第10話 帰り道は駄犬ところにより親戚

太陽が沈み真っ暗になった下校道。


桃馬たちは、等間隔に設置された街灯の光に照らされながら、ジェルドの背中にしがみついている、白い"もこもこ"としたエルゼに注目していた。


不安そうな表情に、元気のない垂れ下がった尻尾。


これには、可愛い子に飢えている、小頼とリフィルはメロメロであった。


小頼「エルゼちゃん可愛すぎる♪」


リフィル「うんうん!なでなでした〜い♪」


かなりグイグイと迫る二人の魔の手。


おそらく、いや、間違いなく。


エルゼを不安にさせているのは、この二人である。


その証拠に、二人がエルゼの頭を撫でようとすると、エルゼは素早くジェルドの背中に顔を埋めた。


小頼「あぁ~あ、、隠しちゃった。」


ジェルド「うぅ、二人とも、あまりエルゼを怖がらせないでくれよ?」


憲明「うんうん、ジェルドの言う通りだ。人見知りの子に対して、そんなグイグイとしたコミュニケーションだと、逆効果になるぞ?」


リフィル「えぇ~、じゃあどうすれば良いの?」


憲明「こほん、こう言う時はだな。エルゼちゃんの警戒心を解く所からだよ。」


ジェルド「おい、こら憲明、何をする気だ?」


憲明「まぁまぁ、そう警戒するなよ?別に怖がらせようとしてる訳じゃないんだからさ。」


ジェルド「本当か?もし嘘だったら、憲明でも許さないぞ。」


憲明「はいはい、それでもいいよ。」


憲明は、何とかガードの硬いセキュリティをい潜ると、カバンの中から"じゃらし"道具を取り出した。


ジェルドもどんな代物か見るも、至って普通の猫じゃらしであった。


持ち物検査も通った憲明は、早速ジェルドの背中に顔を埋めているエルゼに、猫じゃらしをヒラヒラと振り始めた。


すると、振り始めて数秒後、薄い反応ではあるが、次第にチラ、チラと振り向き始めた。


さすが憲明、小動物、いや、獣の扱いにはなれている。


登校時と下校時に犬や猫と出会えば、五分くらいは遊んでいるこの男。そのテクニックが功を奏してか、エルゼは徐々に顔を出し始める。


これに女子たちは、萌える様な興奮を抑えつつ、感情が漏れそうな時は、両手で口元を押さえ込み我慢していた。


ピクピクと動き出す白い耳、垂れ下がった尻尾は、振り子時計の様に振り始める。


可愛さ度数、計測不能になるほどの破壊力。


まさに、獣族最高、獣族万歳である。


桃馬「‥ジェルド、エルゼちゃんをくれよ。」


ついにエルゼに心を奪われた桃馬は、天敵でもあるジェルドに対して、思わず禁断の台詞を漏らした。


しかし、ジェルドの答えは意外な事であった。


ジェルド「誰が渡すかよ!それより、桃馬には俺がいるだろ!?」


さすがに大切な妹を差し出したり、妹を交渉材料にしてくる程、ジェルドは落ちてはいなかった。


しかし、自分自身を簡単に差し出す気はある様だが、桃馬の答えは既に決まっていた。


桃馬「いやいや、男は入らんから。」


ジェルド「そ、そんな‥、ほ、ほら、桃馬なら、俺の尻尾と耳を好きにして良いんだぞ?触り放題なんだぞ?」


諦めの悪いジェルドは、桃馬にもっと認めてもらおうと、尻尾を"ぶんぶん"と振り始めては、耳をピクピクと動かしながらアピールを始めた。


正直、これだけでも十分に可愛い。


例えるなら、目が黒くて野生で生きる事を忘れた"シベリアハスキー"だ。


だが、こいつは普通の犬とは違う。


普通に二足歩行のケモ耳男子だ、騙されてはいけない。


こいつは、俺のけつに自分のぶっといナニをぶち込んでは、風穴を開けようとしている危険駄犬だ。


絶対に油断と気を許してはいけない男なのだ。


しかし、自分の想いとは異なり、何故か外野からは受け入れてしまえと言う煽りが強い訳で、現に友人にも売られる始末である。


憲明「桃馬も諦めて受け入れたらどうだ?受け入れればエルゼちゃんは義妹になるぞ?」



"じゃらし"道具を振り続け、憲明は心にもない事を口走る。


桃馬「そんな男のプライドを捨ててまで、で、できるか…よ‥くっ、うぐぅ。」


ハッキリ否定したい桃馬であるが、ここで否定をしてしまうと、エルゼの可愛さを否定してしまう様な気がしたため、下唇を噛み締めながら葛藤した。


もし仮に、ジェルドを受け入れれば‥。


エルゼはもふり放題。


しかしその代償は、目の前にいる駄犬の言いなりである。


毎日、口では言えない行為を受け入れ、強要される日々。


やはり、リスクは高い。


リフィル「相変わらず、焦れったいですね。」


小頼「むぅ、そろそろ変化が無いと執筆が遅れちゃうよ〜。」


桜華「や、やっぱり、二人はそういう関係なのですか‥。」


桃馬とジェルドの関係に詳しいリフィルと小頼は、今日も全く進展のない二人に苛立ちを見せる中、清廉潔白な桜華は、桃馬とジェルドの関係に興味を持ち始めた。


これに桃馬は、桜華を悪い方に染めさせないため、急いで弁解に努めた。


桃馬「お、桜華!?これは違う!俺は男なんて興味ないからな!?」


桜華「ふぇ、あ、そ、そうですよね~、わ、わかってますよ♪」


桜華の声に覇気は無く。

これは間違いなく信じていない反応であった。


桃馬は思った。


このままでは、調子に乗ったジェルドに腕を取られて、そのまま家に連れ込まれては、獣化したジェルドに風穴を開けられてしまうだろう。


ジェルド「いいだろ桃馬〜♪ギールより大切にしてやるからよ。」


ジェルドは嫌らしく桃馬のお尻をなで回すと、挑発的な声で耳元に囁いた。


桃馬は思わず鳥肌を立て、ジェルドのペースに流されそうになるも、それでも無駄な抵抗を続けた。


桃馬「そういう問題じゃねぇよ!?お前には小頼がいるだろ!?ず、ズレた二股をかけてんじゃねぇよ!」


ジェルド「ふっ、残念だが、既に小頼は了承しているぞ。むしろ、協力関係にあるくらいだ。」


桃馬「なっ‥こ~よ~り~!」


小頼「っ、もう~、そんな顔しないでよ~♪これは全女子生徒たちの夢なんだから~♪」


桃馬「おい、全女子生徒たちってなんだよ。まさか、学園の女子たち全員が、俺とジェルドの恋愛を望んでるのか!?」


小頼&リフィル「正解~♪」


桃馬の問いに小頼とリフィルが笑顔で答えと、桃馬に恐ろしい緊張が走った。


桃馬「ち‥ちなみにいつから‥。」


信じ難い真実に、桃馬は不安そうに声を震わせた。


小頼「うーん、半年くらい前だったかな。確かあの時は、桃馬とギールが仲良くなって、それに嫉妬したジェルドが張り合う様になって、トウジェル派とトウギル派に分かれたかな。」


嘘偽りのない小頼の返答に桃馬は絶望した。


まさか、半年近くも学園の女子たちから、如何わしい目で見られていたとは夢にも思わなかったのだ。


桃馬「‥あ、あはは‥。」


もはや笑うしかない。


桃馬は、憲明の方を向いて助けを求めた。


しかし憲明は、猫じゃらしに夢中になっているエルゼちゃんに気を取られていた。


これに桃馬は、思わず苦笑いしつつため息をついた。


ジェルド「くくっ、出来るなら今からでも襲いたいところだが、今日はエルゼもいる事だし、特別に我慢してやるよ。」


桃馬「うぐっ、ふっ。でも、これからはずっと、エルゼちゃんと一緒だろ?」


ジェルド「まあ、確かにそうだな。だが、いずれ友達もできて兄離れをするだろう。」


桃馬「…エルゼちゃんが兄離れしても、お前は妹離れができるのか?」


ジェルド「おいおい、俺をシスコン呼ばわりするなよ?」


桃馬「‥本当の事だろ?バイでシスコン、今度はショタでも手を出すのか?」


ジェルド「言ってくれるな‥。もし、桃馬が女になったら、覚悟しろよ。」


桃馬「とうとう、本性を出したなこの駄犬!いや、淫獣が!それに女になるのはお断りだ!」


ジェルド「絶対に桃馬を俺のご主人に‥、いや、物にしてやる。」


桃馬「っ。くっ……。」


ジェルドの一言一言が、桃馬の恐怖心を煽る。


一時的な性転換は今の世の中では不思議ではない。


食事に薬を混ぜたり、魔術で変えたりと方法は様々だ。


それにジェルドは魔術は使えないが、外部からの協力を得れば簡単な事であろう。


そんなやり取りをしていると桜華の家である、桜並木が立ち並ぶ河川敷に着いた。


桃馬「はぁ、えっと、一応河川敷に着いたけど、桜華とはここまでかな?」


桜華「えっ?あ、もう着いたんだ。」


小頼「桜華ちゃんの家って、木の中なの?」


桜華「大体は合ってますね。本来聖霊は肉体を持たない御霊みたまですからね。私の一族は桜の木を依り代にしているので、桜の木に手を置いて、私の御霊を注ぐ事で中に入れます。」


リフィル「そうそう、私の故郷にも聖霊様はいるけど、同じ様に御霊みたまを依り代に宿して、暇さえあれば実態を現して外に出ていたかな。」


小頼「へぇ~♪聖霊様と言っても基本は私たちと変わらないのね。」


聖霊様の基本的な行動原理が、一般の人と変わらない事に小頼は少し安心した。


桃馬「うーん、、ちなみに御霊を注いで中に入るって言ってたけど、実際どうやるんだ?」


桜華「それならこうやって御霊を注げば、ゲートが開くのでこれで帰れますよ♪」


右手を桜の木に向けると、光輝くゲートか開かれた。


しかし桜華は、ゲートをすぐに閉じてしまい、そのまま桃馬に駆け寄った。


桃馬「えっ?何でゲート閉めるの!?」


桜華「えっと、その、桃馬の家に行ってみたいから?」


桃馬「お、俺の家に!?いやいや、それは駄目だよ!」


桜華「ど、どうして?」


桃馬「‥ど、どうしてもだよ。」


何かを隠しているのであろうか。

桃馬はなたくなに、家に寄せようとしなかった。


これを見た憲明は、ため息をつきながら二人の話に入った。


憲明「すまない桜華。実は桃馬の家は、恋愛に厳しいんだよ。実際、聖霊様でも許してくれるかどうか‥。」


桜華「そ、そうなのですか。で、でも、それでは、ジェルドとギールが桃馬と"くっつく"なんて、そもそも無理なのでは?」


恋愛に厳しいと家となれば、おいそれと家に上げられないのは仕方がない話だ。しかし、ここで疑問なのが、それを知っているはずであるジェルドとギールが、どうしてこうもしつこくアピールしているのか不思議であった。


桜華の疑問にジェルドは、勝ち誇った様な顔で桃馬を見つめ始め、桃馬はため息をつきながら理由を語った。


桃馬「それが、なぜか親父に気に入られてるんだよ。」


桜華「ふぇ!?も、もしかして、桃馬のお父様は女性よりも男性を好んでいるのですか!?」


桃馬「ち、違うよ桜華!?あ、あの時ジェルドが、ショタの姿になって親父に媚びたんだよ。あれ以来、親父に可愛がられてるんだよ。」


桜華「えっ、そうなのですか。」


ちょっとしたBL展開を期待した桜華であったが、桃馬の証言によって裏切られてしまい、露骨にガッカリした。


桃馬「ギールもそうだけど、可愛い一面だけ見せて俺の親からの信頼を勝ち取り、裏で俺を襲おうとしてるんだよ。」


ジェルド「そう言うなよ桃馬~♪俺はただ、桃馬の両親に普通に接したまでだよ?」


桃馬「お前の普通は時より異常だ。」


ジェルド「そう言うなよ、傷つくぞ?」


桃馬「ドMなお前なら本望だろ?」


ジェルド「妹の前で言ってくれるな‥。」


桃馬「妹の前で本性出してる時点で手遅れだよ。」


いつもの事ながら桃馬とジェルドが、マウントを取り合っていると、ここで痺れを切らした小頼がジェルドに声をかけた。


小頼「えぇーい、焦れったい!こうなったらジェルド!ここで男を見せて、桃馬を押し倒して既成事実を作っちゃえ!」


桃馬「おいこら小頼!?いきなり何言っているんだ!?」


リフィル「はいはい、よっとエルゼちゃんは私たちに任せていいからね♪」


ジェルドにしがみついたエルゼを意図も簡単に剥がしたリフィルは、自慢の胸にエルゼを押し当て動けなくさせた。


かせが外れたジェルドは、まるで飢えた獣の様に、ジリジリと低い唸り声を上げながら桃馬に迫った。


ジェルド「‥グルル、」


桃馬「っ、や、やる気か‥なら、いつも通り返り討ちにして全裸姿のジェルを校庭にさらしてやる。」


リフィル&小頼「ゴクリ、」


夢の様な賭け引きに思わず生唾を飲む二人、どちらが勝っても得をするような展開に、二人は黙って見守るのであった。


桃馬「ふぅ〜、ジェルドの本性を学園の全生徒に晒すのが楽しみだな‥。」


ジェルド「グルル‥なら俺は、全校朝会で公開◯◯◯だ。」


桃馬「ふっ、もしそんな事をしたら退学だな。」


ジェルド「あぁ、その時は一緒にな!」


ジェルドは力強く地面を蹴り飛ばし桃馬に向けて突っ込んだ。


これに桃馬は、普段と変わらないジェルドの攻撃をひらりとかわし"もふもふ"とした尻尾を掴んだ。


すると、ジェルドは体をビクビクと体を震わせながら、呆気なくその場に倒れ込んだ。


桃馬「ふっ、相変わらずワンパターンだな、今日も俺のか‥ふぶっ!?」


茶番に近い戦いに勝利したと思いきや、突如、桃馬の後方から吹っ飛んで来た男子学生に巻き込まれてしまい、桃馬はその場に勢いよく倒れ込んだ。


憲明たちは、一瞬何が起きたのか分からなかったが、どこからか飛んで来た男子学生を見た瞬間、桜華を除く三人は理解した。


飛んできた男子学生の正体は、両津直人、桃馬の同い年の従兄弟であり、二年三組の燕奏太とは友人にして、"鬼仏おにぼとけ"の異名を持ち、二年三組の四天王の一人である。


なぜ、そんな生徒が飛んできたのか。


それは時期に分かる。


?「直人~!?大丈夫!?」


おそらく直人を吹っ飛ばした生徒だろうか。


学園指定のスカートをヒラヒラとなびかせ、その腰には日本刀を差し、更にメッシュの入った茶髪ロングヘアーの女子生徒が駆けつけた。


小頼「あっ、リールちゃん♪今日も直人と修行してたの?」


リール「あ、小頼ちゃん♪うん、そうだよ~♪それより直人飛んで来なかった?」


リフィル「直人ならここにいるけど?」


衝突の衝撃が強かったのか、桃馬と直人はその場にのびていた。


憲明「相変わらず、どんな修行してるんだよ。確かリールの魔力を自由自在に操るための修行って事は、聞いているけど。」


リール「う、うん、そうなんだけどね。でも実は〜、未だに魔力を使いこなせていないんだよね。だから、もう数えるのを止めたくらい直人を飛ばしちゃって、今日はもうやめようって言ったら、まだ平気だ、諦めるなって、直人が励ましてくれるから、えっと、その〜、クスッ♪。」


リールは、倒れている直人を見るなり、モジモジさせながら微笑んだ。なんと純粋な乙女なのであろうか。


ちなみに、二年生の中でも直人とリールのカップリングは、超が付く程の鈍感カップルとして有名あった。


二人の仲は当に恋人を越えているのにも関わらず、何故かお互いを恋愛対象として見ておらず、周囲からは、恋を越えた友情カップルとも言われている。


本家の桃馬とは違い、良い青春を送っているのは違いない。


直人「んんっ‥いってて‥。」


リール「あ、大丈夫直人?」


直人「あ、あぁ‥少し記憶が飛んでるけど、何が起きた…って桃馬!?」


憲明「よう、直人?今日も見事なホームランだったぞ?」


直人「そ、そうか。今日も場外ホームランか。それにしても、リールの力はやっぱり強いな。」


リール「えへへ~♪直人のお陰だよ♪」


直人「ははっ、それはどうかな?」


とまあ、こんな感じで、バカップルである。


直人「さてと、桃馬を起こしてやるか、おーい、桃馬〜起きろ〜?」


普通の起こし方では起きない桃馬に、すぐに直人は次の手に出る。


直人「だめか、よし……、おい桃馬、早く起きないとズボンを脱いでスタンバっているジェルドを解放するぞ。」


直人が桃馬の耳元で、桃馬が直ぐに起きる魔法の言葉をかけた。すると、気絶した桃馬が、瞬時に起き上がった。


桃馬「ジェルドは!?って、なんだ寝てるじゃねか。」


何を言ったのか、桃馬以外は聞き取れなかったが、ジェルドに関する事は間違いない様だ。


直人「はぁ、こうでもしないと起きないだろ?」


桃馬「って、直人!?な、なんでいつもいつも、高確率で俺の方に飛ばされて来るんだよ!?」


直人「たまたま落下位置に桃馬が居るだけだろ?」


桃馬「うぐっ、俺は狙ってる気がするけどな。それにしても毎日修行でリールちゃんに吹っ飛ばされて、直人はよく生きてるよな。」


直人「まあな、それにリールは治癒魔法が使えるからな。何かあれば治してくれるから安心だ。」


リール「うぅ、それでも直人が傷つく姿は見たくないんだけど……。」


桃馬「だそうだ直人。リールちゃんがこうも心配しているのに、それでもやめないのか?」


直人「やめる訳ないだろ?いいか桃馬、リールの覚醒した姿は凄くカッコイイんだぞ!漆黒の翼と純白の翼が左右に分かれて生えて、可愛いからカッコイイに変わるんだぞ!」


リール「はぅっ///か、可愛い!?」


直人の熱弁にリールは思わず赤面する。

しかし、直人はそれを気づいていなかった。


桃馬「……はぁ、ただ直人は、それを見たいだけだろ。」


直人「そうだけど、何か問題でも?」


桃馬「相変わらず鈍感な奴だな。」


鈍感で唐変木とうへんぼくな直人に対して、桃馬たちはムズ痒い思いをしながらモヤモヤするのであった。


すると、直人とリールに初めて会う桜華は、桃馬に二人の関係について情報を聞き始める。


桜華「と、桃馬?この方々は?」


桃馬「あぁ、紹介するよ。こいつは両津直人、俺と同い年の従兄弟だ。そして隣にいるのが、魔族のリール・エルディルさん、直人の…えっと、友人(恋人)かな。」


リールは一見普通の人間に見えるが、よーく頭を見てみると、魔族特有の小さな角が二本生えていた。


桜華「桃馬の従兄弟様でしたか、初めまして柿崎桜華です。」


直人「あはは、さまはよしてくださいよ。俺はそこまで改められる程の人間ではありませんから。それより、あなたが桜華様ですか、噂は聞いていますよ。不器用な桃馬だけど、よろしく頼みます。」


リール「ふぁ〜、綺麗……はっ、り、リール・エルディルです!よろしくお願いします桜華様!」


桜華「クスッ、私も様は良いですよ♪」


リール「ふえっ?でも、みんな様って付けているから、てっきり様を付けないと殺されるのかと‥。」


どうやら、リールの脳内に映る桜華は、凶悪なイメージの様であった。これには桜華も、慌てて誤解を解こうとする。


桜華「そ、そんな事しませんよ!?」


リール「な、なんだ良かった~♪」


直人「ほらな?だから考えすぎって言っただろ?」


リール「直人の言う通りだったね♪め、反省♪」


ポンっと直人の頭を軽く叩くリール。


直人「なんで俺なんだよっと。」


お返しに軽くチョップする直人。


仲良しカップルを無意識に見せつけて来る二人に、桃馬は思わずツッコミを入れる。


桃馬「おいそこのバカップル、公衆の面前でいちゃつくな。」


直人「ん?いちゃついてなんかないぞ?これは、ただのスキンシップだ。」


桜華「‥スキンシップ。」


リール「そうそう、スキンシップは大事だよ♪」


仲の良い二人を見て桜華は思った。


無意識なスキンシップ、それは直人とリールの様に、狙ってスキンシップを取るのではなく、ただ本能のままに接して楽しむ事が大切であると考えた。


桃馬との距離を縮めるため、二人の様な無意識なスキンシップが必要不可欠である。しかし、初日の自分を振り返ると、何とも狙い過ぎたスキンシップに恥ずかしさを覚えてのは言うまでもない。


直人「さてと、今日はキリも良いから帰るとするかリール?」


リール「そうだね♪帰ろう~♪」


直人「そんじゃ、桃馬たちじゃあな~。」


リール「また明日~♪」


こうして二人は仲良く帰って行った。


桃馬「はぁ、相変わらずだな。」


桜華「‥‥。」


桜華は黙って桃馬の袖を掴んだ。


桃馬「あ、ごめん桜華。あの二人はいつもこうなんだ。少し疲れただろ?」


桜華「いいえ、それよりお二人が恋人らしくて素敵でした。」


桃馬「えっ、あっ、まあそうなんだけど。あれで二人とも、恋人関係の自覚ないんだから驚きだよ。」


桜華「でも、それも恋の形だと思います。」


桃馬「…確かにそうかもな。」


理想的な恋人関係を見せられた二人は、最終的に何かと羨ましく思っていた。


その後、

未だ起きる気配のないジェルドを叩き起こすと、桃馬たちは各自の家を目指して解散した。


しかし、桃馬の家にどうしても行きたい桜華は、半ば強引に桃馬に頼み込み家の手前まで案内するのであった。



佐渡家前


緊張しながらもようやく桃馬の家までたどり着いた二人。


家の作りは、佐渡家本家ともあって古い門と石垣連なっていた。


自分の家ながら緊張する桃馬、彼氏の家に初めて行く事に緊張している桜華の二人は、家の前で心の準備をしていた。


桃馬「うーん、親父許すかな。」


桜華「お父様は怖い方ですか?」


桃馬「いや、怖くはないけど、ちょっと変わってるからな。」


桜華「変わってる?」


桃馬「まあ、会えば分かるよ。」


桃馬は重い足を踏み込み玄関へと迫った。

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