第12話 彼を求めて、三千里(12)



すがすがしい笑顔で言う少女に、私は、ちょっと、ちょっと言いながらツッコミを入れずにはいられなかった。





「待ってよ、高千穂さん!病院じゃなくて、大嵐山に円城寺君を連れて行くっていうのはー・・・!?」


「ありがてぇ・・・!地獄に仏とはこのことだ!大河を頼んだぜ!」





笑顔は素敵だったが、彼女のつむぐ言葉はよろしくない。




「いやいや!勝手に頼まないでよ!引き受けてないよ、私!?」




否定しながら言うが、高千穂さんの暴走は止まらない。





「2ケツできないわけじゃないが、この状態で、大河をケツに乗せて運ぶのは不安でよ!助かるわ!」


「病院へ運ぼうよ!?病院なら、私も連れて行ってあげてもいいけど、大嵐山っていうのは―――――!?」


「うんうん、大河を大嵐山へ連れていってくれるんだね!?それなら話が早い!!」


「ちょっとっ!?」



(こ・・・この女っ!!)




〔★カンナは、凛からの話を都合よく解釈した★〕




「まぁ聞けよ!段取りはこうだ!」




私の会話を途中で遮断すると、声を潜めながら言ってきた。




「あたしが、庄倉の手勢をひきつける。その間にあんたは、大河を大嵐山まで運んでくれ・・・!それで万事OK・・・!」


「OKじゃないよ!?勝手に計画立てないでよ!ホント何言ってるの高千穂さん!?引き受けるなんて一言も言ってないよ!?」


「カンナって呼べよ、水くせぇ!あんたに任せれば、大河も安心だよ・・・」


「任せるって・・・押しつてるよね!?どう考えても、私に押しつけてるよね!?」


「ふんふーん♪」


「こ・・・」



(この女ぁぁぁ~・・・!!)




〔★カンナは、凛からの都合の悪い話をスルーした★〕

〔★カンナは、都合の悪い話は遮断している★〕




「そんな・・・!」



冗談じゃない!!




「ダメ!!!」





このままじゃ流される!




(巻き込まれる!)




怪我人の怪我を増やすような真似をさせられる。






「ダメだ!!」



「なっ・・・・!?」


「お前もこいつも行先は病院だ!それ以外は許さないっ!!」






赤や青の痣がついている手を掴み、引っ張りながら【叱った】






「それ以外は、どんな理由がっても許しません!!」






お母さんになったつもりで少女を怒った。


きつく睨んで、掴んだ手も握りしめた。


それで、ふざけていた高千穂さんの顔が固まる。


凍り付く。


しかし、すぐにハッとしながら我に返ると、睨みながら口を開いた。





「ざ、ざけんな!あたしは、指図なんかー」


「指図は受けない!!」


「だ、だから、お前がそれー」


「君がそれを言うな!!」


「でもっ・・・」




「ダメだ。いいね?」






無表情で、切り捨てるように告げる。


申し訳ないけど、悪いけど、ごめんねなど、そんな言葉はつけない。


小さい子供を相手にするように、隙を与えないように厳しく言った。


同時に、お医者さんに見せるため、掴んだ腕を引いて行こうとしたのだが・・・







「んなぁん・・・・あたしだってダメぇ!!」


「わっ!?」






叫んだと思った時、彼女に抱き付かれていた。


意外と強い力でしがみ付かれる。


鼻につく香水の香りと血の香り。





「た、高千穂さん!?」


「カンナ!あたしはカンナ!ねぇ、お願いだよ!あんたの言い分わかるけど、お願いだよ!助けてくれよ!」





それまでの強気でひょうひょうとした態度は消え、切迫した顔で言ってくる。





「お願い、助けて!!」


「た、助けてって・・・!?」


「あんたしかいないんだ!」


「たかち・・・」


「あんただけしか、頼れないんだよぉ!!」


「うっ・・・・!」





そうって、すがるように迫った少女の顔。


その頬を一筋の涙が流れていく。




〔★カンナは『女の涙』を使った★〕

〔★凛に精神的ダメージを与え、抵抗力を奪った★〕





(わ、私も女の子だけど・・・・女の涙には、勝てないっ・・・!!)



頭の中でそう考えていれば、目の前の『女』はさらに言う。




「頼む・・・こいつのことは、あんたにしか頼めないんだ・・・!お願い、決戦の地である大嵐山に大河を運んで・・・!!」


「あ、あのね・・・気持ちはわかるけど――――――!!」


「このままじゃ、庄倉に『取られちゃう』んだ!あいつにだけは、渡しちゃいけないんだ・・・!」




〔★カンナは凛を、丸め込みにかかる★〕





「いやいやいや!待って!待って、カンナさん!なにか、重大な事情があるのはわかったよ!?わかるよ?だけど私~!」




〔★凛は最後の抵抗をする★〕





「大嵐山の場所とか、さっき地図で見たばかりで、詳しいことはわからないから、無~!!」


「あたしの携帯を持っていけ!中のカーナビ機能に、目的地の大嵐山の位置をセットしてある!」


「ええっ!?」


「それ見ながらなら、行けるだろう!?場所は、大嵐山の工場跡地だからさ!そいつを頼りに大河を運んでくれ!


「・・・・え?」


「わかってよ!あたしらを助けられるのは、あんたしかいないんだよ・・・!?」


「・・・!!」




〔★カンナの『ごり押し』技がさく裂★〕

〔★凛は何も言えなくなった★〕





「はい、携帯!」




私の口がふさがったのを狙って、薄型の携帯を無理矢理握らせた。




「確かに渡したよ!今は一刻を争う時だ・・・!必ず大河を、決戦の場まで運んでくれよな!?」


「そこは嘘でも病院って言おうよ!?」




〔★凛は文句しか言えなくなった★〕





さっきまでの弱気が嘘のように元気良く言う相手に、ツッコミしかできない私。





(・・・ヤンキー強い・・・。)




あれほど、強気な姿勢で断ったのに。


厳しく言って黙らせたのに。


抑え込んだはずだったのに。





(会話のやりとりが、全部無駄だ・・・負けた・・・)





いいえ・・・彼女だけじゃない。





(優柔不断な自分にも負けたのね・・・・。)





あっという間に話を勧められ、大嵐山に行かなければいけない状況に追い込まれた。






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