言えば……。」


シャル「……。」


とうとうシャルは言葉を失い、完全に固まった。


そして隣にいるギールは、シャルのステータスに納得していた。


ギール「うーん、あながち間違いではないな。」


ギールの一言が耳に届いたのか。


完全に固まったシャルが、瞬時に反応する。


シャル「な、なんだと!?」


ギール「だ、だってよ?今日の"学園生活"を見たら的確に当てはまるからさ。」


シャル「学園生活だと!?」


リフィル「学園生活……あぁ~、なるほどね。」


ギールのなぞなぞ見たいな発言に、同じクラスのリフィルは気づいた様だ。


シャル「り、リフィルは、分かったのか!?」


リフィル「う、うん、確かに学園生活と類似してるかも。」


シャル「学園生活……ディノ!お主はどう思う!」


ディノ「ふぇ!?あ、それは、その……うぅ。」


言いづらいのか、ディノは苦しい表情をしながら頷いた。


シャル「な、なんと……。」


ギール「勉強はぶっちぎりだけど、体育は人並み、そして幼稚な性格。」


シャル「なっ、ま、まさか…、それだけの理由で……って、幼稚とは何じゃ!?」


ギール「そうやって、直ぐに怒るところだよ!もっと簡単に言えば、鬼ごっこ、俺の耳を噛じる幼稚なところだよ!」


シャル「うぐっ、う、うそじゃ、余は"魔王"シャル・イヴェルアだぞ!こんなのおかしいのだ〜!?」


ギール「ば、ばか!?何言ってるんだ!?」


突然の爆弾発言に、ギールを始めとする異種交流会のメンバーは、肝を冷やして誤魔化そうとする。


しかしそこへ、"カオスギルド"の古参である元魔王軍幹部とエルンスト国の元騎士団長の屈強な老人が声を掛けて来た。


元魔王幹部「はっはっ、嬢ちゃん、嘘はいけないぞ?俺はこれでも元魔王様の幹部だが、君の様な魔王様の肖像画は見た事ないぞ?」


元騎士団長「ほう、そうなのか"ランドルク"?まあ、今のご時世、魔王に憧れる子供も多いからな。」


シャル「な、なんと…、誰も信じぬのか!?」


意外にも冷めた反応に、シャルも困惑する。


それもそうだろう。


今のシャルの幼稚な姿は、当時の魔王"シャル・イヴェルア"の高貴な姿と比べて、似ても似つかないのだから……。


シャル「よ、余はシャル・イヴェルアであるぞ!」


高貴な魔王と言っても信じて貰えず、終いには子供扱いされる始末。しかしシャルは、負けじと魔王"シャル・イヴェルア"と名乗って訴え続けた。


がしかし……。


ランドルク「おぉ、あの雲隠れした魔王の名を出すとは渋いな~♪」


シャル「なっ!?だ、だから余は本物だと言って……。」


ランドルク「それなら、左手の甲に刻印があるはずだが?」


シャル「おぉ!それなのだ!見よこれが余の刻印なのだ!」


元魔王軍幹部のランドルクに指摘され、大切な証を思い出したシャルは、勝ち誇った笑みを浮かべながら堂々と左手の甲を突き出した。


元魔王幹部「ほぅ、これは"なかなか"。」


シャル「むふぅ、どうだ!余を見直したか?」


ギール「っ、お、おい、シャル……。」


シャルの左手の甲を見ていたギールは、少し驚きながらシャルに声を掛けた。


シャル「どうしたお兄ちゃん?余の高貴な刻印を見て、少しは見直したか?ん?ん〜?」


ギール「…い、いや、左手の甲を見て見ろよ。刻印なんか無いぞ?」


シャル「ん?何を言っておる、そんなはずは……ん?んわっ!?な、ななっ!ない!?」


魔王の証である刻印は、一度刻まれたら一生消える事が無いため、シャルは堂々と自信満々に突き出していた。


しかし実際、左手の甲を見て見ると、あるはずの刻印は無く、そこには傷一つも無い綺麗な柔肌があった。


ランドルク「だぁーはっはっ!面白い娘だな!」


ギール「ランドルクさん、あまり笑わないで下さい。 実はシャル、ふっ、少し痛い子なんです。」


心に一生残る恥をかいてしまったシャルに、一瞬ギールが兄らしくフォローをするかと思われたが、ました顔をしながら普通に裏切った。


当然、この裏切りにシャルは黙ってはいない。


ギールがランドルクと言う、少々"小生意気"な老人に気を取られている隙に、シャルはいつも通り、ギールの"もふもふ"とした尻尾に飛びついては、そのまま噛みついた。


シャル「ふがぁぁ!がぶっ!」


ギール「あぐっ!?ぎゃぁぁ!!?」


犬の弱点である尻尾を噛まれたギールは、今日で一番大きい断末魔の叫びをしながら悶絶した。


桃馬「まあ、自業自得だな……。」


京骨「何か、わざと怒らせてないか?」


憲明「痛覚フェチに目覚めたか…、ふっ、変態め…。」


ジェルド「全く、うるせぇ声だ。お前が突然声を上げるから、エルゼが怯えただろうが!」


エルゼ「うぅ〜。」


ディノ「……弁護ができない。」


男たちはただ、ギールの哀れな姿に悲観的な視線を向けた。


特にジェルドは、毛を逆立て怯える妹を抱き寄せながら、ギールを睨んでいた。




吉田「はいはい、この際ギールとシャルは置いといて、次はディノの番だよ。」


ディノ「は、はい!」


吉田先生の呼び掛けにディノも水晶に手をかざした。


再び来る注目の瞬間。


シシリー「ふむふむ、もう手を離していいですよ♪」


ディノ「あ、は、はい。」


思ったよりやんわりな反応。


もしかして平凡な数値だったのだろうか。


シシリー「えーっと、ステータス値は、防御力が比較的に高い点に置いて、他のステータス値は、平均より少し高い所ですね。えーっと、ランクはDって所ですね。魔族系なら平均的ですし、シールダーとか"おすすめ"しますけど?」


ディノ「えっと、これは絶対に決めないとダメなのでしょうか?」


シシリー「そうですね、もし決まってないのでしたら、冒険者でもいいですよ?気が向けばすぐになれますから。」


ディノ「じゃあ、私も冒険者で……。」


こうしてディノは、シャルと同じ冒険者になった。


ギルドの人たちは、桜華に続いてシールダーの役職を蹴ったディノの姿勢に感心するが、実際ディノとしては、下手な役職について、シャルにひがまれるのが嫌であったため、とにかく、シャルと同等か下であればどちらでも良かったのであった。


桃馬「本当に冒険者でいいか?」


ディノ「え、えぇ、真の強き者は、己自身で切り開くものですからね。」


桃馬「言うね~、まっ、部活のみんなは、吉田先生以外全員冒険者だから、ちょうどいいけどな。」


ディノ「っ、あ、あはは、それを聞くと安心しますね。」


吉田「おいおい、二人ともそれだと、俺が恩恵に甘えている様じゃないか?ちなみに俺は、Fランクの冒険者からランクCまで上げてるんだぞ?」


桃馬「あはは、すみません。」


ディノ「し、失礼しました。」


吉田「ふぅ、よし、次はエルゼかな?おーい、ジェルドちょっといいか?」


ジェルド「っ、は、はい、ほらエルゼ、順番が回って来たよ?」


エルゼ「はぅ、うぅ……。」


エルゼは不安なのか、ジェルドにしがみついたまま、離れようとしない。


こうなったのも、突然大声で断末魔の叫びをしたギールのせいである。


ジェルド「ほ、ほら、エルゼ?何も怖い事はないよ?ただ、水晶に触れるだけだから安心するんだ。」


エルゼ「う、うん。」


ジェルドの後押しもあり、勇気を出してジェルドから離れたエルゼは、不安になりながらも水晶に近づいた。


その弱々しいエルゼの姿は、種族を越えてほっこりとさせた。


シシリー「はい♪エルゼちゃん、水晶に触れて見てください♪」


エルゼ「わ、わふぅ。」


少し手は震えるものの、エルゼは水晶に手を触れた。


シシリー「はい♪お疲れ様♪えっと、どれどれ?ほほ~、これはこれは。」


ジェルド「シシリー、どうかな?」


シシリー「見かけによらず面白いステータスね。」


ジェルド「お、面白い?」


シシリー「えぇ、ステータス値は、攻撃力がやや高い点と、運の方が、初期ステータス平均の十倍ですね。あとは、平均より少し低いですけど、ランクはEと出てますね。」


ジェルド「っ、運が十倍……、初期ステータスの運の平均っていくつなのですか?


シシリー「最近の集計ですと、運の平均は30でしょうか。」


ジェルド「という事は、運が300って事か。〜っ!エルゼ凄いじゃないか~♪初期のステータス値が攻撃と運が高いぞ~♪」


妹の成長が相当嬉しいのか。ジェルドは、エルゼを持ち上げるなり、まるで自分の事の様に喜び始めた。


華奢きゃしゃなエルゼのステータス値でも、攻撃に関しては平均を超えていると言う事に、周囲の人たちは、白狼はくろう族の生まれ持った能力に関心を持っていた。


ランドルク「あ、あの華奢きゃしゃな子がランクEか……。しかも攻撃力は平均よりも上。さすが、白狼はくろう族、見かけだけでかかると痛い目を見るな。」


元騎士団長「ふむふむ、内気な子でも、やる時はやると言う事か。うむぅ、俺の孫が、あんな健気な白狼族と結婚してくれないだろうか。」


ランドルク「はっはっ!今年も面白い子がギルドに入って来てくれて嬉しいな!エルドリックよ。」


エルドリック「あぁ、このギルドもまた大きくなるな。」


エルンスト国の元騎士団長"エルドリック"と元魔王幹部"ランドルク"は、新しく入った四人を祝して勝手に乾杯を始めた。


一方その頃。

ギールから引き剥がされたシャルはと言うと、受付の片隅にうずくまりながら一人で泣いていた。


シャル「うぅ、ひっく、余は…魔王なのに……。」


結局シャルは、誰一人からも魔王として認めて貰えず、魔王に憧れるだけの小さな魔族として扱われてしまった。


挙句の果てに、ギールと喧嘩をしてしまった事で、後悔と悔しさが、"ズタズタ"になってしまった心に、更なる追い討ちをかける事になってしまうのであった。




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