第8話 どうか魔王も学園に

夕暮れの学園


下校を告げるチャイムが学園中に鳴り響いた。


学園の生徒たちは次々と帰宅を始め、一日の学園生活が終わるのであった。


そんな中、異世界から戻った異種交流会たちは、本日の桜華に続いて、"魔王"シャルと、"スライム"のディノの編入をお願いをしに校長室へと足を運んだ。


しかし、ちょうどタイミングが悪い事に、学園の校長は別件の用事で席を外しており、異種交流会の生徒たちは校長室で待たされることになった。


これにシャルは、堂々とソファーの真ん中に座るなり高慢な態度で待ち始めた。本人は魔王の威厳を見せつけようとしている様だが、はたから見ても態度の悪い子供である。



シャル「ほほぉ。魔王たる余を待たせるとは言い度胸なのだ。」


吉田「こらこら、下手に暴れるなよ?ここでは異世界のルールは通じないからな?」


小頼「そうそう、問題が起きれば何されるかわからないよ?」


シャル「余は魔王だぞ?その気になれば学園とやらを一瞬で‥。」


桃馬「その前に魔力すら使えないだろ?」


シャル「なっ、そうであったのだ‥。」


桜華「ま、まあまあ、取りあえず大人しくしていましょう。」


気分の浮き沈みが激しいシャルに、桜華が右隣に座りなだめると、不思議と高慢な態度を取っていたシャルは、徐々に大人しくなっていった。


シャル「う、うむ。桜華が言うなら我慢するのだ。」


ディノの一件から桜華に懐いているシャル。


やはり、魔王も生きし者。

助けられてからなつくなんて可愛らしいものである。


しかし、これを本人の前で言ったら間違いなくキレるだろう。


ギール「魔王の制御ができるのは桜華だけか‥。」


桃馬「もしかしたら、一番偉くなるかもな‥。」


小頼「あはは~♪もしそうなら桃馬はすごい彼女を持ったね♪明日から桜華ちゃんから様に変えよう~♪」


桃馬「ふぅ、そうなるかもな。」


桜華「そ、そんなに畏まらなくてもいいですよ!?」


シャル「そうなのだ!桜華の呼び捨ては余だけの特権にしてもらいたいのだ!」


桃馬「わ、わがまま‥。」


不意に出た桃馬の一言に男子たちは頷いた。


シャル「なんじゃと?」


リフィル「まあまあ、そう怒らないでシャルちゃん♪」


シャル「ちゃ、ちゃんだと!?」


リフィル「えっと、親しみを込めたつもりなんだけど、ダメだったかな?」


シャル「親しみだと?」


小頼「そうそう♪友達なら"ちゃん"づけでも言いと思うけどな~♪」


ルシア「クスッ、確かにね。今の姿ならシャルちゃんの方がしっくり来るわね♪」


微笑む三人の女子たちは、シャルの体を見ながら下から上へと舐める様に目線を動かした。


シャル「お前たち、どこ見て言っているのだ!?」


桜華「まぁまぁ、そう睨んじゃダメだよ?」


シャル「うぐっ、むぅ‥桜華が言うなら‥。」


どうやら本当に、桜華には逆らえないらしい。


もしかしたら桜華は、初日にして学園最強の地位を得たかもしれない。さすが聖霊様、魔王すらも付き従わせる気なのであろうか。


そう桃馬が感心していると、一方でシャルの左隣に座るディノは、先程から姿勢を正して静かに待っていた。


それを見た桃馬はそっと話しかける。


桃馬「ディノもこれから大変だな。」


ディノ「あはは、振り回されないように頑張ります。」


シャルの素性が見えてきて不安なのだろうか。


声に力は無く苦笑いをしていた。



それから十数分後。

ようやくお待ちかねの校長が戻って来た。



校長「いやいや、待たせてすまないね。」


シャル「うむ、余を待たせるとはなんたる‥んんっ!?」


校長「ん?どうかしたのかい?」


小頼「あはは~、何でもないですよ♪」


リフィル「そ、そうそう~♪」


初盤から地雷を踏もうとするシャルに、小頼とリフィルは慌ててシャルの口を塞いだ。


突然の事に少し暴れはしたが、校長は全てを見透かしたかの様に話を進める。


校長「あはは、大丈夫だよ。あれだけ声が大きければ、ほとんど聞こえてるよ。それより、さすが魔王様だ。貫禄がありますね?」


シャル「ぷはぁっ、ふっふっ、そうであろう!余は八代目魔王シャル・イヴェルアなのだ。ひざまついて崇めるのだ!」


ディノ「あ、あの、すみません!悪気があって言ってる訳じゃないんです‥たぶん。」


校長「あはは、気にしなくていいよ。それより君は魔王様の付き人かい?」


ディノ「え、えぇ‥まぁ。」


シャル「そうなのだ!ディノは余の配下なのだ!」


校長「なるほど、魔王様は良い従者を持ちましたな。」


シャル「ふふーん♪」


さすが校長先生、相手が魔王でも臆せずご機嫌を取っている。


吉田「校長、この二名を新たに編入させてもらえないでしょうか?」


校長「もちろん断る理由がないさ。むしろ迎え入れたいくらいだ。」


シャル「むっ?それは編入とやらを認めたということか?」


ディノ「い、いいのですか?」


校長「もちろんですよ。学園としても魔王様が来てくれるのは嬉しいですからね。」


ディノ「あ、ありがとうございます。」


ディノが深々と頭を下げると、まわりも無事許可が下りたことに安堵した。


校長「だが一つ、この世界に居る時は、この世界の規則に従ってもらいたい。」


シャル「この世界の規則?余は魔王だぞ?そんなものに縛られる余ではないぞ?」


ディノ「シャル様!?」


校長「はっはっ、そう来ると思ってましたよ。しかし、守ってもらわなければ、学園には入れませんよ?」


シャル「な、なんだと!?」


自分の意見が通らない事に耐性がないシャルは困惑した。


おそらく魔王時代は、かなりわがままをしていたのだと思われる。


桜華「あ、あの、校長先生。」


校長「おぉ、桜華さん、初日から有意義な学園生活を送れたかな?」


桜華「は、はいお陰さまで。」


校長「はっはっ、魔王様に腕まで組まれて、本当に仲が良さそうで何よりです。」


シャル「ふっふっ、余の親友なのだ。」


桜華の左腕を両手で掴み笑顔で答えた。


まるで姉妹の様な光景である。


桜華「あの、私から言うのもあれなのですけど、二人を私のクラスに入れてもらえますか?」


桜華と同じクラスである桃馬たちは、"やはりこうなるか"と心の中で思った。


校長「それは構わないが、お二人はどうかな?」


シャル「余は桜華がいないところは嫌だぞ。」


ディノ「わ、私はシャル様の従者ですので‥。」


校長「なら決まりですね。桜華さんにはすまないが、魔王様のことを頼みますよ?」


桜華「はい!お任せください。」


こうしてシャルとディノの編入が、あっさり認められた。


桃馬、憲明、ジェルドの三人は心配そうな表情を作っていた。まず一つに、初日から何かしらの問題が起きるのは目に見えていた。暴力沙汰か遅刻か、それとも軍団を作って学園征服に乗り出すか‥。考えるだけで頭が痛くなる。


それより、二人は異世界から通うのだろうか‥。


それとも桜華の家に上がり込んで通うのか‥。


そもそも、聖霊の桜華はどこで寝泊まりしてるのだろうかと、色々と気になるところである。


校長「それじゃあ、明日から二人には学園の制服を着てもらうのだけど、早速サイズ合わせに協力してくれないかな?私はサンプルの制服を取りに行ってくるから少し待っててくれ。」


そう言うと校長は再び校長室を後にした。


シャル「制服?」


時奈「私たちが着ている服のことだ。いわゆる正装だな。」


シャル「おぉ!余もそれを着れるのか!?」


制服に少し興味があったのか、同じ制服を着れることに前のめりになって喜んだ。


ディノ「‥あ、あの私も‥そ、そのヒラヒラを?」


ギール「あはは、ディノは俺たちと同じやつだよ。でも、着たいと言うなら止めないが?」


ディノ「男物がいいです!」


赤面しながら即断するディノの姿は可愛らしく、もしかしたら女装したら"男の娘"になれるのではないかと、男子一同は思った。


そんなセクハラを考えていると、思いの外早く校長が戻って来た。


校長「うーん、これで合うと思うのだけど、試しに着てみてくれ。」


テーブルの上に女子用と男子用の制服が並べられる。


シャル「うむ、早速着てみようかの。」


シャルは早く着てみたかったのか、男子や先生が居るにも関わらず、今着ている服を脱ごうとした。


あまりにも急な事に、その場の全員が慌てて止めに入る。


特に桜華は、服をたくし上げようとしているシャルの両手を抑えて止めにかかっていた。


シャル「な、なんなのだ?どうして止めるのだ?」


止められたシャルは、なぜ止められたのか理解していないご様子であった。


どうやら、人前で裸になる事に羞恥心を感じていない様だ。


桜華「こ、ここで着替えちゃダメだよ!?」


ルシア「あはは、私は良いと思うけどな~。」


リフィル「ルシアちゃんの基準はダメだって!?」


小頼「そうそう、着替えるところはあるからそこに行きましょう!」


時奈「うむ、それなら職員用の更衣室を借りるとしよう。校長先生良いですね?」


校長「もちろんいいですよ。」


女子たちはシャルの両腕を掴み更衣室へと連行した。


憲明「いや~、今のは焦ったな。」


桃馬「まさか、人前で脱ぎ出すとは思わなかった。」


校長「はっはっ、魔族なら珍しくもないぞ?」


吉田「ですが、サキュバス族ではない訳ですし、私も不意を突かれました。」


ディノ「あ、あの‥すみません。」


桃馬「ディノが謝ることはないよ?」


憲明「そうそう、そこまでディノが背負うことはないよ?」


京骨「今のご時世、魔王の肩書きも象徴か、各国の代表見たいなものだからね。例え従者でも畏まらなくても良いと思うよ?」


ディノ「‥ですが。」


三人の言いたいことは理解できる。


だがこれも真面目過ぎる者の性。


畏まり過ぎて、砕こうにも砕けられないのだ。


桃馬「それなら、俺たちの前でも"友達"として接してくれよ。」


憲明「そうだな、明日から同じクラスなんだから。」


ディノ「‥友達ですか。昔なら許してもらえない話だけど‥。」


校長「確かに昔ならそうかもしれないな。特に君は、長い間洞窟に封印されていた様だし、その間の世情を知らないのも無理もない。今の環境に慣れるまで時間はかかると思うけど、最初はこの学園を基盤にして過ごしてほしい。」


ディノ「あ、ありがとうございます。それと桃馬、憲明‥みんな、これからよろしくお願いします。」



テーブルに並べられた制服を手にすると、ディノはソファーから立ち上がり、少し堅苦しいが軽くお辞儀をした。


憲明「ああ、よろしくな。」


桃馬「挨拶も済んだことだし、制服を試着してみようか。」


京骨「それじゃあ、俺たちも更衣室に‥。」


校長「試着ならここでも良いぞ?ここには男しかおらんしな。」


京骨「い、いいのですか!?」


校長「ああ、いいぞ?」


さすが気前の良い校長である。


まさか校長室で試着を許すとは普通では考えられないことだ。


ディノは一瞬迷ったが、桃馬と憲明の強い勧めにより、校長室にて制服に着替え始めた。


男子のため、あっという間に着替えが終わると、

桃馬らは思わぬ光景を目の当たりにする。


桃馬たちの目の前には、先程まで男の娘の風貌を見せていたディノから、貴族のお嬢様を守る凛々しい執事へと変わったディノの姿があった。


カリスマ性が強いせいか、その場の者たち全員が見惚れてしまった。


ディノ「ど、どうでしょうか?」


桃馬を含む五人の生徒たちは、生唾を飲んでディノをガン見していた。


ディノ「あ、あの‥。」


吉田「こら五人とも、見惚れていないで質問に答えてやれ。」


しびれを切らした吉田が見惚れた五人に声をかける。


すると、五人は我に返ると一斉に首を横に振った。


ディノ「だ、だめかな?」


桃馬「あっ、いや全然いいぞ!」


憲明「だめじゃない、むしろすごく似合うよ!」


京骨「こ、これは、明日からどうなるかな。」


三人が感想を言う中、他二人、いや、他の二匹の駄犬は、ディノの観察を継続していた。


ジェルド(これはまずい。桃馬を一瞬でも釘付けにしたカリスマ性、なんて強敵だ。)


ギール(‥俺でさえ桃馬を見惚れさせた事ないのに、このスライムやるな。)


二匹の駄犬は、桃馬を取られる事を恐れピリピリしていた。桃馬はそんな二匹の方を向くと、一瞬でよからぬことを考えていることに気づく。


桃馬「二人はどうだ?ディノの制服姿は?」


敢えてあおるかの様に聞くと、二匹は慌てて口を開く。


ジェルド「に、似合うと思うよ~。」


ギール「あ、明日から女子に注目されるかもな~、あはは!」


明らかに注視している様な反応。


桃馬は心の中でため息をついた。


ディノ「女性から注目されるなんて、は、恥ずかしいですよ//」


凛々しい風格から再び男の娘に戻る。


なんと可愛らしい子なのだろうか。


そんなやり取りをしていると、廊下を走る音と共に校長室の扉が勢いよく開いた。


そこには女子用の制服を着たシャルが立っていた。


シャル「どうだ!余の制服姿は!」


自慢げに見せびらかす様に、クルリと一回転すると、後に続いて時奈と桜華も合流する。


時奈「こら、シャル!廊下を走っては駄目だろ?」


桜華「はぁはぁ、シャルちゃん‥速いよ。」



校長「まあまあ、時奈くん今日は見逃そうじゃないか。」


時奈「し、しかし‥ん?あぁ、ディノも着替えたのか‥ふむ、よく似合ってるぞ。」


ディノ「あ、ありがとうございます。」


執事風のディノの姿に気づいた時奈は、予想以上に似合うディノの制服姿を誉めた。



シャル「なっ!?よ、余を差し置いて何誉められておるのだ!?」


颯爽登場から男たち全員に注目されると思っていたシャルであったが、残念なことにディノに注目を取られてしまった。


しかし中には、シャルの制服姿をガン見する男もいるわけで‥。


ギール「ふむぅ‥意外と似合うな?」


シャル「ギールよ!意外とはなんだ!?」


ディノ「シャル様すみません!わ、私なんかが先に目立ってしまって‥。」


シャル「ディノ~、お主は一言余計じゃ!」


ディノ「す、すみません!」


校長「はっはっ、魔王様もよく似合ってますよ?明日からの登校に相応しいくらいですよ。」


シャル「ふっふっ、校長とやらは余のことを理解しておるのだ。」


校長の誉め言葉から、まるでてのひらを返した様に、一瞬で機嫌が良くなった。


その後、制服の採寸が終わり、教科書等は明日にも手配することとなった。


こうして特別長く感じた異種交流会の部活は終わり、各自下校するため校門へと向かうのであった。

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