第18話 彼を求めて、三千里(18)



(この人が責任者?)




庄倉よりは、対話できるかしら?


安心と期待を込めて耳を傾ける。


そして紡がれた言葉は――――――――――






〈終了時間直後にそうやって駄々をこねるところ見れば・・・12時までにつきそうにないんだろう~?〉


「どうでしょう。」



(こちらの状況を把握できてるのね・・・)






それなら、少しは温情が出るんじゃないかと思えば言われた。





〈しらばっくれんなよ。お前、こっちにきてるって言ってけど・・・バイクや車のエンジン音がしねぇーまさか、徒歩で走ってきてるわけじゃないだろぉ?〉


「あははは。絶対にしませんよ。」





責任者の言葉を、笑ってごまかしながら奴は言う。


今乗っている二輪は、エンジンなどかけていない。




(そこまで聞き取れるって言うか、気づくってことは、切れ者・・・!?)





だから私も、相手のことで、気づいた点を彼に伝えた。





「でも、エンジン音がしないのはお互い様でしょう?あ・・・でも、少し車の音が聞こえるかも。」


〈あ!?こっちが見えるのか?〉


「駐車場に集まってますよね?ライトの光がまぶしいです。」






見たままの感想を言えば、怪訝そうな声が返ってくる。





〈はあ?ふかしてんじゃねぇぞ?姿が見えねぇぞ?〉


「私からは見えますよ。いいから、日を改めてください。時間内にそちらに・・・行けそうですから・・・!」





ハンドルを通して伝わる振動に、胸がドキドキして怖くなる。


恐怖を誤魔化すように茶化しながら言えば、4番目の男は言った。






〈なに甘ったるいこと言ってんだよ、お子ちゃま!お前なぁ~社会に出るとよーそういうお願いは、却下されるんだ。〉






その言葉ですべてを悟る。





(あ。こいつ、お願いするだけ無駄だわ。)






「あ、すみませーん!ちょっと聞き取れません!」






〔★凛は会話を中止した★〕




さまざまなヤンキーと対話をしてきた【経験】がそう知らせる。


声に茶化しも入っているとわかった時点で、話すだけ無駄。





〈あ?いっちょ前に、聞こえないふりかー?都合の悪いことは聞こえませんってか、あーん?〉


「違います。」




話すのをやめただけだもん。




〔★凛は自主的に交渉を中止した★〕





〈あ?テメーから話してぇって言ったんだろう・・・・・!?〉



直接耳に入ってきているはずの音が割れて聞える。





(電波が悪くなってる・・・?なんか、聞き取りにくいなー。)






でも、いいや。


気にしない。




(だって、もう聞く気ないもーん♪)




「あ、ごめんなさい、聞こえないでーす!」




「・・・・あんだと?どう違うっ〔★凛は話を無視した★〕


「俺がそうだって言うのに、違うって言〔★相手からの話をシカトした★〕


「俺が誰か、わかって〔★わからなくてよくなったので、聞き流した★〕





耳元で聞える雑音をラジオの音に見立てながら、携帯を一度耳から離す。


画面に表示された時間を確認する。






(あと3分。)






残り時間は、カップラーメンができるまでと同じ。






(―――――――行こう。)






自前の携帯用のイヤホンを取り出して、カンナさんの携帯につける。


同じ機種だったから、つけることができた。


借り物の携帯をポケットに入れ、円城寺君と私をつなぐひもをもう一度しっかり固定する。






(瑞希お兄ちゃんどうか・・・・)





深呼吸して私の神様に祈る。





(私を守ってください・・・・・・・・・!!)





恐怖と不安と興奮の中、地面を蹴った。


私達を乗せたマシンが動く。


2つの車輪が勢いよく回り始める。


遊園地のジェットコースターのように、スピードが上がる。





(うわードキドキする!大丈夫かな?これ大丈夫かな!?)





そんな思いで神経を集中させていたら、ガラの悪い声が聞こえた。






〈なんとか言えよ、コラ?聞えてんだろうオイ!?〉



(まだなんか言ってる!)




しつこいぐらい、グダグダ文句を言う現場の責任者の声。






〈それともこの俺様を、馬鹿にしてんのかっ!!?〉




舌打ちを我慢したいのを堪えて、大きめの声で答えた。






「ちーがーいーまーす!!」






怒らせるのは面倒だったので、【敵意はないです。】と言う声を出しながら言った。






「電話口のあなた!大嵐山の工場跡地にいるんですよね!?」






言葉に気をつけながら、同時に運転にも注意する。


ハンドルを通して伝わる自分の振動に、胸がドキドキして怖くなる。





「間違いないですよねー!?」





そんな恐怖を誤魔化すように茶化しながら確認すれば、電話口の男は言った。






〈・・・?そうだが・・・ザザー・・・な ザッザッー んだ、オメー・・・?〉





ノイズとかぶって聞えてきた声。




(ちょうどいいわ。)




声も聞こえなくなってきたことだし、体中に伝わる振動も大きくなってきた。







(―――――――――運転に集中しよう。)




〈ザザー・・・オメーの方、電波悪くねぇーか??つーか、ザザー・・・・なにしてんだ・・・!?〉






その言葉場を受け、衝撃に備えて姿勢を変えながら告げる。








「はい!12時に間に合いそうもないので、思い切って、決死の覚悟で―――――――――!!」








ノーブレーキの状態で、見よう見真似で前輪を上にあげる。





ガサガサガサ!バキッ!!!










「大ダイブ決行で――――――――――――――――す!!」






「「「「「「「ええええ!?」」」」」」」





「な、なんだと!?」







眼下から沸き起こる歓声。


いつもより近い距離に感じる満月。


空中で揺れる体で、何とかバランスを取る。






「くっ・・・・・!!」







それでも、この大ジャンプは初体験。



飛んだはいいが、どこへ落ちればいいか?





(なにかクッション!!)






そう思って下を見た時、覚えのあるジャケットを着た集団が飛び込んできた。






(あれは『羅漢』じゃない!?)









さっき見た趣味の悪いジャケットを着た者達がいた。






(あそこだ・・・・・・!!)






本能的に着地地点を決める。






「な、なんだー!?」


「あいつ!工場の駐車場に続く道から、ガードレールを飛び越えてきたのか!?」


「おお!確かに、あそこから飛んでくれば、普通に道路を通るよりも時間が短縮されるな!!」


「感心してる場合ですか、百鬼さん!?」


「突っこんでくるぞー!!」






そう言っている声は、さっきまで電話口で聞いていた声色と同じ。









(あいつらかぁぁぁぁ・・・・・!!)








「見ーつーけーた―――――――――!!」






チリンチリーン!







私の声と他人の悲鳴が混ざる。


そこへ、合掌するようにベルを連ちゃんした。









「「じ、自転車!?」」


「バイクじゃなかったのかよ――――――――――――!?」







これに、私ではなく、私の乗っている乗り物に注目が集まる。








「自転車でぇ――――――――す!!」







チリン、チリン、チリン♪







そうです。



私が乗っているのは自転車です。


あの時公園で、私が見つけたもの。


選んだ交通手段。









「これ、レンタル自転車じゃない!?」







私がいた周辺では、観光地整備とエコが盛んにおこなわれている。


その影響で、公園や町中に無人のレンタル自転車を設置していた。


借り方は簡単で、その場で登録手続きをすればすぐに使える。


お金は取られるけど、好きな場所で借りて、好きな場所で返却をしていいので便利。


だからバイクに乗れない私は、円城寺君を運ぶ手段として『自転車』を選んだのだった。



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