第17話 彼を求めて、三千里(17)



(・・・・なにこれ・・・?平地になってる?)






地図には、坂道が表示されていた。


なのに、それらしい場所が見当たらない。







(困ったな~12時まで時間がないのに・・・!)






どうしようと思えば、運よく地図が描かれた看板があった。


円城寺君と共に近づいて見る。


携帯の明かりを頼りに見ていれば、うるさいBGMが流れてきた。






〈なんとか言えよ、おい!?俺も名前を言ったんだから、お前も言えクソガキ!!〉



(うるさいなぁ~人が地図見てる時に・・・)






雑音にしかならない声にイライラを我慢しながら、適当に相槌して答えた。






「ああーはいはい。えーと、名前ですか?そうですね~しいて言うなら~」


〈言うなら!?〉


「道に迷ったかもしれない一般人です。」







今の現実を、正確に表している言葉。


これに相手は言った。








〈迷子かお前!?〉







間の抜けた声が、静かな道路に響いた。






〈なんなんだー!?迷子って、お前何!?〉


「何って言われても、道に迷ったみたいです。・・・多分、この道であってると思うけど・・・」






地図から離れながら、其れらしい道を進む。







「どう思う?」






ダメもとで聞いてみる。






〈俺に聞くな!見えねーし!?〉






やっぱり教えてくれなかった。





〔★それ以前にわからないだろう★〕





「つかえなーい・・・」






役に立たないと思いながら、文句を言った。


すると目の前に――――――――――








「あ!?坂になってる!」








カンナさんの地図のナビの通りの道が見えた。


見つかった。






〈坂!?〉


〈おいおい、どこに行こうとしてんだよ・・・!?〉







安堵しながら言った言葉を、庄倉とは別の声が聞き返す。


庄倉と喧嘩していた者達からの問い合わせ。


答えない理由はない。







「はい!カンナさんに頼まれて、円城寺大河君を人間の底辺である庄倉君が待つ大嵐山まで運んでまーす。」



〈え?〉







そう言った時、時刻は23時54分となっていた。


私が今、通っている道は、急斜面だと思った。


だから、慎重に暗闇に目を光らせる。


様子を見ながらくだっていたら、さらに問われた。






〈カ・・・カンナの頼みで、大河をこっちまで運んでるだぁ!?〉


〈今どこなんだ!!?〉





2つの声に、暗がりの先の外灯を見ながら答えた。





「えーと、カンナさんから借りた携帯の中の地図を頼りにしてまして~近道をして・・・・あ、見えてきた!」







少しだけ地面の下がった場所が、明るく光っていた。



バイクや車の光だとわかった。








(あそこがゴール地点!?)







ほっと安堵したが、目に飛び込んできた光景に悪寒を覚える。








「ちょっと待って・・・!?」



(あれ?何かおかしい・・・・?)






カンナさんの地図によれば、このまま直線に進めばいい。


だけど、直線に進んでは道が・・・・










「ない・・・?」












延々と続いていたガードレールが、ない。



一部分だけ、なかった。









「・・・・・・・・まさか。」







獣道のような、人が通れない道を通った後だからわかった。




(あ、あの子!!カンナさん、まさか、私に、ガードレールを飛び越えろっていうの!?)






思わず動きを止めて、周辺を見渡す。








(嫌な予感・・・・!?)







すると、蛍光テープのついた看板が目に留まる。








―この近辺で、モトクロス(オートバイレース)の練習および、行為をしてはいけません。  特に、ガードレールをジャンプ台にしてはいけません  ○○県警―




(予感的中っ!!!)






〔★凛の推理は当たってた★〕





「無理よ・・・!」







確かに、ここから飛び降りれば、一発で間に合う。


時間は、23時55分。


単純に考えても、このまま道沿いに目的地に向かっても時間以内につかない。







(飛ぶしかない・・・!?)







慣れない2人乗りで、運転で、怪我人の円城寺君ごと、ここから飛び降りろと・・・!?





完全な自殺行為。





〔★ちゅうちょされる行為だ★〕





絶対怪我をして、両親にばれるような傷を作ってしまうのは目に見えていた。









(そうなれば、瑞希お兄ちゃんを探せない・・・!)







それだけは避けたい。



避けたいけど・・・








〈おい、何が無理なんだよ!?〉


〈どうしたんだ!?答えてくれ!〉







こちらを気遣う声が心に届く。










“ヤンキー界を守れるのはあんたしかいない。”













そう言って、私に怪我人の友達を託した女の子。







“大事なツレを見捨てられるか!”







そう言って、友達のために自分の身を差し出そうとした男の子。










(瑞希お兄ちゃんならどうする・・・?)










ー筋を通す奴は、助ける価値がある。ー










たくさん話した中で言っていた。


彼が語っていた言葉が頭に浮かぶ。









「そうだよね・・・・ここまで来たんだもんね・・・・」







そう覚悟を決めたはず。


もう、途中下車は出来ない。


仮に下手に落ちたとしても、防具をつけているから何とかなる。







「なんとか・・・なるよね?」


〈なにがだ!??〉




「ごめんまちがえた・・・なんとか、するよ・・・!」







困惑そうな声がイヤホンから聞こえた。






「何とかするから・・・。」








聞えた悪い予想を否定する。


それを振りきるように、深呼吸してハンドルを握りなおす。


決心が鈍らないうちに口にする。





「・・・・・・降りるしかないもんね・・・・!」


〈〈降りる!?〉〉





独り言で言ったつもりだったが、電話口の人達には聞こえていたらしい。


心なしか、少し離れた場所で同じ言葉がエコーしているように響く。


それでわかった。




終点は近い。






「ははは・・・・時間も、4分前になっちゃったし・・・!」







もう迷ってる暇はない。







「あ、そうだ。」







時間が短くなったことで、ある種の不安が胸をよぎる。









(4分で降りれなかった時のための保険を使おう・・・)



「・・・・もしもし、ちょっといいですか?」









だから、初めて私の方から問いかけた。










「聞いてほしい話があります。」


〈〈〈〈聞いてほしい話!?〉〉〉〉









切り出す私に、彼らは食いついてくる。


聞いてもらえそうな状況に安堵しながら、私は正確に伝えた。


運んでいる少年と、運ぶのを頼んできた少女の身に何が起こったのか。






「あのですねー!円城寺大河君は、高千穂カンナさんを守るため、血みどろになりました!しかも、その前に庄倉のクズがタイマンだと騙して集中攻撃していて、重傷です!」



〈マジか大河ー!?〉


〈やっぱり、騙されたのか・・・!〉








納得する返事を受け、やっぱり庄倉は悪い奴だと確信する。


同時に、話の筋を通すべくお願いした。






「はい!だから・・・・その場の責任者を出して頂けませんか?」



〈せ、責任者だと!?〉


〈出したらどうするつもりだ?〉







庄倉が困惑の声をあげる。


3番目の声が、怪訝そうに聞く。


それを受けて私は答えた。








「第三者の立場として~こういう卑怯な果し合いはよくないと思います!だから、延期してください!!と、お願いしたいんですっ!!」




〈〈〈〈え、延期!?〉〉〉〉




「これだけ違反行為をされたのに、同じ土俵で戦えますか?主催者は、そこまでわからないほど筋の通らない人ですか・・・!?」






〈ほほ~・・・!なかなか・・・面白いこと言うじゃねぇか・・・!?〉









途端に、3つの声とは違う声が響く。








〈もしもし、話は聞いたぜ、坊やぁ~!?〉


「え!?責任者の方ですか?」


〈おうよ!オメーの話は分かった!〉






そう言ったのは、新たなる4番目の声。




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