第21話 彼を求めて、三千里(21)
『爆裂弾』は、円城寺大河を中心とした少数精鋭集団。
その中に高千穂カンナという女子もいるが、俺達は同等だと考えてる。
カンナも弱音を吐かないので、『女を武器』にするような戦い方はしていない。
逆に、人質目当てに狙って来る馬鹿達を、叩きのめすいい手段にはなっていたが・・・
「今夜は、あの『龍星軍(りゅうせいぐん)』の後継者を決める試合だぜ?余裕で、寝坊でもしてんのか?カンナちゃんの隣でよぉ」
「てっめぇー!!」
庄倉の言葉で悠斗の表情が厳しくなる。
「マジでいい加減に~!!」
「いい加減に黙れ。」
怒鳴りかけて悠斗の言葉を別の声が遮った。
それで悠斗だけでなく、庄倉も俺もぎょっとする。
「見苦しいんだよ、オメーらは。時間きてからもめろ。」
「百鬼(ももき)さん!」
そう言ったのは、仏頂面の大男。
「百鬼(ももき)、皇助(おうすけ)、さん・・・!」
いたのは、今回の決戦に欠かすことのできない大物ヤンキーだった。
「小競り合いはやめろ。まだ、円城寺が来ないってわけじゃねぇだろー?」
「百鬼さん!」
「俺は、円城寺をそれなりに知ってる。途中投げする半端者じゃねぇ。」
「・・・もちろんです、百鬼さん。」
「吾妻もこうやって大人しくしてんだ。長谷部、あんまり短気にどなるんな!うっとうしい。」
「うっ・・・す、すみません・・・!」
百鬼さんの言葉に項垂れる悠斗。
それを見て口元だけでそっと笑う庄倉。
これに、背を向けながら百鬼さんは言った。
「庄倉も、小技で人を陥れてんじゃねぇーぞ!頭悪く見えてるわ。」
「えっ!?」
ぷっ!
さすが、百鬼さん!
長年、トップで上に立ってきたものは違う。
「い、いやですね!勘弁してください、百鬼さん!」
歪んだ顔で笑顔を作りながら、庄倉は俺達から離れて百鬼さんについていく。
奴が離れたところで、俺は悠斗に声をかけた。
「早く来てくれればいいな・・・百鬼さんはご機嫌ななめだ。」
「俺もだぞ?」
「お前はいつもそうだろう。あんまり、挑発に乗るなよ。」
「わーてるよ。今夜は大事な日なんだからな・・・」
「ああ・・・」
今夜、筋金入りの町中のヤンキーが集まっていた。
これから行われる継承式を見るためにだ。
俺達の住む町には、伝説のチームが存在する。
県下指定の暴走族グループ『龍星軍(りゅうせいぐん)』
走りと喧嘩の最強暴走族にして、少数精鋭を誇った何でもありのヤンキー集団だ。
今話しかけてきた百鬼さんは、その初代幹部を務めた男のうちの一人。
別名、『野獣』といわれる生物学上は人間とされている御仁。
今はヤンキーを卒業したらしいが、あまりそのようには思えない。
彼ら初代が引退してから、その後継者が『龍星軍』を継いできた。
しかし、代を重ねる際に、いろいろと問題が起きて、ここ最近は『龍星軍』の後継者を指名していなかった。
そこへきて、怖いもの知らずの我らがリーダーの円城寺大河が、直談判という形で百鬼さん達に『龍星軍』を継がせてほしいと頼みに行きやがった。
最初は相手にされなかったが、最終的には大河の意見は通ったわけだが・・・
「それ、ヒイキじゃないですか?」
元赤崎中学のOBで、自称百鬼さんの後輩である先輩が待ったをかけてきた。
「『龍星軍』を継ぎたい奴は、そこら辺にいます。どうせなら、勝負させてくださいよ。」
「ほぉー・・・バトルロイヤルか?」
「強い奴が頭を取るのは当然です。ご存じないかもしれませんが、円城寺は、ツレだとか言って女にも『龍星軍』の看板つけて走らせる気ですよ?百鬼さんが現役の頃は、女人禁止だったでしょう?」
「つまり、女が混じってることも気に入らねぇーって・・・!?俺に文句言いたいのか・・・!!?」
「ぅつ!?ち、ちがうっす!ですから、もっと公平にしてもらった方が、若者もチャンスがほしいわけで~」
「わはははは!!・・・いいだろう。」
噂でしか聞いてないので、どこまで正しいかは、わからない。
わからないが・・・
「俺らの後継者になりたきゃ、バトルロワイヤルのデス・マッチレースに参加してもらう・・・!参加グループは制限なし!俺らが指定した3日間を生き抜いて、ゴールである大嵐山まで来たやつに次の『龍星軍』の看板をやる!もし、ゴールした奴らが複数いたら、そいつらのうちの代表同士にタイマンで闘ってもらう・・・!最後の1人になるまでだ・・・!!いいな・・・!!?」
こうして、『龍星軍』後継者争奪戦が発生したのが2日前。
今日が、最終日の3日目だが・・・
「よぉ・・・残ってるのは、赤中の『羅漢』と円城寺の『爆裂弾』だけだろう。」
「もう、残り20分切ったぜ?大河の奴来るのかよ?」
「ほとんどが、大所帯の庄倉らの『羅漢』にやられたからな・・・」
「さっき、待ち流してる奴が知らせてきたけど、円城寺のところのカンナが町中暴走してるってよ。」
「マジ?もしかして、円城寺行方不明?」
「じゃあ、来れないのか・・・?」
ヒソヒソと話す野次馬の声。
俺の代わりに悠斗が舌打ちしてくれた。
(カンナがオトリになってくれてんなら、さっさと来い大河!あにしてやがんだ・・・!?)
俺達と庄倉の一騎打ちと言えた闘い、多くのヤンキー達が参加した。
それだけ、『龍星軍』の看板は魅力的で、少年の夢が詰まっていた。
負ける気はないが・・・
(『羅漢』は、赤中でも特に性質の悪いヤンキーが必ず入るチーム・・・無茶な校外活動をする部活動をしている奴らの塊。全校生徒から選ばれた者達が加盟するだけあって、数も半端ない・・・100はいるのか?)
それに対して俺達は・・・・
(一桁しかいないからな・・・)
昔は黒中の方が達が悪かったが、今は違う。
赤中の方がヤンキー育成校。
ヤクザや売人、半グレ予備集団になっている。
(しかも今回は、そのOBまで庄倉達に手を貸してるから、余計やりにくかった・・・)
百鬼さんだって、それは知っているはずだ。
なのに、あえて口出ししないのは・・・
(俺達を試しているからだ・・・!)
そうでなければ、脱法ハーブをしているような奴らに健全な暴力と走りを売ってきた先代達が、自分達の跡継ぎにするはずがない。
(だから頼む、大河!早く来てくれ・・・!!)
時計を見れば、約束の時間まで、15分となっていた。
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