第19話 彼を求めて、三千里(19)



自転車の二ケツで特攻をかけた私。


それに集まっている集団に動揺が走っていた。





「こ、こっちにくるぞー!?」


「よけらんねぇー!」






慌てる奴らの中へ、止まれない私達が飛び込む。







「しょ、庄倉さん危なっ・・・!!」



(庄倉?)







数人が、1人の男を庇う動きを見せた。


携帯を持って立ち尽くしていた男。







(庄倉って・・・羅漢の!?)






さっきまで私が話していた相手で、今回の騒動の原因ね!?





(円城寺君達をこんな目に合わせて、私まで巻き込んだ悪人!?)






ムカムカする思いで相手をにらむ。









「うっぎゃああああああああ!?」










これに疑惑の男は、私を見ながら叫ぶ。



それで気づく。










(も、もしかしてヤバい!?)





「きゃああああああ!?」




(結構速いスピードでぶつかっちゃう!?)














庄倉らしい人物に、予想外の速さで接近しながら叫ぶ私。






「おおおおおおお!?」






その様子を、目を丸くして見つめる大男が視界に入った。


それの存在を確認した時、







グシャン!!



「「「ひいぃいいいいい!!」」」





「うっ!?」







私の運転する自転車は、庄倉にぶつかる前に、彼を庇っていた羅漢のメンバー達を引いた。






「痛てててて!!」


「うぎゃー!?」


「ひーかーれーる!!」




「ぎゃあああ!気持ち悪い感触―!!」






乗り上げて、上下に揺れる自転車の動きに顔をしかめる。


一度の落下で、スピードが緩むかと思った自転車だったが、減速しない。






(やばい!ブレーキ、ブレーキ!!)






そう思って、ハンドルを握る前に、人間クッションでバウンドした自転車が前上がりになった。


その前輪が、大男の側で固まっている庄倉に直撃した。










ドドーン!!




「ぐふっ!?」



「げっ!?」







・・・・狙ったわけではないが(当たればいいとは思ったけど)、庄倉の胸板に直撃する。







「あ。」







その様子に、間の抜けた声を出もらす大男。









「うっ・・・あああああああああ!?」








そんな彼の横を、私は風を切って爆走する。


それも、携帯を握ったままの庄倉付きで駆け抜けた。







「ぎゃ!?ぎゃっうげ!」


「わ、わ、わ・・!」







人を巻き込んでいるのに、自転車は止まらない。


確認したわけじゃないが、多分、自転車で引きずっているのは庄倉本人だろう。


散々卑怯なことをした悪い奴。


なので、良心はあまり痛まなかったけど・・・





「い、痛い!やめて!とめて・・・!」






情けない声を出しながら頼まれれば、止めないわけにはいかない。






「そんなこと言っても・・・あれ!?ブレーキが利かない・・・!?」







何とかしてあげようとして、両方のブレーキを、ブレーキコードが引きちぎれる勢いで握った。







ギィィィィィイイイ!!






これで自転車は、いい音を出す。


でも、状況はよくなかった。







「わっ!?」







急ブレーキをかけたことで、体が投げ出された。









ズザザザザザザーーーーーーーン!!




「い、いやぁあああああああ!?」








円城寺君ごと放りだされ、なんとか彼をかばう。



一緒に地面を転がる。



転がる私達と並行して、でこぼこの人間じゅうたんの上を走っていた自転車は・・・











ガタ、ゴロ、ガタ、ガッシャーン!!









宙で数回回った自転車は、どこかへと落下した。






ドスン!!



「げぶ!?」







誰かの上に落ちたらしい。


上を向いて回る前輪の動きが視界に映る。


自転車の行方を見届けたところで、体への回転も止まった。








「うう・・・痛った~・・・・・!!」







全身に走る痛み。


なんとか、身を起こして体中を触る。


幸い、骨折や大きなけがはなさそうだった。






(た・・・助かった・・・・?)






恐る恐る、自分が飛んできたであろう場所を見る。


意外と高かったガードレールの道。








(よ、よかった!親にばれるような怪我も負ってない!?)







さすが瑞希お兄ちゃん!







(ありがとう、瑞希お兄ちゃん!!私を守ってくれて!!)







実際は、体に身に着けた楔帷子(くさりかたびら)のおかげだったが、感情の高ぶっていた私はそうは思わなかった。






(瑞希お兄ちゃんのおかげで助かりました!本当に、ありがとうございます・・・!!)







だから私は、生きている喜びを感じながら、再会できていない瑞希お兄ちゃんに感謝した。


転がって埃だらけになった体を、ゆっくりと起こす。





「よかった・・・・!本当によかった・・・お兄ちゃんありがとう・・・!」






瑞希お兄ちゃんに感謝しつつ、声に出して生きてることを喜ぶ。


そこまで言ったところで、ハッとする。






(そうだ!円城寺君は!?)






慌てて、私と縄でつながっている男の子を見た。


さっきの衝撃を受けても、目を閉じたままで微動だにしない。






(やだ!?まさか、さっきのジャンプでどこか打った!?)






完全に、かばえたわけではない。



ただでさえ重症の彼。



彼にこそ、鎖帷子を着せてあげればよかったと後悔する。



いや、着せようとは思ったけど、骨が折れてるみたいだったから、素人が下手に固定衛て、骨が変形てくっついても困るかと思ったから・・・





(いやいや!今は、反省会してる場合じゃない!)





自分に自分でツッコミを入れて、気を取り直す。


急いで縄をほどきながら、その身を揺さぶった。






「円城寺君!円城寺君、しっかり!!」



「え、円城寺だ!?」


「あ!?大河!?」






そう呼びかければ、間近で声がした。


聞いたことのある声。




(この声って・・・!?さっきでの電話でカンナさん達を心配していた・・・)







そう確認する前に、2つの影が駆け寄って来た。







「た、大河!大河!たっちゃーん!」


「よかった・・・無事だったのか!」




(無事って・・・)







円城寺君の身を支えながら言ったのは、2人の男。







「いや、どう見ても無事じゃないでしょう?」






そのうち、背の高い男の言葉に思わずツッコんだ。





「本来ならば、病院へ連れていきたかったんですが・・・本人が大嵐山へ行くと言って聞かなくて。」


「大河が?」


「あと、カンナさんもです。」


「カンナも無事なのか!?」





背が高い男子に聞かれて答えれば、円城寺君にすがり付いていた少年が青い顔で聞く。





「カンナも大丈夫なのかよ!?」





だから、安心させるために言った。






「無事ではありますが・・・あまり無事じゃないですね。」


「「どっちだよ!?」」


「いえ・・・操は守られましたが、庄倉って奴の仲間に半裸にされて髪の毛をめちゃくちゃに切られたんですよ。顔だって、腫れあがるほど殴られて。」



「「なんだと!?」」






私の言葉に目の色を変える2人。


当然の反応だと思いながらさらに言った。





「彼女も病院へ行った方がいいと思いましたが、『大河を大嵐山に行かせるために囮になる』と言って、羅漢のメンバーのバイクを借りて走り去っていきました。」



「なんにぃぃぃぃーん!?」


「庄倉ぁ・・・・!!?」







それで、男子2人の顔が凶悪になる。


周囲はさらにうるさくなる。


怖い顔で、彼ら2人は同時に視線を私から別の人物へ移した。







(え?どこ見てるの?ん?あれは・・・・)






その先を確かめようと、同じように見て固まる。








「庄倉さん!庄倉さんしっかり!」


「だめだ!白目むいてる!」




「「うわー・・・・」」








見れば、自転車の下敷きになった男が1人。





(さっき、自転車でアタックしちゃったわけだけど・・・・!)




自転車に激突されて引きずれた上に、とどめと言わんばかりに上から自転車が落ちてきたのだ。






「これは・・・」




「哀れっつーか・・・」


「無残だぜ・・・」






そんな庄倉を見て、鬼のように怖かった2人の少年の顔も、気の毒そうなものに変わっていた。




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