第16話 彼を求めて、三千里(16)



繰り返しになりますが、よくわかった。


いろいろわかった。


とりあえず、電話をかけてきたのは、カンナさん達が言っていた庄倉本人で間違いない。


庄倉愛雄だと確認できたので言った。








「オメーが原因だ、庄倉。」


〈なっ・・・!?〉







私の言葉で、庄倉が動揺するのが手を取るようにわかる。





あれ、困ってる?




(じゃあ、もって困らせてあげよう。)





自然とほころぶ口元で、私は直接奴に言ってやった。







「あのさー話聞かせてもらったけど、君が庄倉君だよね?羅漢を束ねてる元締めさん。」


〈・・・だったらなんだ!?〉



「評判悪いね、庄倉君。」






相手が何か言う前に、私が知る限りの真実を2割増しで教えてあげた。





「おたくの雨宮君もさー言ってたよ。タイマンで呼び出す本人と直接話しさえできれば、後は1人でノコノコやって来た大河を全員でオシャカにして仲間と連絡とれないようにすれば、証拠は完全には残らないって。」


〈〈〈なんだと!?」〉〉〉





これで、電話口が騒がしくなったが気にしない。






〈そっか!声を聞いた本人がいなきゃ、証拠にはなんねぇ!やっぱり庄倉!テメーが大河とカンナを・・・!〉





可能性のある話に気づき、そう叫んでくれた2番目の声、長谷部という子に感謝する。








「そういうこと。形勢逆転だね、庄倉君。クズの極みだ・・・!」







鼻で笑ってやれば、庄倉らしい声がキレた。






〈は、早まってんじゃないぞ!おい、お前誰だよ!?名乗れよコラ!?〉






自分が不利だと感じて、話を変えてきた。


その幼稚な行動が馬鹿らしくて、ため息をつきながら聞いた。




「え?私?私の名前聞きたいの?」


〈そう聞いてるだろう!?〉


「じゃあ、先に名乗ってよ。」


〈はあ!?〉


「アメリカじゃあ、自分の名前を先に名乗るでしょう?ホント、マナーが悪いですね?」


〈ここは日本だバカ野郎!!〉




〔★それでも一般常識だ★〕




小馬鹿にしながら言えば、本気で怒る声が返って来た。




どうしよう、これ?





(なんか、すごく楽しい・・・!!)





調子に乗っている悪い奴をからかう瞬間。


言い負かす時の優越感。






〈お前な!羅漢の庄倉愛雄(しょうくらまなお)相手に、そんな口聞いて許されてると思ってんのか!?〉






肩書を出して対抗してくる姿。






「思います。」






それらに楽しみを感じながら告げて気づく。


視界の先に、分岐点が見えた。








(あ。あそこをまっすぐ行けば、大嵐山の工場跡地に一直線だったよね?)








電話のせいで、地図の表示が見れないが、何度も見たのでわかっていた。






(とはいえ、この先は坂道になってる。電話しながら運転するのは、限界ね。)






そう思ったので、単刀直入に言った。









「というか、忙しいから電話切りますね。」


〈はあ!?〉


「いつまでも、あなた程度の人と話してるほど暇じゃないです。それでは失礼します。」






ブツ!ツーツーツー・・・








相手が何か言う前にボタンを押した。







「さて・・・!」







坂道の手前で一度止まる。


対向車がないことを確認して、目の前の坂道を一気に下った。


ガタガタの道を、ブレーキをかけながら下りる。






「わ、わ、わ!やっほー!」







最初は怖々だったが、思ったほど危なくなかった。


これに安心し、調子に乗って風を切りながら下った。


そうやって、周囲を見ていて気づいた。







「あれ!?もしかして、あそこが工場跡地!?」







視界に見えたのは、ライトアップされている古ぼけた工場。


自分のいる場所と目的地の距離を間隔で予測する。





そんなに遠くない!!






(これなら、予定通りつくかも!)






そう喜んだのもつかの間。








「・・・あら?」







急な坂が緩やかになると、平地へと変わる。


そして、先ほどとは真逆の道になった。








「嘘!?これ・・・上り坂なの・・・!?」







〔★天国から地獄へだった★〕





見上げる高さにため息が出る。






「二人乗りじゃ登れない・・・」







幸い、距離は短い。


仕方ないので、乗り物から降りる。


後ろに乗せている円城寺君を落とさないように、神経を集中させる。


細心の注意と体力を持って坂をあがる。







「ぜーはー・・・!つ、辛い・・・!」



(もう、上り坂ないよね・・・!?)






カンナさんの携帯の地図をタッチして見る。


予定では、この後は少し急な下り坂。


駆け抜ければつくらしい。







(到着時間も・・・・ギリギリね・・・・!)






表示さられた時刻を見ながら、必死で円城寺君を運んだ。






(もう少しでつく。ついたら、庄倉って奴が卑怯者で、円城寺君達には温情の余地があるから、彼の傷がいえるまで、勝ち抜き戦を待ってもらうようにお願いすればいいだけ・・・!)






聞いてくれるかは別として、言うだけ言わなきゃダメ。


さっきの電話みたいに、言わないとわからないことだってある。


そうやって、肩で息をしながら乗り物を引いていたら、ダークなメロディーが響く。







「なに!?また電話・・・!?」



(しかも、しつこいなっ!?)






鳴りやまない携帯画面を見る。


表示は先ほどと同じ非通知。


面倒くさかったので、ボタンを押すと同時に言った。





「お客様の~はぁはぁ・・・おかけになった電話番号は、現在・・・はーはー・・・電波の届かない場所にあるか・・・ほっと!電源が入っていないため、かかりませーん!」



〈どこの世界に、息切れしながら音声ガイダンスを述べる機種があるー!?〉




・・・・チッ!





誤魔化せるかと思ったがだめだった。





〔★無理がある★〕





声からして、相手は庄倉。


無駄だと思ったが、とりあえず言った。






「ふーふー・・・当社がそうでございます。アイポも新発売されたでしょー?」


〈アイポ関係ねぇだろう!?つーか、嘘がバレバレなんだよ!!何お前!?誰お前!?マジで誰!?〉


「なんで、名前も名乗らない奴に名乗らなきゃいけないんですか?」


〈知ってるだろう!?俺が庄倉愛雄だって!?〉


「今はじめて、聞きました。」


〈うっ~~~~ぎぃぃいいい!!いいから名乗れ!!〉






短気を起こす相手に、少しだけ冷静さが戻る。





(名前を言えっても言われても・・・)





ナイショで瑞希お兄ちゃんを探している身としては、名乗りたくない。


そう思いながら、上り坂を上りきって、あれっ?と思う。




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