第6話 異界と好奇心

ここは異世界の地、"カルガナ"


かつてこの世界は、魔族、亜人、人間族など、数多くの種族たちが共に"いがみ"合い、千年以上にも渡る凄惨せいさんな争いが繰り返されて来た。


度重なる争いで民草は荒れ、とある国が滅ぶ度に賊徒ぞくと蔓延まんえんし、略奪などによる騒動が頻繁に発生していた。


また更に、国内での反乱に加え、奴隷制度の促進、過度な徴兵など、あらゆる混乱に乗じて、数多くの弱き者たちが虐げられて来た。


まさにロマンの欠片も無い地獄の様な世界に、多くの人々が、十年、百年…っと、先の見えない平和を願い続ける中、突如として、千年以上争いが絶えなかった世界を一変させようとする賢者が現れた。


それは、"今"から約二百年前の事。


当時を知る者によれば、その賢者は、エルフ族と人間族の間に生まれたハーフであり、それはそれは美しい美女であったと言う。


更に賢者は、幼い時から"未来を見通す力"を持っており、最適解の答えを導き出し、長きに渡る争いを終結させ、荒廃した世界の再構築に力をそそいだそうな。



しかし、未来が見通せると言ってもデメリットの方が大きく、一度でも未来を見ようとすると、数秒間の内に、何千、何万通りの未来が一気に脳内を駆ける巡るため、数秒単位でしか使用できなかった。


もし、許容を超えてしまうと、脳内でオーバーヒートを引き起こしてしまい、一日中寝込んでしまう事も珍しくはなかった。


そのため賢者は、未来を見通す力の使用回数と時間を決めており、"一日に未来を見通す回数は五回"とし、"一回に見通す時間は五秒以内"と定めていた。


しかし、未来が変動しやすい戦闘時においては、定期的に未来を確認しないと、本来あったはずの未来が消滅してしまう恐れがあるため、許容を超えて未来を見てしまう日も多くあったと言う。


また、わずか数秒の内に、何千、何万通りの未来が脳裏を駆け巡る中で、最適解の未来を導き出すためには、常人離れの集中力と精神力が必要である。


仮に、常人の者が賢者と同じ様な未来を見てしまった場合、恐らく一秒足らずで失神……、最悪脳障害を引き起こす事だろう。



そのため賢者は、平和のこころざしを掲げて以来、無益な戦闘を極力避けながら、敢えてこの世に蔓延はびこる"真の悪"を示す事で、各地に広がる無駄な争いを減らす戦法を取った。



その結果、千年以上も"いがみ"合い続けた種族間による凄惨せいさんな争いは、仲介人として入った賢者の指導のもと、互いの方向性を見直しながら、次第に結束する様になって行くのであった。



その後、後の帝都となるグレイム王国を中心に、悪政を働く国家、人種差別主義国家、奴隷国家、残忍な無法国家などを次々と滅ぼし、千年以上にも渡る凄惨せいさんな争いが終結するのであった。



後に賢者は、長きに渡った争いについてこう語っている。



『"この世のことわり"とは、"善と悪"による二つの概念によって成り立っているものであり、決して"種族と思想"などで成り立っているのでは無い。』


『そもそも"善と悪"は、この世に生を受けた者たちに与えられるさがであり、おのれの未来を大きく変えるための"分岐点"である。』と言う一節いっせつがある。



それなら、"善と悪"の根本的な概念とは、一体何なのであろうか?


"善"とは、"悪"を許さず、規律を守っている人の事を指すのか?


一方の"悪"は、規律を破り、犯罪に手を染めた者の事を言うのか?


確かに、大まなかに言えばそうなるだろう。


しかし、"善と悪"の根本的な概念は、そんな上辺だけの解釈でまとめられる程、そう単純なものでは無かった。



これに対しても賢者は、今あるべき"善悪"の方向性について語っている。



『"善"とは、を助けて親身に寄り添い、より良い未来を作り上げながら、共に喜びを分け与える事である。』


『そのため、今我々がやるべき事は、種族を問わず、お互いの手を取り合う事で、新しい文化を開拓し、新たな時代を共に築き上げ、永遠とわの平和を望む事である。』


『更に、物事のしを正しくわきまえ、のために事をなし、そして繋がりを大切にしながら、常にしたしみを込めて寄り添い合う。』


『これこそが、"今の時代"において大切な事である。』



『そして一方の"悪"とは、おのれの私利私欲に準じ、こうむさぼり、財を奪う事で生き甲斐を感じる行為である。』


けがれた欲望は、国を腐敗に導くだけじゃ飽き足らず、新たな乱を起こして、多くの人々に不幸をばら撒くもとである。』


『中でも、自己中心的な思考におぼれ、の尊厳をそしり、己の栄華えいがのために秩序を乱し、己だけの平和を築こうとする行為は、決して許してはならない。』


ゆえに即刻、鉄槌てっついを下し、容赦なく叩かなければならない……。』


この様に、新時代を迎える方針を"善悪"で例えた賢者は、しばらく"法の番人"として称えられる様になった……。



またある時は……、


『種族の違いから"善悪"を決めつける行為は、根本的に大きな間違いであり、本来あるべき"善"が、種族を理由に"悪"と断言されるのは、あってはならない事である。』


『そもそも種族とは、所詮一つの"総称"であり、個々の本質ではない。』


『もし仮に、"総称"だけで相手の本質を見抜いたのなら、それはただの印象による偏見へんけんである。』と語り、種族間に蔓延はびこる差別意識を本格的に取り払おうとした。


これら賢者の言葉は、グレイム王国を始め、異世界及び、魔界全土へと伝わり多大な影響を与えた。


その後、多くの支持を得た賢者は、種族間同士の関係性を見直すため、直接現地へ向かうなり、偏見だらけの認識を正そうと尽力した。


そして、これらの行動により、現在に至る共存共栄の文化が築き上げられたのであった。



話を本編へと戻し……。


現在の異種交流会はと言うと、部室にあるゲートを通り、とある"小さな木造小屋"へと足を踏み入れていた。


恐らく、この"小さな木造小屋"は、この異世界で活動する時に使われる拠点なのであろう。


周囲の壁には写真と地図などが貼られており、更に机の上には部活で使われると思われる代物しろものが並べられていた。


しかし、異種交流会の一行らは、ここまで遅れた分の時間を取り戻すべく、すぐさま廃ダンジョンへ向けて移動を始めた。


"小さな木造小屋"の外には、まさに異世界ならではの大自然が広がっていた。


広い草原には暖かな風が吹き込んでおり、異世界の空気は現実世界と比べて何倍もんでいた。


そんな中で、異種交流会の部長である新潟あらがた時奈ときなは、新入部員の柿崎かきざき桜華おうかに対して、この世界の歴史を語っていた。


時奈「……これが異世界"カルガナ"の歴史だな。」


桜華「ごくり、そ、壮絶な歴史ですね。」


時奈「そうだな。現実世界の歴史において、千年以上続く争いの例は無いが…、もし、魔界まで巻き込んだ異世界の争いを一括ひとくくりに千年と言えば、太古の昔から争いを続けて来た現実世界は、少なくとも二千年以上争いを繰り返して来た事になるな。」


桜華「た、確かに、そう言われて見ればそうですね。」


物は言い様ではあるが、実際の争いの規模としては、異世界の方が凄惨せいさんであった。


時奈「そもそも、この異世界で起きた争いの原因は、"差別と偏見"が激しく横行した事によって、種族間同士の交流が絶たれてしまった事にあると、私は思う。」


桜華「こ、交流ですか?」


時奈「そうだ。私が読んだ文献ぶんけんによれば、争いが起きる前までは、種族問わず仲良く平和に共存し合っていたそうだ。」


桜華「っ、そ、そんな平和な世界だったのに、ど、どうして千年以上も続く争いを招いたのですか!?」


実に耳を疑う様な歴史に、桜華は驚愕しながら時奈に問い掛けた。


時奈「うん、その文献によれば……、全ての始まりは、とある里で起きた"小さな意見の対立"からだとされている。小さな対立は、次第に"いがみ"合いへと発展し、最終的に交流を絶って争い始めたそうだ。」


桜華「っ、そ、そんな……、"小さな意見の対立"から、凄惨せいさんな争いを招くなんて……。」


時奈「現実世界でも似た様な事だが、小さな対立は、"意見"を生み……、そしてその"意見と意見"がぶつかり合う事で、"不満"が生まれ……、更に"不満と不満"がぶつかり合う事によって、"争い"が生まれる……、そしてその争いは、"差別と偏見"をもたらし手に負えない状態に陥ってしまう……。何とも哀れな話だな。」


桜華「…………。」


時奈の説得力のある話に、桜華は言葉を失った。


時奈「まあ、"いざこざ"を招いた元凶はともかく、下手な噂で惑わされず、もっと冷静になってお互いの事を"知ろう"としていれば、千年以上にも渡る争いは起きなかったと思うよ。」


桜華「…うぅ、そう聞いてしまうと、相手の本質を"知らず"に偏見だけで決めつけてしまうのは、本当に恐ろしい事ですね。」


時奈「あぁ、"知らない"と言うのは、意外と恐ろしい事だよ。例えば、何も"知らない"相手の印象を他人から聞いたとして、流石の桜華さんでも受け入れてしまうだろ?」


桜華「っ、た、確かに……、受け入れてしまうかもしれませんね。」


何とも芯を突いた様な時奈の指摘に、思わず共感した桜華は、反論をする事もなく納得した。


時奈「ふふっ、人から"人の事"を聞くって事は、必ず"偏見"が混ざっているものだよ。例え"真実"を聞かされたとしても、捉え方によっては、伝言ゲーム見たいに本質がズレたりして、良からぬ誤解を招いてしまう事だってあるからな。」


桜華「……な、何だか、"真実"が異なるに連れて、異なる"真実"が定着してしまう様な恐ろしい話ですね。」


時奈「そうだな。そしてその定着が広まり根付いてしまう事によって、いがみ合いと争いが起きてしまうんだよ。」


桜華「っ、べ、勉強になります!」


時奈から歴史と道徳の授業を受けた桜華は、"人との関わり合い"を会得した。


それから十分後。


異種交流会の一行は、目的地である廃ダンジョンへと到着した。


洞窟の入り口には、どこかで見た事がある黒髪の男性が立っており、辺りをキョロキョロと見渡しながら誰かを待っている様であった。


桜華「あ、あの人は確か、数学の吉田先生ですよね?」


桃馬「あ、言うの忘れてたな。吉田先生は、この異種交流会の顧問なんだよ。」


桜華「そ、そうだったのですか!?な、何でしょう少し意外ですね。」


桃馬「あはは、もっと怖い人を想像してたかな?」


桜華「は、はい、何て言うか、もっと体育会系の先生が顧問かと思ってましたから。」


てっきり、大剣を軽々しく振り回す様な、筋肉ムキムキマッチョマンの変態を想像していた桜華は、以外にも普通の吉田先生が顧問という事に、少し拍子抜けをしてしまった。



時奈「吉田先生、お待たせしました。」


吉田「おぉ、やっと来たか。今日はやけに遅かったな?」


時奈「すみません、ここに来る前に新入部員の歓迎をしていまして。」


吉田「新入部員?」


新入部員が入った事を知らない吉田先生は、首を傾げるながら部員たちを見渡した。


すると直ぐに、吉田先生の視界に桜華の姿が映ると、何となく事の経緯を理解した。


吉田「お、おぉ、まさか今日編入生したばかりの柿崎さんが、もう入部して来るとは……、もしかして、桃馬の勧誘か?」


時奈「みたいなものですね。それより、中の方はどうですか?」


吉田「あぁ、噂通りの廃ダンジョンみたいだな。取り敢えず、少し深くまで入って見たけど、魔物や盗賊の類は見当たらなかったよ。」


時奈「おぉ、それは良好ですね。それでは早速、今回初めての桜華さんも居る訳ですし、桜華さんを囲む様な形で移動しよう。」


吉田「うーん、そうだな。一応そうした方が無難かもしれないな。そうなると、隊列の編成はどうする?」


時奈「それならお任せ下さい。既に考えていますので。」


こうして時奈の独断で決められた隊列の編成は、以下の通りになった。


一列目、時奈と吉田

二列目、憲明とリフィル

三列目、桃馬、桜華、ギール

四列目、ルシア、小頼

五列目、ジェルド、京骨(ジェルドにおんぶされている)


この編成に対して、最後尾に続いて、移動だけで力尽きた京骨を担ぐ事になったジェルドは、物凄く不満そうな表情を浮かべていた。


しかし時奈は、そんなジェルドに対して、"桃馬の背中を守って上げる事で、桃馬からの信頼と株が上がる"などと、心にも無い甘い言葉を投げ掛けた。


するとジェルドは、何の疑いも無く時奈の言葉を鵜呑みにしてしまった。


これを見ていたギールは、まんまと良い様に丸め込まれたジェルドの姿に、尻尾を振りながら嘲笑あざわらっていた。




廃ダンジョンの中は、洞窟系ならではの足下の悪さに加え、外の気温と比べて肌寒く、夏なら程よい避暑地になり得る所であった。


また廃ダンジョンの視界は、既に先行していた吉田先生によって等間隔に松明がともされており、視界はすこぶる良好であった。


桜華「お、思っていたより、緊張感が無いですね?」


吉田「あはは、すまないな。俺も立場上、生徒を怪我させる訳には行かないからな。」


時奈「ふふっ、そう気を落とす事は無いぞ?運が良ければ、隠し部屋が見つかるかもしれないからな?」


桜華「か、隠し部屋ですか?」


時奈「そうだ。例え廃ダンジョンとは言えども、探索中に隠し部屋が発見された事例は多いからな。」


桜華「ごくり、そ、それは凄いですね。」


時奈「とは言っても、その半分近くが"モンスターボックス"なんだけどね〜。」


桜華「も、モンスターボックス?」


モンスターボックスの意味が分からない桜華は、小首を傾げながら復唱した。


これに対して、隣で話を聞いていた桃馬は、さり気なくモンスターボックスについて説明する。


桃馬「モンスターボックスって言うのは、殺意剥き出しの魔物が敷き詰められた部屋の事ですよ。」


桜華「ふぇ!?そ、そんなの超危険じゃないですか!?」


時奈「あはは、だけど開拓する面においては、スリルがあって良いではないか♪」


吉田「はぁ、俺としては、下手に見つけ出さないで欲しい所だけどな……。」




その後、松明の明かりに照らされた廃ダンジョンを談笑しながら進んで行くと、進行方向の先から何者かの足音が小さく響いた。


吉田「……みんなストップ。何か聞こえる。」


リフィル「うーん、奥から二人ですね……。」


憲明「流石はリフィル、相変わらず耳が良いな?」


リフィル「ふふ〜ん♪そうでしょう♪」


時奈「こらこら、感心してる場合ではないぞ?少し警戒するんだ。」


桜華「はわわ!?だ、誰も居なかったのではなかったのですか!?」


吉田「うーん、最深部近くまでは行ってないからな……。もしかしたら、我々が入る前に誰かが入っていたのかもしれないな。」


桜華「ごくり、も、もし、魔物だったらどうしましょう?」


吉田「その時は、授業の一環として戦闘だろうな。」


桜華「が、学生が殺生ですか!?」


ジェルド「おいおい、この世界でそんな悠長な事を言っていたら、すぐに殺られてしまうぞ?」


桜華「で、ですが……。」


ギール「ジェルドの言う通りだ。ここの世界は、"向こうの世界"と違って、本能のままに襲い掛かって来る魔物や、欲にまみれた賊徒共が蔓延はびこっているんだ。それらに対抗するためにも、ある程度の自衛は当然だよ。」


憲明「そうそう、異世界には異世界のやり方があり、現実世界には現実世界のやり方がある。ここは割り切らないと……。」


桜華「うぅ、ち、ちなみに皆さんは、この世界でどのくらい殺生を?」


何ともタブーに近い桜華の質問に、その場にいる全員は苦笑いをしたまま何も答えなかった。



そんな中で、他愛の無いやり取りをしていると、奥の方からハンマーを持った二人の髭面のおっさんが現れた。


吉田「っ、な、何だ、誰かと思い気や鍛冶屋のマドルさんじゃないですか?」


マドル「おぉ、鷹幸たかゆきじゃねぇか?いや〜、帰り道に松明なんかともっているもんだから、野盗か何かが入り込んで来たのかと思ったぞ。」


吉田「こっちもマドルさんで安心したよ。ここにいるという事は、鉱物の採取ですか?」


マドル「あぁ、今日は一日中、ここにこもって鉱物の採取をしていたが…、ろくな鉱物にありつけない上に低品質な鉱物しか取れなかったよ……。はぁ、そろそろこのダンジョンも枯れて来たのかもしれないな。」



満足出来る程の鉱物を取れなかったマドルは、少し悲しそうな表情をしながら心境を語った。


すると、目の前に現れた髭面のおっさんこと、マドルと初めて会う桜華は、小声で桃馬に何者なのかを問い掛けた。


桜華「と、桃馬さん?あの人は誰なのですか?」


桃馬「あ、あぁ、あの人は、ドワーフのマドルさんって言う人なんだけど、もう一人の方は……、見た事ないけど弟子かな?」


桜華「どわーふ?」


桃馬「うん、ドワーフって言うのは、手先が器用で、主に鍛冶職人として活躍している種族だよ。特徴は……、まあ見て分かる通り、小さな屈強な髭面のおっさんだね。」


桜華「た、確かに、職人としての風格がありますね。そう言えば、あまり学園では見られない種族ですね……?」


桃馬「ま、まあ、それは……ね。昼夜問わず、酒をかっ喰らい、しかも気性が荒い上に喧嘩っ早い方が多いからな。」


桜華「あ、あぁ〜、なるほど……。」


ここで小話。


多くの種族が通う春桜学園であっても、全ての種族が通っている訳では無い。


特にドワーフ族に至っては、大酒喰らいに続いて、気性が荒く、勉学よりも職人としての技術を高めようとする者ばかりのため、大半のドワーフは、学校などの学舎まなびやに通っていない。


しかし、己の腕を磨きたいと願う一部の研鑽けんさん者は、日本政府公認の工業系の特別支援学校に通っている。


ちなみに、大阪に一校、信潟県に三校、九州方面に五校存在している。



マドル「ん?おやおや、見慣れないお嬢ちゃんがいるじゃないか?もしかして、新しく入った新入生か?」


たまたま桜華の姿を視界に収めたマドルは、少し驚いた表情を浮かべながら吉田先生に問い掛けた。


吉田「ま、まあ、新入生に近い…、編入生だな。あっ、そうだ、マドル?一つお願いがあるんだけど……。」


マドル「あはは、皆まで言うな。お嬢ちゃんの武器の依頼だろ?」


吉田「さっすが親方、察しがいいな。」


マドル「何回もこの流れで頼まれてるからな。それで作るのは、日本刀か?槍か?青銅剣?それとも斧か?」


吉田「あ、そ、それは本人に聞いてみないと…、こほん、柿崎さん、どんな武器が欲しいですか?」


桜華「ふぇ!?い、いきなりそう言われても……。」


突然の計らいに、心の準備すら出来ていなかった桜華は、思わずタジタジになってしまった。


桃馬「あはは、この際だから何か作ってもらいなよ?マドルさんが作る物は、超一級だからな。」


マドル「あはは、嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか桃馬よ〜♪」


桜華「で、でも、私は…、この刀で充分ですし……。」


桃馬「えっ、でもそれって、部室にあった刀だろ?せっかくだから新しく作ってもらった方が……。」


桜華「っ、そ、それでもこれが良いんです!」


桃馬「っ。」


桃馬からの進めに、思わず花柄の刀を抱き締めながら遠慮する桜華の姿に、ドワーフのマドルは少し感動した。


マドル「ぷっ、あはは!それなら、新しい物じゃなくても、その刀を打ち直してやろうか?」


桜華「えっ?」


マドル「何やらお嬢ちゃんは、その刀に思い入れが深い様に見えるからな。刀の質を上げるくらいなら……、どうだろうか?」


桜華「っ、い、良いのですか?」


マドル「あぁ♪ワシは、お嬢ちゃんの"物を大切にする"心構えを見て、久々に感動しちまったからな。必ず質の良い刀に仕上げてやるよ。」


桜華「っ、そ、それでしたら、お、お願いします///」


マドル「あはは、決まりだな。それじゃあ鷹幸?来週辺りにお嬢ちゃんの刀を持って来てくれないか?」


吉田「分かりました。あっ、そうだマドルさん?この廃ダンジョンに来てから、俺たち以外で誰かと会ったり、見たりしましたか?」


マドル「ん、いや、ワシは見ていないが……、お前はどうじゃ?」


現状、鷹幸たちと会うまで誰にも会っていないマドルは、助手のドワーフにも話を振った。


しかし、話を振られたドワーフは、首を横に振りながら"誰も見ていない"と言う意志表示を見せた。


マドル「ふむぅ、そうか。すまない鷹幸、ワシらは鷹幸たちと会うまで、魔物はおろか、誰とも会ったり、見たりはしていないぞ?」


吉田「い、いえ、謝る事は無いですよ。むしろ、現状が聞けて安心しました。」


マドル「お、おう、そうなのか?それなら良かった……。それより鷹幸たちは、これから廃ダンジョンを探索するのか?」


吉田「えぇ、そうですけど?もしかして、何か危険な所でもありましたか?」


マドル「い、いや、危険な所は無いが、もう夕方だぞ?」


吉田「あはは、大丈夫ですよ。今回は松明を灯した所までしか行きませんからね。」


マドル「そ、そうなのか?うーん、確かにあそこまでなら…、まだ足下は安定しているか……。」


吉田「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?今回のコースは、しっかり下見をした上で決めたコースなんですから。」


マドル「っ、あはは、そうかそうか。ワシとした事が、また余計な心配をしてしまった様だな。それじゃあワシらは、先に引き上げるとするから、くれぐれも怪我だけはするんじゃないぞ?」


こうして、マドルから心配を掛けられた一行は、若干足下を注意しつつ、ダンジョン内の探索を再開させるのであった。



ご丁寧に松明がともされたコースは、全く変わり映えのない光景が続き、更には魔物すら出て来ないと言う時点で、ただの洞窟探索と化していた。


これに対して、ダンジョン初体験である桜華は、あまりにも退屈な活動に思わず心の声を漏らしてしまう。


桜華「……これと言って見所は無いですね?」


桃馬「うーん、やっぱり廃ダンジョンだけあって、スリルもないか。」


時奈「ふむぅ、そうだな。この辺りでさかったオークでも現れてくれたら、身の危険による緊張感が増して、より一層楽しめると思うのだけどな。」


桃馬「あの〜、時奈先輩……?冗談でもそれは嫌なんですけど?」


吉田「そうだぞ、時奈?俺は、盛ったオークなんかよりも、"触手系の魔物"の方がもっと嫌だな。あいつに捕まったら最後、男女関係なく極太の触手をケツに…。」


桃馬「おい、こら教師!?桜華さんの前で、何卑猥な事を言っているんだ!?」


憲明「あはは、もしかしたら、半年前に味わった悲劇を思い出したんじゃないのか?」


桃馬「半年前って……、あ、そ、そうか。あの"触手事件"を蒸し返してるのか。」



ここで小話。


触手事件……。


それは吉田先生に取って、屈辱的な思いを植え付けられた、超弩級のトラウマ事件である。


さかのぼる事、今から半年前……。


当時、異種交流会の活動で、新しく出現したダンジョンの探索におもむいていた吉田先生は、誤って"触手系の魔物"が作った落とし穴に落ちてしまい、そのまま凄惨せいさんな触手プレイを受けた過去があった。



普通、触手プレイと言えば、高貴な姫騎士を始め、多くの美女たちが、無数の触手によって酷い目にってしまうのが鉄板である。



しかし現実は、何ともむごたらしい事に、例え落とし穴に落ちた者が男であったとしても、容赦なく口には言えない"プレイ"を強要されるため、力尽きて吐き捨てられた時には、しばらく立てない状態に陥ってしまう。



そのため、無数の触手によって蹂躙され、心の傷を負ってしまった吉田先生は、軽度のうつ病を患い、しばらく寝込んでしまっていた。


しかし、"触手系の魔物"が持つ粘液と体液には、多くの人々が忌み嫌う、がん細胞を殺す成分が含まれており、それを"直"で大量に注がれてしまった吉田先生は、皮肉にも癌細胞に打ち勝つ免疫を完全に会得していた。


ところが残念な事に、当時の医療では、既に"触手系の魔物"から採取したサンプルをもとにして作られた薬が完成しており、今では薬だけで治せる時代となっている。


つまり、吉田先生が受けた仕打ちは、ありがた迷惑な上に、トラウマ級の黒歴史を植え付けられただけであった。


そして話は戻し……。


吉田「はぁ……、思い出しただけで憂鬱ゆううつになって来た……。すまないが、ちょっとここで休憩させてくれ。」


時奈「わ、分かりました。それでは、我々も少し足を休めましょうか。」


過去の黒歴史を思い出し、少しノイローゼになってしまった吉田先生は、途中からレンガ造りの通路へと変わった壁に背中をつけるなり、ゆっくりと腰を下ろした。


憲明「…や、やっぱり、"触手系の魔物"とは言え、"処男しょだん"を無理やり奪われたショックは大きい様だな。」


桃馬「そ、それはそうだろうな。普段から俺も、ジェルドとギールに狙われているから分かるけど…、ある日突然、無理やり"処男"を奪われた挙句、滅茶苦茶に蹂躙じゅうりんされたら、間違いなく精神的にショックを受けるだろうな…。」


吉田先生の"処男"は、既に喪失そうしつしているとは言え、普段から"処男"喪失の危機に晒されている桃馬は、過去のトラウマに囚われている吉田先生の心境を深く察していた。


憲明「…桃馬が精神的にショックか。」


桃馬「何だ憲明?何か不満がるのか?」


憲明「い、いや、桃馬の場合だと精神的なショックを通り越して、即堕ち、あるいは完堕ちしてしまう様な気がして……。」


桃馬「っ、そ、そんな訳ないだろ!?」


憲明「で、でもよ桃馬?もし仮に、理性のリミッターを外した"どちらか"に押し倒されて見ろ?間違いなく、桃馬が堕ちるまで腰を振り続けるぞ?」


桃馬「そ、そんな見え透いた展開…、前々から予想してるっての……。それに、いくらイケメンの二人でも掘られるのだけはごめんだ。それに、想像するだけでも不快だ……。」


憲明の懸念けねんに堂々と否定する桃馬に対して、心に余る話を聞いてしまったジェルドとギールは、耳と尻尾を垂れ下げながらショックを受けていた。


ジェルド「わふぅ……。」


ギール「うぅ、不快なのか……。」


小頼「あぁ〜あ、異種交流会きっての可愛いマスコットたちが、桃馬の冷たい言葉のせいで傷ついちゃった〜。」


桃馬「っ!?」


小声で話をしていたつもりの桃馬であったが、声が響きやすいダンジョン内では丸聞こえであった。


ジェルド「……桃馬、そんなに俺の事を嫌っていたのか?」


ギール「わう……、俺を構うのも不快だったのか?」


桃馬「っ、な、何を勘違いしてるんだお前らは!?そ、そもそも俺がいやがっているのは、無理やり押し倒して掘ろうとする行為であって、別に二人の事がきらって訳じゃないんだぞ!?」


ジェルド&ギール「っ!そうなのか!?」


桃馬「あぁ、てか、いつも言っている事だけど、普通にしてさえいれば、別に嫌ったりはしないよ?」


ジェルド&ギール「〜!」


桃馬に嫌われていない事を認識したジェルドとギールは、その場で犬の様に座り込むなり、目をキラキラと輝かせながら尻尾を振り始めた。


小頼「ふふっ、相変わらずちょろい犬だね〜♪」


桜華「あ、あはは…、な、なんと言うか。桃馬さんの前では、本当に分かりやすい方々ですね。」


リフィル「それはそうだよ〜♪何せジェルドとギールは、桃馬を襲う時以外は、忠実な駄犬だからね〜♪」


ルシア「ふぅ、全くあの三人は、いつも同じ様な事を繰り返しているってのに、よく飽きないわね?」


時奈「まあまあ、あれでも三人に取って、コミニュケーションみたいなものだから仕方がないさ。それにルシアだって、毎日京骨とイチャついているだろ?」


ルシア「っ、ま、まあ、確かにそうですね。」


一人の駄主だぬしと二匹の駄犬がもたらす茶番を見せつけられた女子たちは、思わず心の声を"ボソッ"と漏らしながら三人を見つめた。



その後、女子たちからの視線に気づいた桃馬は、少し気まずそうな表情を浮かべながら語り掛けた。


桃馬「っ、あ、あの〜、見世物じゃないんですけど〜?」


小頼「えぇ〜、いつも見ている光景なんだから、別に構わないでしょ〜?」


桃馬「そ、それはそうだけど、今日は桜華さんもいるから……。」


小頼「まあまあ、どうせその場しのぎの見栄を張ったとしても、これからたっぷりと本性を見られるだから別に良いでしょ?」


リフィル「そうそう、下手に"良い子キャラ"を演じて騙すよりは、全然マシだと思うけどな〜?」


桃馬「うぐっ。」


何とも至極尤しごくもっともな指摘を受けた桃馬は、見えない口撃こうげきに晒されながら、通路の壁際に背中を付けた。


すると、桃馬の背中に"ポチッ"と"何か"を押した様な感触が伝わると、桃馬は慌てて壁から離れた。



小頼「あはは、いきなりどうしたの桃馬?もしかして、壁が"ヌルヌル"してたとか?」


桃馬「ち、違うよ!?い、今さっき"何か"を押した様な感触があったんだよ……。」


小頼「えっ、"何か"を押した??」


桃馬が"何か"を押してから数秒後。



突如、地鳴りと共に目の前の壁が崩れ始め、未だに発見されていなかった隠し通路が現れた。


これには対して桃馬たちは、あまりにも突然過ぎる展開に、思わず唖然としながらその場に立ち尽くした。


時奈「えっと、吉田先生?これは隠し部屋でしょうか?」


吉田「ど、どうだろうか…。見た感じは通路っぽいが……、取り敢えず、中の様子でも見てみるか。」


部屋か通路か分からない中で、吉田先生はリュックの中から一本の松明たいまつを取り出すと、そのまま火をともして勢いよく謎の空間へと投げ込んだ。


カラン、カランっと音を立てながら、一本目の松明が少し遠くの方に落ちると、更に吉田先生は、等間隔に明かりを灯すため、追加で三本の松明を投げ入れた。




吉田「ふむぅ、かなり岩盤状だけど、間違いなく通路の様だな。」


時奈「どうしましょう、ここはみんなで探索しますか?」


吉田「うーん、そうしたいのも山々だが……、現に通路の幅が1メートル程しかないからな……。あとは、戦闘面と避難面を考慮して、ここは俺一人で行った方が良いだろうな。」


時奈「うーん、仕方ありませんね。我々はここで待機しています。」


吉田「すまない。あとそれと、もし通路の中で危険な事があったらすぐに声を上げるから、その時は全力でここを脱出するんだ。いいね?」


時奈「はい、分かりました。」


新たな松明に火をともした吉田先生は、たった一人で緊張感が漂う"隠し通路"へと足を踏み入れた。


しかし、緊張感を漂わせた"隠し通路"の道のりは、たった五十メートル程度しかない一本道であった。


更に、"隠し通路"の割には、特に変わった扉の様な物がある訳でも無く、あったとすれば、行き止まりの岩盤に埋め込まれた"ボタン"くらいであった。


これに対して吉田先生は、興味本意で"ボタン"を押して見るも、特に変わった事は起きなかった。


それもそのはず、吉田先生が押したボタンは、なんと"隠し通路"の対面に隠された、もう一つの"隠し通路"を出現させるためのボタンであった。



二つ目の"隠し通路"が現れた時は、一つ目の"隠し通路"が現れた時とは違い、徐々に壁が"スゥ〜"と消える様な仕様となっており、何とも静かな上にホラーを感じさせる様なものであった。




そのため……。


桃馬「っ!お、おお、おいおい!?あんな所に通路なんかあったか!?」


憲明「うわっ、びっくりした!?ほ、本当だ。な、何でだ?」


先に二つ目の通路の存在に気づいた桃馬と憲明は、怪異現象を目の当たりにしたかの様な驚きを見せた。


更に、二つ目の通路の奥には、誰かが居るのだろうか。何とも怪しい黄緑色の光が照らされていた。


桃馬「と、時奈先輩……。な、何だか嫌な予感を感じるのは気のせいでしょうか?」


時奈「い、いや、これは気のせいではないな。」


桃馬「で、では、吉田先生を呼び戻しましょう!」


時奈「いや、ちょっと様子を見てみよう。」


桃馬「はい、分かりました…って、様子を見るですって!?」


どこからどう見ても怪し過ぎる現状に、動揺を隠しきれない桃馬に対して、一部の好奇心旺盛な女子たちは、当然の様に探索を始めようとする。


小頼「と、時奈先輩!ここで様子を見る何かより、ここは思い切って探索して見ましょうよ!」


リフィル「小頼ちゃんの言う通りです!こっそりチラ見をするだけなら問題は無いかと思います!」


憲明「っ、ま、待て待て!?あの雰囲気は流石にまずいって!?」


ジェルド「そ、そうだ!きっとこの先には、腹を空かせたヤバい魔物がいるはずだよ!?」


好奇心を掻き立たせる小頼とリフィルに対して、命の危険を感じ取った憲明とジェルドは、何とかして二人を止めようとする。


しかしそこへ、時奈が大きな決断を下した。


時奈「ふむぅ、よし、分かった。ここは二人の意見を採用しよう。」


小頼&リフィル「おぉ~♪」


男子全員「なっ!?」


時奈「だが、下手な真似は厳禁だ。もし、危険を察知したらすぐに待避する…、いいな?」


小頼&リフィル「はーい♪」


完全に説得力の無い返事に、男子たちはこぞって反対意見を叫び始める。


憲明「ま、待て待て!?早まるなよ!?」


ジェルド「そ、そうだ!地味に俺たちを巻き込もうとするなよ!?」


桃馬「と、時奈先輩、流石にそれは容認できませんよ!?」


ギール「そ、そうですよ!そもそもこの二人が、素直に条件やルールを守った事がありますか!?」


小頼「なっ、心外だぞギール!」


リフィル「そうだそうだ〜♪私たちをルールが守れない自由人みたいな言い方をするな〜♪」


ギール「現にそうだろうが!?」


桃馬「ギールの言う通りだ。現に俺とギールは、先月の部活で、騒ぐなと言われた所で二人が騒いだせいで、"グレートタイガー"に喰われかけたからな。」


リフィル「あ、あれは〜、その〜、騒いじゃいけない所を間違えたと言うか〜。」


小頼「そ、そうそう、間違いは誰にでもあるよね〜♪」


桃馬&ギール「間違いで済むかよ!?」


何とも騒がしい声が、廃ダンジョンを響き渡らせる中、するとそこへ、二つ目の"隠し通路"から、立派な角を二本生やした黒髪ロングの少女が出て来た。



?「ふぁ~、騒がしいの〜、誰じゃ余の眠りを妨げる阿呆は……?」


部員全員「っ!?」


まさかの可愛らしい少女の登場に、思わず時奈たちは驚いた。


時奈「っ、す、すまない!この"隠し通路"は、"君"の寝室ねどこであったのだな。そうとも知らずに、騒がしくさせてしまって申し訳ない……。」


?「ほう、"君"だと?ふっ、人間風情が余を誰だと思っている?」


部員全員「魔族。」


?「うむ、そうなのだ!余は恐ろしい魔族……って、違うわ!?余は魔王だぞ!命が惜しければ、ひれ伏して懇願しろ!」


桜華「ま、魔王?うーん、何かイメージと違う様な。」


小頼「そう言う夢を見てたのかな?」


リフィル「可愛い~♪」


ルシア「ふーん、今時"魔王宣言"だなんて古いわね~?」


時奈「こ、この様な所で、こんなにも可愛いらしい魔王と出会えるなんて…、もはやこれは運命かもしれない……。よ、よし!これも何かのえんだ!悪い魔族や人間に捕まって"幼女プレイ"を強要される前に、私たちが保護してやろう。」


?「き、貴様ら!余を馬鹿にしているのか!?って、よ、よく見たら魔族と亜人も混ざっておるではないか!?な、なんで、人間たちと一緒にいるのだ!?」


ルシア「ふーん、魔王なのに知らないの?」


?「っ、も、もしや、戦争に変化でもあったのか!?」


ルシア「せ、戦争って……、あなたは何代目の魔王なのよ?」


?「っ!?ふ、ふん、余の事を知らぬ愚か者に名乗る程、余の名前は安くないのだ。」


ルシア「ふーん、そうなの…。それじゃあ、帰りましょうか時奈先輩?どうやらこの子は、会話が出来ても意思疎通が取れない様ですから……。」


時奈「っ、し、しかし、こんなにも可愛らしい子を一人にしておくのは……っ、そ、そそ、そうだな。ざ、残念だけど…仕方がない……。は、早く、先生を呼び戻して帰るとしよう……。」


魔王と名乗る少女を"持ち帰ろう"とする時奈に対して、珍しく厳しい表情を浮かべるルシアは、少し暴走気味の時奈をあやつり、半ば強引に"持ち帰り"を阻止した。



更にルシアは、あやつった時奈の口を借りて、早々に廃ダンジョンから脱しようとした。


すると、魔王と名乗る少女は、堪らずルシアたちを呼び止めた。


シャル「ま、待つのじゃお主ら!?」


ルシア「っ、はぁ、何ですか?質問に答える気が無いのなら、大人しく寝床にでも戻ってもらえますか?」


シャル「っ、よ、余は八代目魔王……、シャル・イヴェルアなのだ!」


ルシア「八代目魔王?」


時奈「……っ!?はっ、八代目魔王シャル・イヴェルアだって!?た、確かその魔王って、突如として行方不明になったとされている魔王じゃないか!?」


シャル「はっ?ゆ、行方不明だと!?」


突如として告げられた行方不明と言う言葉に、 思わず声を上げながら驚愕したシャル・イヴェルアは、寝ている間に一体何が起きてしまったのか、全く理解できずに困惑した。



これが、異種交流会初となる魔王との遭遇であった。


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