第13話 彼を求めて、三千里(13)
私がするしかないという現実を作られたけど・・・・
それでも私には、無理だった。
困っている人を見捨てるのはよくないが、私という人間が『できること』にも範囲がある。
これはあきらかに、私の手に負える問題じゃない。
なので、少しきつめの声を出しながら――――――――
「できないよ。」
拒否した。
「私にはできない。」
断った。
握らされた携帯を押し返しながら、静かに伝える。
それで片眉をゆがめる少女に、低い声で私は伝えた。
「カンナさん、だっけ?そういうことは、信用できる人に頼みなよ。私みたいに・・・今日知り合ったばかりの人に、大事な友達を預けるって、不用心すぎるよ?簡単に決めていいことじゃないと思う。」
「簡単じゃない。」
「は?」
私の言葉で、不意に彼女から笑みが消える。
「簡単になんか、決めてねーよ。」
「え・・・。」
そう語る眼は本当に怖い。
逃げたくなるのを我慢していれば、そんな表情を和らげてから彼女は言った。
「あんたならできる。」
「は?」
「あたしは直感で、あんたならできるって思えた。」
「直感で・・・?」
「だから、信用する。」
(はあ!?そんな理由で私を信用するの!?)
「もう決めた。あたしはあんたにかけるよ。」
「き、決めたって・・・」
「あんたは信用するだけに値するまともな奴だって、わかってるから。」
「なっ・・・・!?」
(何を根拠にそんな大口開けるんですか・・・!?)
その場しのぎで、おだてているというわけではなさそうだ。
そうなると、私を見るまばゆい瞳が嘘になってしまう。
褒めてもらえるのはいいが、素直に喜べる状況じゃない。
本当に私の話を聞かない相手への対応に困っていれば、ふいに独特のエンジン音が耳に届く。
ギュルギュル、ギュルルル!!
バンブーバンブー!
コアーコアーコアアア!
「な、なにこれ!?」
「やつらだ!」
私の問いに、私の腕から飛び出しながら高千穂さん改め、カンナさんは言う。
「大河を探してやがるんだ!こうなった以上、ここはあたしに任せて、あんたは大河と行きな!」
「え!?ちょっとカンナさん!?」
男前な顔で言うと、倒した連中の1人が乗っていたバイクに勝手にまたがる少女。
「あたしがあいつらのオトリになっているうちに、あんたは大河を大嵐山まで連れて行ってくれ!!」
「だから承諾してないってば!!」
「あ。大嵐山までのアシだけど、こいつらの単車使え!どれでもパクって乗ればいいぞ!」
「ちょ・・・窃盗してでも連れてけって!?」
「これあたしのスマホ!お前に貸すよ!中の地図、近道を入れてるから!移動中にバイクの音で気づかれても、お前らの姿が見つかることはない道だから!」
「なっ・・・!?待って、私はまだ連れていくとは―――――――!!」
「頼む!!」
ブォン!と、小気味のいい音がしたと思えば、バイクにまたがった少女が目の前にいた。
「お願い・・・」
「あ・・・」
涙で潤んだ目が、私を見ながら懇願してくる。
「あたしの仲間は、ツレは・・・みんなバラバラにされた。今夜12時まで大嵐山に大河が行けないと、ヤンキー世界が崩壊する・・・!」
「崩壊!?」
「頼む、あんたにしかできないんだよ!あたしらを、大河を・・・ヤンキー世界を救ってくれ・・・・!!」
そう告げて、私の手を握りしめて微笑んだのは一瞬だった。
バルルルルル!!
ド派手なエンジン音と共に、私の手と彼女の手が離れる。
そして真剣な表情で彼女はバイクを走らせた。
「大河を頼んだぜ、RPGおよびに通りすがりの一般人!!」
そう言い残して、爆音あげながら去って行く。
「・・・・・カンナさん・・・・・!」
さわやかな笑顔と軽めの香水の香り。
達成感に満ちた表情。
遠ざかっていくその姿を、目を点にして見送る私。
そんな彼女に向かって、私は言った。
「―――――――――だから引き受けるって言ってないってば―――――――!!!!」
ツッコミとしか言えない苦情を。
(押し付けられた!完全に、丸投げにされて、面倒なことを押し付けられちゃったよぉ―――――!!)
「なにあの子!?なんでごく普通の一般人に、危ない運び屋頼んでるの!!?」
ツッコんでみるが、返事はない。
「つーか、夜中の12時って、完ぺき終電ないじゃん!?終わるじゃん!?」
文句を言うが、返事はない。
「なによりも、こいつに必要なのは病院でしょう!?なんで大嵐山!?」
正論を言うが、返事はない。
「そもそも私、単車もスクーターも乗れないんだけど!?」
(終電だって間に合わないのに、どーすればいいのー!!?)
不可能に近いことを頼まれ、怒ってみるが・・・・やっぱり返事は返ってこない。
こうして、夜の公園に、気絶した男子と2人で取り残されたのだった。
〔★究極の放置プレイだ★〕
ひとしきりツッコんだところで、気持ちを落ち着ける。
叫んだり、抗議したところで、この現実は変わらない。
冷静さを取り戻しながら考えた。
「・・・・どうしよう。」
彼を連れて行ったら、最終電車で帰れない。
今ならまだ、終電に間に合う。
このまま、この少年をここに残していっても、私は悪くない。
護身術の心得があっても、一般人。
ヤンキー4大中学の元トップ同士の喧嘩にかかわる義理はない。
無視したっていいはず。
だけど・・・・
(ヤンキー世界が崩壊するって・・・・)
まるで、異世界が崩壊するとでも言われたかのようなセリフ。
とんでもない事態の重大責任を任されてしまった現実。
確かに、私から言わせるとヤンキー世界は異界。
住む世界が違うけど・・・
”凛。”
(瑞希お兄ちゃんが住む世界でもある・・・・)
「こういう時・・・瑞希お兄ちゃんならどうするだろう・・・?」
瑞希お兄ちゃんは言った。
強くあれ。
”テメーより力のない奴を、理不尽で困ってやる奴を、助けてやれないような、情のない奴だけにはなるなよ?”
「・・・・・・・始発に乗れば、お母さん達に家を抜け出したってばれないよね・・・・?」
それで私は決意する。
「仕方ない・・・よくわからないけど、ヤンキー界の平和が私にゆだねられたってことよね?」
愛しいお兄ちゃんの言葉もあって、覚悟を決めた。
(別に私は、頼まれて運ぶだけ。それだけだから、いいよね・・・)
これで自分のするべきことが決まった。
病院と言いたいところだが、もう大嵐山まで運ぶしかない。
それはわかったが、まだ問題は片付かない。
「カンナさんが貸してくれた携帯・・・・これで大嵐山までの最短コースはわかったけど・・・」
道がわかっても・・・
「アシがない・・・・」
バイクも単車もスクーターも乗れない私。
「そんな私に、どうやってこいつを大嵐山まで運べって言うのよ!?」
(元々私は、電車で移動してるわかだし・・・ここまでも、電車で来たわけで!大嵐山までのバスは・・・ああ、もう終わってる。)
自分の携帯で検索した大嵐山行きの電車時刻表を見てため息が出る。
「こんな血だらけで気を失ってる男子1人を背負って・・・ここまで行けって言うの?」
(それも、夜中の12時までに?)
スマホに表示された時刻は、終電電車の発車時間を過ぎていた。
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