第14話 彼を求めて、三千里(14)




(辺ぴな場所だから、電車の本数が少ないのは仕方ないけど・・・)




どうせ、始発まで待たなければならないから。


一日一善ということでボランティアをしてもいいけど・・・。




「どうやって行こう・・・」




歩いて行くのは・・・成長期の男子を背負っていくのは厳しい。


時間制限なしで、大嵐山まで運ぶだけなら焦らなくてもいいけど・・・。





「・・・12過ぎると、庄倉って奴が得する世界になるんだよね・・・?」





門限じゃないけど、時間制限がある。


こうしている間にも、タイムリミットが迫る。


時間を気にしながら考える。





(タクシーを使えないこともないけど・・・いくらかかるかわからない。片道分あったとしても、往復で足りるかどうか・・・)





お小遣いの大半を瑞希お兄ちゃん探しに使っているわけで、いつもお金に余裕はない。


それを思うと、深夜料金割増のタクシーを呼ぶのは、ちゅうちょする。


「痛ぅ・・・!」


「円城寺君、大丈夫!?」




気を失ったまま、からだの痛みにかおをゆがめる円城寺君。





「うぐう・・・!」


(いいのかな・・・・?)





苦しそうに眠る彼を見て不安になる。





(いくらカンナさんと一方的に約束したとは言え、本当に病院は良いの・・・?)



タクシーの代わりに救急車を呼んでもいい気がしたが・・・







“親切で殴ってやったんだよ!”






さっきの出来事を思い出してムカっときた。


円城寺君を連れていかないと『卑怯者』が得をする。




(男女平等とか言いつつ、大勢で1人を殴った馬鹿達が喜ぶ結果にしたくない!)




言い方も、やり方も、カンナさんへの仕打ちが卑劣すぎた!




(さっきのやつらを束ねているのが、『羅漢』の庄倉って奴よね?)




私が円城寺君を連れていかないと、庄倉という奴が1人勝ちするという話が気に入らない。






(なんかムカつく。)





いけ好かない奴らへの怒りが、原動力になった。






「何とかして運ぼう。」





もはや、運ぶという結論しかはなかった。


だけど、物事はそう簡単にはいかない。






「困ったなー・・・電車もだけども、バスも終わっている以上、それ以外の交通手段しかないんだけど・・・・」






私の周囲で動かない、乗り物達を見ながらつぶやく。






「・・・・バイク、乗ったことないんだよね・・・」






とりあえず、キーのかかっているスクーターにまたがる。


身長的には問題ない。


一度降りると、円城寺大河を引きずりながらその後ろに乗せた。




「うう・・・・」


「ちょ、動かないで~!」




意識がないためか、きちんと私につかまっていてくれない。


何かないかと周りを探して、羅漢メンバーが持っていた手ごろな縄を拝借する。





「これで、私とこの男の体を縛ればなんとかなるよね・・・?」





(あとは・・・・)




「初めてスクーター・・・動かせるかどうかなんだけど・・・」






失敗=大怪我=両親にばれる=瑞希お兄ちゃん探し強制終了





(リスクが高いチャレンジだな・・・・)





動かそうかどうしようかと、迷っている時間はない。



12時まで、残された時間は少なくなっていく。






「しかたない・・・間に合わなかったら、訳を話そう!わかってくれるはずよ!」





〔★通じればこうはなってない★〕




強い心で自分を奮い立たせる。


そして、見よう見まねでエンジンをかけようとしてあることに気づく。







「そうだ・・・・あの方法があった!」






それを思い出した自分を、私は心からほめてあげた。





カンナさんが貸してくれたスマホを頼りに走る。


背負う形で自分と円城寺君の体を縄で縛った。


彼が落ちないように、細心の注意を払って運転する。


目的地は『大嵐山』・・・にある『工場跡地』


そこがゴールだと携帯の中に入っていた。





「ずいぶん、高い場所にあるのね・・・」





2人乗りしながら、周囲を見渡す。


乗り慣れていなかったが、なんとか円城寺君を大嵐山まで運べそうだった。


ただ、場所が山に近い場所だったので、登って行くのが大変。





「このルートが近道だって言うけど・・・」





携帯の地図を見ながら、暗がりの中を進む。


タヌキでも出てくるんじゃないかという獣道を通過する。


バランスを崩しそうになるでこぼこ道だが、なんとか乗り切る。





「土地勘ないから不安・・・間に合うかな・・・!?」





時刻は23時30分となっていた。






「うう・・・・」


「あ?円城寺君?」





後ろで身じろぐ動きがしたので、起きたのかと思って目だけで見る。






「しょう、くら・・・ころす・・・!」



(寝言か・・・)





それにしては、物騒な内容。






(話を聞く限り、相当ひどい奴だもんね・・・)





そんな危険人物の待つところへ、私は彼を連れていこうとしている。


今日は武器を持っていないので、完全な丸腰。


とりあえず、襲ってきた奴らが持っていた鎖帷子(くさりかたびら)を借りた。


あ、鎖帷子(くさりかたびら)っていうのは、ワイヤーでできたシャツみたいのなものね。


防具なんだけど、なんでこんなものを持っていたのか・・・




(それほど今は、大変な事態なのかな・・・?)



嫌な予感は十分あったから、念のため身に着けた。


胸が押しつぶされて苦しいけど、安全を考えれば我慢するしかない。


そうして、外灯のない道を慎重に進んでいたのだが・・・









ちゃららら~♪




時代劇の一節で使われている音楽が響く。





「必殺●事人?」





聞えてきた古風な音にギョッとして運転を止める。


音の発信源を見て固まった。






「カンナさんのスマホ?」





表示は『非通知』だった。






「まさか!?彼女に何かあったの!?」






顔を腫らされ、髪を切り刻まれた乙女の姿が目に浮かぶ。


それで私は、運転もそこそこに電話に出た。





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