第9話 下校時の校門は群がり所

学園の外に出ると既に日が落ちかけており、辺りは薄暗くなっていた。その一方、学園の校門では、部活を終えて帰宅しようとしている生徒たちでごった返していた。


この光景にジェルドは、不安そうに辺りをキョロキョロと見渡していた。


ジェルド「…エルゼはどこだ。やっぱり、一緒に回るべきだったか。」


心の声だろうか、ジェルドは小さな声で不安を呟いた。


ギール「一人で何ぶつぶつ呟いているんだ?」


桃馬「あっ、もしかして、エルゼちゃんのことか。」


ギール「エルゼ?なんだジェルド、小頼の他にも女がいたのか?」


桃馬「ばか、ジェルドの妹だよ。」


小頼「そうそう、白くてふわふわな可愛い子よ♪」


ギール「っ、な、なんだ妹か。そ、そうか、ジェルドにも妹が居たんだな…。そ、それにしても、どうして今日はこんなに混んでいるんだ?」


ジェルドに妹がいたと知ったギールは、何かを思い出したのか一瞬だけ表情を曇らせた。しかし、ギールはすぐに話を変えて、たまたま学園の校門付近でごった返している生徒たちに注目した。


桃馬「うーん、多分だけど入学したての一年生たちが集まって感想会でも開いてるんじゃないか?あるは、部活動のスカウトとか。」


憲明「うーん、こんな時間からスカウトはないと思うけど、よく見ると三年の先輩と二年も混ざってるな。」


小頼「うーん、そうだね。"映香えいか"ちゃんが写真を取っているのを察するに、スカウトと言うよりは"何か"を囲んでいる様に見えるね。」


小頼の言う通り、人混みの様子からしても"何か"を囲んでいる様に見えた。



しかし一方では、目の前の人混みを自分の編入を歓迎してくれている集団だと勘違いしている可愛い子もいた。


シャル「ふっふっ、見よディノよ。余の編入とやらを祝してあんなにも集まっているのだ。」


ディノ「えっ、えっと、シャル様?たぶん違うかと…。」


シャル「っ、な、何っ!?ち、違うと言うのか!?お、おのれ、余を歓迎しないとはいい度胸だなのだ…。」


威勢は良いが、魔力が皆無に等しいシャルは、魔王としての威厳を見せつけるため、堂々とした表情とオーラを作るも、結局、立派な二本の角を生やした小生意気な幼女に変わりはなかった。


ディノ「シャル様、その様な顔をしては駄目ですよ?」


シャル「っ、ぐぬぬ、余は魔王だぞ!崇められたいのだ!」


ギール「崇められたいのなら、わがまま言うのは良くなと思うぞ?」


シャル「なぬっ!?うぐぅ~、おのれギール!その尻尾をもふらせろ!」


ギール「よっと、残念だな。この尻尾はお前のためにある物じゃ‥きゃふっ!?」


シャルの飛び付きをかわしたギールであったが、すぐさま愛する桃馬に尻尾を掴まれ、尻尾の付け根をなぞる様に撫でられた。


桃馬「こらギール、せっかく魔王様が"もふ"らせろって要求しているんだ。ここは大人しく触らせてやれよ。」


ギール「わふぅ、ふ、ふざけるな桃馬…、俺の尻尾を触って良いのはお前だけなん…わふぅん!?」


愛する桃馬に大切な尻尾を握られ、しかも弱いところを的確に重点的に撫でられたギールは、可愛い声と共にその場に崩れ落ちた。その表情は意外にも嬉しそうであった。


シャル「おぉ、ギールの弱点は尻尾なのだな!」


桃馬「まあ、他にも弱点はあるけどね。取り敢えず一番弱いところは尻尾だ。それに、この駄犬は今日からシャルの物だから、駄犬を大人しくさせるための弱点を沢山教えてあげますよ。」


シャル「本当なのか!?」


ギール「はぁはぁ、桃馬…ふざけたこと言うな…俺はお前のひゃふっ!?」


ギールに余計なことを言わせないために、桃馬は尻尾の付け根からくすぐる様に撫でまわした。するとギールは、次第に大人しくなり、とうとう立てない程までとろけさせられた。その様子に女子たちは、生唾を飲みながらガン見していた。


ギール「はぁはぁ、桃馬~…。」


桃馬「みんなが見ている前で情けない顔しやがって…、さっ、シャル様どうぞ♪」


シャル「うむ!ふっふっ、可愛がってやるぞギールよ♪」


生意気なギールに対して、この手で手懐ける出番が来たシャルは、小生意気な笑みを浮かべながらギール尻尾を強く握った。


ギール「わふっ!!?いたたっ!?な、何をする離せ!?」


敏感な尻尾を誤って扉に挟んでしまった様な激痛に、思わずギールは跳び跳ねた。


桃馬「こらこら、強く握っては駄目ですよ?もっと優しく撫でる様にしないと。」


シャル「な、なんじゃ、これでは強すぎたのか?魔界の獣人族たちは喜んでくれてたのだが…。」


シャルの一言に桃馬は思った。


当時の魔界に住まう獣人系の魔族は、おそらくシャルのご機嫌を取るために我慢していたのだろう…。あるいは、本当に強く握らないと感じない鈍感だったのか、それとも痛みを快楽と感じる変態だったのか…。


詳細は定かではない。



桃馬「えぇ、さっきも言いましたけど、ギールに取って尻尾は敏感なところですからね。取り敢えず最初は、優しく舐める様な感じでやって見てください。」


シャル「おぉ~、それなら次は優しくするのだ!」


ギール「はぁはぁ、うぅ~、下手くそが‥はぁはぁ、これだから、野蛮な魔王はこま‥くひっん!?」


先程の暴力的な触り方から一変、シャルは桃馬のアドバイス通り、ギールの尻尾を優しく舐める様な感覚で撫で始めた。あまりにも気持ちいい感覚に、ギールの口から思わず甘い声が漏れた。これに味をしめたシャルは、同じところを重点的に触り始めた。


ギール「ひゃめろぉ~、このへたくひょがぁ~。」


シャル「くくく、ここが良いのだな~♪ほらほら、いやなら抵抗してもいいんだぞ?」


ギール「はぁはぁ、この…悪魔~♪ひゃふぅ~♪」


一瞬で完落ちたギールの姿に、リフィルと時奈はスマホを取り出し貴重な現場を撮り始める。すると、たまたま目に入った女子たちも加わり、ここ最近BL的な一面で人気を集めているギールの情けない姿を撮り始め、中には感極まって鼻血を出して倒れる者もいた。


桃馬「ごくり、そ、想像を越えてヤバい光景だな。」


憲明「桃馬、これは少しやり過ぎだな。」


誇り高い黒狼族が、今日出会ったばかりの幼女によって情けない姿を晒し、それでも快楽に沈むギールに桃馬は目を背けながらスマホを取り出した。


桃馬「…くっ、すまないギール。やっぱり俺は、お前の様にイケメンなのに平然と情けない姿を晒すイケメンけも耳男子が大好きだ…。くっ、あぁ~、ギール!もっと、そのとろけた情けない顔を見せてくれ!」


可愛すぎるギールに興奮した桃馬は、色んなアングルから情けないギールの姿を撮りまくった。


その光景に憲明は、ため息をつきながら、いつもと変わらぬ主従関係を見届けていた。


憲明「…はぁ、桃馬も大概だな。(ペットは飼い主に似るって言うけど、この二人を見ていると納得がいくよな。)」


桃馬は、ジェルドとギールの情けない姿を見ながらもふり倒したいと願い。ジェルドとギールは、桃馬のけつを狙い、出来る事なら桃馬を"分からせて"愛し合いたいと願っていた。


もはや、三人の思考は変態の境地にあった。



桃馬「ふぅ~♪撮れた撮れたっと~。」


憲明「満足したか桃馬?」


桃馬「あぁ~、これでギールの弱味をゲットだ。」


憲明「それはよかったな。ちなみに桜華の前だけど自覚はあるか?」


桃馬「桜華…、なっ!!!?」


憲明からの指摘に、ようやく我に返った桃馬は、桜華にだけには見られたくない恥ずかしい一面を堂々と見せてしまい、酷く取り乱しながら動揺した。


しかし、桜華は軽蔑するどころか、純粋な笑みを浮かべながら、仲むつまじい光景を楽しんでいた。


桜華「クスッ、やっぱり二人は仲が良いですね♪」


桃馬「うっ、うぅ、軽蔑しないのか?」


桜華「ふぇ?今の光景に軽蔑する要素がありましたか?」


現実世界に居ながらも、世上に関しては全く皆無な桜華は、普通なら引くであろう行為でも、多少の事なら流してしまう程、気にしてはいなかった。


桃馬「あっ、いや、えっと、ないです。」


ギール「くぅ~ん。おぼえへいろ~とうま~♪。」


桃馬「っ、ふっ、ふん、そんな腑抜ふぬけた声で言われても全然怖くないぞ?今日は沢山シャルに可愛がってもらうんだな。」


ギール「くっ、何だときゃふん!?うぅ、うぐっ、わふぅ~ん♪」


シャル「ぬははっ!小生意気な犬を調教するのはたまらないのだ~♪」


ディノ「はわわ!?しゃ、シャル様、あまりギールさんにその様な事をしては後が怖いですよ!?」


完全に調子に乗り始めるシャルに、ディノは危機感を感じて止めようとするも、シャルは無視してあごの下や耳までも攻め始めた。


ピクピクと震えながら喘ぐギールの姿に、リフィルと時奈に変なスイッチが入る。


リフィル「はぁはぁ、これはたまらないわ。既に主従関係を築いている"けも耳男子"が、今日出会ったばかりの幼女によってすべなく陥落。その後は、好き放題もふられまくって、最後は幼女のペットに…ふ、ふふっ。」


時奈「何だか、寝取られ見たいな展開だな。敢えて最後は、ディ◯◯でもブチ込んで、トドメを刺すってのもいいな?」


リフィル「それは良いですね~♪"どうだ、ご主人様よりこっちの方が気持ちいいだろ?"的なやつですね♪」


もはや美男子を犯すためだけの会話に、ツッコミ役の桃馬と憲明は、下手に捲き込まれない様にしれっと流した。


桃馬「憲明ツッコめよ。」


憲明「いやだよ。今ツッコンだら絶対にギールを犯すチャンスだとか言いそうだもん。」


桃馬「やっぱりそうだよな。そう言えば、小頼とジェルドはどこ行った?」


憲明「あぁ、二人ならあの人混みの中に向かったよ?」


桃馬「そうか、うーん、なあ憲明?」


憲明「何だ?」


桃馬「もしかしてなんだけど、あの人混みの正体って、エルゼちゃんを取り囲んでる訳じゃないよな?」


憲明「…あ~、それはあり得るかもな。」


桃馬「だよな。」


桃馬は、朝出会ったエルゼの事を思い出した。


小さくて可愛くて、そして守ってあげたいと思う程の強力な妹属性。


もしそんな子が、一人で校門前に立って居たらどうだ。間違いなく声をかけたくなるだろう。


エルゼのまわりには、下校中の生徒たちでごった返し、今頃エルゼは先輩や同級生たちに"もふ"られている可能性だってある。


もしそうなら、人見知りのエルゼに取っては、かなりまずい展開である。



嫌な予感を感じる桃馬は憲明は、急いで人混みの方へ駆け寄った。


するとそこには、予想通りジェルドに抱きつくエルゼがいた。


桃馬「ジェルド、エルゼちゃんは大丈夫か!?」


ジェルド「あ、あぁ、エルゼなら大丈夫だよ。」


小頼「よしよーし、エルゼちゃん。一人で待ってて不安だったよね?」


ジェルドにしがみつくエルゼに対して、小頼は不安を解消しようと、どさくさに紛れて"もこもこ"とした頭を撫でながら声をかけた。


しかし、エルゼは黙って首を横に降った。


どうやら、意外にも怖がってはいなかった様だ。


憲明「あはは、意外と強い子だな♪」


桃馬「あぁ、てっきりパニックを起こして気絶してるかと思ったよ。」


予想していたより、エルゼが取り乱していない様子に、二人が安堵していると、そこへ一人の銀髪男子が声をかけて来る。


?「全く、まだ学園に慣れていない妹を一人にするなよな?」



ジェルド「すまん奏太かなた‥助かったよ。」


奏太「ふぅ、本当だよ。もし、六組のバカ共に連れて行かれたら元も子もないぞ。」


ジェルド「あぁ、そうだな。本当にありがとう。」


この銀髪の男子生徒の名は、燕奏太つばめかなた、二年三組の生徒にして、三組の四天王の一人である。


ちなみに、今日の昼時に、桃馬とパンを取り合った仲だが、不覚にも黒星をつけられている。


更に奏太は、けも耳の娘が好きな一面があり、特に見た目はロリだが自分より年上が好みと言う、何とも背徳感を感じさせる性癖を持っているため、同学年からはロリコンと呼ばれている。



そのため、奏太がエルゼと一緒にいた件についても、桃馬と憲明は、傲慢ごうまんな六組の生徒から守ると言いつつも、大義名分でふれ合おうとしていたのではないかと疑っていた。




憲明「あー、なるほど‥ね。」


桃馬「奏太お前‥、手は出してないよな?」


奏太「後輩に手を出すわけないだろ。俺の好みは年上かつ、丁度エルゼちゃんくらい大きさの"けも耳娘"だって、いつも言ってるだろ?」


桃馬「何て奴だ。と言うことは、エルゼちゃんが年上だったらそのまま襲ってたわけか。」


憲明「うーん、結局ロリコンか。」


奏太「っ、俺はロリコンじゃないぞ!例え、背が低くても相手が年上ならロリコンにはならないからな!」



完全に地雷を踏んでいる様に聞こえるが、確かに奏太が言う事にも一理ある。そもそも奏太の好みは、成人した年上の幼女、あるいは少女姿のお姉さんである。まだ、なりふり構わず未成年の幼女と少女たちを追いかけるまわす変態じゃないだけ、まだマシであった。



ジェルド「こらこら、妹の前でロリコン論を語るのはやめてくれ。エルゼが変なことを覚えたらどうするんだ。」


桃馬&憲明&奏太「っ、す、すまん‥。」


普段からエルゼの前では、かっこいいお兄ちゃんを演じているのだろうか。いつもらなら便乗するであろうジェルドが、卑猥な話を止めに入った。


いつも桃馬のけつを狙っては、自らの首に首輪とリードを着けて校内散歩をねだったりと、いつもの駄犬らしい行動を見せていなかった。



その後、校門付近にごった返していた人混みが徐々に薄れると、人混みを気になっていた桜華とリフィルが駆け寄って来た。


すると、二人の目の前に、ジェルドに抱きつく白くて"もこもこ"としたエルゼが映ると、一瞬で二人の心は奪われた。



リフィル「きゃ、きゃわいい~♪」


桜華「はわわっ!?み、見るから"もふもふ"って分かる上質な白い毛並み‥ふへぇ~♪。」


想像を絶するエルゼの可愛さに、もふりたい衝動を抑えられない二人は、思わず両手を少し前に出して、"もふもふ"の仕草をしながら様子を伺っていた。



一方その頃、校長室の帰り際に、用事と称して学園内に残っていたルシアと京骨が、ギールたちと合流していた。


ちなみに京骨は、部室で妖気を搾られた時と同様にげっそりとしており、ルシアの背中でぐったりとしていた。


ルシア「いや~♪ごめんね京骨~♪我慢できなくて~♪」


京骨「‥少しだって‥言ったのに‥。」


ルシア「だから謝ってるじゃないの~♪あれ?みんなまだ帰ってなかったの?」


時奈「あ、ルシアか。用事の方は済んだのか?」


ルシア「えぇ♪それより、ギールとみんなは何してるの?」


時奈「あぁ、ギールは見ての通り羞恥プレイを楽しんでいるところだ。後のみんなは、校門付近でジェルドの妹に夢中ってところだな。」


ルシア「なるほどね~♪」


時奈「それより、ルシアはどうして、京骨を背負っているんだ?」


ルシア「クスッ、ちょっと妖気を搾りすぎちゃってね。一人で立てないから、私がおんぶしてあげてるのよ♪」


時奈「なるほどな、やっぱり"あれ"だけじゃ足りなかったか。」


ルシア「当然よ♪今日を入れて三日もお預けにされたんだもん。部室でした普通のキスからの妖気の採取じゃ物足りないわ。」


時奈「ふむぅ、一つ確認だが、それは校則の範囲内だろうな?一応校則は、サキュバスに対して考慮されているが、基本学園内での性行為は禁止だからな?」


ルシア「それは大丈夫よ♪しっかり、一目のつかない男子トイレでしてたからね。でも、ちょっとギリギリだったかもしれないけど、校則に書いてある事はしっかり守っているわ♪」


大丈夫だと言いつつも、どうやらルシアは校則ギリギリの範囲で京骨としていたらしい。


ここで小話。

多くの種族の生徒たちが通う春桜学園ですが、性的な面においては、他の学校と変わらず厳しく定められています。


しかし、性欲の強いサキュバスに至っては、種族の本能的に過ごしにくい観点から、軽度の行為なら多少は認められています。ただし、これに該当するのはサキュバス絡みの行為に限定されています。


軽度の行為として、接吻、密着、または、妖気、魔力、精気を吸い取るドレインタッチ等があげられます。



時奈「まあ、ギリギリでも校則の範囲なら構わない。まあ、ルシアの事だ、京骨を抱き締めながら舌を絡める様なキスをして、妖気を吸っていたのだろう。」


ルシア「そうそう♪ついでに私の尻尾を京骨の下半身に入れていじめたり、脚で下半身を刺激を与えたりして~♪」


時奈「つまりルシアは、京骨を◯いたわけだな。」


ルシア「うんうん♪私の尻尾と脚で、弱々しく果てる京骨の顔は最高だったな~。」


調子に乗って言わなくていい事まで話すルシアに、完全に校則違反を耳にした時奈は、立場上見逃すことはできなかった。


一方の京骨は、恥ずかしい事を暴露され、赤面しながらルシアの背中に顔を隠していた。



時奈「はぁ、全く何がギリギリだ。完全にアウトじゃないか。」


ルシア「ふぇ?」


まさかのアウト宣告に、ルシアは豆鉄砲を食らったかの様な顔で時奈を見つめた。


時奈「本当は見逃してやりたいが、ここまで聞いた以上、私も生徒会長として立場もある。明日の朝に反省文を渡すから書いてもらうぞ。」


ルシア「ええ~、そんな~、どうかお慈悲を~。」


時奈「だめだ、ここで校則を緩めては全校生徒に示しがつかないからな。」


ルシア「むぅ、そんなこと言って良いんだ~。なら私も奥の手がありますよ。」


ルシアはスカートのポケットからスマホを取り出すと、とある写真を時奈に見せた。


時奈「なっ!?る、ルシア…お前、いつの間にこんな写真を…。」


ルシア「ふっふぅ~ん♪時奈先輩、どうですか?この写真が欲しかったら…分かりますよね?」


時奈「くっ…何て言う女なのだ。お前は悪魔か…。」


ルシア「はい♪私は悪魔ですよ♪」


時奈「…っ、うぅ~、わ、わかった。今回は見逃そう。以後気を付ける様に…。」


ルシア「は~い♪気を付けま~す♪」


姑息な手段を取りつつも、何とか勝利を勝ち取ったルシアは、可愛い笑みを浮かべながらスマホに映っている写真を時奈に送った。



ちなみに送った写真とは、先代の生徒会長にして"女帝"とも呼ばれた、ダークエルフのバニー姿と、その着替え中の写真であった。



時奈の意思はあろうことか、憧れの先輩の盗撮写真に揺さぶられ、目の前の違反者を見逃してしまったのであった。



するとそこへ、時奈とルシアの淫らな会話を耳にしたリフィルが、息を荒げながら駆け寄ってきた。



リフィル「ルシアちゃん!?はぁはぁ、今さっき、はぁはぁ、ルシアちゃんの尻尾で…はぁはぁ、京骨を◯いてあげたって聞こえたけど…、そ、それは本当!?」



ルシア「クスッ、リフィルちゃんは耳が良いわね♪」


リフィル「そ、それじゃあ本当に…んんっ。」


せっかく塞いだ傷を広げようとするリフィルに、ルシアは人差し指でリフィルの口を塞いだ。


ルシア「クスッ、お喋りなリフィルちゃんは好きだけど、このお話はだ~め♪」


サキュバス特有の妖艶を見せつけるルシアに、少し魅了されたリフィルは、美しいお姉様に触れられた様な感覚を感じた。


リフィル「う、うん、(ルシアちゃんかっこいい~。)」


出来ることなら、ルシアの人差し指を口に加えて舐めたいところだが、徐々に妖艶を通り越して"高貴"なオーラを感じてしまい、結局何も出来ないまま見惚れてしまった。






ここでルシアと京骨のお話。


そもそもルシアと京骨との出会いは、一年生の秋に行われた文化祭の時。


当時の二人は同じクラスではなく、ルシアは貴族や優秀な生徒たちが入る六組におり、一方の京骨は、妖怪や魔族が多い四組にいました。


まさかに、上流階級と一般階級の立場に、二人が出会うには到底不可能かと思われます。しかし、この文化祭で起きてしまった、ちょっとしたトラブルにより、二人の仲が急速に近くなるのでした。



当時の一年四組は、本格的なお化け屋敷を構えており、そこへクラスメイトのサキュバスが、ルシアを連れてお化け屋敷に入って来たのでした。



一方の京骨は、上から落ちてくる首吊り骸骨を演じており、あまりにもリアル過ぎたため、多くのお客さんにトラウマを植え付けていました。


首吊りの仕掛けは、女子でも上げ下げできるハンドル付きの滑車かっしゃを用いたものでした。



そのため、アシスタントのサキュバスは、友達であるルシアにも恐がってもらおうと、京骨を勢いよく落としてインパクトを与えようとしました。


当然、京骨にも"次のお客さんには、今日イチで驚いてほしいから"と言う理由で、シンプルな直下落ちをやめて、奥の方からブランコの様に迫り来る様な落ち方に変更しました。



しかし、元々直下用に用意された滑車のため、いざ、ルシアを脅かそうと京骨が脚立きゃたつから飛び降りると、遠心力が加わった事により滑車が倒れ、京骨は、そのままルシアに覆い被さるような形で落下してしまいました。



"ガシャン"と大きな物音と共に、騒然とするお化け屋敷。倒れた京骨は、事故とは言えルシアと唇は重ねてしまい、あろうことか、ルシアの胸までも揉んでしまったのでした。京骨は慌てて"ごめん"っと一言詫びて離れました。


しかし、ルシアは気絶してるのか、ピクリとも動かず倒れたままでした。


多くの同級生たちが駆け寄って来る中、京骨は責任は俺にあると言い残して、すぐにルシアを抱えて保健室へと走りました。



これが、ルシアと京骨の出会いとなります。



ルシアを保健室に届けた京骨は、"彼女が起きるまで看病をしたい"と、保健室の先生に願いでてルシアに付き添いました。



すると、看病から十分後。


予想よりも早くルシアが目を覚ました。


無事に目を覚ましたルシアに京骨が安堵していると、突然ルシアに抱き寄せられ、京骨はルシアの柔らかな胸に押し込められた。


するとタイミングが悪く、安堵した京骨の声に様子を見に来た保健室の先生に、如何にも押し倒している様にも見える光景を見られてしまい、二人は仲良く保健室を追い出されました。



その後京骨は、ルシアに手を引かれて人気ひとけのない所に連れ込まれると、早々に壁際まで詰め寄られ、そのままルシアにキスをされました。



ルシア「…んはぁっ、やっぱり…、あのお化け屋敷で感じた妖気…。」


京骨「~っ//な、ななっ//」


初めて女子からキスされた京骨は、赤面しながら取り乱していた。


ルシア「ふふっ、まさかこんな感じで、運命の人と出会えるなんて思わなかったわ。」


京骨「う、運命…って、何を言っているのですか!?」


ルシア「クスッ、あなた名前は?」


京骨「えっ、無視ですか…。うぅ、湯沢京骨です。」


ルシア「クラスは?」


京骨「っ、に、二年四組。」


ルシア「二年四組の湯沢京骨…。あぁ~、確か大きな骨の大妖怪、がしゃどくろって言う妖怪の末裔…なるほどね。」


京骨「あ、あの…、お化け屋敷の事で怒っているのでしたら、すぐに謝りますから、そ、その…許してください。」


ルシア「ふふっ、そうね。じゃあ、私の彼氏になってくれるかしら?」


京骨「は、はい、彼氏…えっ?今なんて…。」


ルシア「彼氏よ。別に嫌ならいいのよ?その代わりに、あの時、京骨が、私を無理やり押し倒して唇を奪い、更には私の胸を揉みしだいて犯そうとしたって、学園中に言いふらしても良いのよ?」


京骨「っ、そ、それは止めてくれ!?てか、ちょっと待て、まさかあの時、気絶したふりをしてたのか!?」


ルシア「ふふっ、どうかしらね。」


京骨「う、うぅ…。」


ルシア「クスッ、ふふっ♪そんな顔をしないでよ~♪気絶してたのは嘘だけど、学園中に言いふらしたりしないわ。だって、友達を庇ってくれた恩人だもん。」


京骨「…恩人?」


ルシア「あら、四組の生徒なのに知らないの?まあ、京骨の反応を見るに私の事も知らなそうだし無理もないか。私の名前は、ルシア・シフェルム、六組の生徒だけど、真に友達と言えるのは、ほとんど四組のサキュバスたちしかいないのよ?」


京骨「そ、そうだったのですか。(と言うことは、六組の中では、ほとんどぼっちって訳か…。)」



ルシア「むう、今ぼっちって思ったでしょ?」


京骨「っ、さ、さぁ~。」


ルシア「むう、京骨バカ!六組にも話せる子はいるもん!こうなったら、これから毎日あなたの妖気を吸わせてもらうわよ!」


京骨「っ、ちょ、毎日って、いきなり何を言っているんだ!?」


ルシア「何を言うも、私が京骨に惚れちゃったからに決まってるでしょ~!」



京骨「え、えぇ~!!?」



こうして京骨とルシアは、晴れて恋人同士となった。


ルシアとしては、友人を庇ってくれたのもそうだが、何よりフリとは言え、気絶している自分を犯さず健気に看病してくれた優しさに心を打たれていた。



翌日になると、ルシアは宣言通り毎日京骨と過ごす様になり、日課の妖気採取を始め、京骨が入部している異種交流会にも入部をした。


そして二人が二年に進級すると、ルシアは自ら四組に移り、ついに京骨と一緒のクラスで過ごせる様になった。


それからと言うもの、京骨との絡みもエスカレートして行き、人前でのイチャつきを始め、日課にしていた妖気採取も徐々に卑猥な吸い方になり、一度に吸う妖気の量も増えていった。



更にルシアは、童貞の京骨には刺激が強すぎる程の絡みまでも始め、寮に帰っては毎晩の様に、恋人以上、夫婦未満の関係を築いていた。



そのため、京骨の理性は限界ギリギリまで追い詰められており、少しでも気を抜けば、大好きなルシアを押し倒してしまう程であった。



そして現在に至り、


今日も強い性欲を抑え込んでいた京骨は、大好きなルシアをけがさないために、二日前から避ける様にしていたのであった。


しかし、それは大きな間違いであった。


そもそもサキュバスとは、魔族の中でも性欲が強い種族である。学園の校則でも、サキュバスに対して寛大なのは、性欲の暴走を抑え込むための処置でもあった。


しかしルシアの場合は、愛する京骨とのイチャつきを生き甲斐にしているため、一日のお預けは凄まじいストレスであった。



結果、ルシアの禁欲はたった三日目で暴発した。火種の京骨は妖気どころか、精気までも吸い取られてしまい、危うく死ぬところであった。


仮に、京骨の理性が切れてルシアを襲った場合、間違いなく死んでいたことであろう。




そして話は戻り…。




お喋りなリフィルを高貴なカリスマだけで黙らせたルシアは、次にギールをもふりまくるシャルとディノを見るなり、かなり重要な事を口にする。


ルシア「そう言えば、シャルちゃんとディノくんは、これからどうするのかしら?」


リフィル「あっ、確かに、異世界に戻っても、住むところがないもんね。」


時奈「っ、しまった…。私としたことが、肝心な事を忘れていた。」


ルシア「でも、どのみち一泊は誰かの家に泊めないとダメだったんじゃないの?」


時奈「あぁ、そうだ。だから、校長先生との面会の後に、誰の家に泊めてもらうか、話し合おうと思っていたんだ。」


リフィル「あ、あらら、そうだったのですね。」


時奈「…だが、幸いまだみんなは帰っていない、校門付近にいる桃馬たちと合流して、すぐにでも話し合うぞ。」


ルシア「あっ、それなら私と京骨は先に帰りますね♪今晩は、京骨をお仕置きしますので~♪」


時奈「うむ、あまり羽目を外し過ぎるなよ?」


リフィル「ルシアちゃん…、とうとう京骨と本懐を遂げちゃうの?」


ルシア「クスッ♪でもそれは京骨次第かな~♪」


今の京骨では淡い期待ではあるが、ルシアとしては、無理やり押し倒して滅茶苦茶にしてほしいと言う、京骨の想いとは真逆な想いを持っていた。


リフィル「ごくり、も、もし、京骨が獣になったら明日感想を聞かせてよ~♪」


ルシア「えぇ、いいわよ♪それじゃまた明日ね~♪」


リフィル「ばいば~い♪」


時奈「気をつけて帰るんだぞ。」


いつの間にか眠ってしまった京骨をおんぶしたまま、ルシアは立派な羽を広げて二人の寮へと飛び去って行った。



その後、残された時奈たちは、ギールと戯れているシャルとディノに声をかけ、未だ校門付近にいる桃馬たちと合流した。




桃馬「えっ?シャルとディノが泊まるところですか?」


時奈「あぁ、寮の手続きは一日あれば済むのだが、如何せん、時間も時間だからな。今晩だけでも誰かの家に泊めてもらう必要があるんだ。」


小頼「なるほど、私の方は構いませんよ。」


憲明「うーん、狭くても良いなら俺ん家でもいいですよ。」


桃馬「俺も構いませんよ。」


リフィル「私も大丈夫ですよ~♪」


ジェルド「すまない、俺ん家はだめかもな。」


桜華「わ、私は…えっと、厳しい…かな。」


ギール「わぅ~。」



集計を取ると、四人程泊めてもらえる事がわかった。


後は、シャルとディノが決めるところだが、今の現状、ギールから離れない様子からして、無回答のギールの家に行こうとしているのは、何となく予想がついていた。



シャル「ふむぅ、皆の気持ちは嬉しいが、今はギールと離れたくないのだ。」


まるで告白の様な台詞に、小頼とリフィルが反応する。


リフィル「クスッ、離れたくないそうよギール?」


小頼「さすがギール~♪自慢の毛並みでシャルちゃんの心を射止めちゃったね~♪これはずっと一緒に居た方がいいかもね♪」



ギール「わぅ…シャルと…いっひょ……ん?はあぁっ!?」


力が抜けてぐったりとしながら、シャルとディノにもふられていたギールであったが、小頼の言葉に反応して一瞬で我に返った。


シャル「ぬわっ!?い、いきなりどうしたのだ!?」


ディノ「はわわ!?ご、ごめんなさい!ごめんなさい!調子に乗ってもふもふしてごめんなさい!?」


シャルに誘われたとは言え、ギールの上質な毛並みのとりこになってしまったディノは、ギールに抱きついたまま、"スリスリ"するほど満喫していた。


そのため、急に我に返ったギールに対して、怒られると思ったディノは必死で謝った。


ギール「っ、いや、ごめん。ディノが謝ることはないよ。それより小頼、今の台詞はどういう意味だ。」


小頼「どうって言われても、そのままの意味だけど?元に、シャルちゃんとディノくんに懐かれてるじゃない?」


ギール「うぐっ。」


桃馬「まあ、別に泊まれないことはないんだろ?確かギール家って、両親と三人暮らしの割には、大きな家だっただろ?」


ギール「そ、それは…、そうだけど。」


歯切れの悪いギールを察するに、どうしても家には泊めたくない様子であった。それは、シャルとディノを嫌っての事ではなく、また別の事情があっての様子であった。



シャル「ギール、お主の家は、だめなのか?」


ギール「…だ、だめなものは、だめだ。」


シャル「うぅ、嫌なのだ!余はギールと居たいのだ!」


ディノ「シャル様、わがままを言ってはだめですよ?今の私たちは、泊めてもらう側なのですから。」


シャル「うぅ…。」



ギールの心を察してか、意外にも大人しくなるシャルに、周囲も同情してギールを問い詰める。



小頼「もう、どうしてだめなの?」


ギール「っ、だ、だから、だめなものは…、だめ何だって。」


リフィル「それじゃあ理由になってないぞ~。」


桃馬「そう言えば、俺が散歩で迎えに行った時もかたくなに入れなかったよな?」



ギール「っ!?」



小頼「へぇ~、大好きな桃馬を家に入れないとは…これは怪しいな~♪」


リフィル「きっと、ギールの部屋には、たくさんの桃馬の写真が貼られてるんだよ♪」


ギール「ち、違うぞ!?変なことを言うな!?」


小頼「でも、写真はあるんでしょ?」


ギール「あっ、それは…う、うん。」


リフィルと小頼の勢いに呑まれたギールは、あっさり桃馬の知らない秘密を漏らした。


これには桃馬も、ジト~っとした軽蔑的な目でギールを見ていた。


ギール「うぅ、桃馬…、そんな目で俺を見ないでくれ…。」



桃馬「それなら、名誉挽回のためだと思って、泊められない理由を言ってみろ。」


ギール「っ、うぅ、お、親が…その…。」


桃馬「ん?ギールの親がどうしたんだ?」


ギール「…うぅ、も、もし、今日帰って来るのが、父さんなら別に良いんだけど…、今日帰って来るのが母さんなんだよ。しかも母さんは、年下好きで自分好みの人を見つけると、男女問わず襲いたくなる癖があって、も、もし、あの時、桃馬を家に上げてたら、間違いなく桃馬は母さんに犯されてたと思う。」


まさかの理由に、問い詰めた三人は気まずくなった。これは完全に聞いてはならない理由であった。


ギール「うぅ、これで満足だろ。」


桃馬「ご、ごめん、ギール。まさか、そんな気を遣ってくれてたなんて…。」


小頼「わ、私も…、何かごめんね。」


リフィル「あ、あはは…、うぅ、ごめんなさい。」



ジェルド「うんうん、ギールの肩を持つわけじゃないけど、その気持ちはよく分かる。」


ギール「そ、そうだろジェルド~。」


種族は少し違うが、同じ狼系の種族として、ジェルドはギールの悩みを理解していた。




しかし、諦めの悪いシャルは、ギールの話を聞いてもなお、ギールに飛び付いて抗議した。


シャル「嫌なのだ!余はギールの尻尾を抱き枕にしながら寝るって決めたのだ~!」


ギール「なっ、こらシャル!?離せっての!?」


ディノ「はわわ、シャル様お止めください!?」



まるで実の兄弟の様なやり取りに、桃馬たちはリスクを承知でギールにお願いする。


桃馬「ギール、悪いが諦めろ。シャルは、リスクを受け入れてまで、一緒に居たいって言ってるんだ。一泊だけ家に泊めてやれよ。」


憲明「そうそう、これも桃馬のためだと思ってさ。」


桃馬「おいこら、何勝手に俺を売ってるんだ。」


小頼「桃馬、ここは我慢してよ。このままシャルちゃんとディノくんを野宿させてもいいの?」


桃馬「の、野宿って、それはさすがに、させたくはないけど…。」


小頼「そうでしょ?だから、ここはみんなで協力して、ギールを説得するわよ。」


桃馬「聞こえはいいけど、後で俺にツケが回って来るよな…これ…。」



上手いように言いくるめられた桃馬は、シャルとディノのために、半ば強制的に一肌を脱がされたのであった。



その後、懸命なギールの説得により、


一時は、"一日中桃馬を好き放題出来る"と言う、恐ろしい権利をギールに与えるところであったが、桃馬とジェルドからの猛反対により、妥協して"条件付きで一日桃馬と過ごせる"権利へと変わった。



ディノ「よかったですねシャル様。ギールさん、それと皆さん、ありがとうございます。」


ギール「でも、まだわからないからないよ。最後に母さんが何て言うか。(でも‥、母さんの事だ、きっと許すよな。)」


ディノ「ん?どうかしたのですか?」


ギール「いや、なんでもない。(特にディノは、母さんに取って好物っぽいんだよな。はぁ、今夜は寝られないかもな。)」


シャル「ふへぇ~♪今日はよく眠れそうなのだ♪」


ギール「五百年も眠ってた幼女がよく言うな?」


シャル「っ、う、うるさいのだ!こんなに"もふもふ"とした獣人は知らなかったのだ。」


シャルが知らないのも無理もない話だ。


今や、異世界と現実世界での交流が主流となったこの時代。


現実世界から良質な品物が、続々と異世界へと流通し、中世レベルの私生活に大きな影響を与えていた。


そのため、ギールの様な獣人族の毛並みの質レベルが上がり、現実世界のシャンプーとボディソープを使用し、更に、ドライヤーとブラシを使って、丁寧に手入れをすることで、魔王でも虜にする程の毛並みを作ることができるのである。



ギール「はぁ、全く、調子に乗って変なことするなよ?」


シャル「それはギール次第なのだ。」


ギール「どういう意味だよ。」


シャル「そうだな。余を不満にさせたら耳か尻尾をかじるのだ。」


ギール「っ、また子供っぽいことを…。」


ディノ「シャル様、そんな事をしてはだめですよ!?」


シャル「ふん、余は魔王だぞ?本能に従事てこそ魔王だと思わぬか?」


ギール「いや、全然。むしろ力のない幼女って、イタタっ!?わざわざ登ってまで、耳を噛るなよ!?」


シャル「はむはむ!んんっ~、このコリコリとした感じがたまらないのだ~♪」


ギール「うわっ、な、何してるんだ!?俺の耳を唾液まみれにするんじゃねぇよ!?」


ギールの家に泊まれて嬉しいのか、シャルの調子は徐々にエスカレートしていった。



時奈「ふむっ、何だかんだで上手くやっていきそうだな。」



桃馬「そうみたいですね。」


桜華「ふふっ、三人を見ていると和みますね♪もしかしたら、これから"兄弟"として生活するかもしれませんね。」


小頼「うわぁ~、何かありそう。」


リフィル「明日も同じ光景だったら、あり得るね♪」


憲明「なんか、既に目に浮かぶな~。」


ジェルド「ははっ、確かにな。(よし、もしそうなればギールは完全にリタイヤだ。明日から桃馬の忠犬枠は俺の独占。そして、その勢いで桃馬を押し倒して分からせてやれば、完璧だ。)」


ほのぼのしい光景を前にして、これは未来予知だろうか、それとも分かりきっている予想だろうか、桃馬たちは、口を揃えて明日からの"兄弟"展開を期待した。



その後、ギールたちは、"ワーワー"と言いつつも、途中まで帰り道が同じである時奈と共に帰るのであった。




桃馬「さてと、先輩たちも帰ったことだし、俺たちも帰ろうか、もう真っ暗だよ。」


桜華「そうですね‥。‥ねぇ、桃馬?」


桃馬「ん?なんだい?」


桜華「私、今日は今までで一番楽しかったわ♪」


桃馬「っ、そ、そうか、それはよかった。俺も今までで、一番良い日になったと思うよ。」


二人は顔を見合わせると、笑みを浮かべながらほのぼのしく語り始める。


桜華「ねぇ、今日の思いを短歌に込めてよ♪」


桃馬「っ、恥ずかしいこと言うなよ。」


桜華「いいからいいから~♪」


桃馬「‥わ、わかったよ。仕方ないな、うーん。」


桜華に流され渋々目を閉じた。


十秒後、口を開いた。


我思う

春風運ぶ

ことえにし

明るきこの日々

忘れぬなかれ


桜華「‥くすっ、桃馬らしいわね♪」


赤面する桃馬は、そっぽを向き恥ずかしさを誤魔化した。


桃馬「ほ、ほら、家まで送るから帰るよ。」


桜華「ふぇ、あ、う、うん。」


桃馬「どうした?」


桜華「えっ!?あっえっと、なんでもないわ♪」


何かを隠しているようにも見えたが、敢えて桃馬は何も言わなかった。


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