第20話 彼を求めて、三千里(20)
私も一瞬、同情はしたが、『あること』に気づいて慌てた。
「大変だ!!」
円城寺君を完全に2人組の男子達に預けて、自転車の下敷きになっている男の側へ行った。
「どうしよう!?大丈夫かな!?」
ボロボロの状態を見て、愕然としながら声を漏らす。
「あああ!?レンタル自転車がぁー!!すっごく破損してるっ!!」
「「そっちの心配かよ!?」」
〔★自転車の心配だ★〕
数十分前にはピカピカだった自転車は、かごが変形してボディーも傷ついていた。
変わり果てた姿に、おいおいと悲しんでいれば、おいおいと後ろから注意された。
「お前!そこは人間を心配しようぜ!?」
「だってこれ・・・一応は、借り物だから!」
「お前のじゃないのかよ!?」
「つーか、なんで自転車で現れた!?」
円城寺君の知り合いらしい2人の問いに、私は虚しい気持ちで告げる。
「だって・・・カンナさんに頼まれたわけだけど、バイク乗れないから・・・どうしようかと思ってたら、ちょうど公共機関が公園に設置して貸し出ししてる観光地と街めぐり用のレンタル自転車が見えて・・・その場で登録できたから、登録して、円城寺君を運んできたわけです。」
「地域貢献までしたのかよ!?」
「そうなりますね。」
言われてみればそうだ。
苦笑しながら言えば、彼らは大口を開けたまま、声を発しなくなった。
その様子に息を吐いて、気を取り直してから私は言った。
「そういうわけなので、自転車壊した原因はそっちにもあるので、修理費は君が払って下さいね?」
レンタル自転車の下でうめいている人を、引っ張り出しながら告げる。
「庄倉君?」
先ほどの言葉で知った事実。
羅漢の服を着た者達から、『庄倉』と呼ばれていたこの男こそーーーー
(こいつが、こうなったすべての原因。)
「責任、取れるよね?」
「ふっ、ふざけんなぁーーー!!」
これにボロボロだった相手が、勢いよく体を起こす。
そして、真っ赤な顔で怒鳴りつけてきた。
「な、なにが責任だ!?なんで、円城寺を自転車で運んでんだよ!?ダイブしてんだよ!?むちゃくちゃしやがって!」
「・・・・・無茶は君でしょう?元赤中の庄倉君?君がした卑怯な手段に比べれば、可愛いものだと思うけど?」
「なに!?」
眉間にしわを寄せる男に、同じような顔で私は言った。
「違うの?1人で勝てないから、寄ってたかって、円城寺大河君をだまし討ちにしたんだよね?それで負けて、高千穂カンナさんも襲ったけど、1人じゃどうにもならなくて、仲間を大勢呼んで捕まえたんでしょう?」
「て、てめー・・・!」
「なに?文句があるの?おかしなところあった?じゃあ、弁解してごらんよ?」
「なんだその口の利き方!?俺を誰だとー!?」
「『小物』で有名な、羅漢の庄倉君でしょう?ほら、言いたいことあるなら言いなさいよ・・・死体に化けちゃう前に・・・!!」
自分の手を汚さないで、人を傷つける相手。
そんな奴に、利く口など決まっていた。
「言えよ、姑息で卑怯しかとりえのない庄倉さん・・・!?」
堂々とした態度で、相手の汚点を指摘する。
お前には責任があるのだと、その意味を強調して伝える。
でも、多くの場合が、それを認めない。
認められないから、論点をすり替える。
「なん・・・何なんだよお前!?意味わかんねぇ!何者だよお前!?お前誰だ!?」
取り乱しながら聞くので、素直に答えてあげた。
「あ、私ですか?私はですねー」
ニコニコ笑みを浮かべながら言った。
「ご覧の通りの一般人です。」
その言葉を最後に静まり返る周囲。
程なくして、時計の音があたりに響く。
それを受け、チラッと携帯で時間を確かめる。
12時ジャスト。
「間に合いましたね?約束の時間に。」
12時の鐘で魔法が解けたシンデレラ。
彼女は終わりの鐘だったが、こちらは違う。
今、試合開始を告げるゴングが鳴り響いた。
〔★ミッション成功だ★〕
◇
◇
◇
話は、凛が大嵐山の工場跡地に自転車で現れる少し前までさかのぼる。
かつては、工場だった場所。
現在は廃屋と化した場所。
今夜ここには、多くのヤンキーが集っていた。
「秀(しゅう)!」
「・・・悠斗(ゆうと)か?」
俺の名を小声で呼びながら近づいてくる仲間。
「大河はどうしたんだ?」
「わかんねぇ・・・大河もだが、カンナはどうなんだよ?」
「こっちもダメ!ケータイつながるけど出ないんだ、クソ!」
互いの返事に、2人同時に息を吐いた。
俺の名前は吾妻秀一(あずましゅいち)は、今年高校に入る15の男子だ。
「どうすんだよ・・・時間ねーのに!」
そう言って愚痴るのは、長谷部悠斗(はせべゆうと)
俺のツレで、いわゆるヤンキーだ。
悠斗も俺も、世間から見れば立派な不良。
中坊の頃から、他の仲間と組んで『爆裂弾(ばくれつだん)』と名乗って、喧嘩や走りをしていた。
喧嘩でもバイクでも、常に先頭切って暴れていた。
街で一番の不良になるのが、俺達の夢でもあった。
弱肉強食の世界、俺達は勝ち残っていた。
そんな俺達と、拮抗して対立していたのが・・・
「吾妻、長谷部。お前らの頭はどうした?」
「庄倉・・・・!」
そう言いながら近づいてきたのは、人の良い顔をした男。
この庄倉愛雄の率いる『羅漢』との相性は最悪だった。
不良の四天王中学と言われる俺達黒中と、同じく赤中出身の庄倉達とは犬猿の仲。
俺達を力ではなく、悪知恵と大勢の兵隊で持って卑怯な手段で消そうとしていた。
元々、俺達『爆裂弾』は1桁数のチーム。
『羅漢』はOBも含めて数百人はいる。
それでも互角にやってきた俺達は、相当根性が入ってると自負してる。
「約束の12時が着ちまうぞ?円城寺は、戦の放棄か?」
「テメー白々しいんだよっ!!」
「よせ、悠斗。」
「けど!」
「おいおい、八つ当たりするなよ~下がこれだと、上の甲斐性がわかるな~」
「誰が下っ端だ!俺らは対等なツレだ!!」
「ほお~女の子まで出動させて、まるで正義のヒーロー気取りだな~?」
庄倉の言葉で爆笑が起きる。
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