第15話 彼を求めて、三千里(15)



不安な気持ちで、ボタンをプッシュする。


耳を当てて、相手の声を待った。





〈もしもし、カンナちゃん?〉



(あれ?)



聞えてきたのは男の声。




(カンナさんじゃない?)




というよりも、カンナちゃんのことを聞いてきた。


どういうことかと思っていれば、声の主は言う。





〈今どこにいるかな?〉





え?


カンナさんのこと?


どこって言われても・・・・






「知りません。」






聞えてきたのは、聞き覚えのない声。


とりあえず、正直に答えれば、変な沈黙が流れた。




(・・・・もしかして、カンナさんとだ思ってかけてきた人かな?というか、カンナさんの携帯だから、そう思うのが普通よね。)





しかし現在、カンナさんの携帯は私が持っている。


かけてきた人はそれを知らないのだろう。


それなら・・・・






(教えてあげよう。)







そう思って、こちらから話した。




「どこのどなたか知りませんが、カンナさんがどこを走っているか知りません。」


〈――――――はあっ・・・!?〉



私の返事に間の抜けた声で叫んだあとで声の主は言う。






〈高千穂カンナちゃんの携帯だよな・・・!?〉


「そうですよ。」


〈お前誰だ?〉






聞えてくる音が変なエコーで伸びていた。


スピーカー機能で話しているのだとわかったので、あまり声が大きくならないようにしながら話した。






「そう言うあなたこそ、どちら様ですか?」


〈ど、どちら様だと!?〉


「そうですよ。普通、電話かけてきた方が名乗るのがマナーでしょう?名乗りなさい。」


〈マナーって・・・ええ!?お、お前誰!?雨宮じゃ・・・・〉






そこまで言った相手の声が途切れる。


なんだか、がやがやと雑音のような罵声が飛び交っている。


聞き取れない声を聞きながら、あることに気づいた。






「雨宮・・・?」





聞いたことのある名前。


羅漢のメンバーだと名乗った男で、円城寺君が倒した敵。





(こいつ!羅漢のメンバーか!?)





そう思った時、別の声が響いた。






〈カンナ!おい、カンナ!どーなってる!?聞こえるか!?つーか、カンナの携帯で話してるの誰だよお前!?誰だ、誰だ、だーれー!?〉





カンナと連発しながら怒る声。


それが誰のことなのか。


カンナさんの安否を問う相手が何者なのか。




なんとなくわかった。






〈馬鹿!そんな聞き方あるか?そんなんで答えるわけがー〉


「高千穂カンナさんじゃないです。」


〈えっ!?答えるのかよ!?〉






答えるわけないという新たな声を否定して、真実を伝えた。




「この携帯は、高千穂カンナさんの者で間違いないです。無理やり貸してくれました。」


〈え!?カンナの携帯であってるの!?〉


「無理やり貸しただと・・・!?」


〈どうなってんだよ、おい!?〉






それは私のセリフよ。



どうしてこうなったのか・・・わかってる。






(すべての原因は・・・!!)



「羅漢です。」






聞いてきた人達に、諸悪の根源の名前を伝える。






「羅漢の庄倉の手下である雨宮と大場というのが高千穂カンナさんを人質にして円城寺君を襲ってきた結果・・・割愛しますが、私が彼女の携帯を借ることとなりました。」




〔★凛は告げ口した★〕



これで、2番目に聞こえた声が怒りながら言う。





〈割愛しすぎだろう!?カンナが人質!?大河が襲われた!?なんでお前が携帯持ってんだ!?〉


〈落ち着け!それだけわかれば、情報としては十分だぜ・・・・・庄倉っ!!!〉





3番目の声が、2番目の声を制して何か言い始める。





(え・・・?今、『庄倉』って言った?)




まさか、カンナさんが教えてくれた羅漢の頭?





(なんで、敵の親玉が、カンナさんの携帯に電話してるの・・・・?)





気候としてやめる。


止めていた足を動かす。


聞いてもよかったが、この場にいつまでもじっとしていられない。


眠ったままの円城寺君を、慎重に乗せて走る。


こちらが聞かなくても、向こうで何が起きているかわかった。





〈いくら、多少の無茶はアリとはいってもカンナを人質にするとはどういうことだ!?〉





意識してなくても、聞えてくる電話口の会話。


それに耳を傾けながら、大嵐山を目指す。


険悪な話は続く。





〈なっ・・・なんだよ!女に暴力振るうのは最低だって言いたいのか!?〉


〈そこじゃねぇよ!!貴様は、大河とタイマンを張りたいと言ってきただろう!?正々堂々の一対一で!それであいつ1人を行かせたわけだが・・・どういうつもりだ?〉


〈どうとは?〉


〈お前が万が一にも、大河を倒したとしても、人質を取ったタイマンなど、便所の虫以下のクズだ!!羅漢はいつから弱虫になった!?〉


〈あんだと吾妻(あずま)!〉


〈言わせておけば―!〉





聞えてきた内容で判断する。






(どうやら・・・敵と味方で言い争ってる。これは・・・早く円城寺君を届けないと!)






事態が悪くなってると思っていれば、その予想は当たってしまう。







〈だからなんだ?〉







突然、最初に電話をかけてきた奴の声が強気になった。





(庄倉だ・・・・)




何を言うのかと思えば、予想以上のことを言ってくれた。







〈お前それ、本当に俺からの呼び出しだったのか?〉


〈なに・・・!?〉




振動のように伝わる、避難した側の人達のいきどおる声。





(えっ!?なにその言い方!?)




もしかして―――――――





(こいつ!庄倉って奴、シラを切り始めた!)






運転に集中しながら、どのような会話になってきているか耳を澄ませる。


そして、聞えてきたのは最低の内容だった。




〈俺は名前を使われることがよくある。おまけに、お前らをよく思ってない連中は多い・・・!〉


〈てめぇ!庄倉ぁ!!〉


〈困るなぁ~濡れぐぬを着せるのはよぉ~・・・!!〉


〈貴様・・・!!〉





(ムカつく言い方・・・・!)




そう思う私に、羅漢の頭はとどめを刺してくれた。





〈嘘ついてんじゃねぇぞ!大河は、絶対に庄倉本人だったって言っんだよ!?〉


〈長谷部(はせべ)~〉





キレる相手を、馬鹿にするように庄倉愛雄という男が言った。






〈証拠は?〉







長谷部と呼ばれた子の発言に、庄倉本人らしい声が、堂々と宣言する。





〈俺だっていう証拠見せて見ろよっ!!〉


〈そりゃあ、大河本人が話したから――――――――〉


〈ああー!?じゃあ、その大河出せよ!呼べよ!証拠出せや!!〉






罵声に続く、何かを蹴る音。





〈聞いた本人が来なきゃ、話になんないだろうが~?なぁ長谷部君?〉


〈こ、この野郎・・・・!〉


〈やめろ、悠斗(ゆうと)!〉





よぉーく、わかった・・・・・!!




(なぜ、カンナさんが、円城寺君が、あそこまで嫌っているのか・・・!!)




聞いていて、これだけムカつく会話も珍しい。


なによりも、顔が見えなくても、電話口で調子に乗っている男の様子が手に取るようにわかった。


だから、その現状をぶち壊してやった。









「いいえ、庄倉愛雄(しょうくらまなお)本人で間違いないです。」



〈〈へ?〉〉


〈なっ・・・!?〉







私の言葉に、いい感じで息を飲む庄倉の吐息が伝わった。



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