第4話 異種交流会は異端者(変人)揃い

昼休みの交流で、転入生の柿崎桜華と親しくなった桃馬たちは、午後の授業も問題なくこなし、気づけば部活動が始まる第一次下校時間が迫っていた。



放課後前のホームルームが終わり、一日の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、下校する生徒を始め、各自所属する部活に向けて一斉に解散した。



桜華「と、桃馬さん?皆さんは、どこにいくのですか?」


桃馬「ん?あぁ、授業が終わったから部活に行くんだよ。まあ、部活をするのは任意だから、そのまま帰宅する生徒もいるけどな。」


桜華「部活…、それって、夕方くらいからよく見かける、河川敷で走ってる人たちの事ですか?」


桃馬「おっ、そうだな。確かにあの河川敷は、よく運動部の走り込みに使われているな。」


小頼「そうそう、特に野球部や陸上部が走ってるよね。」


桜華「そ、そうなんですか。夏の暑い日でも走ってるので、大変そうですよね。」


小頼「まあ、それが運動部のさがだよね。でも、運動部の他にも、文化部とか楽で楽しい部活もあるけどね。」


桜華「そ、そうなんですか!?」


今まで桜の木の上から見ていた桜華は、夏の暑い日でも構わず走り込む運動部の姿に、部活とは、全て過酷な物なのだと思っていた。


しかし、小頼の文化部と言った、楽で楽しい部活もあると言う情報に、前のめりになって反応した。


小頼「う、うん、もしかして桜華ちゃん。部活の基準を運動部にしていた?」


桜華「え、えぇ…ま、まあ。私のイメージは、河川敷で奮闘する生徒の皆さんしか知りませんでしたから。」


小頼「ごくり。か、可愛い…。」


桃馬「ま、まあ、知らなかったのは仕方がないよ。」


桜華のモジモジとした姿に、小頼は生唾を飲みながら釘付けにされ、桃馬は人差し指で"こめかみ"を掻きながら、溢れそうな思いを誤魔化した。


憲明「うーん、と言うことは、かき‥じゃなかった、桜華さんは部活をまだ決めてないわけか。」


昼休みの交流で、お互い名字で呼び合うことより、下の名前で呼び合うと決めたのだが、憲明に至ってはどうも慣れない様だ。



桜華「そう言う事になりますね。えっと、ちなみに桃馬さんたちは、どんな部活に入っているのですか?」


桃馬「あぁ、俺は異種交流会って言う部活に入っているんだけど、運動部と文化部を足した様な部活だな。」


小頼「ちなみに、私と憲明、あと、ジェルドも同じ部活だよ。」


桜華「ふぇ、そうなのですか?」


小頼「あっ、そうだ!何なら桜華ちゃんも入らない?」


桜華「い、良いのですか?」


小頼「もちろんだよ。桃馬と憲明もどうかな?」


桃馬「い、いや~、強引に誘うのは良くないよ。現に危険も伴うし。」


憲明「そうそう、戦闘で負傷するかもしれないからな。」


ウェルカムな小頼であるが、一方で慎重な桃馬と憲明は、聖霊にして美女である桜華が入部してくれるのは嬉しいが、実際は少し危険な所へ行くため、こちらからグイグイ勧めるのはできなかった。


桜華「危険…戦闘…。」


桃馬「そうそう、一応安全なダンジョンの探索とか、簡単な討伐クエストとかをメインにしてるけど、絶対的に安全ってわけじゃ…。」


桜華「わ、私やります!!」


桃馬「そうそう、やりま…ん?何だって??」


桜華「わ、私、異種交流会に入りたいです!」


小頼「おぉ~!」


桃馬「ちょ、ちょっと待て、安全の保証はないんだよ?」


桜華「分かっています。これでも多少の護身術は心得ていますから大丈夫です。それに、前々から異世界の事を知りたいと思っていましたから。」


憲明「へぇ~、聖霊でも異世界に興味があるんだ。ん、ちょっと待って、そもそも行ったことないの?聖霊なのに?」


桜華「え、えぇ、恥ずかしながら、意外ですよね。」


憲明「う、うん、聖霊なら簡単に異世界へ行けるものかと思っていたからな。」


小頼「えっと、何か行けない理由があったの?」


桜華「じ、実は、聖霊と言っても、私はこの世界の聖霊であって、別世界の行き来はできないんです。」


桃馬「なるほど、聖霊も人間と同じでゲートがないと行けないのか。」


桜華「はい。でも、聖霊の地位を高めれば神界への行き来が許され、別世界へ行けるとか聞いたことがあります。でもその時は、聖霊ではなく神様の様な存在になっていると思いますが。」


桃馬「なるほど、聖霊は神様の卵か。」


桜華「捉え方によってはそうなりますね。」


小頼「ははぁ~!」


桜華が神様の卵だと知った小頼は、あからさまな悪ふざけで、両手を上げながら地面にひれ伏した。


桜華「っ、小頼ちゃん!?」


桃馬「あはは、何やってんだよ小頼~。」


憲明「悪ふざけも良いけど、ふざけ過ぎると神罰下るぞ。」


小頼「っ、やーめた。」


憲明の一理ある忠告により、小頼は何もしていなかったかの様に姿勢を正した。



桃馬「ふぅ、神様の卵なら余計心配だけど、取り敢えず今日一日だけ、仮入部って事なら何とかなるか。」


桜華「えっと。と言うことは、今日はお試しってことですか?」


桃馬「ま、まあそうなるね。」


少々心配が残る状態ではあるが、


その後、桃馬たち四人は、

異種交流会の部室へ向けて教室を後にした。






桃馬らが所属している異種交流会は、

主に互いの文化を学ぶことを主軸としている。


今や共存共栄の時代、互いの事を知るのは大切である。


しかし、それは表の話であり、実際の所は、

桃馬と憲明が危惧する程、この部活には問題があった。




桃馬「よーし、ここが異種交流会の部室だよ。」


桜華「えっと、ここがですか?普通の教室に見えるのですけど?」


憲明「まあ、多目的教室だからね。普通の教室と言えば…そうだね。」


桃馬「まあ、先代の生徒会長…いや、先代の部長が、この部室にゲートを開いたもんだから、部室を移動しようにもできないだよね。」


桜華「す、凄い方がいたのですね。」


小頼「そうそう、本当に凄かったんだよ。あぁ~、純粋なダークエルフから漂うクールでエロカッコいい佇(たたず)まい、しかも強くて頭も良くて…はぁはぁ。あの健康的でスベスベな褐色肌…尖ったコリコリとした耳…はぁはぁ、学園の女帝って呼ばれていたな~。」


先代の生徒会長兼、部長であった"女帝"を思い出した小頼は、よだれを滴しながら息を荒くした。


桜華「こ、小頼ちゃん?」


桃馬「はいはい、見ちゃダメだよ。バカと変態がうつるから。」


桜華に取って悪影響を及ぼすであろう光景と判断した桃馬は、桜華の手を取ると早々に多目的…失礼、部室へと入って行った。


部室の中は、意外にも普通の教室とは違い。


資料を保管する棚を始め、異世界のアイテムが並べられており、本格的な部活の雰囲気を漂わしていた。


更に、辺りを見渡せば気になるものは数多いが、


まず部室の扉を開けて、すぐに桃馬たちの目には言ったのは、コの字型に並べられた長机の中心に座る一人の女子生徒であった。



?「ん、あぁ、桃馬か、それと…ん?」



彼女の名は、新潟時奈あらがたときな

異種交流会の部長にして、春桜学園の生徒会長である。クールで綺麗な黒髪ロングを特徴とする美女である。


ちなみに、学園の生徒会長と言うこともあって、

学園の男子生徒と女子生徒の憧れの的でもある。


だがしかし、当然欠点もあるわけで、この部活に所属する部員全員たちは、彼女の本当の姿を知っている。


桃馬「お疲れ様です部長。えっと、仮入部希望者を連れてきたんですけど。」


桜華「あ、あの、柿崎桜華と言います。よ、よろしくお願い致します。」


クールでカリスマ溢れる時奈の姿勢に、

桜華は思わず堅苦しく自己紹介をした。


時奈「ほう、君が転入生の柿崎桜華さんか。話は校長先生から聞いているぞ。」


桜華の話を聞かされていた時奈は、目の前にいる見たこともない美女が桜華と分かると、ゆっくり席を立った。


時奈が二人に近寄るに連れて、

桜華の心に緊張が走る。


しかし、そんな緊張も一瞬で崩れることになる。


時奈「桃馬の嫁か?」


桜華「はうっ//」


桃馬「いや違いますよ‥惜しい気はしますけど。」


時奈「あはは、冗談だ。柿崎桜華さんだろ?話は聞いてるよ。いやはや、本当に可愛らしいではないか♪」


桜華「あ、ありがとうございます。」


桜華の脳内で、カリスマ溢れる時奈のイメージが一瞬にして崩れる中、少し遅れて憲明と小頼が部室へ入って来る。


小頼「お疲れ様です~、時奈部長~。」


憲明「お疲れ様です。」


時奈「おお、ちょうど二人も来たか。あれ、ジェルドはどうした?」


憲明「ジェルドなら妹のエルゼちゃんのところですよ。おそらく、部活まわりかと。」


時奈「そうか。いっそのこと異種交流会に来ればいいのにな。噂によれば凄くふわふわでモコモコしてるそうじゃないか?」


さすが学園の生徒会長。新入まもない生徒でも、それなりの情報を得ている様である。


憲明「シンプルにもふりたいのですね。」


時奈「無論だ。上質な毛並みを持つジェルドの妹なら、きっと上質な毛並みのはずだ。」



桃馬「こほん、部長?自己紹介の途中ですよ。」


時奈「っ、あぁ、そうだったな。えっと、新潟時奈だ。春桜学園の生徒会長にして、この異種交流会の部長を務めている。」


桜華「えっ、せ、生徒会長!?」


桜華は驚いた。


まさか、目の前にいるギャップの激しい人が、

学園の生徒会長だとは予想外であった。


てっきり桜華は、小頼が話していた"先代の生徒会長"の様な人を期待していたが、現実ははかなく遠いものであった。


しかしそれは、あくまでイメージと比べての話であり、実際桜華の瞳に映る時奈は、光輝いていた。


桜華「か、かっこいい!」


さすが、男女問わず好かれる方である。

強いて言えば悪ふざけ並みのボケがなければ言うことがない所である。


時奈「あはは、ありがとう♪さて、急ではあるが、早速桜華さんの歓迎会をしないとな。」


桜華「わ、私の歓迎会ですか?」


小頼「良いですね~♪さっそく、準備しましょう♪」


仮入部と言うことを忘れているのか、

時奈と小頼は歓迎会の準備に取りかかろうとする。


桃馬「ちょ、ちょっと!?まだ、桜華さんは仮入部ですよ!?勝手に入部させるのは…。」


桜華「わ、私、ここに入部します!」


桃馬「えぇっ!?」


時奈に惚れ込んでしまった桜華は、

迷うことなく異種交流会に入部することに決めた。


話がトントン拍子で進んでいく中、

ここで妹のエルゼを仮入部先に送り届けたジェルドが、部室へと到着した。


ジェルド「すみません先輩、遅れました。」


時奈「おお、ジェルドか。安心しろまだ来てない後輩もいるからな。」


ジェルド「そ、そうですか。ふぅ。」


時奈「それにしてもジェルド。そんなにエルゼちゃんの事が心配なら、いっそのこと異種交流会に入れたらどうだ?」


ジェルド「そ、そうしたいてすけど、こればかりはエルゼ次第ですから。」


時奈「うーん、確かにそうだな。興味もなく、やりたくないことを勧めても、エルゼちゃんのためにもならないからな。」


ジェルド「はい…、すみません。」


時奈「謝ることはないぞ。それより、これから桜華さんの歓迎会を開こうと思うんだ。ジェルドも手伝ってくれ。」


ジェルド「えっ、桜華…、ん?もう決まったのか?」


桃馬「あぁ、先輩の"謎カリスマ"にやられて即決だよ。」


ジェルド「そ、そうか。」


時奈「ふっ、謎カリスマとは照れるではないか。」


桃馬「いやいや、照れる所ではないですよ。」


少々皮肉を込めたつもりであったが、逆にポジティブに捉われてしまい、桃馬は冷静にツッコミを入れた。


その後、桜華のための歓迎会の準備が進められるが、まだ数名の部員たちが、部室に来ない状態であった。



憲明「うーん、この時間になっても"リフィル"が来ないってことは、部活の助っ人に行ってる可能性があるな。」


桃馬「助っ人か。さすが運動神経抜群のエルフだな。ちなみに今日は、どこ行ったか知らないのか?」


憲明「…たぶん弓道だと思うな。弓っぽい大きさの物を布に包んで肩にかけてからな。」


桃馬「弓道か。エルフの十八番だな。」


憲明「あぁ、特にリフィルが放つ一本、本当に美しくて可愛いんだよな。」


桃馬「…はいはい、惚気はいいから早く迎えに行ってこい。」


憲明「っ、無茶言うな。リフィルは約束事は守る子だ。途中で助っ人を放棄するなんてしないよ。」


時奈「あはは、憲明は相当リフィルの事を信頼してるんだな。」


憲明「っ、リフィルの性格上、そうなると予想しただけです。」


時奈「そうか。うむうむ、なら憲明よ。私の名を使って良いからリフィルを呼んで来てくれないか。」


憲明「…時奈先輩の名前をですか。うーん、分かりました。」



時奈の名前を使うことを許された憲明は、小さな可能性、即ち"ワンチャン"呼び出せるのではないかと感じ、急いで部室を後にした。



生徒会長の名前だけでも、この学園内では意外と強い力を持っいるため、人を呼び出すくらい造作もないことであった。


それ故、むやみやたらに、力を振るう行為は横暴であり愚行であることから、生徒会を始め、許可なく生徒会長の名を使った者は、厳しい罰が下されることになるため、注意が必要である。



憲明が部室を飛び出してから数分後。


突如、部室の扉が勢いよく開くなり、

緑髪で短髪の男子生徒が勢いよく入り込んできた。


?「はぁはぁ‥。」


桃馬「っ!?な、何だ京骨か脅かしやがって。それよりどうした、息なんか切らしてよ。」


ジェルド「そう言えば、ルシアはどうしたんだよ。」


京骨「はぁはぁ‥、今そのルシアに追われてるんだよ!」


桃馬「二股が、バレたとか?」


ジェルド「他のサキュバスに言い寄られていた所を見られて誤解されたとか?」


京骨「どっちも違う!今捕まったら‥吸い殺される。」


"吸い殺される"


この穏やかではないワードに桃馬とジェルドは察した。そして二人は、表情を曇らせながら京骨に迫る。


桃馬「ば、ばか!?それなら何でここに来るんだよ!?」


ジェルド「お前と言う奴は‥まさか、俺たちを盾にする気か!?」


京骨「る、ルシアはお前らには興味はない!ね、狙いは俺だけだ。」


桃馬「な、なんだ、いつものじゃれ合いか。」


ジェルド「‥クンクン、ん?おい桃馬。逃げる準備をした方が良いかも。」


桃馬「そりゃもう‥ん?っ!!?」


ジェルドは鼻で気配を察知し、

桃馬は扉のシルエットで察知した。


続いて京骨も扉の外から感じる気配を察して、

部室の奥へと逃げようとする。


しかし、時は既に遅く。

閉めたばかりの扉が再び開くと、水色短髪ボブヘアーに、サキュバス独特のハート型の尻尾を生やした美女が姿を現した。


京骨「っ、る、ルシア!?」


ルシア「京骨~♪今日こそ妖気をもらうわよ~♪」


京骨「あ、いや‥その‥。」


先ほど京骨が言った通り、

ルシアの狙いは京骨一点のようである。


逃げ場もない空間に、万事休すの京骨であったが、ここで運良く部室に居てくれた時奈が仲裁に入る。


時奈「ルシア、京骨?イチャつくのはよいが、今日は新入部員が要るのだ。すこし控えてくれないか。」


ルシア「あ、時奈先輩~♪でも、公開プレイも交流の一環と考えれば、ありかと思いますがどうでしょう?」


時奈「ふむー、確かに‥この場なら認めよう。」


桃馬&京骨&ジェルド「ダメに決まってるだろ!」


三人男子たちは、全力で反対を唱えた。


これにルシアは不満そうに答える。


ルシア「むう、だって京骨ったら、一昨日の夜から、明日、明日って、わざと約束を延ばすんだよ?」


ルシアの言い分に、桃馬とジェルドは、

ゴミを見る様な表情で京骨を睨んだ。


京骨「そ、そんな顔で見るなよ!?さ、サキュバスの妖気の採取は怖いんだぞ!」


桃馬「可愛いルシアを彼女にしておきながら、約束を破るなんてな‥。」


ジェルド「正直ないな。もう、諦めてここで搾られろ。別にエロいことするわけじゃないだろ?」


京骨「‥っ、そ、それは……口づけだけど。」


桃馬「ひゅー、あついね。」


ジェルド「恋人らしいな。」


京骨「変わってみるか?」


桃馬&ジェルド「いや、いいかな?」


京骨「お前ら‥。」


無害と分かった男による煽りに、京骨が苛ついていると、部室の片隅にある給湯室から、ジュースとお菓子を持った小頼が出てきた。



小頼「あら?ルシアちゃんたちも着いたみたいだね♪」


ルシア「うぅ、ふえーん、小頼ちゃ~ん!京骨が約束破るんだよ~。」


小頼「ふぇ、約束って、もう京骨ったら、また逃げてるの?サキュバスを恋人にするなら覚悟を決めなさいよね?」


京骨「うぐっ、て、手加減をすればやってやるよ‥。」


照れ隠しのためか、京骨が腕を組んで目を閉じると、ルシアはその隙を見逃さなかった。


ルシア「じゃあ、いただきまーす!んちゅっ」


京骨「んんっ!?」


一瞬の隙を見たルシアは、目に止まらぬ早さで京骨の口を自らの口で塞いだ。


京骨は、じたばたと暴れるが次第に大人しくなる。すなわち、妖気採取終了のお知らせである。


公開プレイに反対していたが、桃馬とジェルドであったが、京骨の自業自得とも言える姿に呆れ、弁論も無かった。


一方、ポツンと席に着いている桜華は、先程から突然過ぎる出来事についていけず、ルシアと京骨の淫靡な光景に思わず赤面しながら見ていた。


桜華「と、時奈先輩‥止めないのですか?」


時奈「まあ、約束を破った末路だな。取り敢えず、このままにしておこう。」


桃馬「うんうん、二人が学園内でキスしてるのは、日課みたいなものだからね。」


ジェルド「そうそう、酷い時は廊下で堂々としてるくらいだからな。まあ、仕掛けてるのはほとんどルシアからだけど‥。」


桜華「な、仲が良いのですね?」


桃馬「そうだな、あ、ついでに紹介しようか。緑髪の男が大妖怪"がしゃどくろ"の末裔の湯沢京骨ゆざわきょうこつ、そして水色髪の女の子がサキュバスのルシアだ。二人とも二年四組の同級生だよ。」


桜華「が、がしゃどくろ!?ま、まさか‥そんな大妖怪までも。」


桃馬「まあ、このご時世だから大妖怪の末裔が居ても不思議じゃないよ?」


桜華「た、確かにそうですが、大物過ぎて‥あはは。」


時奈「さすがの、聖霊様でも大妖怪の名前には驚くのね?」


桜華「も、もちろんです‥大妖怪の血筋は希少ですから。」


時奈「それもそうか♪さてと、残るは二人だね。桃馬、ジェルド?ギールを呼んできてくれるかしら?」


ジェルド「わかりました部長。」


桃馬「お、俺も!?」


ジェルド「なんだ‥嫌なのか?」


桃馬「最近ギールに避けられてると言うか、近寄るとうなるんだよ。」


ジェルド「そ、そうなのか~♪」


桃馬の悩みに、ジェルドは少し嬉しそうに尻尾を振った。


桃馬「‥何喜んでるんだよ?」


ジェルド「別に~、じゃあ‥早速これを俺につけてくれ。」


ジェルドは、制服の内ポケットから、

自前の首輪とリードを取り出した。


桃馬「おい待て、なんでそれを取り出す?」


ジェルド「大丈夫だ、小頼も部長も認識済みだ。いつも通り犬になるからさ~♪」


桃馬「そう言う問題じゃねぇ‥。」


ジェルド「なんだ?じゃあ、今日は子犬で‥。」


桃馬「だから違うって!?なんで、ギールと仲が悪いことに喜んで、駄犬になろうとしてるんだ!?」


ジェルド「だ、駄犬ではない!俺は由緒正しい白狼族の狼だぞ!」


桃馬「駄犬だろうが。二ヶ月前、俺を襲おうとしたこと忘れてないからな。」


ジェルド「あ、あれはダチの儀式と言うか‥。」


過去の過ちを思い出したジェルドは、

目を逸らして両人差し指でツンツンする。


桃馬「そう言えば、ギールが俺に険悪な態度を取るようになったのは、確かその時からだな。」


ジェルド「っ、あ、あいつ‥まさか。」


桃馬「なにか言ったか?」


ジェルド「わふん、お、俺が探しに行く。桃馬はここにいろ!」


桃馬「お、おう‥。」


何かを察したのか、ジェルドは勢いよく飛び出した。


桃馬「い、一体何なのだ?」


小頼「いやはや~♪愛されてるね~♪」


桃馬「愛されてる?誰が誰に?」


小頼「桃馬に決まってるでしょ?」


小頼は、"にやにや"しながらひじで桃馬をつっつく。


桃馬「お、俺?おいおい、やめてくれよ。今まで俺は、男にモテてたってことか?」


小頼「さぁ~♪それより、二ヶ月前の"あれ"がどういう意味だったのかな~♪」


桃馬「っ、おいおい、脅かすなよ?二ヶ月前のは、発情期のジェルドがみさかえなく暴走して俺を‥押し倒して‥あ、あわわ!?思い出すだけで恐ろしい。」


小頼「まぁまぁ、未遂で終わったんだからいいじゃないか~♪」


部室内は、過去のトラウマを思い出し苦しむ桃馬と嘲笑う小頼、そして十八禁に近い愛し合い方をしている京骨とルシアによって賑やかになっていた。


これに桜華は一つの答えにたどり着き時奈に尋ねた。


桜華「‥あ、あの時奈さん?もしかして、ここにいる人たちって、変わり者ですか?」


時奈「うーん、半分正解かもね♪みんなここにいる時は自由になるからね♪」


桜華「自由ですか‥。」


時奈「そう、本来の自分を表せないのは悲しくて愚かなことよ?まわりを気にして本来あるべき自分を圧し殺して、偽りの自分を作ることは、本当の自分を見失う原因に繋がる。私としては、みんなに"本当の自分"を大切にしてほしいと思っているな。」


時奈の言う事に桜華は考えた。


"本当の自分"とは、きっと桃馬に対する恋愛を学ぶ大切なキーワードだと感じた。


私の思いは本当の自分の答えなのか。

それとも偽りの答えなのか。

桜華は見定めたいと思った。



それから十分程経過すると。


憲明が金髪のエルフ美女を連れて部室に帰還した。


腰まで伸びた金色の髪、そして、エルフ特有の美形な顔立ち、更に、少し細身であるが、スタイルもそれに習って程よくバランスが取られたスリーサイズ。


最後は、特徴的な気品のある綺麗なエメラルドの瞳である。


もはや、高貴な姫様レベルの美しさに、

桜華はついみとれてしまう。


だが‥。



リフィル「小頼ちゃ~ん、ルシアちゃ~ん♪お待たせ~♪」


小頼「遅いよ~♪何してたの??」


ルシア「また、助っ人?」


リフィル「まぁね♪弓道部に捕まっちゃってね♪」


見かけによらず、少しギャル要素が入っていました。


三人が楽しく話している中、

桃馬はリフィルを連れて来た憲明の姿を見て察した。


桃馬「憲明?今回リフィルさんの回収代償は?」


憲明「‥三十対二のデスマッチ。」


桃馬「で、憲明が袋叩きと?」


憲明「正解‥、いってて。時奈先輩の名前を出しても無駄だったよ。」


桃馬「うーん、なるほどな人気者のリフィルを彼女にしてしまうと、時奈先輩の名前だけではどうにもならない様だな。」


憲明「むしろ、火に油だよ。会長の名を借りてもなお、リフィルを奪うのかって言われたよ。」


桃馬「人気者を彼女にするリスクか…。こっわ。」


憲明「はぁ、んで、俺が居ない間に京骨も来た見たいだけど、ソファーに寝そべって何してんだ?」


憲明の目線に、

ソファーの上で干からびた京骨が寝ていた。


桃馬「また、ルシアの妖気採取から逃げてたんだよ。」


憲明「まじかよ、京骨も懲りないな。ん?あれ、ジェルドはどうした?ギールもまだ見えないけど?」


桃馬「そう言えばまだ戻ってきてないな。全く、どこほっつき歩いているのやら。‥仕方ない、少し探しに行くか。」


帰りの遅いジェルドを心配した桃馬は、

一人でジェルドとギールを探しに部室を後にした。


しかしその道中、突然視界が真っ暗になった。


殴られたのか、それとも布を被されたのか分からないが、


桃馬の意識は徐々に薄れていった。

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