第11話 彼を求めて、三千里(11)





予想していなかった感謝の言葉。





「あ・・・あの?」



(どういうこと?ここは普通、仲間を怪我させた私を怒るところじゃないの?)



どうしたらいいのかと困っていれば、目元の涙をぬぐいながら彼女は言う。




「あんたが今、大河を落としてくれなかったら、こいつ無茶に拍車かけてた・・・」


「え?」


「このまま、大河だけ庄倉達のところに行かせてたら危なかったよ・・・」


「そ、そうなの?」


「うん!今だけじゃなくて、さっきも・・・ホント、ありがとう。あんたのおかげで、あたしも大河も助かったよ。」


「そ、そんな!人として、当然のことをしただけで~」


「うふふ・・・・あんた、本当に良い奴だね。」





彼女の言葉に、照れくさい気持ちで言えば、満足げに言われた。





「あたしの名前は高千穂カンナ(たかちほかんな)。元黒中の者だよ。」


「黒中って・・・・・あの黒崎中学校の?」


「そうよ。」




(げっ!黒崎って・・・・)





瑞希お兄ちゃん探しをしていて、何度も耳にしている学校名。


地元でもヤンキーの激戦区として有名な中学。


一昔前は、ヤクザ構成員の予備校だともいわれるぐらい、ガラが悪かった。


今も悪いらしいのだが・・・




「それでこいつが・・・円城寺大河(えんじょうじたいが)。あたしのツレで、少し前まで黒中で頭張ってたやつさ。」


「え!?番長だったの!?」


「あははは!死語だぜ、それ?・・・うん、まぁ・・・そうなんだけどさ・・・」




そう言って笑った顔は、ひどく幼かった。


可愛い少女の名残があった。


それもあって聞いてしまった。




「こいつら・・・なんなの?」





彼女を見た後で、周囲の肉の残骸を目で見ながら聞く。


これにカンナさんは、ゴミを見る目で答えてくれた。




「こいつら・・・元赤中の奴らばっかりで構成されてる『羅漢』ってチームの庄倉の配下だよ。」




そう語る高千穂さんの顔は、心底嫌そうにしていた。




「赤崎中学って・・・・黒崎中学とかと並んでヤンキー四大中学って言われてる、あの?」



私も、彼女が言う中学校の名前を聞いたことがあった。



黒崎中学と、赤崎中学、城崎(しろさき)中学、青崎中学の4校を合わせて『ヤンキー4大中学』とこの辺りでは呼ばれている。


危険で、危なくて、乱暴で・・・とにかく、良いうわさはないの。




(ということは、さっき私が手を出したのは元赤中の不良だったんだ・・・)




まずかったかな~と思う半面、顔が隠してるのでまぁいいかと思う気持ちが半分。



〔★楽観的だ★〕




「つまり、あなた方は・・・・赤崎中学の人達と争ってるの?」


「そうだよ。少し前まで赤中の頭だったのが庄倉愛雄(しょうくら まなお)って奴とな。赤中連中のみで結成してる暴走族集団の『羅漢』トップだ。」


「えっ!?君達、暴走族と喧嘩してるの!?」


「バーロー!あんなのはクソ野郎だ!あんたも知ってると思うけど、今あたし等は、そいつらとデスマッチレースをしてんだよ。」

「え?いや、知らないんですけど。」



知ってる風に話を振られ、反射的に知らないと答えるが・・・。





「ふふふ・・・そうだろうね。どいつもこいつも目の色変えて、襲ってきてさ・・・笑っちまうぜ。」




私の声が届いてないらしい少女は、私が知っているものだと思って話を続ける。




「奴らもそうだけど、あたし等自身の不甲斐なさに笑っちゃうよ・・・!このデス・マッチレースに残ってるのは、もうあたしらと庄倉一派だけとは情けないね・・・。あんたもそう思うだろう?」


「だからそう言われても・・・デス・マッチレース事態を知らないので何とも・・・。もしかして、勝ち抜き戦てやつのことですか?」




考えられる限りの可能性を聞けば、彼女は興味をなくした風に告げる。




「まぁいいさ・・・いつまでもめげてらんない。決着をつけるべき時はきた。」


「あの・・・」




そう語る高千穂さんが、私の質問に答える気配はない。


代わりに、自分の言いたいことは言い切った。





「予定では、勝ち残った奴らがそこでバトルロワイヤルになるって話だったけど・・・庄倉め!卑怯な真似で、他の候補者達を消しやがった!ヤンキーの風上にも置けない!!」


「いやいや、高千穂さん。感情的になってるのはわかりますが、まずは私の話を聞い・・・」


「カンナでいいよ!・・・あんたのこと、気に入った!あんたになら――――――・・・・・うぐっ・・・!?」



「た、高千穂さん?」





私の質問に答えることなく、少女の体が崩れ落ちる。






「高千穂さん!?」






とっさに、その体を抱き留める。




「く・・・苦しい・・・」





そう告げる顔は青い。


ただならぬ様子に、私の心臓がはね上がる。




「高千穂さん!?しっかり!しっかりしてください!」


「このままじゃ、あたし・・・うう・・・なにもできない・・・」


「しなくていいです!無理しないでください!こんな怪我をしてるんです!あなたは病院へ行きましょう!」


「でも、あたしがここでリタイアしたら、大河が!」


「大丈夫です!なんとかなります!」




弱弱しい声で言われ、励ますために強い口調で言った。





「円城寺君は大丈夫です。高千穂さんは、自分のことに専念してください。」


「・・・いいのか?」


「当然です!」






そう言いながら、体を優しく支えれば、ふいに抱き付かれる。






「・・・ありがとう。」






耳元で響く声に安堵する。


これでやっと、病院へ行く気になってくれたのだと思う。





「いいんですよ。そうと決まれば、ここから近い病院にー」


「あたしはここまでだが・・・くっ・・・!初対面のあんたがそこまで言ってくれるんなら、心置きなく任せられる・・・」


「え?そんな大げさにしなくていいですよ?病院ぐらい連れていってあげますから!?」


「いいのか・・・?」


「うん!もちろんだよ!こんな状態で・・・放っては、おけない。」





円城寺君もひどいが、彼女の怪我もひどい。







(瑞希お兄ちゃんだって、こういう時は助けなさいって言いそうだもん!)






そんな思いで援助を申し出たら、苦笑いしながら言われた。






「マジありがとう・・」


「うん。」


「運んでくれて助かる・・・!」


「うん。」



「大河を大嵐山まで、連れていってくれるなんて本当に感謝してる・・・!」


「ん?」




・・・大河?


大嵐山?


あれ?







「・・・・・・・・高千穂さん、今なんて・・・・?」






聞えてきた言葉に、一瞬の沈黙の後で聞いたら言われた。






「大河を、『大嵐山の工場跡地』に連れてく役目を引き受けてくれて、ほんとーにありがとう~!!」



「病院じゃなくて―――――――!!?」





〔★行先と連れていく相手が変わっていた★〕



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